著者
杉山 幸一 伊藤 浩充 木田 晃弘 大久保 吏司 瀧口 耕平 黒田 良祐 水野 清典 黒坂 昌弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1262, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】膝屈曲筋である大腿二頭筋は下腿の外旋、半膜様筋と半腱様筋は下腿の内旋作用を有している。これら3筋はそれぞれ2関節筋であるが、大腿二頭筋と半膜様筋は羽状筋であり、半腱様筋(以下ST)は紡錘筋であるように機能解剖学的に異なっている。本研究では、下腿回旋によって屈曲トルクとSTの収縮動態に影響を及ぼすのかどうかを明らかにすることを目的とした。【対象と方法】対象は膝周囲に外傷および障害の経験を有さない健常な成人8名(男性6名、女性2名、平均年齢21.3±0.89歳)16肢とした。膝関節等尺性屈曲トルクを腹臥位で測定した。膝屈曲角度は30度、60度、90度とし、下腿肢位を最大内旋位と最大外旋位で行った。収縮時間は20秒、間隔は40秒とし、最大トルク値を記録した。同時に超音波画像診断装置を使用して、ST腱画の最大水平移動量を測定した。測定値については、腱画移動量は大腿長で除して腱画移動率(以下SR)を求め、屈曲トルクを60度および90度の各トルクを30度の屈曲トルクで除してトルク率(以下TR)を求めた。統計処理にはJMP5.1Jを使用し、反復測定2元配置分散分析と対応のあるt検定を用いた。また、SRとTRとの関連についてはPearsonの相関係数を求めた。統計学的有意水準は5%未満とした。なお、ヘルシンキ宣言に基づき、被検者には書面ならびに口頭にて研究協力への同意を得た上で研究を実施した。【結果】ST腱の収縮動態からは、膝屈曲角度増加によるSRの有意な増加を認め、また30度と60度、30度と90度との間で有意差を認めた。さらに、SRは全ての角度において内旋位に比して外旋位で有意に低値を示した。一方、膝屈曲トルクは膝屈曲角度増加と共に有意な減少を示したが、下腿の内旋位と外旋位との比較では有意差はなかった。一方、TRについては、90度において内旋位と比較して外旋位で有意に高値を示した。SRとTRとの相関関係については、下腿内旋位では30度SRと90度TRとの間、外旋位では全SRと90度TRとの間に有意な負の相関関係が認められた。(r=-0.55~-0.67)【考察】膝角度の増加によりSRが増加したことと、SRとTRとの間に相関関係が認められ外旋位で顕著であったことより、STの静止張力の低下が深屈曲位でのトルク低下に影響していると考えられた。しかも、下腿内旋位と外旋位でのSR差はこの傾向が顕著に表れたものと考えられた。一方、SRのこのような動態の下腿回旋位の違いによる膝屈曲トルクへの影響は少なかったと考えられた。膝屈曲角度90度においてTRが下腿内旋位よりも外旋位の方が有意な高値を示したことは大腿二頭筋の活動優位性か、もしくは下腿外旋によるST張力増大を伴ったトルク増加が考えられるが、これらのことについては更なる検討が必要である。
著者
大堀 洋平 小林 豊和 黒田 良
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.89, 2011

【はじめに】<BR> 疲労性骨膜炎・疲労骨折は,スポーツ選手によく起こる疾患である.理学療法評価において,疲労性骨膜炎・疲労骨折の病態を示唆する評価法は散見するばかりである.今回、骨に直接的にストレスを加える評価法を考案した.その評価法を用い,アプローチの結果,良好な結果が得られたので,ここに報告する.<BR>【症例紹介】<BR> 小学生(高学年),男性,野球選手(軟式・センター/ショート・右投げ左打ち).診断名は,右脛骨疲労性骨膜炎.レントゲンは,異常所見なし.現病歴は,当院受診約3週間前,走行時に右下腿内側に疼痛出現.疼痛軽減しないため,当院受診した.受診時の主訴は,歩行時痛であった.<BR>【理学療法評価】<BR> 圧痛は右脛骨近位内側にあり,歩行時に疼痛出現.立位アライメントは,右足位やや外転位,両膝顆間距離2横指,右骨盤やや前方回旋位,体幹やや右側屈位.脛骨ストレステスト(徒手で脛骨に外反・内反,前弯・後弯,外旋・内旋ストレスを加える)実施(以下,疼痛出現時,+と表記する).外反ストレス(++),前弯ストレス(+),外旋(遠位)ストレス(+).スクワッティングテストは,knee in時疼痛出現.歩行において,initial contactからmid stanceにかけて遅延し、骨盤・下腿外方移動不十分であった.<BR>【アプローチ】<BR> 当院初診時;右足部に内側縦アーチサポーター(ソルボ素材)装着.<BR> 約1週間後;サポーターに,後足部横アーチパッド1mm追加.<BR>【経過】<BR> 理学療法開始(当院初診)時,右足部への内側縦アーチサポーター装着にて,歩行時痛消失.練習は,走行・ノック禁止.約1週間後,走行時痛は10点法にて2点と軽減し,後足部横アーチパッド1mmを追加にて走行時痛消失.翌日には,制限なく練習参加.約3週間後来院し,圧痛・動作時痛消失を確認し,終了.<BR>【考察】<BR> 本症例は,動作時,脛骨近位内側に疼痛が出現していた.疲労性骨膜炎・疲労骨折は,疼痛部位にどのようなストレスが加わり生じたのかを把握することが重要と考える.どのようなストレス(方向・種類)かを示唆する評価として,脛骨へ直接的にストレスを加えた.その結果,脛骨外反・前弯・外旋(遠位部)ストレスにて,疼痛出現した.荷重位にて,スクワッティングテストを行い,knee inにて疼痛出現し,歩行時立脚期において,骨盤・下腿外方移動不十分であった.以上を解釈すると,本症例の疲労性骨膜炎は,立脚期における下腿の前内方への動きが脛骨近位内側への離開ストレスとなり,疼痛を発生させていたのではないかと考える.よって,右足内側縦アーチサポーターを装着することで,立脚期に下腿を後外方へ誘導し,離開ストレスを軽減させ,疼痛軽減に至ったと考える.<BR>【おわりに】<BR> 疲労性骨膜炎・疲労骨折の理学療法において,骨への直接的ストレステストは病態を示唆する有効な評価法であり,サポーターの適切な選択,運動療法の一助となると考える.今後,ストレステストと動作の関係を検討していきたいと考える.