著者
加藤 博文 石田 肇 吉田 邦夫 佐藤 孝雄 米延 仁志 ハドソン マーク 米田 穰 安達 登 増田 隆一 長沼 正樹 深瀬 均 木山 克彦 江田 真毅 岡田 真弓 木山 克彦 江田 真毅 岡田 真弓 長沼 正樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-10-31

本研究では、アイヌの集団的・文化的形成過程において海洋狩猟民文化の強い影響が社会文化伝統にも、集団的にも、存在したことを示唆する豊富な資料を提供することができた。浜中2遺跡の調査では、海獣儀礼の伝統が先行する先史文化から連続して継承、発展されアイヌ文化の中へ取り込まれていくことが考古学的に提示された。集団的な系統性については、先行研究で示唆されていたオホーツク文化の関与を補強する資料を得ることができた。提示されたアイヌ民族の集団形成性の複雑さは、集団のアイデンティティの形成過程や変遷についても、社会・経済・政治的文脈での検討の必要性を示唆している。今後も得られた資料の調査研究を進めていく。
著者
長沼 正樹
雑誌
論集忍路子 (ISSN:18804713)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.57-73, 2005

日本列島における更新世終末期の考古学的研究は,史的唯物論と自国の一国史を前提に,旧石器時代から縄文時代への変化を明らかにするとの課題を立て,日本の外部からの新文化の伝来なのか,それとも内部で自発的に展開したのかという問題構成を軸に進められた。縄文文化起源論の形をとる外来説は大陸文化の波及を強調し,一方で旧石器終末期編年の形をとる内在説は,石器の変化に狩猟具の発展を認めようとした。やがて戦前の旧石器の存在が知られていない頃の主流であった外来説から,岩宿発見を経て内在説を基本とする理解へとシフトし,旧石器から縄文への移行は短期間に複数の石器が変化した激動の時代であったと理解された。しかし 90 年代後半以後には,C年代の蓄積とロシア・中国での調査の進展をうけて,短期間という時間認識と一国史的な空間認識は再考を迫られた。国家の空間範囲の中で生産力の発展を先史時代にさぐる枠組みにかわり,多階層的な空間範囲での自然と人類活動との相互システムの個別的解明と,それらの広域での比較が,今後の研究に求められる枠組みである。
著者
長沼 正樹
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度の研究は、フィールド調査を継続しつつ昨年の博士論文の内容をもとに、地域間の比較検討に着手しながら、研究成果の一部を国内外の学会に公表した。昨年までのアムール下流域でのフィールド調査の成果の一部を『北海道旧石器文化研究』10号および世界考古学会議(WAC)中間会議で公表した。本年度のフィールド調査は、同じ地域で新石器より下層に包含されると予測した旧石器の検出を目的として、アシノーヴァヤ・レーチカ地区で実施した。しかし調査地点では旧石器遺物を確認できなかった。そこで極東の内陸部や極北地域も含めた後期旧石器に相当する遺跡を、ロシア側で調査された文献資料上で検討して、アムール下流域には、両面調整石器を中心とする旧石器文化が更新世に展開した可能性を見出し、『考古学ジャーナル』誌No.540号に公表した。また博士論文の一部に、新たな情報を加えて書き直し、日本列島の更新世終末期の学説史として『論集忍路子』第1号に公表した。同じく博士論文の一部、両面調整石器のリダクションモデルに関する部分は、国際誌Current Research in the Pleistoceneに投稿した。比較地域の一つとして昨年度着目していた北海道島について、更新世終末期石器群として忍路子石器群と落合モサンル石器群を対象に、先行研究の検討と新資料の実地観察を実施した。忍路子石器群が石刃運搬型リダクション戦略で環境に適応していたことに対し、落合モサンル石器群は、両面調整石器リダクション戦略を中心とした石材利用であり、両者の行動形態は大きく異なるとの見通しを得た。しかし年代学的情報と古環境復元の検討が不十分であることから、まとまった成果として公表してはいない。なお本年度公表した実績の他にも、今後の作業と展開次第で公表可能な状態にもっていける蓄積内容はある。これらについても、国内・外に随時公表する予定である。