著者
金田 吉弘 西田 瑞彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.87, no.3, pp.242-249, 2018-07-05 (Released:2018-07-28)
参考文献数
25

有機栽培水稲において,収量550~600 g m–2を目指す目標生育を設定した.また,有機肥料の窒素肥効率と窒素無機化特性を明らかにし,生育診断による追肥が収量に及ぼす影響を検証した.その結果,有機栽培の茎数はいずれの時期においても慣行栽培に比べて少なく推移するものの有効茎歩合が高い生育となり穂数はほぼ同等であった.有機栽培の葉色値は7月上旬までの生育初期は慣行栽培に比べて低いが,幼穂形成期以降は慣行栽培を上回った.5種類の有機肥料の窒素肥効率は,約40から80%で平均では69%であった.反応速度論的手法により求めた有機肥料の窒素無機化率は約20から60%であり,窒素肥効率との間には有意な正の相関が認められた.生育診断に基づき追肥を実施した結果,ほぼ目標値に近い穂数と葉色値に接近し,550~600 g m–2の目標収量が得られた.以上のことから,有機栽培水稲において,目標生育と生育診断に基づく追肥により550~600 g m–2の収量が得られることが明らかになった.
著者
金田 吉弘 小野寺 拓也 坂下 将 高階 史章 佐藤 孝 伊藤 慶輝 保田 謙太郎
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.83, no.6, pp.681-686, 2012-12-05

我が国の稲作において,代かきは「均平」,「田植え」,「活着」,「肥料混和」,「水もち」,「除草」などのために,古くから不可欠な作業とされてきた。しかし,近年の機械化移植栽培では移植精度が向上したことから「田植え」や「活着」に対する代かきの意義は薄れている。さらに,代かきは土壌を単粒化し,透水性の低下や土壌の還元を促進させることから水稲根の活力維持を阻害する場合があるとされている(熊野ら,1985)。特に,東北の日本海側に広く分布する重粘土水田では,代かきにより作土直下に不透水性の土層が発達し,稲作期間の透水性が低下しやすい。また,近年は機械収穫後の稲わらを春にすき込む事例が多くなり,排水不良水田では,稲わらの分解に伴い土壌は強還元になりやすく根腐れを生じやすい。
著者
佐藤 孝 善本 さゆり 渡邉 俊一 金田 吉弘 佐藤 敦
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.53-60, 2007
参考文献数
24
被引用文献数
2

重粘土水田転換畑では,土壌の物理性(通気性,排水性)が悪いために,畑作物の生育が抑制され,生産性が著しく劣る場合が多い.本報では,マメ科カバークロップのヘアリーベッチによる重粘土の物理性改善効果と,ダイズの初期生育に及ぼす影響について検討した.秋田県八郎潟干拓地内の水田転換畑にヘアリーベッチを水稲立毛間に播種した.ヘアリーベッチは旺盛に生長し,根は深度約45cmまで達していた.HV区では土壌構造が発達し,特に亀裂構造が深度50cmまで形成されており,圃場の排水性は向上していた.また,HV区ではダイズの生育初期において根の吸収活性および根粒の窒素固定活性が高く維持され,生育も良くなっていた.以上の結果から,転換畑においてヘアリーベッチを前作に植栽することで,ヘアリーベッチの蒸散作用により土壌の乾燥化を促進させるとともに,根の伸長により土壌の亀裂構造(粗孔隙)および毛管孔隙が発達し,土壌の物理性が大きく改善されて,ダイズの初期生育が促進されることが明らかになった.
著者
森泉 美穂子 金田 吉弘 福島 裕助
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.372-377, 2010
参考文献数
10

熱分析(熱重量測定:TG、示差熱重量測定:DTA、示差走査熱量測定;DSC)は、有機物の熱分解特性から有機物の化学形態の特徴を知ることのできる簡便法の一つである。田畑輪換の繰り返しにより土壌有機物の化学形態がどのような影響を受けるかを熱分析(DSC分析)により解析した。日本各地の連年水田および田畑輪換田土壌を採集し、それらのDSC分析を行い、DSC曲線の形態から有機物の熱分解特性を検討した。また、田畑輪換が繰り返されている圃場土壌のDSC分析を行い、田畑輪換の繰り返しが土壌有機物の形態に与える影響を調査した。更に、土壌肥沃度の変化と土壌有機物の形態との関わりを調査するために、4種類の土壌型の水田および輪換田土壌を用いて大豆栽培のポット試験を行い、試験前後の土壌の培養窒素量の測定およびDSC分析を行った。
著者
金田 吉弘 粟崎 弘利 村井 隆
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.385-391, 1994-08-05
被引用文献数
29

育稲箱全量施肥は,初期の溶出が少ないタイプの被覆尿素を利用して本田の施肥窒素分全量をあらかじめ育苗箱内に施用しておき,移植苗とともに本田に施肥する方法である.本報告では,グライ土水田での水稲不耕起栽培における育苗箱全量施肥の適応効果を検討し,以下の結果を得た. 1)不耕起区の土壌無機態窒素は,慣行区に比べて少なく推移した. 2)無加温育苗34日間における被覆尿素からの累積溶出率は2.8%であった. 3)被覆尿素区では,,本田施肥量を化成肥料区の基肥と追肥の合計窒素量の50〜60%に減肥しても茎数は多く推移した. 4)被覆尿素区における窒素吸収量は化成肥料区より多く推移し,成熟期における利用率は79%と高かった. 5)被覆尿素区における水稲根は下層まで深く伸長し,接触施肥による伸長抑制は認められなかった. 6)被覆尿素区では化学肥料区に比べて総籾数が多く,増収効果が高かった.以上のことから,育苗箱全量施肥法は不耕起植栽培にきわめて有効であることが認められた.