著者
調 麻佐志 鳥谷 真佐子 小泉 周
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.23-32, 2020-04

新型コロナウイルス感染症対策における日本の「検査数」が十分かどうかについて,世界各国からも日本国内 からも多くの疑問の声が寄せられている.こうした対策方針については, 感染が引き起こす影響範囲は広範にわ たり複数の要素が複雑に関係するため,状況の一面のみ切り取るだけでは全体像が見えにくく,関係するセクタ ー間ですれ違いが発生している.そもそも,こうしたすれ違いは,日本の新型コロナウイルス感染症対策方針に 関するコミュニケーション不全として捉えることも可能であり,その不全の理由を明らかにすることは科学技術 コミュニケーションの役割として重要と考える. なぜ検査数が絞られてきたのか.政府の実行力だけに問題があるのではなく,新型コロナウィルス感染症対策 を効果的に実行するにあたって,システム的な阻害要因や見落とされている課題があることも考えられる. 本稿では,まず,システム思考の技法(因果ループ図)を使って新型コロナウイルス感染症に関係する状況を 可視化し,そのシステムとしての特徴を確認した.我々の因果ループ図は,「感染モデル」と「発症者対応モデ ル」から成り立っている.政府および専門家会議1)は,死者数,ついで重症者数を可能な限り減らすことを目標 に,「感染モデル」と「発症者対応モデル」を分離して対応してきた.その過程で注意を払っているのが,おそ らく医療資源の枯渇をさけることであり,これが一つの要因となり,これまで検査数を増やすことができなかっ たと考えられる. しかし,このやり方はそれぞれのモデルを別々に捉えた場合には合理的だが,二つのモデルの界面で発生する 深刻なシステム上の弱点があることが分かった.たとえば,検査のハードルを上げてしまうと,検査を受けずに 市中で活動する軽症の発症者を多く発生させ,感染機会を増大,新規感染者を増やしてしまう.これがあらたな 感染拡大を生み出す.そのことを考えれば,以下二つの方策の実行が必要となる. ① 感染機会の強力な削減策と保障の実施 一刻も早く封鎖等の措置あるいはそれに相当する感染機会の強力な削減策(休校や外出自粛・禁止,イベント 中止,都市封鎖など)を実施する必要がある. ② 医療資源への影響を抑えて検査が実施できる医療体制の導入と検査の徹底 検査を拡大するために,韓国で有名なドライブスルー検査・ウォークスルー検査をネット問診などと組み合わ せて実施するなど,医療資源との繋がりを最小限にした検査システムを導入することが求められる. つまり,初期段階においては感染源を見出すクラスター対策等の方針をすすめることで対応が可能であったも のの,感染が一定程度広がり,医療資源を逼迫する現状においては,二つのモデルの界面で発生する深刻なシス テム上の問題に対して,市中で感染を拡大させる軽症者(および不顕性感染者)による感染拡大を抑えるため, 検査数を増やすなど両面作戦の必要があると考えられた.また,市民においても,マスクや手洗い等の感染予防 策をとるとともに,感染機会を減らすための行動変容が求められることが,因果ループ図から明らかである. 本事例は,市民,専門家ともに状況をシステム全体で理解し,その理解を共有することの重要性を示す一例で あろう.
著者
鳥谷 真佐子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.171-178, 2017-04-01 (Released:2017-04-03)

大学等研究機関の研究力分析・評価には,抄録・引用文献データベース,研究力分析・評価ツール,研究者プロファイリングツールという,大きく分けて3つにカテゴライズされるサービスが利用されている。これら3つのカテゴリに属する各種サービスについての比較紹介を行い,3者の関係性について説明する。また研究力分析・評価を行うにあたっての実質的な課題や可能性,今後必要な機能などについて考える。最後に,研究力分析・評価結果を活用し研究力強化を進めるための,機関内での情報の整備や研究力強化施策への展開について論じる。
著者
鳥谷 真佐子
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、1.研究力向上を導く戦略策定のための研究力分析指標提案、2.研究戦略策定・実施プロセスモデル提示を試み、大学における研究戦略策定・実施方法を体系化することにある。研究力分析に関わる組織、研究力分析を研究戦略に活かすプロセス、研究戦略実施に関する調査を行った。参考としてイギリスの研究評価制度の調査を行ったが、イギリスでは指標を用いた評価はピアレビューを行う際の参考としてのみ用いられていることが明らかになった。指標による評価は、被評価側の偏った行動を誘起しやすいため、自機関の分析のための指標利用と、研究機関への資金配分のための指標利用は、厳密に区別する必要がある。