- 著者
-
黒木 淳
- 出版者
- 会計検査院
- 雑誌
- 会計検査研究 (ISSN:0915521X)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, pp.11-28, 2022-09-26 (Released:2022-09-26)
- 参考文献数
- 35
近年,ITに関する革新が著しく,新型コロナウイルスの蔓延によってその動きが加速している。地方公共団体における情報主管課が所轄する予算は4,800億円を超え,1万人を超える職員が情報担当者として従事している。本稿では,戦略の実現および目標達成に向けた資源配分の機能を持つ地方公共団体の予算に焦点を当て,IT予算の決定要因とその効果について実証分析する。第1に,Kobelsky, Richardson et al.(2008)のフレームワークに基づき,コンティンジェンシーに関する研究の議論を整理することで,外部環境の不確実性(仮説1),財政の健全性(仮説2),そしてITに関する技術の程度(仮説3)が地方公共団体におけるIT予算に正の影響を与えていることを予想する。第2に,コンティンジェンシー・モデルに基づく管理会計研究の証拠を参考にして,コンテクストから予測されたIT予算は地方公共団体におけるIT活用に正の影響を与えるが,そこから逸脱して高くIT予算を付ける場合,IT活用への影響は小さい ことを予想する。 本稿は,総務省が毎年発行する「地方自治情報管理概要」における集計データ,および政府CIOポータルで公表された「行政のデジタル化」に関するデータ,さらに「地方財政状況調査」のデータを用いることで,1,741存在する市区町村の地方公共団体のなかで市のみを対象とした実証分析を行った。実証分析の結果,IT予算に対してボラティリティ,財政力指数,IT調達の適正化の実施率,委託職員割合がそれぞれ正の関係がみられ,これらのコンテクストに適合した予測値としてのIT予算はIT活用とのあいだのすべての関係が正であることが認められた。一方,コンテクスト依存の予測値を考慮してもなお,異常に高いIT予算である地方公共団体では,IT活用との関連性が弱いことが示唆された。これらの実証的証拠は公共部門を対象とした会計研究の進展に貢献する。