著者
野坂 和則
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、遅発性筋肉痛を実験的に引き起こすモデルを用い、遅発性筋肉痛発現のメカニズムとその意義、対処法および予防法を解明することであった。2年間にわたる研究において、初年度の平成14年度には、「遅発性筋肉痛の程度と筋損傷との関係」について検討し、筋肉痛の程度は筋損傷の程度を反映しないことを明らかにした。また、遅発性筋肉痛および筋損傷の発現に対する運動様式の違いについて、持久的な運動と、大きな筋力発揮を要する短時間の運動で比較、ならびに、強度の異なる運動間での比較を行った。その結果、筋損傷の程度には運動間で有意な差が認められたものの、筋肉痛の程度には大きな差が認められなかった。さらに、遅発性筋肉痛が生じることの意義について検討した結果、筋の適応過程において筋肉痛は必ずしも必要ないことを明らかにした。平成15年度は、「加齢に伴い筋肉痛が遅れて出るようになる」のかどうかを検討した。18-22歳の被験者と60-70歳代の被験者に、相対的な強度が等しくなるようにダンベルを設定し、上腕屈筋群に伸張性運動を負荷した後の筋肉痛を比較した。その結果、筋肉痛が発現するタイミングには年齢の違いによる差は見いだせなかった。遅発性筋肉痛が発現するタイミングには年齢差というより個人差が大きく、また、運動の種類や強度,筋肉による違いが大きいことも別の実験から明らかになった。若年者の遅発性筋肉痛について調査した結果、興味深い事に、幼稚園児や小学校低学年では、遅発性筋肉痛が生じにくく、小学校高学年から生じやすくなることも明らかとなった。脚筋群の運動負荷に伴う筋肉痛についても検討し、上肢の筋との大きな違いはないことが明らかになった。また、筋肉痛や筋損傷を予防するには、同じ運動を繰り返すことが最も有効である事を明らかにした。筋肉が最大限に伸ばされる伸張性運動の前に、筋長の変化が小さい範囲での伸張性運動を行うと、筋損傷の程度が50%程度軽減できる事も明らかになった。筋肉痛の出現に関連すると考えられる筋温の影響についても検討し結果、筋温の影響はないことが明らかになった。さらに、筋肉痛の対処法、予防法についても詳細な文献検索を行った。これまでの研究結果から明らかになったことを「筋肉痛のはなし」という小冊子にわかりやすくまとめた。
著者
大野 政人 野坂 和則
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科学 = JAPANESE JOURNAL OF PHYSICAL FITNESS AND SPORTS MEDICINE (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.131-140, 2004-02-01
参考文献数
23
被引用文献数
3

運動誘発性筋痙攣の要因として, 筋疲労や脱水などが挙げられているが, その発現メカニズムの詳細は明らかでない.そこで本研究では, 筋痙攣の生じやすさを調べる「筋痙攣テスト」を考案し, その妥当性について検証すると共に, それらを用いて, 筋痙攣に対する筋疲労および脱水の影響を明らかにする事を目的とした.20名に対して筋痙攣テストを行った結果, 普段, 筋痙攣が起こりやすい全員に筋痙攣が誘発され, 筋痙攣の経験がほとんど無い者には誘発されなかった.よって, 筋痙攣テストにより筋痙攣の起こりやすさをスクリーニングできると考えられる.100回の膝関節屈曲運動後に, 主働筋である運動肢のハムストリングスで筋痙攣は誘発されにくくなり, 運動肢の足底の筋群では筋痙攣が生じやすくなった.従って, 運動によって筋痙攣の誘発率は高まるが, 筋疲労がその要因である可能性は低いと考えられる.また, 体重の3%に相当する脱水によって, 足底の筋群で筋痙攣が生じやすくなった.脱水が筋痙攣の要因である可能性は高いと考えられるが, その詳細なメカニズムは今後の検討課題である.
著者
大野 政人 野坂 和則
出版者
The Japanese Society of Physical Fitness and Sports Medicine
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.131-139, 2004-02-01 (Released:2010-09-30)
参考文献数
23
被引用文献数
2 3

運動誘発性筋痙攣の要因として, 筋疲労や脱水などが挙げられているが, その発現メカニズムの詳細は明らかでない.そこで本研究では, 筋痙攣の生じやすさを調べる「筋痙攣テスト」を考案し, その妥当性について検証すると共に, それらを用いて, 筋痙攣に対する筋疲労および脱水の影響を明らかにする事を目的とした.20名に対して筋痙攣テストを行った結果, 普段, 筋痙攣が起こりやすい全員に筋痙攣が誘発され, 筋痙攣の経験がほとんど無い者には誘発されなかった.よって, 筋痙攣テストにより筋痙攣の起こりやすさをスクリーニングできると考えられる.100回の膝関節屈曲運動後に, 主働筋である運動肢のハムストリングスで筋痙攣は誘発されにくくなり, 運動肢の足底の筋群では筋痙攣が生じやすくなった.従って, 運動によって筋痙攣の誘発率は高まるが, 筋疲労がその要因である可能性は低いと考えられる.また, 体重の3%に相当する脱水によって, 足底の筋群で筋痙攣が生じやすくなった.脱水が筋痙攣の要因である可能性は高いと考えられるが, その詳細なメカニズムは今後の検討課題である.
著者
野坂 和則
出版者
横浜市立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

慣れていない運動や久しぶりの運動を行った後には筋肉痛が生じ,その痛みはしばらくの間持続する。筋肉痛が安静を促す危険信号だとすれば,筋肉痛が消失するまでは,痛みのある筋肉を動かすような運動は控えるべきであると考えられる。しかし,痛みがあっても運動することはあり,痛みをこらえて運動するうちに痛みが軽減されるといった経験的な事実もある。本研究では,筋肉痛がある状態でさらに運動を負荷した場合の筋肉痛の程度や,筋機能の変化について検討した。実験モデルには,最大等尺性筋力の50%に相当するダンベルを,負荷に抵抗しながら肘の屈曲位から伸展位にゆっくり降ろす上腕屈筋群のエクセントリック運動を用いた。この運動を一方の腕では10回3セットのみ行い,他方の腕では10回3セットを1日おきに3回実施した。運動に伴う,筋肉痛,筋力,関節可動域,血漿CK活性値,Bモード超音波画像の変化について両腕間での比較を行った。その結果,エクセントリック運動を1日おきに3回行った腕における各指標の変化と,1回のみ運動を行った腕での変化との間には有意な差が認められなかった。筋肉痛がある状態で運動を負荷しても新たな筋肉痛が生じないばかりか,運動後には筋肉痛の程度が顕著に軽減した。また,2回目,3回目の運動直後に筋力は1回目の運動直後と同様に低下するが,その翌日までには,2回目,3回目の運動負荷がなかった腕と同様に回復を示し,関節可動域については,運動前に比べ運動後に有意に大きくなった。また,超音波画像や血漿CK活性値においても回復過程が遅延したり,新たな損傷が生じたと考えられるような所見は見られなかった。これらのことは,筋肉痛がある状態で,その筋に対してさらに筋損傷を誘発するような運動を負荷しても,筋の回復過程には影響がないということになる。しかし,筋肉痛がある部位の運動はしてもよいということにはならず,運動の有効性や効果の側面からは,その部位の運動を敢えて行う必要性はないものと考えられた。今後,組織学的な検討を加え,なぜ,筋損傷が生じている筋にさらなる損傷誘発刺激を負荷しても損傷が生じないのか,また回復過程に影響がないのかについて明らかにしていきたい。