著者
刑部 義美 高橋 愛樹 成原 健太郎 兼坂 茂 葛目 正央 佐々木 純 金子 有子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.642-648, 2000-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
17

二酸化窒素吸入による中毒は防火作業, 溶接業, メッキ業などに従事する人に発症しやすいが, 本邦では余り知られていない.今回, 我々はメッキ業を営む64歳の男で硝酸と硫酸の混合液にニッケルメッキを賦したアルミ棒を挿入し, メッキ抽出作業中に二酸化窒素を吸入し, その後, 激しい呼吸困難と胸部圧迫感が出現, 近医にて急性肺水腫と診断され集中治療目的で本院救命センターに搬送後, 二酸化窒素による急性呼吸窮迫症候群 (acute respiratory distress syndrome・ARDS) と診断した症例を経験した.治療は人工呼吸管理を中心に最高気道内圧 (peak inspiratory pressure・PIP) , 肺胞の虚脱や無気肺の改善を目的として人工肺サーフアクタント, 更に各種ケミカルメデイエーター遊出阻止の目的でメチルプレドニゾロンの使用にて, 14日目には一般病棟に転出できた.本疾患は治療に比し予防が重要で, 作業所の改善や防護体制の整備, 更に疾患の存在を一般に認識させることが大切であると思われた.
著者
金子 有子 金子 隆之 高田 壮則
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P5009, 2004

1.目的 1)河川の氾濫やギャップ形成等の台風撹乱がサワグルミの個体群動態に及ぼす影響,ならびに,2)ニホンジカ(以下シカ)の食害がトチノキの個体群動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,個体群センサスとセンサス結果に基づいた推移行列モデルによるコンピュータシミュレーションを行った。2.方法 京都大学農学部付属芦生演習林(京都府北桑田郡美山町芦生)のモンドリ谷渓畔域に2.8haの調査区を設定し,トチノキとサワグルミについて種子段階から成熟段階までの全生存個体に標識し,1989年から2003年まで断続的に個体群センサス,種子生産,実生の消長調査を行った。 1)サワグルミ個体群への台風撹乱の影響 大型台風(総降水量287mm)が直撃した1990年と台風撹乱の影響がなかった1989年,1991年,1992年,1993年,1996年の調査結果に基づき,サワグルミ集団の個体群成長率が台風と結実豊凶の要因に依存して変化する様子をシミュレーションで示した。台風の影響としては台風撹乱による稚樹生存率に対するマイナスの効果,および,台風直撃の2年後と3年後に観察された実生および稚樹生存率へのプラスの効果を考慮した。 2)トチノキ個体群へのシカ食害の影響 目立ったシカ食害が観察されなかった1997年までとシカ食害が激化した1998年以降の個体群センサスの結果から,シカ食害による動態パラメータ(実生定着数,稚樹の生存率および成長率)の低下の度合いをe-Aとおいて推定した。推定したシカ食害圧の下で個体群の長期変動をシミュレートし,個体群サイズの減少や食害圧がなくなった場合の回復の様子,成熟個体の生存率に依存して変化する長期個体群変動の様子等を示した。3.結果 1)サワグルミ個体群への台風撹乱の影響 サワグルミ集団の長期個体群成長率は台風要因と豊凶要因に依存して変化した。波及効果による台風の2年後と3年後のプラス効果を含めた場合の結果では,台風頻度が低いほど,また豊作頻度が高いほど個体群成長率は高くなった。プラス効果を含めなかった場合の結果と比べると個体群成長率が増加していた。また,実際の観察による豊作の頻度は2年に一度,台風の頻度は5年に一度であったが,この時の個体群成長率は1を越えていた。 2)トチノキ個体群へのシカ食害の影響 トチノキ集団の個体群サイズは2001年に1992年の36.15_%_に減少していた。1992年と2001年の個体群センサスの結果から推定したところ,シカ食害により生存率は樹高0-1mのサイズ階ではその2.13_%_,1-4mのサイズ階ではその95.16_%_に低下していたことが明らかになった。推定された動態パラメータを用いて1997年を初期値とし,50年間の動態をシミュレートした結果,個体群サイズは最初の数年で急速に減少し,9年目には20_%_以下になるが、その後は行列の最大固有値に従って減少速度が緩やかになることが分かった。また,50年後にシカの食害がなくなったとして回復速度を評価したところ,52年後には初期値とほぼ同じ総個体数になった。4.考察 1)サワグルミ個体群への台風撹乱の影響 サワグルミは台風の直撃による地表撹乱(河川の氾濫,斜面崩壊)や風倒木等による物理的撹乱によって大きな被害を受けていたが,台風撹乱の波及効果としてギャップ形成や裸地形成による実生定着のセーフサイトの増加があることにより,個体群成長率が上昇していることが確認された。 2)トチノキ個体群へのシカ食害の影響 トチノキ集団へのシカ食害は樹高4m以下の稚樹にのみ見られ最初の2,3年に著しい個体数の減少をもたらす。しかし,採餌効率によりその後の減少は緩やかになり,また,トチノキは成熟個体に達してからの余命が150年以上に及ぶことから個体群自体は長く存続すると考えられた。また,その状態で食害圧から解放されれば蓄積した成熟個体による実生供給で急速に回復することが示唆された。
著者
金子 有子
出版者
東洋大学国際哲学研究センター(「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ)事務局
雑誌
「エコ・フィロソフィ」研究 = Eco-Philosophy (ISSN:18846904)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.101-112, 2017-03

The clonal diversities of Potamogeton pectinatus L. (Potamogetonaceae) and Vallisneria asiatica var. biwaensis (Hydrocharitaceae) were evaluated for conservation of genetic diversity of these species. Potamogeton pectinatus is a rare submerged macrophyte in Japan. Protection of the genetic variability of these rare and endemic species is required from a viewpoint of conservation genetic. According to microsatellite analysis, the clonal diversities (Shannon’s index) of P. pectinatus populations varied widely among 11 sampled populations, with ranging from 0.000 to 0.990. The low clonal diversities were found in some populations in Kinki districts. These populations were affected by the anthropogenic disturbances because of cutting these areas before flowering. Vallisneria asiatica var. biwaensis is an endemic submerged macrophyte in the Lake Biwa-Yodo River system. Local populations of V. asiatica var. biwaensis have decreased in the south basin of Lake Biwa since the 1970s. Genetic variation of this species was evaluated by using allozyme analysis. The clonal diversities (Simpson’s D index) of 13 sampled populations were ranging from 0.782 to 0.972. These results would be useful information for development of conservation program.
著者
浜端 悦治 西野 麻知子 金子 有子 安藤 元一 矢部 徹 神谷 要
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

中央・東アジア北部の湖沼で沈水植物群落の調査を行うとともに、一部の湖沼では水温の日変動を測定し、水温環境と出現種類数との関係を調べた。湧水付近の湖沼や、大湖沼では水温が低く、多くの沈水植物にとっては生育に適さないことがわかった。マツモのITS領域の遺伝型とリュウノヒゲモの葉緑体ハプロタイプを調べると、日本国内固有の遺伝型は2種共に中国ディエンチ湖と系統的に近く、過去の分布変遷の方向性が示唆された。また、リュウノヒゲモでは、フライウェイ中継湿地の集団で大陸と共通の遺伝型の割合が高い傾向が認められ、水鳥による遺伝的交流の寄与が示唆された。北米原産のコカナダモ遺伝子解析を行うと、遺伝的変異があるが、その変異に地理的なまとまりは見られず、遺伝的に異なる集団が琵琶湖に侵入した後に、各地に分散した可能性が考えられた。高い環境適応力を持ことが、この外来植物が多様なフライウェイ湿地に侵入定着した理由と思われる。フライウェイにおける水鳥の役割を調査するために、水鳥による糞の採集を各地で行い、多くの種子が水鳥の糞中に含まれることを確認した。これにもとづき、水鳥の糞の撒きだし実験を行い、糞から発芽があることを確認した。さらに、種子の体内滞留に時間に関する実験を行った。東アジアのフライウェイ湿地において、渡り鳥がどのような動物と接触しているかを探るために、日本、韓国、中国、およびモンゴルにおいて哺乳類相のセンサーカメラ調査および環境状況調査を行った。その結果、小型哺乳類と家畜は草原環境に、中型哺乳類は樹林環境に多いことが知られ、一部湿地では外来種も侵入していた。モンゴル国、韓国、日本のフライウェイ湿地で、底生動物相を比較した。3千km以上も離れた、植生や気候条件も異なるモンゴルの湖沼と琵琶湖には、ユスリカ類など小型無脊椎動物の一部に共通種が見られ、水鳥による運搬の可能性を否定できない。