著者
吉野 佳一
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.13-17, 1975

飲酒の翌朝から発現し, 約1カ月で完全に消失した両側性MLF症候群の1例を報告した。経過中, 右顔面神経麻痺, 左外転神経麻痺および右上下肢のしびれ感など橋被蓋の障害を示す神経症状の一過性出現も認められた。本例ではアルコールの習慣的飲用はなく, 1回の比較的多量の飲酒が発病になんらかの影響を及ぼしたことは考えられるが, 病因としては多発性硬化症の可能性が最も多いと推定した。
著者
原田 貴子
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.69-80, 2009 (Released:2010-06-09)
参考文献数
31

不全片麻痺による巧緻運動障害が書字運動に与える影響を検討した。対象は脳血管障害による利き手の右不全片麻痺者(以下,麻痺群)20名(関節運動覚障害なし14名,あり6名)および年齢を一致させた右利き健常者13名である。1.2cm,6cm,15cm画のサイズの升に平仮名「ふ」を左右の手で書かせ,ペン先,第2中手骨骨頭,橈骨遠位端の3つの評点の運動を解析した。書字時間,各評点の速度変化パターンの均一性を示す相関係数,ペン先が手の近位部と独立あるいは従属して動いているかを表すペン先と他の評点の運動半径比を計算し,各サイズの左右の書字を比較した。結果:健常群の書字時間は右<左であるものの有意差はなかった。麻痺群の書字時間は右>左で有意差を認めた(p=0.002~0.0002)。評点の速度変化パターンの均一性は健常群のペン先と第2中手骨骨頭および麻痺群の運動覚障害なしの麻痺群のペン先では右>左の有意差を認めた(p=0.003~4×10-6)。運動覚障害のある麻痺群はすべての評点で逆に右<左の有意差を認めた(p=2×10-4~1×10-5)。第2中手骨骨頭/ペン先と橈骨遠位端/ペン先の運動半径比は健常群と運動覚障害なしの麻痺群で右<左の有意差を認めた(p=8×10-13~1×10-18)。結論:不全片麻痺による巧緻運動障害があっても運動覚が正常であれば書字の等時間性,運動分離性ならびに均一性といった利き手の書字運動の特徴は維持された。運動覚の書字運動における重要性が示された。
著者
北島 勉 野山 修 加藤 誠久 CHADBUNCHACHAI Witaya CHAIPAH Weerasak CHUAYNA Nonglak
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.377-386, 2001

発展途上国では,交通事故等による外傷が増加しており,救急搬送システムを構築することへの必要性が高まっている。本研究では,タイ王国の一地方都市であるKhon Kaen市(コンケン市)での救急搬送システム構築に関する先駆的な取り組みを分析し,タイ及び発展途上国における救急搬送システムのあり方を検討した。コンケン市では,コンケン病院が中心となり,コンケン大学病院,ボランティア団体,警察署,教育機関が連携をとりながら人材育成,通報手段の整備,搬送サービスの提供を行っていた。しかし,コンケン病院の救急隊とボランティア団体の救急隊との間には患者へのケアにおいて格差が認められた。様々な部門と協力しながら救急搬送システムを構築していくことは,多くの発展途上国にとって現実的な方法であるが,システムを更に発展させていくためには,研修や情報システムの整備等により,サービス提供者間のサービスの質の格差を是正する必要があると考える。
著者
百村 麻衣
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.371-378, 2003-12-30

1993年1月より2003年4月までの10年間に杏林大学病院に入院し,分娩管理した妊娠22週以降の三胎妊娠27症例81児を対象として,三胎妊娠における胎児発育不均衡の発生頻度を調べ,三胎における胎児発育不均衡が胎児発育に与える影響を検討した。三胎妊娠では児が均等に発育せず,体重第一位児と体重第三位児の間に15%以上の体重差を認める割合が81%,25%以上の体重差を認める割合が30%を占め,胎児発育不均衡は高い発生率であった。この胎児発育不均衡は体重第三位の児のみが小さくなることで発現していた。三胎妊娠では体重第一位児と体重第三位児の間の体重差が15%以上に達すると,第三位児に極めて高頻度に子宮内胎児発育遅延を認めることから,本基準を胎児発育不均衡と診断することが妥当であると考えられた。三胎妊娠における発育不均衡児の体型を,頭囲/胸囲比とカウプ指数から分析すると,身長,頭囲に比べ胸囲が小さく,痩せ型の胎児発育を示すことが明らかになった。
著者
高峰 文成
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.3-10, 2001

Elcatoninによる骨量増加作用は臨床的ならびに実験的に報告されているが,投与量が報告によって一定せず,しかもいずれも一時点での測定のみであって,経時的なものはない。したがってその至適用量と至適投与期間は今日も不明である。本研究はelcatonin投与前後にdual energy X-ray absorptiometryを用いて骨量を測定すると共に骨代謝マーカー, osteocalcinとdeoxypyridinoline (DPD)を測定し,その値の変動について検討した。12か月令のWistar系雌ラット119匹を用いて実験的骨粗鬆症モデルラット(高代謝回転型)を作成した後, elcatonin非投与(非投与群), elcatonin 1 unit (U)/kg (1U群), 5U/kg (5U群),と25U/kg (25U群)を3か月間投与して,毎月経時的に大腿骨骨量と骨代謝マーカーを測定した。結果は37か月間の投与では25U群が骨量増加には最も優れていたが,投与1か月後に摂食減退と運動低下を来たし,骨量が減少した。1U群は2か月間で骨量が漸増し, 3か月目に減少した。5U群は3か月間を通して減少は軽微であった。OsteocalcinとDPDは各群ともelcatonin投与直前に比べて低値であった。Osteocalcinは5U群では1U群に比べて2か月まで高い減少率を示し, 3か月ではDPDの減少率が高く, osteocalcinが低かったため1U群は2か月間骨量が増加, 3か月目で減少し, 5U群は3か月間骨量減少を抑制した結果を反映した。25U群では1か月で両者が増加, 3か月でDPDが著しく減少し, osteocalcinが増加したため骨量が最も増加した。3か月間を通して25U群が最も骨量の増加を期待出来たが,1か月目の摂食減退と運動性低下などの副作用による骨量減少が問題であり,副作用がなく骨量増加を期待し得るのは1U群であった。したがって本研究ではelcatonin 1U/kgを2か月間投与すると安全な状態で骨量増加を期待し得ると結論した。
著者
長嶋 長節 竹宮 隆 樋口 雄三 宜保 美恵子 岡井 治
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.173-182, 1974

毛細血管血流に関する新しい理論と指プレチスモグルフィによる実験とから組織に流入する動脈血量と毛細血管に把握される血液量との間に相反性関聯をみとめた。また理論的にPlasma skiming (A. Krogh)および毛細血管ヘマトクリット減少性(Fahraeus-Linquist)更にヘマトクリット恒常性を解明した。実験的に血圧動揺性高血圧では相反性関連はみとめられず, 固定型にはみとめられた。また最小血圧は変らないで最大血圧の動揺する血圧動揺型高血圧で血圧上昇時に皮膚および骨格筋の異常な血流減少と下降時に異常な血流増大をみとめた。後者はI.H. Pageの所見と一致する。この循環機序として細動脈より半径の大きい中ないし小動脈に発生するいわゆるbeads like vasomotionを想定した。皮膚の反応性充血による血流増大の一部はアトロピンによって抑制されるのであるが, 上記の血流増大の一部はアトロピンによって抑制される(Page)。これらを総合して上記の血流減少はvasomotionによる血管収縮, また血流増大はその虚血に起因する反応性充血の血流増大であると理解した。
著者
原田 勝二 三沢 章吾
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.161-164, 1974

本邦における赤血球酵素Esterase Dの多型性変異の表現型頻度および遺伝子頻度を調べることを目的に, 東京在住の献血者524名の赤血球につき, 澱粉ゲル電気泳動法を用いて検査した。その結果, 表現型頻度はEsD1(45.42%), EsD2-1(43.89%), EsD2(10.69%)となり, 遺伝子頻度はEsD^1=0.6737, EsD^2=0.3263となった。無作為に選んだ2人の表現型が一致する確率をこの値より計算してみると, 他の赤血球酵素に比べかなり低く, 法医学上の個人識別に有効なことがわかった。双生児およびその両親の家族試料を検査し, Esterase Dは常染色体上少くとも2種類の対立遺伝子によって支配されていることも併せ確かめられた。