- 著者
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野坂 俊夫
- 出版者
- 岡山大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2016-04-01
南西インド洋海嶺のアトランティス・バンクにおいてIODP 第360次航海で掘削されたHole U1473Aから採取された斑れい岩類と,高知コア研究センターに保管してあったODP Hole 735Bのコア試料の一部について,研究期間内に計画していた分析のほとんどを完了した。今年度は補足的な顕微鏡観察,電子線マイクロアナライザー分析,レーザーラマン分光分析,レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析を行った。特に電子線マイクロアナライザー分析とレーザーラマン分光分析の結果から,黒雲母と緑泥石混合層の存在を確定することができ,この混合層が広範囲にわたって生じていることが明らかになった。さらにコンピューターによる熱力学的解析を行い,黒雲母と緑泥石,および両者の混合層の生成条件を求めた結果,それらの鉱物はほぼ同程度の温度条件(700℃前後)で,シリカとカリウムの濃度の異なる流体が関与する変質作用によって生じたことが推定された。黒雲母とそれを含む混合層の形成は剪断帯や割れ目に沿って浸透した珪長質含水メルトと関連しており,そのようなメルトの浸透は超低速拡大海嶺周辺の海洋下部地殻に特徴的な現象である可能性が高い。以上の研究成果は,海洋下部地殻における水と岩石の相互作用を理解するうえで重要な新知見を提供するものである。この成果は日本鉱物科学会で発表し,論文にまとめて国際学術誌に投稿した。また現世の海洋リソスフェアと比較するために,過去の海洋リソスフェアであるオフィオライトの低温変質作用,特に蛇紋岩化作用についても並行して研究を進めてきた。その結果,蛇紋岩化作用に伴ってかんらん石の鉄とマンガンの含有量が系統的に変化すること,およびモンチセリかんらん石を生じる場合があることを明らかにした。これらも海洋底構成岩の変質作用に関わる重要な新知見であり,国内学会と国際学術誌上で発表した。