著者
齋藤 暖生
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.15-26, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
45

自然とのつながりの希薄化による様々な弊害が懸念され,自然と関わる文化の再構成は,現代社会において大きな課題となっている。日本国内では,早くから森林文化論が提起されてきたが,政策論にまで十分に展開してこなかった。そこで,本稿では食用植物・キノコの採取・利用を題材として,文化的要素を抽出し,さらに利用文化の盛衰を解釈することを試みた。採取前・採取時・採取後の過程にわけ,それぞれいくつかの側面に分けて文化的要素を抽出した。その結果,多様な文化的要素が抽出でき,そのいくつかが対象資源の意味付けに結びついていることが見出された。戦後における食用植物・キノコ利用の盛衰を整理したところ,幅広い意味づけを与えられたものが現代に残り,さらに,レクリエーションとして親しまれるようになっていると解釈された。また,それとは無関係に,自然環境および社会環境の変化により衰退・消滅を余儀なくされたものがあった。森林文化を再構築するには,人々による森林への意味付けを醸成する内からのアプローチと,それを取り巻く自然環境や制度を整える外からのアプローチがありうる。
著者
劉 馨遥 石橋 整司 齋藤 暖生 藤原 章雄
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.132, 2021

<p>江戸時代に制作された視覚的な情報である浮世絵に江戸の緑地環境がどのようにあつかわれているか分析した。今回用いた資料は歌川広重の晩年の作品である「名所江戸百景」である。江戸を中心とする地域の風景を描いた119点の絵の構図について「遠景」、「中景」、「近景」に分け、それぞれに描かれている樹木について特徴をまとめた。119点のうちまったく樹木が描かれていないものは9点のみであり110点には樹木が描かれていた。構図としては遠景、中景、近景のすべてに樹木が描かれたものが44点と最も多く遠景と中景に描かれたものが26点、遠景と近景に描かれたものが14点、遠景のみに描かれたものが12点で基本的には遠景に樹木を配する構図が中心であった。描かれた樹木の種類が推定できた作品を見るとマツが遠景、中景、近景のいずれでも最も多くみられ、特に遠景では87点にマツが描かれていた。次いで、サクラ、スギ、モミジ、ヤナギと推定される樹木が多かったが、サクラやヤナギが中景、近景に描かれることが多い一方で、スギやモミジは遠景から近景まで満遍なく見られるなど樹種による特徴が見られた。</p>
著者
齋藤 暖生
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

自然に対する心理的なつながりを強める体験として、林野における採取活動を捉え、それが、森林地域の住民によって排除されている事例および受容されている事例を多数比較調査することによって、排除が成立する要件を分析した。多くの場合、資源への一般のアクセスを排除した時の便益がそのコストに見合う場合に排除が持続的に成立しうると説明できる。一般による資源採取を認めるためには、資源が持続可能となる利用圧のレベルを明らかにし、行動規範を確立することが課題となる。