著者
須藤 遙子
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.393-409, 2009-11

二〇〇五年は自衛隊の協力を前面に打ち出した映画が、大規模な宣伝を伴って続々公開され始めた年である。これらの作品群は「愛国」や「自己犠牲」といった共通のメッセージや政治性を帯びており、この傾向は現在でも続いている。本稿では、自衛隊が製作に協力する一般劇映画(以下、自衛隊協力映画)を一つの映画ジャンルとして捉え、その内容と製作のあり方を検証する。防衛省の通達により、自衛隊協力映画は自衛隊員のみならず、戦車・戦闘機・戦艦までもが無償で提供されるため、製作側からのオファーが続いている。『亡国のイージス』『戦国自衛隊一五四九』『男たちの大和/YAMATO』『ローレライ』『ミッドナイトイーグル』『日本沈没』などの具体的内容を検証していく。次に、二〇〇八年秋に大きな政治問題となった、前航空幕僚長の田母神敏夫による論文が主張する内容と自衛隊協力映画との共通性をとりあげる。田母神は「国防という重大な使命」を達するために構築すべき、防衛力の基盤としての「愛国心」を問題としている。一九六一年に制定された「自衛官の心がまえ」の内容とほぼ一致する田母神論文は、「ことに臨んでは、身をもって職責を完遂する」ような「健全な国民精神」の構築を訴えているのだ。田母神論文には厳しい批判をしたマスコミ各社だが、自衛隊協力映画の製作委員会に入っていることで、自社媒体の主張とは異なるプロパガンダを積極的に流している。一般全国紙及び系列の民放キー局は全て、何かしらの自衛隊協力映画に出資している。現代においてはマスコミ各社も映画産業の一部となり、政治・経済・文化とマス・メディアのポジショニングはさらに複雑化している。それが最も顕著に表れているのが、「自衛隊協力映画」というジャンルといえる。「自衛隊協力映画」という新しいジャンルを主張することで、映画というポピュラー文化に浸透する政治性を明らかにするのが目的である。
著者
谷川 建司 須藤 遙子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、1950年代に製作・公開された何本かの日本映画が、米国(米軍)と日本(警察予備隊及びその後継組織)による二重のプロパガンダ映画であったことを、米国立公文書館所蔵の米国広報文化交流庁(USIA)文書の調査、及びそこで入手した米国側資料と照らし合わせるべき日本側資料についての調査によって明らかにした。成果物としては、USIA文書の中に含まれていた、イェール大学のProfessor マーク・T・メイ教授による『USIS日本報告書』(1959年6~7月)を全訳し、それに本研究の研究代表者・谷川建司と、研究分担者・須藤遙子による解説、論考を付した形での書籍を刊行する予定で準備を進めている。
著者
須藤 遙子
出版者
筑紫女学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、自衛隊広報センターと広報イベントのフィールドワークを通し、1990年代半ば以降に積極化してきた自衛隊広報戦略の内容と経緯を実証的に考察してきた。海上自衛隊佐世保史料館、航空自衛隊浜松広報館、陸上自衛隊広報センター、海上自衛隊呉史料館などの大型広報施設をはじめ、プラチナチケットともなっている富士総合火力演習や、F15座席の試乗などもできる各地の航空祭等、近年の自衛隊体験型イベントの人気は想像以上だった。自衛隊という存在が国民に定着し、好意的に受け入れられていることは、総務省の調査でも判明しているが、本来の目的である自衛官への応募数は減少している。
著者
須藤 遙子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

1年目の2015 年度は、史料調査・資料調査を主に行った。まず、京都の国際日本文化研究センターにて1950-60 年代の『キネマ旬報』を全て通読し、自衛隊協力の可能性のある戦争映画、航空映画などの記事をコピーし、リスト化した。これにより、戦争映画約180本、航空映画約50本を抽出、新たに5本の協力映画を発見することができた。ただし、現時点では全く視聴できていないので、引き続き調査を進めて視聴を実現できるよう努力する必要がある。また、本研究では2年目に行う予定としていた、米国メリーランド州カレッジパークにある米国立公文書館での調査を、不完全ながら2015年10月10日-15日まで行うことができた。これは、科研費基盤研究C「1950年代の米国による映画広報政策と日本の防衛広報の結節点についての実証的研究」(研究期間:平成27年度~平成29年度)の調査として、2015年10月9日-23日までワシントンとニューヨークを訪れた際、本研究に関わる部分に関しても米国立公文書館で同時に調査を行ったためである。この結果、USIS(米広報文化交流局)による反共を目的とした世論工作を詳述した報告書の一次資料を確認し、コピーすることができた。この報告書を確認したところ、確かに高倉健主演の『ジェット機出動 第101航空基地』(小林恒夫監督、東映、1957)を含む少なくとも5本の映画にアメリカが関与した事実は判明した。しかし、残念ながら他の4本の映画のタイトルは記述されておらず、さらに関係資料をあたって作品を特定する必要がある。筑紫女学園大学現代社会学部への着任が決まり、特別研究員としての研究は1年で終えることとなるが、引き続き先述の基盤研究Cと連動させながら、本研究を進めていく所存である。
著者
須藤 遙子
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.393-409, 2009-11

二〇〇五年は自衛隊の協力を前面に打ち出した映画が、大規模な宣伝を伴って続々公開され始めた年である。これらの作品群は「愛国」や「自己犠牲」といった共通のメッセージや政治性を帯びており、この傾向は現在でも続いている。本稿では、自衛隊が製作に協力する一般劇映画(以下、自衛隊協力映画)を一つの映画ジャンルとして捉え、その内容と製作のあり方を検証する。防衛省の通達により、自衛隊協力映画は自衛隊員のみならず、戦車・戦闘機・戦艦までもが無償で提供されるため、製作側からのオファーが続いている。『亡国のイージス』『戦国自衛隊一五四九』『男たちの大和/YAMATO』『ローレライ』『ミッドナイトイーグル』『日本沈没』などの具体的内容を検証していく。 次に、二〇〇八年秋に大きな政治問題となった、前航空幕僚長の田母神敏夫による論文が主張する内容と自衛隊協力映画との共通性をとりあげる。田母神は「国防という重大な使命」を達するために構築すべき、防衛力の基盤としての「愛国心」を問題としている。一九六一年に制定された「自衛官の心がまえ」の内容とほぼ一致する田母神論文は、「ことに臨んでは、身をもって職責を完遂する」ような「健全な国民精神」の構築を訴えているのだ。 田母神論文には厳しい批判をしたマスコミ各社だが、自衛隊協力映画の製作委員会に入っていることで、自社媒体の主張とは異なるプロパガンダを積極的に流している。一般全国紙及び系列の民放キー局は全て、何かしらの自衛隊協力映画に出資している。現代においてはマスコミ各社も映画産業の一部となり、政治・経済・文化とマス・メディアのポジショニングはさらに複雑化している。それが最も顕著に表れているのが、「自衛隊協力映画」というジャンルといえる。 「自衛隊協力映画」という新しいジャンルを主張することで、映画というポピュラー文化に浸透する政治性を明らかにするのが目的である。