著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.395, 2000-04-10

1887年,ニーチェが43歳の時に発表した『道徳の系譜』(木場深定訳,岩波書店)は,ニーチェ自身,自分の思想を知ろうとする人には最も包括的で重要なものと語っていた作品であるが,そこには,病者や障害者を蔑視するような表現が見られる. 『道徳の系譜』の第三論文の中,ニーチェは,「病人は健康者にとって最大の危険である」,「人間の大なる危険は病人である」と,病者の危険性を繰り返し強調する.病者は「俺が他の誰かであったらなあ!でも今は何の希望もない.俺はやっぱり俺である.どうすれば俺は俺自身から抜けられるのか」と思っているため,「このような自己侮蔑の地床に,いわば本当の沼地に,あらゆる雑草,あらゆる毒草は成長する」のである.「そこには怨念や執念の蛆虫どもがうようよして」おり,「最も悪性の隠謀―上出来の者や勝ち誇った者に対する受苦者の隠謀の網が張られている」.「あたかも健康や上出来や強さや誇りや権力感情がそれ自体においてすでに背徳的な事柄であり,従っていつかは贖われなければならないもの,しかも苦しい目をして贖われなければならないものででもあるかのように」―.
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
看護学雑誌 (ISSN:03869830)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.446-449, 1994-05-01

はじめに 『リア王』1)(1605年)は,シェイクスピアの4大悲劇の頂点と目される2)など,今日なお高い評価を受けている作品だが,精神医学的には,リア王の言動が痴呆性老人に似ている点で興味深い作品である.もっともリア王痴呆説は別に目新しいものではなく,前世紀末のレールをはじめ,ワイガントやガイヤーも既に唱えている3).ただ,ここで面白いのは,『リア王』という悲劇そのものが,リア王の痴呆に周囲の人々が気づかなかった,あるいは気づいても適切な対策を取らなかったがために起きた悲劇のように見えることである.即ち,『リア王』という物語は,臨床的には周囲が痴呆に対する認識を欠き,その対応を誤った場合に生じる事態によく似ているのである. そこで本論では,リア王の痴呆老人的な言動とそれに対する周囲の対応を中心に,作品冒頭の財産分与の場面と,その後の長女・次女の対応,最後の場面でのコーディーリアの対応という順で,検討を加えてみたい.
著者
加藤 義春 高橋 正雄
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.25, no.12, pp.841-846, 1976-12-10
被引用文献数
4

(7.5〜50)%のンルトニウムを含むウラン-プルトニウム混合酸化物中のウラン及びプルトニウムを電位差滴定法を用いて逐次定量した.ウランとプルトニウムの混合酸化物を硝酸,フッ化水素酸に溶解し,硫酸白煙処理を行う.クロム(II)溶液を加えてウランとプルトニウムをそれぞれウラン(IV),プルトニウム(III)に還元した後,塩化カリウム-塩酸緩衝液5mlを加え水で30mlに希釈する.水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを1.0〜1.5に調節した後,白金-飽和カロメル参照電極を浸し,溶液に残っているクロム(II)をクロム(III)に空気酸化する.窒素を通気して溶存酸素を除き,更に窒素通気を続けながら0.1M硫酸セリウム(IV)標準溶液でウラン(IV)を滴定する.ウランの終点に達したら0.02M硫酸セリウム(IV)標準溶液でプルトニウム(III)を滴定する.硫酸白煙処理後,1試料の滴定に要する時間は約30分である.
著者
小川 みどり 高田 真一朗 高橋 正雄 安田 悦子 渡瀬 真梨子 谷口 初美
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.401-410, 2006-12-01

手洗いおよび手指消毒は最も基本的な感染防止策である.現在,速乾性擦式消毒剤による手指衛生が国際的なゴールドスタンダードとなっている.しかし,我々の調査では,2004年に10.4%(48人中5人),2005年に34.3%(35人中12人)と多くの無効例が認められた.2005年の検体について,コロニーの形態より円形,不整形,拡散性コロニーに大別し,残存菌の性状を調べた.円形コロニーはブドウ球菌属の菌であり,不整形・拡散性のコロニーはグラム陽性有芽胞桿菌であると考えられた.消毒後の菌数が消毒前と同数以上あるいは300個以上の無効例の中で,ブドウ球菌属の菌が残存したと考えられる場合が3例,セレウス菌を含むグラム陽性有芽胞桿菌が残存したと考えられる場合が9例であった.医療現場では,速乾性擦式消毒剤による手指消毒を過信することなく,必要に応じて滅菌手袋の着用などの対策を講じるべきである.