著者
打越 文弥 麦山 亮太
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
pp.1901001, (Released:2019-11-29)
参考文献数
26

本研究は職業構造の変化に着目して,日本における性別職域分離の趨勢について検討する。日本における根強い男女の不平等を理解するための示唆があるにもかかわらず,職域分離に関する知見は限られており,また一貫していない。本研究では,こうした趨勢に関する知見の非一貫性が,(1)職業分布の変化と(2)職業内における分離の変化を峻別してこなかった点に求め,両者を数量化して分けることの重要性を指摘する。本研究では性別職域分離は(1)日本の労働市場のジェンダーにおける特徴を規定していた製造業が衰退することと(2)専門職やサービス職が増加することによる職業分布の相対的な変化の2つによって変化するかを検証した。1980年から2005年の国勢調査を用いた分析から,以下の結果を得た。第一に,日本の職域分離の趨勢は僅かに減少傾向にある。第2に,分離の変化を分解した結果,職業分布の変化によって分離は拡大している。これに対して,性別構成効果は,職業内の分離を解消する方向に寄与していた。第3に,職業別の男女割合から,1980年時点で女性が多くを占めていた職業からの女性の移動が,日本の職域分離の変化を理解する際の重要な要因であることが新たな知見として明らかとなった。
著者
麦山 亮太
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.129-141, 2017-10-31 (Released:2018-11-08)
参考文献数
34
被引用文献数
3 1

雇用の流動化と未婚化・晩婚化が相伴って進むなかで,社会経済的地位およびその変化は結婚への移行にいかに影響しているのか.本稿は,社会経済的地位として従来着目されてきた雇用形態だけでなく職種と企業規模を取り上げ,さらにそれらの変化の経歴が結婚への移行に与える効果を明らかにする.1966–80年出生コーホートの経歴データを用いた分析により,以下の結果を得た.男女とも,一貫して非正規雇用で就業することではじめて結婚に対する負の効果が顕在化する.女性は雇用形態のほか専門職であることが結婚を促す.男性は雇用形態のほか大企業での勤務が結婚を促す.以上の結果は,職業経歴によって測られる安定性が将来の不確実性を軽減する役割を果たしていることを示唆する.雇用の流動化をはじめとする不確実性の増大のなかにあって,職業経歴を利用した時間的視座の導入は,人びとが結婚へと至る過程をより精緻に捉えることを可能とする.
著者
麦山 亮太
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.248-264, 2017 (Released:2018-09-30)
参考文献数
36
被引用文献数
1

キャリアの中断は, 個人の社会経済的地位を動揺させ, 格差を生成する契機である. 本稿の目的は, キャリアの中断による格差の生成過程を明らかにすることにある. 中断の効果を問うにあたり, 従来の地位達成モデルにもとづく分析は, キャリアの中断の効果が個人の異質性に由来するものか, その後の地位を低下させることに由来するものかを分離できないという点で不十分であった. そこで本稿では, 2005年SSM調査の職業経歴データから同一個人について複数時点の観察を作成しパネルデータ分析の手法を適用することで, 以上の効果を分離し, 中断がその後の正規雇用獲得確率に与える持続的影響を捉える. 加えて, 中断時年齢, 中断期間の長さ, 中断に至った理由によってキャリアの中断の効果が異なるかどうかについても検討する.分析の結果, 個人の異質性を除いてもなお, 男性は20年弱, 女性は20年以上, キャリアの中断を経験することでその後の正規雇用獲得確率は低い水準にとどまることが示された. 男性はとくに30歳以上の壮年期においてその効果が強い. 女性は, 年齢・中断期間・離職理由による差異はあるものの, キャリアの中断はどの層にとってもその後の正規雇用獲得確率を持続的に低下させる契機となっている. さらに, キャリアの中断はより地位の低い個人が経験しやすいイベントであり, それまでの格差をさらに拡大させる役割を果たしている.
著者
麦山 亮太 西澤 和也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.214-227, 2017 (Released:2018-03-27)
参考文献数
37
被引用文献数
2

本稿の目的は,新卒求人情報サイトのデータから,企業が新卒者に対して求める能力の構造を明らかにするとともに,その企業規模による違いを検討することにある.先行研究は,近年ほど企業が学生へ自律的な能力を求めるようになってきたと主張する.しかし,これまでの研究は大企業を中心に検討されており,企業規模間での差異は十分に明らかにされてこなかった.そこで本稿は2016年に新卒求人情報サイトより収集した大小含む20859企業の「求める人物像・採用基準」に関する自由記述データを用い,企業の求める能力が企業規模によっていかに異なるのかを検討する.トピックモデルを用いた分析の結果,企業が新卒者に提示する能力は多様であるのみならず,企業規模によって重視される点が異なっていることが示された.大企業においては主として新たな課題や価値を創り出し解決していく自律的な能力が提示される.一方で中小企業においては,チャレンジ精神やアピアランスといった,真面目さや規律の遵守と結びつく能力が提示される.とくに中小企業においては,先行研究で増加していると指摘されてきた自律的な能力とは別様の能力が重視されていることを明らかにした.
著者
打越 文弥 麦山 亮太
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.9-23, 2020 (Released:2020-11-09)
参考文献数
26

本研究は職業構造の変化に着目して,日本における性別職域分離の趨勢について検討する。日本における根強い男女の不平等を理解するための示唆があるにもかかわらず,職域分離に関する知見は限られており,また一貫していない。本研究では,こうした趨勢に関する知見の非一貫性が,(1)職業分布の変化と(2)職業内における分離の変化を峻別してこなかった点に求め,両者を数量化して分けることの重要性を指摘する。本研究では性別職域分離は(1)日本の労働市場のジェンダーにおける特徴を規定していた製造業が衰退することと(2)専門職やサービス職が増加することによる職業分布の相対的な変化の2つによって変化するかを検証した。1980年から2005年の国勢調査を用いた分析から,以下の結果を得た。第一に,日本の職域分離の趨勢は僅かに減少傾向にある。第2に,分離の変化を分解した結果,職業分布の変化によって分離は拡大している。これに対して,性別構成効果は,職業内の分離を解消する方向に寄与していた。第3に,職業別の男女割合から,1980年時点で女性が多くを占めていた職業からの女性の移動が,日本の職域分離の変化を理解する際の重要な要因であることが新たな知見として明らかとなった。
著者
麦山 亮太
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.122-135, 2016-10-31 (Released:2018-04-11)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本稿では,結婚が職業キャリア形成,とりわけ無業への移動と管理職への移動に与える影響について,男女を比較しながら明らかにする.本稿の特徴は,ライフコース論の視座から,結婚の効果が時間により変わると想定し,セレクションと効果の変化に着目して分析する点にある.2005年SSM調査を用いたイベントヒストリー分析により,以下の点を明らかにした.無業への移動に関して,結婚の効果は結婚の直後から現れ,男性の移動を起こりにくく,女性の移動を起こりやすくする.ただし男性における効果の多くは結婚へのセレクションによるものである.管理職への移動に関して,結婚の効果は結婚から数年間を経てから顕在化し,男性の移動を起こりやすく,女性の移動を起こりにくくする.以上見られた男女で非対称な結婚の効果は,結婚による夫婦間の性別役割分業と,その蓄積の結果として生じる人的資本の格差によって生じているものと見られる.
著者
麦山 亮太
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.248-264, 2017
被引用文献数
1

<p>キャリアの中断は, 個人の社会経済的地位を動揺させ, 格差を生成する契機である. 本稿の目的は, キャリアの中断による格差の生成過程を明らかにすることにある. 中断の効果を問うにあたり, 従来の地位達成モデルにもとづく分析は, キャリアの中断の効果が個人の異質性に由来するものか, その後の地位を低下させることに由来するものかを分離できないという点で不十分であった. そこで本稿では, 2005年SSM調査の職業経歴データから同一個人について複数時点の観察を作成しパネルデータ分析の手法を適用することで, 以上の効果を分離し, 中断がその後の正規雇用獲得確率に与える持続的影響を捉える. 加えて, 中断時年齢, 中断期間の長さ, 中断に至った理由によってキャリアの中断の効果が異なるかどうかについても検討する.</p><p>分析の結果, 個人の異質性を除いてもなお, 男性は20年弱, 女性は20年以上, キャリアの中断を経験することでその後の正規雇用獲得確率は低い水準にとどまることが示された. 男性はとくに30歳以上の壮年期においてその効果が強い. 女性は, 年齢・中断期間・離職理由による差異はあるものの, キャリアの中断はどの層にとってもその後の正規雇用獲得確率を持続的に低下させる契機となっている. さらに, キャリアの中断はより地位の低い個人が経験しやすいイベントであり, それまでの格差をさらに拡大させる役割を果たしている.</p>