- 著者
-
坂木 佳壽美
- 出版者
- The Japanese Society of Physical Fitness and Sports Medicine
- 雑誌
- 体力科学 (ISSN:0039906X)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.1, pp.105-118, 2001-02-01 (Released:2010-09-30)
- 参考文献数
- 48
- 被引用文献数
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6
腹式呼吸は健康法として, またストレスを緩和させる方法としてその有効性が実証されつつあるが, ヒトには個体差がありストレスに対する反応の現われ方は様々である.そこで, 心拍変動 (RR間隔変動) から求める自律神経機能評価三指標1) %RR50, 2) CVRR, 3) E/Iratioの臥位における平均値を基準値と定義して, 三指標全てが平均値以下のG1 (交感神経活動亢進傾向群) , 平均値以上のG3 (副交感神経活動亢進傾向群) , 三指標の内いずれかが平均値以下, または平均値以上のG2 (中間群) の3群に分別し, 各群の自律神経機能と呼吸循環機能の特徴と腹式呼吸の有効性の違いを検討した.本研究の対象は女性20名 (48.4±5.5歳) で, 安静臥位 (20分) , 安静坐位 (20分) , 腹式呼吸 (20分: 呼気と吸気の時間の比が2: 1になるように指示した) , 回復 (30分) の計90分間のRR間隔変動 (100個/回) を経時的に測定し (計16回) 、前述の三指標の他にスペクトル解析による四指標 (HF, LF, LF/HF, HF/SUM) とHRを算出, それに対応して血圧値, f, PtcO2とPtcCO2を測定し, 以下のような結果を得た.1.安静時臥位において, 自律神経機能評価三指標 (%RR50, CVRR, E/Iratio) とHF (高周波成分) はそれぞれ高い正相関 (各P<0.01) を示し, 安静臥位では副交感神経活動が亢進状態にあった事が確認された.2.群別した3群の特徴と腹式呼吸の影響を以下に示した.1) G1は群内の個体差が大きく, 特に坐位より臥位において交感神経が緊張傾向を示した.しかし回復では坐位より副交感神経機能優位を示し, その状態が回復30分後まで持続した腹式呼吸の持続効果がみられた.呼吸循環機能は平均値と近似していた.2) G2は全測定を通してfと血圧は3群中で高値を示した.そして臥位のPtcO2値は平均値より低値, PtcCO2は高値, HRとfの高値傾向から, 呼吸が浅く速いことが判明した.しかし回復ではHRとfは坐位より低下し, 副交感神経機能は優位になり腹式呼吸の影響が大きく示された.3) G3は, 臥位において副交感神経が緊張傾向にあり, fと血圧は常時平均値より低く, 血圧とHRとの間に極めて強い関連性がみられた.回復では腹式呼吸後20分以降に副交感神経活動が亢進状態になっている事が認められた.そして他の2群と異なる点は, 回復時のPtcO2が腹式呼吸より高く, PtcCOvは逆に低値を示し, より深いG3の腹式呼吸の影響が血液ガスに現われていた.以上の測定結果から, 安静臥位における自律神経機能三指標の平均値を基準に分別した3群は, それぞれの自律神経機能ならびに呼吸循環機能の基礎レベル, またその両者の関連性にも特徴がみられ, 体位変換や腹式呼吸による反応も各群で異なり, 安静臥位における自律神経の緊張の違いが刺激応答にも反映している事が明示された.しかし, その個体差を前提にしても, 意識的腹式呼吸 (呼気と吸気の時間の比が2: 1) は, 呼吸循環機能を経時的に坐位より緩徐にさせ, 副交感神経活動を亢進状態に導き, その状態を持続させる事は可能であり, その効果が交感神経緊張傾向の人 (G1, G2) に大きく現われたことは特筆すべき事である.従って, 意識的腹式呼吸は日常生活で生じるストレスを, 自分自身で処理して行くストレス・マネジメントの一方法として活用できる事を確認した.