著者
小栢 進也 建内 宏重 高島 慎吾 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.97-104, 2011-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
25
被引用文献数
4

【目的】筋の作用は解剖学的肢位で考えられることが多いが,実際の運動では関節角度変化に伴い,筋の作用や発揮できる筋力が異なる。本研究では数学的モデルを用いて角度変化に伴う股関節周囲筋の屈伸トルクを検討した。【方法】股関節周囲筋を対象とし,生理学的断面積,羽状角,モーメントアーム,筋線維長から股関節屈曲角度を変化させた際に筋が発揮する屈伸トルクを求めた。なお,大殿筋下部線維,縫工筋,腸腰筋は走行変化点を考慮したモデルを用いた。【結果】大腿直筋は屈曲10〜30°で大きな屈曲トルクを有し,伸展域や深い屈曲域ではトルクが小さくなった。一方,腸腰筋は深い屈曲域で強い力を発揮し,伸展域でもトルクは維持された。また,ハムストリングスは屈曲域で大きな伸展トルクを発揮するが,伸展につれて急激に小さくなり,伸展域では大殿筋下部線維が主動筋となることがわかった。内転筋は伸展域で屈筋,屈曲域で伸筋になる筋が多かった。【結論】関節角度によって変化する筋の発揮トルク特性を考慮することで,弱化した筋の特定など筋力の詳細な評価が可能になると考えられる。
著者
小栢 進也 建内 宏重 高島 慎吾 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.97-104, 2011
参考文献数
25
被引用文献数
1

【目的】筋の作用は解剖学的肢位で考えられることが多いが,実際の運動では関節角度変化に伴い,筋の作用や発揮できる筋力が異なる。本研究では数学的モデルを用いて角度変化に伴う股関節周囲筋の屈伸トルクを検討した。【方法】股関節周囲筋を対象とし,生理学的断面積,羽状角,モーメントアーム,筋線維長から股関節屈曲角度を変化させた際に筋が発揮する屈伸トルクを求めた。なお,大殿筋下部線維,縫工筋,腸腰筋は走行変化点を考慮したモデルを用いた。【結果】大腿直筋は屈曲10〜30°で大きな屈曲トルクを有し,伸展域や深い屈曲域ではトルクが小さくなった。一方,腸腰筋は深い屈曲域で強い力を発揮し,伸展域でもトルクは維持された。また,ハムストリングスは屈曲域で大きな伸展トルクを発揮するが,伸展につれて急激に小さくなり,伸展域では大殿筋下部線維が主動筋となることがわかった。内転筋は伸展域で屈筋,屈曲域で伸筋になる筋が多かった。【結論】関節角度によって変化する筋の発揮トルク特性を考慮することで,弱化した筋の特定など筋力の詳細な評価が可能になると考えられる。
著者
遠藤 正樹 建内 宏重 永井 宏達 高島 慎吾 宮坂 淳介 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF2078, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 ADLやスポーツでは、肩関節内・外旋運動が繰り返し行われており、内・外旋運動時の肩甲骨運動と肩関節障害との関連が指摘されている。2nd外旋では、肩甲骨の後傾・上方回旋・外旋、鎖骨の後方並進が生ずるとされているが、機能的な問題が生じやすい内・外旋最終域まで詳細に報告したものは少ない。また胸椎の屈曲・伸展は肩甲骨の運動に関連があると考えられているが、内・外旋運動において胸椎の運動を調査した研究はほとんどない。臨床的にも肩関節疾患において、内・外旋運動の障害は多く見られるため、内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動や動態を明らかにできれば、効果的な治療が可能になると考える。よって本研究の目的は、1st、2nd、3rdポジションにおける内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動を3次元的に明らかにすることとした。【方法】 対象は健常若年男性17名(23±3.9歳)とし、測定側は利き手上肢とした。測定には6自由度電磁センサーLiberty (Polhemus社製)を用いた。8つのセンサーを肩峰、三角筋粗部、前腕中央、胸骨、鎖骨中央、Th1、Th12、S2に貼付し、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動学的データを収集した。測定課題は座位での1st、2nd、3rdポジションの内・外旋運動とし、最大内旋位から3秒で外旋し、最大外旋位で1秒静止保持させ、3秒で最大内旋位まで内旋する運動とした。測定回数は3回とし、その平均値を解析に用いた。解析区間は最大内旋位~最大外旋位までを100%として、解析区間内において5%毎の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動学的データを算出した。なお、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動角度は、胸郭セグメントに対する肩甲骨・鎖骨セグメント、および胸椎はTh12に対するTh1の相対的なオイラー角を算出した。運動軸の定義として、肩甲骨は内・外旋、上方・下方回旋、前・後傾、鎖骨は前方・後方並進、上・下制について解析を行った.統計分析では、解析区間における肩甲骨・鎖骨の動態、および同一角度における内旋運動時と外旋運動時の肩甲骨・鎖骨の動態の違いを分析するために、反復測定二元配置分散分析を用いた。有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上、同意書に署名を得た。なお、本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 1stの外旋では肩甲骨は約17度外旋、約6度下方回旋、鎖骨は約5度後方並進、胸椎は約5度伸展した。2ndの外旋では肩甲骨は約14度外旋、約7度上方回旋、約19度後傾、鎖骨は約11度後方並進・下制、胸椎は約14度伸展した。3rdの外旋では肩甲骨は約12度外旋、約6度下方回旋、約12度後傾、鎖骨は約5度下制、胸椎は約7度伸展した。また、1st、2ndでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の全ての運動で、3rdでは肩甲骨内・外旋、上・下方回旋、鎖骨の挙上・下制、胸椎の屈曲・伸展で交互作用が認められ(P<0.05)、同一角度においても内旋運動中と外旋運動中とでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の動態が異なっていた。1st、2nd、3rdポジションの共通の傾向として、内・外旋運動の最終域付近において、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動は急な増大を示した。【考察】 外旋運動において、1stでは肩甲骨の外旋・下方回旋、鎖骨の後方並進、胸椎の伸展、2ndでは肩甲骨の外旋・上方回旋・後傾、鎖骨の後方並進・下制、胸椎の伸展、3rdでは肩甲骨の外旋・下方回旋・後傾、鎖骨の下制、胸椎の伸展が同時に生じていた。内旋運動では逆の運動を同時に示した。胸椎は全てのポジションにおいて、外旋運動時に伸展し、内旋運動時に屈曲が生じており、内・外旋運動においても胸椎と肩甲骨の運動が協調していることが明らかとなった。また、3ポジション全てで外旋運動時に胸椎は伸展したが、特に2ndでの伸展角度が大きく、2nd外旋では胸椎の伸展がより重要であることが示唆された。さらに、同じ角度であっても内旋運動中と外旋運動中とでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動パターンが異なることが明らかとなった。例を挙げると、外旋最終域付近において、外旋運動中には肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動が大きくなるのに対して、内旋運動中には肩甲上腕関節の運動が大きくなる傾向にあった。肩甲骨・鎖骨・胸椎の動態は、内・外旋運動の運動方向を踏まえて理解することが必要である。【理学療法学研究としての意義】 肩関節疾患を有する多くの患者において、内・外旋運動時の肩甲上腕関節の可動域低下だけでなく、肩甲骨運動の異常も観察される。臨床的に問題が生じやすい内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動や動態が明らかとなり、患者の治療戦略立案にとって有用な情報になると考える。
著者
永井 宏達 建内 宏重 高島 慎吾 遠藤 正樹 宮坂 淳介 市橋 則明 坪山 直生
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AeOS3002, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 肩関節に疾患を有する症例では,肩甲骨,鎖骨の動態に異常をきたしていることが多い.そのため,臨床場面では,セラピストが肩甲骨や鎖骨の動態を正確に把握し,適切な肩甲骨,鎖骨の運動を獲得することが重要である.一般に,肩関節疾患を有する患者における肩甲骨の異常運動としては,肩甲骨の内旋(外転),前傾,上肢挙上時の肩甲骨の挙上,下方回旋などが報告されており,上肢の挙上動作を行う上では障害となる.一方,肩甲骨の動態・アライメントに影響を及ぼす因子として,脊柱が後彎することで肩甲骨の前傾,内旋,下方回旋は生じやすくなるとされる.しかしながら,脊柱の回旋が肩甲骨,鎖骨の動態に及ぼす影響は明らかにはされていない.日常生活場面での上肢挙上動作には,体幹の回旋を伴っていることも多く,体幹回旋による影響を明らかにすることは臨床的に重要である.そしてこれらの情報は,より効果的な肩甲骨トレーニング開発の一助となると思われる.本研究の目的は,体幹回旋が上肢挙上時における肩甲骨・鎖骨の動態に及ぼす影響を明らかにすることである.【方法】 対象は健常若年男性19名(20.9±0.7歳)とし,測定側は利き手上肢とした.測定には6自由度電磁センサーLiberty (Polhemus社製)を用いた.5つのセンサーを肩峰,三角筋粗部,胸骨,鎖骨中央,S2に貼付し,肩甲骨,鎖骨,上腕骨の運動学的データを収集した.測定動作は,座位での両上肢挙上動作とし,矢状面において3秒で挙上し,3秒で下制する課題を実施した.測定回数は,体幹回旋中間位・体幹同側(測定側)回旋位・反対側(非測定側)回旋位でそれぞれ3回ずつとし,その平均値を解析に用いた.体幹の回旋角度は、それぞれ30°に規定した。なお、解析区間を胸郭に対する上肢挙上角度30-120°として分析を行い,解析区間内において10°毎の肩甲骨,鎖骨の運動学的データを算出した.なお,肩甲骨,鎖骨の運動角度は,胸郭セグメントに対する肩甲骨・鎖骨セグメントのオイラー角を算出することで求めた.肩甲骨は内外旋,上方・下方回旋,前後傾の3軸とし,鎖骨は鎖骨前方・後方並進,挙上・下制の2軸として解析を行った.統計処理には,各軸における肩甲骨・鎖骨の角度を従属変数とし,体幹の回旋条件(中間・同側・反対側),上肢挙上角度を要因とした反復測定二元配置分散分析を用いた.有意水準は5%とした.【説明と同意】 対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上,同意書に署名を得た.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得ている.【結果】 上肢挙上時の肩甲骨の外旋は,体幹を同側に回旋することで有意に増大していた (同側回旋位>中間位>反対側回旋位,体幹回旋主効果: p<0.01) 。また、肩甲骨の上方回旋も、体幹を同側に回旋することで有意に増大していた(同側回旋位>中間位=反対側回旋位,体幹回旋主効果: p<0.01)。肩甲骨の後傾は体幹中間位よりも両回旋位の方が増大していた(同側回旋位=反対側回旋位>中間位,体幹回旋主効果: p<0.05)。一方、上肢挙上時の鎖骨の後方並進は体幹を同側に回旋することで有意に増大していた (同側回旋位>中間位>反対側回旋位,体幹回旋による主効果: p<0.01)。鎖骨の挙上は体幹を反対側に回旋をすることで有意に増大していた(反対側回旋位>中間位>同側回旋位,体幹回旋主効果: p<0.01) 。【考察】 本研究の結果,上肢挙上時に体幹を同側に回旋することで、肩甲骨は外旋,上方回旋が大きくなり,鎖骨は後方並進が大きく、挙上が小さくなることが明らかになった.体幹を反対側へ回旋させると、逆の傾向がみられた。これらの結果は,体幹の回旋状態が,肩甲骨の動態に影響を及ぼしていることを示唆している.体幹同側回旋に伴う,これら肩甲骨,鎖骨の動態は,肩関節疾患を有する患者にみられる異常運動とは逆の動態を呈していると思われる.体幹を同側に回旋することにより,肩甲骨が外旋方向に誘導され,肩甲骨周囲筋の筋力発揮が得られやすくなったことが影響している可能性がある.一方で、体幹を反対回旋した場合の上肢挙上時には、肩甲骨では上肢挙上には不利な方向へ運動が生じる傾向にあり、鎖骨では上肢挙上動作を代償する挙上運動が観察された。【理学療法学研究としての意義】 肩甲骨の内旋,下方回旋の増加,鎖骨後方並進の減少は,肩関節疾患を有する多くの患者に特徴的にみられる.また,上肢挙上時の過度な鎖骨の挙上も,僧帽筋上部線維による代償的な肩関節挙上動作として多くみられる.これらの特徴を有する症例に対しては,体幹の回旋も取り入れながらプログラムを実施することで,正常に近い肩甲骨運動を促通し,より効果的に理学療法を進められる可能性がある.