著者
滝澤 久夫 木内 政寛 三澤 章吾 吉岡 尚文 森田 匡彦
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

調査した5つの地域の人口10万人当たりの年間死亡者数(他殺死亡率)は、秋田、茨城、千葉の3地域が0.7〜0.8であって、札幌の0.44、富山の0.58に比べて高かった。男女別に他殺死亡者を比較してみると、他殺死亡率が低い地域では特に男性の死亡が低いことが分かる。年齢別の死亡を見ると、何れの地域でも10歳以下と40歳前後にピークがあるが、秋田での嬰児殺による死亡は0.22で、他の地域に比べて極めて高い。家族内で発生した他殺死亡は、嬰児殺が多いために秋田が高くなっているが、これを除けば、地域間でそれ程大きな差異は見られない。他殺の背景で最も多いものは、秋田の嬰児殺を除けば、何れの地域でも喧嘩・口論である。喧嘩・口論を背景とする他殺死亡が多いのは茨城と千葉で、これらの地域で他殺死亡率が高い原因となっている。殺害の方法は鈍器または鋭器損傷、および窒息が一般的である。このうち窒息は嬰児殺が多いために秋田で高くなるが、嬰児殺を除けば地域間にそれほどの差異はない。しかし、鋭器と鈍器を加えた死亡は茨城と千葉で高く、それは喧嘩・口論が多いことと関連していると考えられる。人口10万人当たりの年間他殺加害者数を他殺死亡率と同様にして計算すると、その数値は他殺率を僅かに下回るものとなる。これを男女別に見ると、札幌の男性加害者の割合が著しく低く、札幌で他殺死亡が少ない原因になっていることが分かる。一方女性の加害者は秋田と札幌で多いが、その原因は秋田の場合は嬰児殺であるが、札幌では様々な殺害の背景がある。殺害の場所は茨城と千葉で自宅の割合が低くなり、また関係者が県内である割合が低くなる。更にこれらの地域では、外国人が関係する事件が見られる。
著者
高津 光洋 福永 龍繁 中園 一郎 吉岡 尚文 西 克治 前田 均 三澤 章吾
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

わが国では,乳幼児の突然死に対し安易に乳幼児突然死症候群(SIDS)と診断され,特に剖検せず,あるいは剖検所見を無視したSIDS診断も多い.このような状況から脱却するために,本研究班は文科省科研費の補助のもとに,平成11年3月「SIDS診断の法医病理学的原則に関する提言」を報告した.今回の目的はこの提言による乳幼児死亡例の死因診断を検証し,提言内容を再検討することにある.前回各大学から収集した乳幼児突然死剖検例307例中122例がSIDS群と診断されていたが,提言に従ってretrospectiveに再検討した結果,SIDSと診断せざるを得なかったのは14例であった.これは全対象例307例の5%,SIDS群の11.5%にすぎなかった.提言前後の乳幼児死亡の推移を厚労省人口動態統計で検討したところ,SIDSはほぼ半減していた.乳児死亡自体が減少しているものの,安易なSIDS診断に対して提言が警鐘となったと思われる.次に乳幼児剖検例における死因診断において,客観的根拠となり得る診断指標について,剖検所見のみならず中毒学的,病態生理・生化学的,微生物学的検査を含め検討し,窒息死と肺感染症の死因診断根拠を提示した.更に,臓器重量,溢血点の有無等の剖検所見について死因別に検討し,死因診断と死亡過程の病態分析のための客観的指標として病理形態的所見の定量分析が有用であることを示唆した.更に,実際の裁判例において提言内容を積極的に鑑定や意見書等で主張してきた.又,乳幼児急死例における虐待,揺さぶり症候群,ライ症候群など死因判定の難しい疾患についても注意を喚起した.わが国では乳幼児死亡例の剖検例が少なく,本研究年度を越えて提言の更なる検証と死因診断の客観的根拠に関する研究の必要性を認識している.
著者
吉岡尚文[著]
出版者
[秋田大学医学部]
巻号頁・発行日
2007
著者
重臣 宗伯 佐藤 ワカナ 柴田 繁啓 越村 裕美 円山 啓司 吉岡 尚文
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.145-148, 2001-07-20
参考文献数
6
被引用文献数
1

高齢者の入浴中の心肺停止の原因を発生状況と地域性から明らかにするために, 発生率によって秋田・青森群と非秋田・青森群の2群に分けて比較検討した。秋田・青森群の発生率は3.51で, 11月に発生のピークがあるのに対し, 非秋田・青森群では2.24で12月に発生のピークがあった。全発生数に占める高齢者の割合, 性別, 発生場所, 水没の有無, 浴槽の形状, 家族との同居の有無, 入浴前飲酒の有無, 既往歴には明らかな差を認めなかった。高齢者の入浴中の心肺停止は外気温が10℃を下回る時期から発生数が増加し, その発生には脱衣場・浴室内の温度の低さが関係していると考えられた。寒冷な時期での脱衣場・浴室内の暖房の必要性を啓発する必要がある。
著者
吉岡 尚文 石津 日出雄 勝又 義直 塩野 寛 中園 一郎
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

旭川、秋田、名古屋、岡山および長崎の5地域につき、自殺者と対照群(現在健康に生活している男女)を対象にセロトニンレセプター1A遺伝子(5HT1AR)多型およびトリプトファンハイドロキシレース遺伝子(TPH HTH)イントロン7の2つの多型(HTH A779C、A218C)検索を行った。これら多型の出現頻度は対照群において地域差や性差は認められなかった。各地域の自殺者サンプル数が少ないため、地域ごとの統計解析は行わず、5地域全体をまとめた2群間の解析を男女別、年齢区分別に行った。5HT1AR型では、男女別、年齢区分別に観察したが、自殺者群と対照群との間で有意差は認められなかった。HTH A779Cでは男性には両群間の有意差は認められなかったが、女性において自殺者群のUU型が有意に多く、UL型が有意に少なかった。また、60歳未満の女性自殺者群ではUU型が有意に多かった(P=0.017)。HTH A218Cでは、男性には両群間の有意差は認められなかったが、女性において自殺者群のAA型が有意に多かった(P=0.038)。HTH A779C型とA218C型のハプロタイプでみると、地域による差は見られず、男子での両群間の差は認められなかった。しかし、女性では自殺者群にIL-AC型が有意に多かった。また、女性を年齢区分でみると、60歳未満では自殺者群にUU-AC型が有意に多かった(P=0.02)。以上の結果から、男性には遺伝子型による両群間の差は見られなかったが、女性の自殺者群と対照群とを比較すると、HTH A779C型ではUU型が、A218C型ではAA型が自殺者群に多く見られた。また、ハプロタイプでも女性の自殺者群でLL-AC型や60歳未満でUU-AC型が対照群に比べ有意に多くみられた。本研究により、脳内アミンの遺伝子が何らかの形で自殺行動と関連性を有していることが示唆された。
著者
吉岡 尚文 津金澤 督雄 石津 日出雄 辻 力 山内 春夫 鈴木 庸夫 高浜 桂一
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

自殺率の高い県、低い県あるいは全国平均並みの県等、14県を対象に、平成元年から7年までの7年間の自殺者の総計約31500例(男性19800、女性11700)につき、各県警察本部の協力を得て、個々の内容を詳しく調査し、統計学的に分析、考察した。その結果以下の点が明らかとなった。*秋田県、新潟県、岩手県はどの年も自殺率が極めて高く、交通事故による死亡者の2〜3倍の数である。一方、石川県、滋賀県、三重県、岡山県の自殺率は常に低い。*男女とも高齢者群での自殺者が多い。また、男性では働き盛りの年代での自殺も多く、経済的要因が背景となっている。*高齢者の自殺の背景は病苦とされているものが大部分である。しかし、それが真の動機となった例は少ない。壮年〜中高年では精神疾患を有する人の自殺が多い(女性で顕著)。*自殺の手段はどの年齢層でも縊頸が多く、特に高齢者で顕著である。*自殺者の内、独居者の占める割合は極めて少ないが、独居者の自殺は独居5年目以降で多くなる。*季節的にみると、春から初夏にかけて多く、冬期間はむしろ少ない。以上より、差し当たり着手すべきは、高齢者ならびに精神科的疾患を有する人に的を絞り具体的な防止対策を講ずることであろうと考える。例えば、高齢者の相談にのるシステムの徹底と情宣、市町村単位での自殺防止運動の展開、精神科医を含め医療関係者の自殺防止への積極的な取り組み、マスメディアの自殺防止キャンペーンへの協力などの他、優先されるべきこととして、家庭内、家族内での内面問題の解消が挙げられる。これらと併行して老人自身の自立心向上、精神面の教育がなされる環境を整えることも肝要である。
著者
吉岡 尚文 権守 邦夫
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

様々なアナフィラキシーショックのうち、抗原・抗体反応に起因するショックは例えば、IgA欠損症や他の血漿蛋白欠損患者への輸血でしばしば経験されることである。本研究はこれに類似するモデルをin vitroで作成し、肺動脈由来内皮細胞の挙動を検索することにより、その病態の解明と治療への応用を検討することを目的とした研究である。平成14年度の実験では、ヒト肺動脈由来の市販内皮細胞を培養し、コンフルエントになった時点で、抗ヒトハプトグロビン(Hp)を加えインキュベートし、次いで抗原液(ヒトHp)を添加後、細胞培養上清中に放出されると予想される様々な物質を経時的に測定した。その結果、ICAM-1とVCAM-1に放出量の変化が認められたことから、平成15年度は抗原や抗体の容量依存性の検討、さらに培養液中に白血球細胞やTNFαを加え、炎症反応を促進させる系を作成した。この系を用い、ICAM-1とVCAM-1の濃度を1時間ごとに6時間迄、12時間ごとに48時間迄経時的に測定し、抗原や抗体の量、白血球細胞や、TNFαの影響を検討したが、再現性のあるデーターは得られなかった。むしろ、細胞培養液に異物(ある種のヒト血清蛋白や抗体であるウサギ血清)を加えることで、細胞は刺激されてICAM-1とVCAM-1のような物資を放出したのではないかということが示唆される結果を得た。肺動脈の内皮細胞は何らかの物質を放出している可能性が示唆されたが、今回の研究からはアナフィラキシーショックと関連ある重要因子の特定や内皮細胞の確定的反応を確認することは困難であった。