著者
宇髙 麻子 吉岡 靖雄 吉田 徳幸 宇治 美由紀 三里 一貴 森 宣瑛 平井 敏郎 長野 一也 阿部 康弘 鎌田 春彦 角田 慎一 鍋師 裕美 吉川 友章 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-39, 2012 (Released:2012-11-24)

抗原を粘膜面から接種する粘膜ワクチンは、全身面と初発感染部位である粘膜面に二段構えの防御を誘導できる優れたワクチンとなり得る可能性を秘めている。しかし抗原蛋白質は体内安定性に乏しく、単独接種ではワクチン効果が期待できない。そのため、免疫賦活剤(アジュバント)の併用が有効とされており、既に我々はTNF-αやIL-1α等のサイトカインが優れたアジュバント活性を有することを先駆けて見出してきた(J.Virology, 2010)。しかしサイトカインは吸収性にも乏しく、アジュバントの標的である免疫担当細胞への到達効率が極めて低い。そのため十分なワクチン効果を得るには大量投与を避け得ず、予期せぬ副作用が懸念される。言うまでも無く、現代のワクチン開発研究においては、有効性のみを追求するのではなく、安全性を加味して剤型を設計せねばならない。そこで本発表では、ナノ粒子と蛋白質の相互作用により形成されるプロテインコロナ(PC)を利用することで、サイトカイン投与量の低減に成功したので報告する。PCとは、ナノ粒子表面に蛋白質が吸着して形成する層のことを指す。近年、PC化した蛋白質は体内安定性や細胞内移行効率が向上することが報告されている。まず粒子径30 nmの非晶質ナノシリカ(nSP30)を用いてPC化したTNF-α(TNF-α/nSP30)を、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)と共にBALB/cマウスに経鼻免疫し、OVA特異的抗体誘導能を評価した。その結果、有害事象を観察することなく、0.1 µgのTNF-αを単独で投与した群と比べ、TNF-α/nSP30投与群においてOVA特異的IgG・IgAの産生が顕著に上昇していた。以上、PCがTNF-αアジュバントの有効性と安全性を向上できる基盤技術となる可能性を見出した。現在、体内吸収性の観点からPC化サイトカインのワクチン効果増強機構やナノ安全性を解析すると共に、最適なPC創製法の確立を推進している。
著者
今井 直 堤 康央 長野 一也 杉田 敏樹 吉田 康伸 向 洋平 吉川 友章 鎌田 春彦 角田 慎一 中川 晋作
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.151, 2007

現状のプロテオーム解析では、疾患組織あるいは対照となる健常組織由来の蛋白質サンプルを二次元ディファレンシャル電気泳動(2D-DIGE)法で分離した後に、質量分析計を用いて個々の発現変動蛋白質を同定することにとどまっている。そのため、同定された膨大な数の変動蛋白質の中から、発現や変動を詳細に機能解析することで、病態の発症や悪化に中心的な役割を果たしている創薬ターゲット・蛋白質を効率よく絞り込むこが次のステップとして期待されている。その点において、ELISAなどの抗原-抗体反応を利用した解析手法は、特定蛋白質を特異的かつ高感度に検出できることから、プロテオミクス研究においても蛋白質の機能解析を進める上で極めて有用である。しかし、従来のように数十g以上の蛋白質を動物個体に免疫する必要があるハイブリドーマ法では、上述の2D-DIGEによって得られる極微量(数十ng程度)かつ多種類の蛋白質サンプルに対する抗体作製に対応することは不可能である上、この方法ではプロテオミクスの最大の利点である網羅性を著しく損なってしまう。そこで我々は、これらの課題を克服するために、ファージ抗体ライブラリと2D-DIGE法を組み合わせた新しいモノクローナル抗体(Mab)作製技術の確立を試みた。一般に、ファージ抗体ライブラリからのMabのセレクションは、プラスチックプレートなどに固定化した数g~数百g程度の標的抗原に対してファージ抗体ライブラリを反応させ、抗原に結合するファージのみを選択・増幅する、という方法(パンニング法)を用いる。既に我々は、ニトロセルロースメンブランを固相化担体として利用することで蛋白量がわずか0.5 ng程度であっても効率よくMabを選別できるパンニング法の開発に成功している。今回は、ヒト乳癌・乳腺細胞株の2D-DIGE解析により得られた発現変動スポットから蛋白質を抽出し、この蛋白質をダイレクトに抗原として用い、メンブランパンニングを行った。その結果、メンブランパンニング法を適用することで、今回得られた全てのスポットに対してMAbを単離することが出来た。以上、2D-DIGEによる変動蛋白質の同定と抗体作製を一挙に達成できる本手法は、プロテオミクスによる創薬ターゲットや疾患の早期診断・治療マーカーの同定に大きく貢献するものと期待される。
著者
鎌田 春彦
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.133, no.9, pp.925-930, 2013 (Released:2013-09-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

Biopharmaceuticals represent new generation drugs that are more effective than conventional low molecular weight medicines for the treatment of cancer and other refractory diseases. In order to develop biopharmaceuticals it is critically important to explore suitable target molecules both for the diagnosis and treatment of disease. However, the choice of effective biomarker or drug target is often the most difficult part of the drug development process. Target discovery typically involves ‘omics’ techniques such as genomics, gene chip analysis and proteomics. Of these, proteomics is particularly important because proteins often comprise the final biomarker or drug target in the clinical sample (e.g., tissue or blood). Comprehensive proteomic analysis involves the identification of target proteins with different levels of expression between two states and is extremely useful at selecting promising candidates. Technology is then applied to further narrow down the list of relevant proteins. Here, I would like to introduce our novel procedure, termed “antibody proteomics technology”, which can generate monoclonal antibody from a minute amount (i.e., nanogram level) of protein. Antibody proteomics technology can be used to easily identify suitable target molecules in order to develop effective biomarkers and drug targets.