著者
長岡 功
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.152-162, 2013-04-30 (Released:2014-11-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1

変形性関節症 (osteoarthritis;OA) は, 軟骨破壊によって局所の痛みと慢性的に増強する運動機能障害をきたす疾患であり, とりわけ変形性膝関節症 (膝OA) が多い. 近年, 従来の運動療法や薬物による保存的治療に加えて, 軟骨代謝を改善してOAの進行を抑制する構造修飾効果 (structure-modifying effect) または軟骨保護効果 (cartilage protecting effect) をもつ新たな治療法が期待され, その有力な候補としてグルコサミンやコンドロイチン硫酸などいくつかの食品成分が注目されている. 一方, OAの病態を客観的に評価するために様々な関節マーカーが研究されてきたが, 特にII型コラーゲンは関節軟骨に特異的に存在するため, II型コラーゲンの分解・合成をみることは, 関節疾患の病態や, それに対する薬物, 食品の効果をより正確に客観的に評価できると考えられている. そこで, 本稿では, OAの病態変化と関節マーカーによる膝OAの評価について概説し, さらに, 関節マーカーを用いてグルコサミン含有食品の膝OAに対する効果を評価した例について紹介する. そして, グルコサミンが抗炎症作用を示すとともに, 軟骨成分 (グリコサミノグリカン, II型コラーゲン) の分解を抑制する一方で, 合成を促進することによって軟骨保護的に作用する可能性について述べる.
著者
染谷 明正 長岡 功 鈴木 香
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

グルコサミンは関節機能の改善効果をもつ機能性食品素材として広く知られている。申請者らはこれまでグルコサミンの抗炎症作用および、その分子メカニズムを解析してきた。一方、その過程でアンチエイジング作用があることを示唆する結果が得られた。本研究では、グルコサミンの新たな機能としてのアンチエイジング効果およびそのメカニズムについて調べる。そのためにアンチエイジング作用を発揮するためのグルコサミンタターゲット分子を同定し、老化細胞ならびに老化モデル動物を用いて同定された分子の作用メカニズムを検証する。
著者
新城 邦裕 石井 (堤) 裕子 長岡 功 梶山 美明 鶴丸 昌彦
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.494-501, 2009-12-31 (Released:2014-11-21)
参考文献数
32

目的: 食道癌はいまだに予後不良の疾患である. 肉眼的・病理組織学的に癌遺残がない根治手術例に再発・転移が起きたり, 同一病期症例で予後に差異が認められることもあり, これらの原因のひとつとして微量癌細胞の存在が示唆されている. 今回われわれはCEA mRNAをターゲットとしたリアルタイムRT-PCR法を用いて食道癌患者における骨髄微量癌細胞の検出・解析を行い, その臨床的意義について考察を行った. 対象: 対象は当科において2003年3月から2004年4月までにリンパ節郭清を伴う食道癌切除術を施行した65例である. 術後の観察期間は82-564日間 (中央値316.6日間) であった. 方法: 手術開始直後の開胸時に肋骨から骨髄を採取し, 精製してtotal RNAを抽出した. CEAmRNAの陽性コントロールにTE-9を用い, そのtotal RNAを使ってリアルタイムRT-PCRを行い検量線を作成した. それをもとに骨髄検体中のCEA mRNA量を内部標準のGAPDH mRNAの比から補正し求めた. 定量PCRは2回行い再現性を確認し, さらにPCR産物を電気泳動し疑陽性を排除した. 結果: 65例中14例 (21.5%) が骨髄検体中CEA mRNA陽性であった. 陽性群と陰性群を背景因子および病理組織学的因子から比較したが有意差はなかった. 両群の生存曲線を求めたところ, 陽性群は有意に予後が悪かった (p=0.0369). また予後因子を判断するために多変量解析を行ったところ, CEA mRNAの検出 (p=0.031) とリンパ節転移の個数 (p=0.004) が選択された. CEAmRNA陽性となる危険因子についてロジスティック回帰分析を用いて解析したが, 各因子において全て有意ではなかった. 結論: 食道癌骨髄中微量癌細胞の有無は従来の臨床病理学的予後因子とは独立した, 新たな予後予測因子である可能性が示された.
著者
五十嵐 庸 中村 果歩 坂本 廣司 長岡 功
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.29-33, 2019 (Released:2020-01-01)
参考文献数
15

ヒト軟骨培養細胞株における,オートファジーマーカー分子の発現に対するグルコサミン(glucosamine,GlcN)の効果を検討した.その結果,LC3-IIやbeclin-1などの発現が,GlcNにより有意に増加することが明らかとなった.また,同時にサーチュイン(sirtuin,SIRT)1遺伝子の発現も,GlcNにより有意に増加した.さらに,GlcN添加によるLC3-IIの発現増加が,SIRT1阻害剤であるEX527で阻害された.さらに,mammalian target of rapamycin(mTOR)の関与を検討するために,mTORの標的分子であるS6 キナーゼ(S6 kinase,S6K)のリン酸化を調べたところ,S6Kのリン酸化に対してGlcNは影響しないことが明らかとなった.そこで,mTORを介さずにオートファジーを負に制御するp53のアセチル化状態を検討したところ,p53のアセチル化がGlcNによって有意に減少することが明らかとなった.なお,SIRT1は脱アセチル化酵素としてp53を脱アセチル化し不活性化することが知られている.以上の結果より,GlcNは軟骨細胞においてSIRTタンパク質の発現を亢進し,その標的分子であるp53を脱アセチル化し不活性化することによって,オートファジーを誘導するというメカニズムが考えられた.
著者
染谷 明正 坂本 廣司 長岡 功
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.67-71, 2019 (Released:2020-01-01)
参考文献数
10

グルコサミンは,関節の痛みや違和感などの症状を緩和することを期待し,サプリメントとして使用されている.そして,このような関節症状の緩和にはグルコサミンの抗炎症作用が関与していると考えられている.われわれは,グルコサミンが関節滑膜細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑制すること,そして,その抑制には O -N-アセチルグルコサミン( O -GlcNAc)修飾が関与していることを報告している.一方,炎症性サイトカインの産生には,転写因子NF-κBが重要な役割を果たしている.本研究では滑膜炎症におけるグルコサミンの炎症抑制機構を調べるため,ヒト関節滑膜細胞株MH7Aを用い,NF-κBの活性化に及ぼすグルコサミンの影響および, O -GlcNAc修飾との関連性について調べた. その結果,グルコサミンは,IL-1β刺激で起こるNF-κB p65サブユニットのリン酸化(活性化)や核への移行を抑制した.一方, O -GlcNAc修飾を阻害するアロキサンは,グルコサミンによるこれら抑制作用を消失させた.またグルコサミンは,IL-1β刺激によって起こるNF-κBとIκBα(NF-κBと結合して核移行を阻害するタンパク質)との解離を抑制し,アロキサンはこの抑制効果を消失させた. これらのことからMH7A細胞において,グルコサミンは O -GlcNAc修飾を介して,IL-1β刺激によって起こるNF-κBからの IκBαの解離を阻害し,NF-κBのリン酸化や核への移行を抑制することで,炎症性サイトカイン遺伝子の転写を抑制し,その産生を低下させる可能性が示唆された.
著者
長岡 功
出版者
日本食生活学会
雑誌
日本食生活学会誌 (ISSN:13469770)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.3-8, 2008-06-30 (Released:2008-09-02)
参考文献数
24

Glucosamine, a naturally occurring amino monosaccharide, has been widely used to treat osteoarthritis in humans. Several clinical trials have shown the significant symptom-modifying effect of glucosamine on osteoarthritis. Administration of glucosamine normalizes cartilage metabolism, so as to inhibit the degradation and stimulate the synthesis of proteoglycans, and to restore the articular function. In addition to the chondroprotective action, glucosamine is expected to exhibit anti-inflammatory actions by suppressing neutrophil functions such as superoxide generation, phagocytosis, granule enzyme release and chemotaxis. Moreover, glucosamine has been demonstrated to suppress the progression of adjuvant arthritis (a model of rheumatoid arthritis) possibly by inhibiting synovial cell activation and production of inflammatory mediators (such as prostaglandin E2 and nitric oxide). Finally, glucosamine can suppress platelet aggregation, release of granule constituents, thromboxane A2 production, calcium mobilization and phosphorylation of Syk possibly via the inhibition of ADP-binding to the receptors. Thus, glucosamine could be expected as a novel anti-platelet agent for thrombotic disorders due to its suppressive actions on platelets.
著者
五十嵐 庸 長岡 功
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

骨芽細胞に対するグルコサミン(GlcN)の効果を検討したところ、石灰化が亢進した。また、その効果は、骨芽細胞の中期以降の分化を亢進することで、石灰化を亢進するものと考えられた。また、軟骨細胞におけるGlcNの標的遺伝子を探索したところ、サーチュイン(SIRT)1遺伝子が同定された。また、他の細胞では発現が変化しないことから、軟骨細胞特異的な標的遺伝子であることが示唆された。さらに、GlcN添加によりいくつかの下流遺伝子において発現の変化が認められ、これはSIRT1の発現上昇を介していることが示唆された。