著者
下地 理則 松浦 年男 久保薗 愛 平子 達也 小西 いずみ
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.134-141, 2022-09-30 (Released:2022-10-19)
参考文献数
11

コロナ禍では方言研究に必要不可欠なフィールドワークが制限され,日琉方言研究者は自らの研究のありかたを見直す必要に迫られた.方言研究コミュニティでは,コロナ禍初期からそうした問題意識を共有し,状況に応じた研究方法や研究環境を探ってきた.本稿では,方言研究コミュニティがコロナ禍にどのように反応し,どのような適応を行い,今後どのような展望を描いているかを報告する.まず,研究コミュニティの反応を,情報交換のための自主的な集まり,学術研究団体・グループによる研究支援,有志の個人によるオンライン面接調査の支援という3つに分けて述べる.次に,ビデオ通信調査など現地調査に代わる方言研究の方法をタイプ別に示し,そうした方法論がどのように共有され,議論されてきたかを紹介する.さらに,こうした活動の中で現地調査の実施可能性が話題となったのを受け,筆者の一人はコロナ禍での現地調査実施のガイドラインを提案した.本稿ではその構成や使用方法を紹介する.最後に今後の展望として,コロナ禍が方言研究にもたらした積極的な側面について述べる.
著者
松浦 年男 黒木 邦彦 佐藤 久美子
出版者
北星学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

中間発表会を実施し,代表者,分担者,協力者がそれぞれ発表した。また,発表会では下地理則氏(九州大学)より助言を受け,今後の研究の進め方について理解を深めた。方言調査を実施した。調査地区と内容を以下に示す。(1)天草市本渡地区(文タイプ,待遇表現,和語のアクセント,呼びかけのイントネーション),(2)天草市深海地区(格助詞,情報構造,漢語・数詞の促音,談話テキストの収集),(3)天草市佐伊津地区(不定語のアクセント特徴と不定語を含む節のイントネーションパターン),(3)熊本県八代市(研究協力者の山田高明氏(一橋大学)が実施。漢語・数詞の促音),(4)鹿児島県上甑島(韻律語の範囲について天草方言と対照)。研究成果を以下のように公開した。(a)天草諸方言と同じく有声促音を持つ山形県村山方言について調査結果をまとめ国際学会において発表した。発表では山形県村山方言の有声促音における声帯振動が,天草諸方言と同様,長い振動時間を有する一方,振幅が弱いものであるという違いがあることを示した。(b)本渡地区で行ってきたアクセント調査の結果を整理し,公刊した。(c)深海地区において行った調査結果をもとに,最適性理論と調和文法による形式的分析を行った論文を執筆し学会誌に投稿した。(d)不定語から補文標識「モ」までに含まれる語のアクセントの対立が失われることを指摘した。同じく二型アクセント方言である長崎市方言・鹿児島市方言と対照し、当該の方言は長崎市方言と強い類似性を持つことを明らかにした。(e)天草諸方言の音韻特徴を先行研究ならびに本科研費の調査結果に基づいて整理し,どのような特徴から分類を行うのが適切かを検討した。(f)有声促音を和語や漢語に持つかどうか,生起に/r/が関わるか,動詞で起こるかという点で整理し,日本語の諸方言を比較した。
著者
松浦 年男
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.158, pp.29-61, 2020 (Released:2021-02-16)
参考文献数
52

本稿では天草市深海方言における漢語及び数詞に見られる重子音に焦点を当てて音韻分析を行った。標準語において漢語や数詞は有声阻害重子音を許容しないのに対して深海方言ではそれらを許容する。本稿では母語話者に対する聞き取り調査を実施し,有声阻害重子音が生産的であることを示した。そして,この分布に対して調和文法を用いた分析を示した。具体的には,標準語と深海方言の違いは有声阻害重子音を禁じる制約の重み付けに還元され,標準語ではこの制約の重み付けが大きいのに対し,深海方言では単独での重み付けが小さいと同時に,[COR]の値の入出力間での同一性を求める制約と重複して違反すると,母音挿入を禁止する制約よりも調和の点数が低くなるという重み付けを提案した。本稿の分析は入力において子音の調音位置の指定を求めるもので,不完全指定が適切ではないことを含意している。最後に局所的結合制約による分析よりも調和文法を用いる方が望ましいと主張した。
著者
松浦 年男
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.105-118, 2012-04-30

This paper analyzes the tonal pattern of alphabetic acronyms and alphabetic compounds in Nagasaki Japanese, which has two contrastive tonal types. I argue that the tonal pattern of alphabetic acronyms can be accounted for by applying loanword tone rules to them. In contrast, the tonal pattern of alphabetic compounds cannot be fully accounted for by the loanword tonal rules, because the tonal distribution of alphabetic compounds varies depending on the second member of the compound. I propose an analysis according to which the second morpheme of an alphabetic compound can determine the tonal pattern of the compound. I further support the analysis with an account of tonal patterns in short compounds.
著者
松浦 年男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1102-1110, 2020-12-25

私は人文社会系の3学部を配する学生数3,800名の小〜中規模大学において、教養教育を担う部門に所属する。専門分野は言語学・音声学だが、日本語を特に対象とすることから、授業では初年次教育としての日本語科目を十年来担当している。 初年次教育の日本語科目では卒業研究やゼミ論文の執筆を見すえて、レポートや論文などの硬い文章の執筆にかかわる能力の育成を目的とし、さまざまな練習や添削などを行っている。これらは大学教育のなかに閉じるものではなく、当然のことながら卒業後に求められる文章執筆にかかわる能力でもある。そのため、専門教育とは別の次元で、学生の将来ともかかわりが深いものとなっている。
著者
五十嵐 陽介 松浦 年男
出版者
九州大学大学院人文科学研究院言語学研究室
雑誌
九州大学言語学論集 (ISSN:13481592)
巻号頁・発行日
no.35, pp.71-102, 2015

This study is aimed at 1) to describe the accent of nouns in the Amakusa dialects of Japanese on the basis of our fieldwork study performed in seven villages in the Amakusa islands, Kumamoto Prefecture, Japan, 2) to propose a novel approach to the phylogenetic study of Japanese dialects based on their accent systems, and 3) by means of this approach, to investigate the phylogenetic position of the Amakusa dialects among the south-west Kyushu dialects. The results of our analysis revealed that goma 'sesame', nizi 'rainbow', kinoo 'yesterday', kokoro 'heart', and mado 'window' showed irregular accentual correspondences with other (non-Kyushu) Japanese dialects. The irregularity found in the former three nouns is shared by most of the south-west Kyushu dialects, whereas that in the last noun mado is shared only by the Amakusa dialects. On the basis of the results we proposed a tentative tree that indicates the phylogenetic position of the Amakusa dialects.