著者
篠田 謙一 安達 登 百々 幸雄 梅津 和夫 近藤 修
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

近世アイヌ人骨122体を対象としてDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAの解析を行った。最終的に100体からDNA情報を取得し、アイヌ集団の成立の歴史の解明を試みた。解析の結果は、北海道のアイヌ集団は在来の縄文人の集団にオホーツク文化人を経由したシベリア集団の遺伝子が流入して構成されたというシナリオを支持した。また同時に行った頭蓋形態小変異の研究でも、アイヌは北海道の祖先集団に由来するものの、オホーツク人との間の遺伝的な交流を持っていた可能性が示された。
著者
永幡 嘉之 越山 洋三 梅津 和夫 後藤 三千代
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.104-112, 2013-04-05 (Released:2018-09-21)

電柱から回収されたカラスの巣から,ハナムグリ亜科の空の土繭2個と幼虫の死体1個体を発見した.この昆虫種および巣の持ち主の鳥種を同定するため,土繭の中に残っていた蛹殻,幼虫の死体,および巣材からDNA試料を抽出した.昆虫種については,ミトコンドリアDNAのCOI領域を分析対象とした.まずコウチュウ目用のユニバーサルプライマーセットを用いてPCRを行い,その後ダイレクトシーケンス法でPCR産物の塩基配列779bpを決定することで種同定した.鳥種については,ミトコンドリアDNAのチトクロームb領域を分析対象とした.ハシブトガラス,ハシボソガラス,ミヤマガラスの各種に特異的なプライマーと全種に共通なプライマーを用いてPCRを行ったのち,そのPCR産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い,増幅されたバンドの鎖長でカラスの種類を判定した.その結果,土繭と幼虫の死体の計3個体は全てアカマダラハナムグリであり,巣の主はハシボソガラスであることが判明した.また,これらのアカマダラハナムグリ3個体で2つのハプロタイプが識別されたことから,少なくとも2個体のメス成虫がこの巣に産卵したことがわかった.アカマダラハナムグリは,これまで猛禽類など動物食性鳥類の比較的大型の巣内で幼虫が腐植土や雛の食べ残しを餌として発育することが知られていたが,雑食性で比較的小さい巣を作るハシボソガラスの巣も繁殖資源として利用していることが,今回はじめて明らかとなった.
著者
永幡 嘉之 越山 洋三 梅津 和夫 後藤 三千代
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.104-112, 2013-04-05

電柱から回収されたカラスの巣から,ハナムグリ亜科の空の土繭2個と幼虫の死体1個体を発見した.この昆虫種および巣の持ち主の鳥種を同定するため,土繭の中に残っていた蛹殻,幼虫の死体,および巣材からDNA試料を抽出した.昆虫種については,ミトコンドリアDNAのCOI領域を分析対象とした.まずコウチュウ目用のユニバーサルプライマーセットを用いてPCRを行い,その後ダイレクトシーケンス法でPCR産物の塩基配列779bpを決定することで種同定した.鳥種については,ミトコンドリアDNAのチトクロームb領域を分析対象とした.ハシブトガラス,ハシボソガラス,ミヤマガラスの各種に特異的なプライマーと全種に共通なプライマーを用いてPCRを行ったのち,そのPCR産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い,増幅されたバンドの鎖長でカラスの種類を判定した.その結果,土繭と幼虫の死体の計3個体は全てアカマダラハナムグリであり,巣の主はハシボソガラスであることが判明した.また,これらのアカマダラハナムグリ3個体で2つのハプロタイプが識別されたことから,少なくとも2個体のメス成虫がこの巣に産卵したことがわかった.アカマダラハナムグリは,これまで猛禽類など動物食性鳥類の比較的大型の巣内で幼虫が腐植土や雛の食べ残しを餌として発育することが知られていたが,雑食性で比較的小さい巣を作るハシボソガラスの巣も繁殖資源として利用していることが,今回はじめて明らかとなった.
著者
後藤 三千代 鈴木 雪絵 永幡 嘉之 梅津 和夫 五十嵐 敬司 桐谷 圭治
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.207-218, 2015 (Released:2015-12-13)
参考文献数
40
被引用文献数
1 2

山形県庄内地方にはハシボソガラスCorvus corone,ハシブトガラスC. macrorhynchosおよび冬の渡り鳥のミヤマガラスC. frugilegusが生息しているが,これら近縁のカラス3種が同所に生息している背景を食性より調査した.DNA解析により,種判別されたカラス3種のペリットの内容物を無脊椎動物,植物,その他に分け,構成比率をみると,ハシボソガラスは77.1,82.1,10.6,ハシブトガラスは43.9,73.8,47.2,ミヤマガラスは17.1,97.6,0,と食性は種により異なっていた.餌内容物を詳細にみると,ハシボソガラスから,水辺・水田の生物,地表徘徊性節足動物,草の種子および小型のコガネムシ類など地面近くで得られる生物が検出され,とくに水田の生物は1年を通じて検出された.さらに,樹木の果実の種子および大型のコガネムシ類など樹木と関わる昆虫類も検出された.ハシブトガラスから主に樹木と関わる生物や人家周辺の生物および廃棄物が検出され,ミヤマガラスからほぼイネだけが検出された.以上から,カラス3種の食性に一部重なりがみられるものの,ハシブトガラスとハシボソガラスの間では採餌場所の重なりが少なく,またハシボソガラスとミヤマガラスの間では,収穫後のイネ籾が水田に豊富に落ちている時期に採餌場所が重なることが,庄内地方でカラス3種が同所的に生息している背景と考えられる.

2 0 0 0 OA 飛島

著者
片山 一道 梅津 和夫 鈴木 庸夫 松本 秀雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.97-112, 1985 (Released:2008-02-26)
参考文献数
30

山形県酒田市に属する飛島は3集落(勝浦,中村,法木から成る小島であるが,小地域でヒト集団の小進化過程を解明する上で,すぐれたモデルを提供してくれるものと期待できる。前々報と前報では,そこでの人口構造,婚姻構造,さらにそれらから導かれる各種の遺伝学的パラメーターを斟酌することによって,飛島住民の身体形質には,遺伝的浮動を主因とすると思われる地域的分化が存在するという可能性が指摘できること,実際にも皮膚紋理形質については,そのことをある程度裏付けるような地域的分化が,集落間や本州一般集団との間で存在していることを立証してきた。本報では,合計389人の飛島在住者の血液試料から,23の遺伝的多型性形質について,集落ごとの遺伝子頻度を求め,集落間の遺伝的分化の大きさとパターンを詳細に分析することによって,飛島で生起した小進化過程の様相を推測するとともに,その主働要因についてな一層詳細に検討していこうとするものである。主な成績は次のように要約できる。1.検査した23種類の血液型システムのうち,LDH,AK,PGK,PHI では変異型が全く存在しなかったが,他の19システムでは多かれ少なかれ多型性が観察された。しかし,Rh(D)では(D-)型は法木集落で2人観察されただけである。2.多型状態にある形質のうち,Rh(D),Tf,ADA,SGOT を除いた15形質について,有意差検定を行ったところ,過半数の8形質で3集落間には有意な遺伝子頻度の差異があることが判明した。なかでも ABO 式と Gm 式血液型では極めて大きな集落間差が認められた。3.集落間差異の内訳をみると, MN と Gmと EsD では中村が,また ABO では勝浦が他の2集落から偏った遺伝子頻度を示すことに起因しており,総合的には中村と他の2集落とでは遺伝的組成をやや異にする傾向にあることが認められた。4.3集落間の遺伝的分化の大きさは,根井の分化係数(GST)が0.0117と推定されることから,かなり大規模なものであると評価できる。ちなみに,本州の遠隔3地方一般集団間の GSTは0.0008,アイヌと近畿人と先島人の間の GSTは0.0077である。5.多型性形質の遺伝子頻度について,各集落と日本人一般集団との間の偏差を標準化したのち,集落ごとに変異パターンを図示して,集落間分化のパターンを比較したところ,勝浦と法木の変異パターンは相対的には相互に類似しているが,中村のそれはこの両者によりもむしろ一般集団の方によく相似していることが判明した。6.しかし,一般集団の頻度を基準とした,遺伝子頻度の偏差の方向は,多くの形質では,3集落間で互いにかなり異った様相を呈しているとみるのが妥当である。7.飛島全体をプールしてみると,日本人一般集団と比較した場合,MN, P, Jk, Gc, Gm,Km, PGM1, PGD, EsD, sGPT など多くのシステムで,特徴的な遺伝子頻度を有しているものと判定できる。これらのうちには,飛島独自の特徴として示唆できるものもあるが,北部日本での共通な特徴である可能性があるものも少なくはない。8.以上の結果を総合すると,飛島の3集落間には大きな遺伝的分化があり,前々報で予測したように,基本的には遺伝的浮動などの機会的要因によって生起したものと考えることができる。しかし,勝浦と法木の間でのやや頻繁な通婚による inter-village migrations, さらには山形県の本州集団から中村への gene flowも,その分化には色濃く投影されている。また,集落成立時には,創始者効果も一定の役割を果したであろうということは想像にかたくない。しかし,このことを立証する積極的な証拠は全く見あたらない。むしろ,飛島での平均ヘテロ接合確率が比較的大きいことから,マイナーな要因であった可能性の方が高い。いずれにしても,本研究は,日本の小地域での小進化過程において,機会的要因だけでなく,gene flow もまた重要な役割を果してきたことを示す実例を提供してくれるものである。
著者
鈴木 庸夫 高橋 弘志 梅津 和夫
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

現在、突然死の死因のうち半数強が心臓疾患によるものであり、その中でも半数以上は冠動脈硬化症による虚血性心疾患である。そこで、平成7年度から3年間に、主としてイヌを用いて虚血性心疾患のモデルを作成し、致死的不整脈の発生機構と超早期心筋梗塞の証明法を見出す目的で本研究を行った。平成7年度及び8年度では、イヌの虚血性心疾患のモデルを用いた実験で心室細動は冠動脈結紮後15〜30分の間で最も誘発され易くなり、その後は徐々に誘発され難くなることが明らかになった。またルクソールファストブルー染色法の改良法では、虚血後15〜30分位のものでも虚血部位の収縮帯が証明され、この方法を用いると心筋梗塞後15〜30分でもその証明が可能で、突然死の心筋梗塞の診断に有用であることが判明した。これらのことをふまえて、平成9年度は突然死の解剖例で死因が明確にされなかった、いわゆる原因不明の突然死の例で、ルクソールファストブルー染色法の改良法を用いて組織染色を行ったところ、そのうちのほとんどで死因が虚血性心疾患であることが明らかにされた。
著者
鈴木 庸夫 梅津 和夫
出版者
山形大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

兎で、右大腿上部を乳児用駆血帯で8時間緊縛した後、解除することによって外傷性ショックのモデルを作成した。緊縛解除後、兎は早いもので半日後、最も遅いものでも3日後に呼吸速迫、乏尿、体温降下などの典型的なショック症状を呈して死亡した。これらの例について、死亡後、各臓器の肉眼的並びに組織学的所見を検索した。肉眼的所見では、緊縛解除後死亡までの時間が長い例では肺水腫や胃粘膜下出血がみられるようになったが、しずれにもショック腎の所見や心内膜下出血は認められなかった。組織学的所見では、肺の骨髄細胞塞栓は死亡まで半日のものから見られ、死亡までの時間の長いもので著明になった。肝細胞壊死は死亡まで1日以上のもの、肺脂肪塞栓および腎臓の糸球体のボ-マン氏嚢の膨化や尿管の拡張は死亡まで30時間以上のもの、心筋の帯状変性は最も遅く緊縛解除後2日以上のもので初めて認められた。以上のことから、外傷性ショックの原因が作用した後、死亡までの時間が組織所見から類型化されることが判明した。これらの結果を外傷性ショック死の剖検例と比較すると、肉眼所見、組織学的所見共ほぼ共通して認められ、また、緊縛解除後の死亡時間によって見られる所見もほぼ共通していた。ただ兎での外傷性ショックモデルでは、ショック腎と心内膜下出血のみられたのがなかったのは緊縛解除後死亡までの時間が12時間以内に死亡するものがなかったためと考えられる。また、肝細胞壊死などの修復過程が見られなかったのは緊縛解除死亡までの時間が最高でも3日にすぎなかったためと思われる。以上のことから、外傷性ショック死の法医病理学的所見は類型化され、これをもとにすれば外傷性ショック死の診断はもとより、外傷から死亡までの時間も推定されると考えられる。
著者
安達 登 篠田 謙一 梅津 和夫
雑誌
DNA多型 = DNA polymorphism
巻号頁・発行日
vol.17, pp.265-269, 2009-05-30
参考文献数
17
被引用文献数
1
著者
安達 登 梅津 和夫 米田 穣 鈴木 敏彦 奈良 貴史
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.157-166, 2014

青森県尻労安部洞窟より出土した2本の遊離歯について,理化学分析に基づいた個人識別をおこなった。これら2本の歯は1つが下顎左第三あるいは第二大臼歯,もう1つが上顎右第二大臼歯と同定され,重複はなかった。これらの試料の炭素・窒素安定同位体比は非常に近似しており,同一人物に由来すると考えて矛盾しない結果であった。また,較正放射性炭素年代はそれぞれ4286–4080 calBP(68.2%)および4280–4080 calBP(68.2%)と測定され,同時代のものと考えて矛盾しなかった。ミトコンドアリアDNA(mtDNA)解析の結果,これらの試料は解析した範囲で塩基配列が一致し,ハプログループは北海道縄文時代人およびアムール川下流域の先住民・ウリチにみられるD4h2と判定された。mtDNA解析の成功を踏まえて,より個人識別能力の高い核DNAのShort Tandem Repeat(STR)解析をおこなったところ,解析した座位の全てで正確な判定が可能であり,その判定結果は完全に一致した。上記の分析結果から,この2本の大臼歯は同一人物に由来する可能性が極めて高いものと考えられた。本研究は,遺跡から解剖学的位置関係を保たずに出土した,相互に接合しない複数の縄文時代人骨試料が同一人物に由来することを,理化学分析によって証明した最初の事例である。
著者
梅津 和夫 湯浅 勲
出版者
山形大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本年度は,日本人・韓国人・中国人・パプアニュ-ギニア人・南米インディアンを中心として各種血清タンパク型を調査したところ,次のようなことが判明した。1.ORM1座の重複遺伝子であるORM1^※2・1はアジアの北から南にかけての勾配がみられた。またORM1^※5・2はモンゴロイドにのみ広く分布していることがわかった。2.ORM2座はいずれの集団も1型が優勢であるが,ORM2^※6は特に中国人を中心として高い分布を示した。3.南米インディアンは,AHSG^※2を持つ割合がどの集団よりも高率を示した。4.AHSG^※5は調べた多数のモンゴロイド集団の中で,日本人しか検出されず,その中でも奄美大島〜石垣島までの南西諸島でのみ,きわだった高い値を示した。このことは,この遺伝子は琉球で発生し,ここから,九州,四国,本州にもたらされたことが推定される。なお,アイヌには発見できなかった。5.IF型のIF^※Aは広範なモンゴロイドにみられたが,南米インディアンにはなかった。なお南米インディアンの一集団には多型的頻度で新しい変異型のIF^※A3がみつかった。6.ZAG型の各種変異型遺伝子はいずれの集団においても出現頻度は低いが,民族に特微的ないくつかの因子が明らかになった。以上のように,モンゴロイドに特異的な標識遺伝子を調べることにより,モンゴロイド集団の系統解析に役立つことが明らかになった。