著者
打越 文弥
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.15-31, 2018 (Released:2018-08-03)
参考文献数
34
被引用文献数
1

本稿ではコーホート比較を通じて,未婚化が進行する中での夫婦の学歴に基づく階層結合の趨勢とその変化の要因を検討する.階層結合は開放性指標として検討されてきたが,既存研究は増加する未婚者を考慮に入れてこなかった.そこで本稿では未婚化を考慮に入れた上で日本社会における階層結合の趨勢を検討する.SSM2015年調査データを用いた生存分析から以下の結果を得た.第一に,未婚化はどの学歴にも浸透しているが,近年のコーホートでは四大卒層の40歳時点未婚率の高まりが確認される.第二に,結婚のハザード率を相手学歴別に分解した結果,未婚化と並行して階層結合パターンも相対的に変化している.四大卒女性に関しては,女性の高学歴化にともない高学歴男性の供給量が相対的に低下しており,学歴下降婚が増加している.中学・高校および短大・高専・専門学校卒の女性では大卒男性との結婚が減少し,短大・高専・専門学校卒の男性との結婚が増加しているが,中学・高校卒の男性との結婚は増加していない.以上より,男性稼ぎ主モデルの維持と雇用の不安定化が生じた結果として,晩婚・非婚化が進行しながら,低学歴・高学歴女性における学歴結合が減少している点が示唆される.
著者
打越 文弥 麦山 亮太
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
pp.1901001, (Released:2019-11-29)
参考文献数
26

本研究は職業構造の変化に着目して,日本における性別職域分離の趨勢について検討する。日本における根強い男女の不平等を理解するための示唆があるにもかかわらず,職域分離に関する知見は限られており,また一貫していない。本研究では,こうした趨勢に関する知見の非一貫性が,(1)職業分布の変化と(2)職業内における分離の変化を峻別してこなかった点に求め,両者を数量化して分けることの重要性を指摘する。本研究では性別職域分離は(1)日本の労働市場のジェンダーにおける特徴を規定していた製造業が衰退することと(2)専門職やサービス職が増加することによる職業分布の相対的な変化の2つによって変化するかを検証した。1980年から2005年の国勢調査を用いた分析から,以下の結果を得た。第一に,日本の職域分離の趨勢は僅かに減少傾向にある。第2に,分離の変化を分解した結果,職業分布の変化によって分離は拡大している。これに対して,性別構成効果は,職業内の分離を解消する方向に寄与していた。第3に,職業別の男女割合から,1980年時点で女性が多くを占めていた職業からの女性の移動が,日本の職域分離の変化を理解する際の重要な要因であることが新たな知見として明らかとなった。
著者
打越 文弥
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.293-303, 2016 (Released:2017-01-16)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本稿では, 分析社会学の理論的構造をこの分野を牽引してきたPeter Hedströmの議論に依拠して明らかにする. 分析社会学は, 調査データによって得られた変数から因果関係を特定化する既存の社会学の経験的研究に対して異議を唱える. 分析社会学的なアプローチでは, 変数間の関連だけではブラック・ボックスになっている「社会現象が生じるプロセス」を, 個人の行為(action)と相互行為(interaction)から説明する. その中で本稿では, 分析社会学は欲求, 信念, 機会の三つにもとづいて個人の行為, および相互行為が連鎖する点を重視することを指摘する. さらに, 本稿では分析社会学との類似性が指摘される社会科学の統計的因果推論を重視する学派と合理的選択理論との比較を行う. 最後に, 分析社会学の説明戦略は, 既存の調査データに対する代替案を提示することを述べる.
著者
打越 文弥
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.136-147, 2016-10-31 (Released:2018-04-11)
参考文献数
20

本研究では,日本における学歴同類婚の世代間連鎖とその趨勢を検討する.類似した社会的特徴を持つカップルが結婚する同類婚という傾向の中でも,学歴同類婚は開放性指標に加え,不平等拡大に寄与する要因としても注目されている.既存の研究は一世代に限定したときの同類婚に注目していたが,結婚パターンにも世代間の同質性の効果があるという指摘を踏まえ,本研究は世代間関係に着目した上でも,学歴同類婚の傾向が見られるかを時系列的に検討する.複数の社会調査データを統合した計量分析から以下が明らかとなった.第一に,親世代の学歴結合の同質性は子ども世代の同質性と関連を持つ.第二に,学歴同類婚の連鎖はいったん減少し,近年のコーホートで再び増加している.第三に,ログリニアモデルの分析から,周辺度数を考慮したうえでも,同類婚の連鎖は近年強化されている傾向が示され,その要因は中・高学歴の同類婚連鎖の連関が強まったことに求められる.
著者
打越 文弥
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.18-30, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
27

本稿は,先進国に共通した世帯収入の不平等化の要因として指摘される,女性の労働市場への進出が世帯間格差を拡大させるという仮説を検証する.先行研究が前提としてきた仮定が日本には当てはまらない点を指摘した上で,本分析は「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」を使用し,マクロレベルの不平等生成プロセスの一端を,女性の就業と収入の変化という個人のミクロレベルの分析から明らかにする.分析結果の知見は以下の3点に要約される.第一に,女性の就労は世帯間の不平等を緩和するという平等化仮説が支持された.第二に,既存研究が指摘してきた女性の高学歴化と労働市場への進出の「緩い」関係が示された.第三に,高学歴・正規継続カップルでは夫婦共に収入が伸び,不平等化に寄与することが示唆されたが,このグループが全体に占める割合はわずかであり,全体としてみれば妻の就労は世帯間の収入格差を減少させる方向に働く.
著者
打越 文弥
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.10-26, 2019 (Released:2020-07-31)
参考文献数
36

本稿では女性の学歴別にみた離婚行動の違いとそのコーホート間の変化を,配偶者との学歴にもとづく階層結合(学歴結合),とくに女性の高学歴化により増加した妻下降婚と高学歴同類婚の2 つに着目して検討する.既存研究では,その非典型性から妻下降婚カップルは離婚しやすいとされる.しかし,妻下降婚が増加するのと並行してジェンダー平等化が進んだアメリカでは,近年の結婚コーホートで妻下降婚と離婚の関連が弱まっている.このように学歴結合パターンと離婚の関係を検討することを通じて,ジェンダーの非対称性を内包した典型性・非典型性が変化しているかを明らかにできる.また,第二次人口転換論をはじめ,離婚率の上昇により離婚に対する社会の寛容性が増すために,離婚の階層差は縮小すると考えられてきた.しかし近年になり,高階層のカップルでは夫婦が安定的なライフコースを歩む一方で,低階層カップルでは離婚を経験しやすいという主張が登場する.本稿ではこうした先行研究の流れを踏まえ「戦後日本の家族の歩み」と「2015 年社会階層と社会移動調査」の2 つを用いたイベントヒストリー分析を行った.分析の結果,1980 年以前の結婚コーホートでは妻の学歴が夫よりも高い妻下降婚カップルの場合に離婚を経験しやすい傾向にあるが,近年のコーホートではそのリスクが低減していることがわかった.一方,同類婚内部の格差については明確な変化がみられなかった.
著者
打越 文弥 麦山 亮太
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.9-23, 2020 (Released:2020-11-09)
参考文献数
26

本研究は職業構造の変化に着目して,日本における性別職域分離の趨勢について検討する。日本における根強い男女の不平等を理解するための示唆があるにもかかわらず,職域分離に関する知見は限られており,また一貫していない。本研究では,こうした趨勢に関する知見の非一貫性が,(1)職業分布の変化と(2)職業内における分離の変化を峻別してこなかった点に求め,両者を数量化して分けることの重要性を指摘する。本研究では性別職域分離は(1)日本の労働市場のジェンダーにおける特徴を規定していた製造業が衰退することと(2)専門職やサービス職が増加することによる職業分布の相対的な変化の2つによって変化するかを検証した。1980年から2005年の国勢調査を用いた分析から,以下の結果を得た。第一に,日本の職域分離の趨勢は僅かに減少傾向にある。第2に,分離の変化を分解した結果,職業分布の変化によって分離は拡大している。これに対して,性別構成効果は,職業内の分離を解消する方向に寄与していた。第3に,職業別の男女割合から,1980年時点で女性が多くを占めていた職業からの女性の移動が,日本の職域分離の変化を理解する際の重要な要因であることが新たな知見として明らかとなった。
著者
打越 文弥
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

本研究では、学歴結合が夫婦関係の解消(離別)に与える影響に着目した。具体的な課題として以下の二つを検討した。まず、 70年にわたる出生コーホートにおいて学歴結合と離別の間に関連があるか、及びこの関連がコーホート間で変化しているかを解明することとした。この際、計量分析によって得た推定値をもとに、本人・配偶者の平均教育年数や学歴ごとの平均初婚年齢、失業率と いった離別行動に影響する要因を調整した数理シミュレーションを行う。次に、学歴結合と離別の関連かがなぜ生じているかを説明する要因を解明する。特に、婚外子を持つことが難しい日本的な文脈において特徴的な婚前妊娠が、妻下降婚と関連を持つことから、学歴結合パターンと離別行動の関連が;、婚前妊娠やこれに伴う早婚により説明されるかを検討することを目指した。採用期間(2018年4月-8月)における当初の計画については、概ね達成された。提出した研究計画では、4-7月期において課題①「学歴結合が離別に与える影響のコーホート比較」を進めつつ、研究成果をアメリカ人口学会と国際分析社会学ネットワークで報告するとした。後者の学会については日程の都合上キャンセルしたが、前者では予定通り学会報告を行った。8-11月期では、研究課題①の成果をまとめ、学会誌への投稿を行うとしたが、予定通り課題についてはすでに学術雑誌に投稿し、査読を経て掲載が決定した。また、並行して進める予定だった日本の婚前妊娠カップルの特徴を先進諸国で増加する非婚カップルとの比較から検討する計画については、その成果の一部を学会において報告した。研究課題②「婚前妊娠と早婚に着目した学歴結合と離別行動の分析」については、本特別研究員を途中で辞退することになったため、十分に進めることができなかった。