2 0 0 0 OA 飛島

著者
片山 一道 梅津 和夫 鈴木 庸夫 松本 秀雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.97-112, 1985 (Released:2008-02-26)
参考文献数
30

山形県酒田市に属する飛島は3集落(勝浦,中村,法木から成る小島であるが,小地域でヒト集団の小進化過程を解明する上で,すぐれたモデルを提供してくれるものと期待できる。前々報と前報では,そこでの人口構造,婚姻構造,さらにそれらから導かれる各種の遺伝学的パラメーターを斟酌することによって,飛島住民の身体形質には,遺伝的浮動を主因とすると思われる地域的分化が存在するという可能性が指摘できること,実際にも皮膚紋理形質については,そのことをある程度裏付けるような地域的分化が,集落間や本州一般集団との間で存在していることを立証してきた。本報では,合計389人の飛島在住者の血液試料から,23の遺伝的多型性形質について,集落ごとの遺伝子頻度を求め,集落間の遺伝的分化の大きさとパターンを詳細に分析することによって,飛島で生起した小進化過程の様相を推測するとともに,その主働要因についてな一層詳細に検討していこうとするものである。主な成績は次のように要約できる。1.検査した23種類の血液型システムのうち,LDH,AK,PGK,PHI では変異型が全く存在しなかったが,他の19システムでは多かれ少なかれ多型性が観察された。しかし,Rh(D)では(D-)型は法木集落で2人観察されただけである。2.多型状態にある形質のうち,Rh(D),Tf,ADA,SGOT を除いた15形質について,有意差検定を行ったところ,過半数の8形質で3集落間には有意な遺伝子頻度の差異があることが判明した。なかでも ABO 式と Gm 式血液型では極めて大きな集落間差が認められた。3.集落間差異の内訳をみると, MN と Gmと EsD では中村が,また ABO では勝浦が他の2集落から偏った遺伝子頻度を示すことに起因しており,総合的には中村と他の2集落とでは遺伝的組成をやや異にする傾向にあることが認められた。4.3集落間の遺伝的分化の大きさは,根井の分化係数(GST)が0.0117と推定されることから,かなり大規模なものであると評価できる。ちなみに,本州の遠隔3地方一般集団間の GSTは0.0008,アイヌと近畿人と先島人の間の GSTは0.0077である。5.多型性形質の遺伝子頻度について,各集落と日本人一般集団との間の偏差を標準化したのち,集落ごとに変異パターンを図示して,集落間分化のパターンを比較したところ,勝浦と法木の変異パターンは相対的には相互に類似しているが,中村のそれはこの両者によりもむしろ一般集団の方によく相似していることが判明した。6.しかし,一般集団の頻度を基準とした,遺伝子頻度の偏差の方向は,多くの形質では,3集落間で互いにかなり異った様相を呈しているとみるのが妥当である。7.飛島全体をプールしてみると,日本人一般集団と比較した場合,MN, P, Jk, Gc, Gm,Km, PGM1, PGD, EsD, sGPT など多くのシステムで,特徴的な遺伝子頻度を有しているものと判定できる。これらのうちには,飛島独自の特徴として示唆できるものもあるが,北部日本での共通な特徴である可能性があるものも少なくはない。8.以上の結果を総合すると,飛島の3集落間には大きな遺伝的分化があり,前々報で予測したように,基本的には遺伝的浮動などの機会的要因によって生起したものと考えることができる。しかし,勝浦と法木の間でのやや頻繁な通婚による inter-village migrations, さらには山形県の本州集団から中村への gene flowも,その分化には色濃く投影されている。また,集落成立時には,創始者効果も一定の役割を果したであろうということは想像にかたくない。しかし,このことを立証する積極的な証拠は全く見あたらない。むしろ,飛島での平均ヘテロ接合確率が比較的大きいことから,マイナーな要因であった可能性の方が高い。いずれにしても,本研究は,日本の小地域での小進化過程において,機会的要因だけでなく,gene flow もまた重要な役割を果してきたことを示す実例を提供してくれるものである。
著者
鈴木 庸夫 高橋 弘志 梅津 和夫
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

現在、突然死の死因のうち半数強が心臓疾患によるものであり、その中でも半数以上は冠動脈硬化症による虚血性心疾患である。そこで、平成7年度から3年間に、主としてイヌを用いて虚血性心疾患のモデルを作成し、致死的不整脈の発生機構と超早期心筋梗塞の証明法を見出す目的で本研究を行った。平成7年度及び8年度では、イヌの虚血性心疾患のモデルを用いた実験で心室細動は冠動脈結紮後15〜30分の間で最も誘発され易くなり、その後は徐々に誘発され難くなることが明らかになった。またルクソールファストブルー染色法の改良法では、虚血後15〜30分位のものでも虚血部位の収縮帯が証明され、この方法を用いると心筋梗塞後15〜30分でもその証明が可能で、突然死の心筋梗塞の診断に有用であることが判明した。これらのことをふまえて、平成9年度は突然死の解剖例で死因が明確にされなかった、いわゆる原因不明の突然死の例で、ルクソールファストブルー染色法の改良法を用いて組織染色を行ったところ、そのうちのほとんどで死因が虚血性心疾患であることが明らかにされた。
著者
鈴木 庸夫 梅津 和夫
出版者
山形大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

兎で、右大腿上部を乳児用駆血帯で8時間緊縛した後、解除することによって外傷性ショックのモデルを作成した。緊縛解除後、兎は早いもので半日後、最も遅いものでも3日後に呼吸速迫、乏尿、体温降下などの典型的なショック症状を呈して死亡した。これらの例について、死亡後、各臓器の肉眼的並びに組織学的所見を検索した。肉眼的所見では、緊縛解除後死亡までの時間が長い例では肺水腫や胃粘膜下出血がみられるようになったが、しずれにもショック腎の所見や心内膜下出血は認められなかった。組織学的所見では、肺の骨髄細胞塞栓は死亡まで半日のものから見られ、死亡までの時間の長いもので著明になった。肝細胞壊死は死亡まで1日以上のもの、肺脂肪塞栓および腎臓の糸球体のボ-マン氏嚢の膨化や尿管の拡張は死亡まで30時間以上のもの、心筋の帯状変性は最も遅く緊縛解除後2日以上のもので初めて認められた。以上のことから、外傷性ショックの原因が作用した後、死亡までの時間が組織所見から類型化されることが判明した。これらの結果を外傷性ショック死の剖検例と比較すると、肉眼所見、組織学的所見共ほぼ共通して認められ、また、緊縛解除後の死亡時間によって見られる所見もほぼ共通していた。ただ兎での外傷性ショックモデルでは、ショック腎と心内膜下出血のみられたのがなかったのは緊縛解除後死亡までの時間が12時間以内に死亡するものがなかったためと考えられる。また、肝細胞壊死などの修復過程が見られなかったのは緊縛解除死亡までの時間が最高でも3日にすぎなかったためと思われる。以上のことから、外傷性ショック死の法医病理学的所見は類型化され、これをもとにすれば外傷性ショック死の診断はもとより、外傷から死亡までの時間も推定されると考えられる。
著者
吉岡 尚文 津金澤 督雄 石津 日出雄 辻 力 山内 春夫 鈴木 庸夫 高浜 桂一
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

自殺率の高い県、低い県あるいは全国平均並みの県等、14県を対象に、平成元年から7年までの7年間の自殺者の総計約31500例(男性19800、女性11700)につき、各県警察本部の協力を得て、個々の内容を詳しく調査し、統計学的に分析、考察した。その結果以下の点が明らかとなった。*秋田県、新潟県、岩手県はどの年も自殺率が極めて高く、交通事故による死亡者の2〜3倍の数である。一方、石川県、滋賀県、三重県、岡山県の自殺率は常に低い。*男女とも高齢者群での自殺者が多い。また、男性では働き盛りの年代での自殺も多く、経済的要因が背景となっている。*高齢者の自殺の背景は病苦とされているものが大部分である。しかし、それが真の動機となった例は少ない。壮年〜中高年では精神疾患を有する人の自殺が多い(女性で顕著)。*自殺の手段はどの年齢層でも縊頸が多く、特に高齢者で顕著である。*自殺者の内、独居者の占める割合は極めて少ないが、独居者の自殺は独居5年目以降で多くなる。*季節的にみると、春から初夏にかけて多く、冬期間はむしろ少ない。以上より、差し当たり着手すべきは、高齢者ならびに精神科的疾患を有する人に的を絞り具体的な防止対策を講ずることであろうと考える。例えば、高齢者の相談にのるシステムの徹底と情宣、市町村単位での自殺防止運動の展開、精神科医を含め医療関係者の自殺防止への積極的な取り組み、マスメディアの自殺防止キャンペーンへの協力などの他、優先されるべきこととして、家庭内、家族内での内面問題の解消が挙げられる。これらと併行して老人自身の自立心向上、精神面の教育がなされる環境を整えることも肝要である。