1 0 0 0 OA PTSDについて

著者
伊東 杏里
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.73-76, 2016 (Released:2016-03-31)
参考文献数
8

心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder:PTSD)は,極度の外傷的出来事により引き起こされる反応性の精神症状であり,フラッシュバックを代表とする侵入症状,外傷的出来事への回避努力や,感情のネガティブな変化などが一ケ月以上みられたときに診断される。災害時には身体疾患のみならず精神疾患への早期介入・早期治療が重要であるが,専門スタッフの支援が被災者へ十分に行き渡らない事が問題である。簡便なスクリーニングを用いれば,専門知識がなくても早期から支持的に介入することが可能である。PTSDの診断基準および簡便なスクリーニング検査について述べ,早期介入の重要性について解説する。
著者
沢口 義康 小池 秀海 若林 行雄 吉野 佳一
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.363-368, 1979-12-30 (Released:2017-02-13)

原因不明の変性疾患である進行性核上性麻痺の2例を経験した。症例1は76歳, 男性。構語障害と寡動を主訴として入院。眼球運動は全方向特に垂直方向に障害され, 更に軽度の知能障害, 仮性球麻痺, 筋固縮と頸部後屈を認めた。症例2は76歳, 男性。肺炎に罹患して入院。開眼不能(開眼失行), 全方向の注視障害, 構語障害, 後方転倒傾向, 深部反射亢進, 筋固縮, 強迫笑を認めた。進行性核上性麻痺は, 1964年Steeleらの報告以来, 15年間に本邦では49例の報告がある。発病年齢は36歳∿76歳(平均62歳)で, 性別では圧倒的に男に多い。開眼失行を伴った報告は, 7例(17%)と合併頻度が高く, 核上性眼筋麻痺との密接な関係が推察される。治療に関して, L-DOPAや抗コリン剤が有効な例も多少見うけられ, われわれの第1例に対しても軽度有効であったが, advanced stageにある第2例に対しては無効であった。
著者
升水 達郎
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.59-63, 1972

筆者自身の自他の疑問が絶望に導き, 医師としての自分自身が一度は絶望的に抛棄せられ, その絶体絶命の中に, 自分自身を復活せしめる「先取り」の原理を見出し, 同時に懺悔自体が医学する道であることを説明した。その範を, 田辺元先生の「懺悔道としての哲学」に導かれ, 還相医学の展望するところを示した。今迄の医学の哲学的背景であるデカルト的医学は, あく迄も精神と肉体の二元論であつた。しかしその空間的立場には限界があり, 時間的立場に立つベルクソン的医学によつて修正されねばならない。すなわち, 病は, 患者が精神的にも復活再生しなければ, 真実には治癒しないことを明らかにした。なお「先取り」の世界が, 「自他振替え」によつて, 自が他に「先取らしむ」, これが仏教でいう懺悔報恩行ということの, 私の解釈である。
著者
吉丸 博志
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.29-37, 1985-03-30 (Released:2017-02-13)

2世代の同胞群について, 両親の近親婚が子供の死亡率に及ぼす影響を検討し, その世代間推移の考察を試みた。九州地区の2大学の医学部学生を発端者としてアンケート調査を行い, 312家系の資料を得た。その結果, (1)発端者の祖父母の近親婚により, その子供(発端者の父母の同胞群)の19歳以下(特に0∿1歳)の死亡率が有意に高くなることが確認された。発端者の父母の近親婚によるその子供(発端者の同胞群)の死亡率への有意な効果は検出できなかった。(2)両親が他人婚の場合どうしでみると, 発端者の同胞群における死亡率が発端者の父母の同胞群における死亡率より有意に低いことが確認された。両親が近親婚の場合どうしでみると, 統計的に有意ではないが同様の傾向がみられた。(3)近親婚率も世代の違いにより減少していることが確認された。(4)このように死亡率全体に占める近親婚の影響は近年減少しつつあると思われる。
著者
渡辺 言夫
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.127-132, 1980

痘瘡が世界から撲滅され, 種痘の定期接種がなくなった今, 最も副反応の多いワクチンは百日咳ワクチンとなった。副反応のため一時中止されていたが, 百日咳が流行したため再開された。副反応を恐れて2歳から開始することになったが, 乳児の重症百日咳も多いために安全なワクチンを求める声が高まり, 改良百日咳コンポーネントワクチン(改良百日咳ワクチン)が生まれた。われわれは現行ワクチンと改良百日咳ワクチンの副反応を比較し, 改良百日咳ワクチンが非常にすぐれていることを確認した。特に母親が最も心配し, 熱性痙攣の原因となる発熱が約1/10に減少したことが注目され, 抗体上昇も十分であることから, 定期接種に採用されるべきワクチンと考える。
著者
柴﨑 美紀
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.263-271, 2015 (Released:2015-12-26)
参考文献数
30

目的:地域で栄養サポートチームの介入が必要な療養者・家族のニーズと,そのニーズに対応する医療専門職を明らかにすることを目的とした。方法:療養者・家族に栄養に関するニーズを調査し,内容分析を行った。次いで医療専門職へ栄養支援について調査し,テキストマイニングによる特徴分析でニーズに対応する職種を明らかにした。結果:ニーズとそれぞれに関連の強い職種が明らかになった。対応させて階層化した結果,「家にいられる体力を付ける」と医師を中心とした「治療」チーム,「経口摂取で栄養を摂る」と歯科専門職とリハビリテーション専門職による「摂食・嚥下支援」チーム,「美味しさと栄養の両方を満たす」と管理栄養士を中心とした「栄養支援」チームに分類できた。結論:限られた専門職で栄養支援活動が行われている在宅医療の現場において,本研究で示されたニーズの階層と職種の配置を考慮したチーム形成を行うことで,より効果的な支援が行えると考える。
著者
嘉手納 志乃
出版者
The Kyorin Medical Society
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.85-92, 2007

自閉性障害,アスペルガー障害および特定不能の広汎性発達障害における記憶機能の異同を,標準化された記憶機能検査(Wechsler Memory Scale-Revised以下,WMS-R)を用いて検討した。その結果,「言語性記憶」「一般的記憶」「遅延再生」において有意な主効果が認められ,自閉性障害では3指標とも他の2群に比して有意に劣っていた。さらに,広汎性発達障害に特異的に認められる記憶想起現象であるtime slip現象について,記憶機能との関係を検討した。time slip現象の出現率は3群間で有意差は認められなかった。さらに記憶指標とtime slip現象の関係を検討したところ,「遅延再生」が高いほどtime slip現象が起こりやすく,また「言語性記憶」が高いほどtime slip現象は抑制されやすいという結果を得た。
著者
牛川 憲司 板垣 英二 丸山 雅弘 半田 桂子 大塚 大輔 下山 達宏 関 博之 小澤 幸彦 山口 真哉 滝澤 誠 片平 宏 吉元 勝彦 石田 均
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.74-82, 2005
参考文献数
19
被引用文献数
3

症例は54歳, 男性。平成7年頃に糖尿病と診断されていたが放置していた。平成13年8月末より腰痛を認め, その数日後より右下肢に浮腫が出現した。さらに左下肢にも浮腫を認めるようになったため同年9月20日当科入院となった。身体所見では両下肢の圧痕性浮腫と両側の側腹部に表在静脈の怒張を認めた。胸部〜大腿部造影CTでは, 肝静脈流入部より中枢側ならびに腎門部より末梢側の下大静脈は正常に存在していたが, 肝静脈流入部から腎門部にいたるまでの下大静脈は欠損しており, 著明に拡張した奇静脈および半奇静脈が描出された。なお, 腎門部より末梢の下大静脈は第3腰椎レベルで下行大動脈の背側を横切り半奇静脈に連なっていた。さらに, 両側の大腿静脈, 外腸骨静脈, 総腸骨静脈および腎下部下大静脈, そしてそれに連なる半奇静脈の血管内腔には器質化した血栓が連続性に充満していた。また, 胸腹部MRAでは腹腔内に側副血行路と考えられる無数の静脈が描出された。以上より, 広範な深部静脈血栓症を伴った肝部から腎部におよぶ下大静脈欠損症と診断したが, 本例は側副血行路の著明な発達, 増生により両下肢の浮腫は保存的治療のみで自然に軽快した。下大静脈欠損症では, 血管の走行異常による血流うっ滞をきたす可能性があるにも関わらず実際に静脈血栓症を合併することは稀である。本例において広範な深部静脈血栓症を合併した原因としては, 高度の腰痛により食欲不振をきたし脱水傾向となったことから血液粘稠度が増加し, その状態で臥床状態が続いたこと, それに加えて合併する糖尿病による凝固亢進状態が関与した可能性が考えられた。
著者
小柏 靖直 甲能 直幸
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.97-101, 2013 (Released:2013-07-03)
参考文献数
30

頭頸部癌の治療の現状と展望について概説する。放射線化学療法の新しいレジメンの開発により進行癌においても喉頭温存が可能になってきた。また,分子標的薬もいよいよ昨年末より頭頸部癌に対して保険適応となり,今後ますます予後やQOLを改善し得る治療が開発される可能性が高くなってきた。手術治療においてはセンチネルリンパ節生検術が取り入れられてリンパ節転移をできるだけ早い段階で正確に診断可能となりつつある。経口的咽喉頭切除などの新しい取り組みも出現してきた結果,血管吻合などの再建を要する大きな手術を行わなくても進行癌に対応できる可能性が出てきている。今後の頭頸部癌治療においては,他領域同様に危険因子や発癌因子により治療を細分化する取り組みがなされていくものと予想される。
著者
松本 一弥
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.327-341, 1980

交代制勤務者を対象として, 平常夜間睡眠と夜勤直後の昼間睡眠ポリグラフムを記録し, 両者を比較検討した結果, 以下のことが明らかとなった。夜勤あけ直後の昼間睡眠では, 就床時間全睡眠時間の短縮, 中途覚醒の増加, REM睡眠潜時の短縮, 初回REM睡眠持続時間の延長, S_3やS_4睡眠潜時の有意な延長等がみられた。また, 昼間睡眠では10名の対象者中3名に入眠時のREM睡眠の出現, 即ちSleep onset REM periodの特異的現象が認められた。さらに, 昼間睡眠では夜間睡眠に比して, 入眠より2時間ないし3時間におけるREM睡眠量の増加とS_4睡眠量の有意な減少, あるいはREM睡眠の出現が睡眠の前期から中期にかけて多いなど夜間睡眠の分布と異なる現象が明らかとなった。これらのことより, REM睡眠はcircadian rhythmに依存し, S_4は入眠前の覚醒時間の長さに依存して出現するものと推論された。一方, 脈拍数は夜間睡眠に比して昼間睡眠でそのレベルが高く, また睡眠段階との関連で内的非同期化がみられた。
著者
山本 久文 宇都宮 潔 長谷 章 玉木 一弘 村川 章一郎 青柳 利雄
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.63-67, 1983

Mycoplasma pneumoniae (M. pn.)による髄膜脳炎の1例を報告した。症例は16歳, 男子学生。昭和54年12月3日より高熱と激しい頭痛が出現し, 12月5日当科に救急入院した。入院時は軽度の不穏を伴なう傾眠状態で, 項部硬直著明, Kernig徴候陽性, 病的反射はなく, 胸腹部にも異常所見はなかった。胸部X線写真異常なし。白血球数14, 900, 髄液は細胞数1864/3, リンパ球93%, 蛋白113mg/dl, 糖73mg/dlであった。入院時血清および髄液のマイコプラズマCF抗体価は, それぞれ512倍, 32倍と高値であることが判明し, 血清寒冷凝集反応も1024倍と上昇しており, M. pn.による髄膜脳炎と診断した。エリスロマイシンとプレドニゾロンの併用にて, 臨床症状の著明な改善をみた。M. pn.による髄膜脳炎の頻度は多くないが, 原因不明の髄膜脳炎を診た時は, M. pn.も原因の一つとして考慮する必要がある。
著者
阿部田 聡 豊泉 茂 金田 史香 神山 政恵 小池 秀海 吉野 佳一
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.89-95, 1999

症例は47歳男性。1996年5月16日,ボリビア(標高4,200m)へ出張した翌日より頭痛,悪心,呼吸困難,意識障害を呈し,急性高山病と診断され,現地の病院で治療を受けたが,意欲低下,意識不鮮明,運動緩慢が残存した。6月3日帰国し,翌日当科に入院した。知能障害と錐体外路症候を認め,発症20日目のMRIで両側淡蒼球に病変がみられた。SPECTでは両側前頭葉,側頭葉,基底核の血流低下を認めた。発症29日目より高圧酸素療法を行い,自覚症状,神経心理学的検査成績およびSPECTの改善がみられた。急性高山病で淡蒼球病変を呈した報告は本例を含め4例と稀である。ごく早期を逸しても高圧酸素療法は試みるべき治療法と思われる。
著者
近藤 ふさえ
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.91-101, 2006-12
被引用文献数
1

生活習慣病の中でも糖尿病患者は入眠困難,中途覚醒,早朝覚醒などの睡眠障害をきたしやすい状態にあるといわれている。本研究は,糖尿病患者の睡眠状態の特徴を明らかにするために,2型糖尿病患者18名(男性11名,女性7名)で35歳から65歳,年齢50.2±10.2歳を対象に携帯型身体活動測定器(Actigraph)を用いて非活動朗(睡眠期)の行動量を分析した。また,行動量と主観的睡眠感の関連を明らかにするためにOSA睡眠調査票MA版を用いた。さらにHbA_<lc>との関連は,1ヶ月間の主観的睡眠感を反映するPittsburgh睡眠質問票(PSQI)を用いて調査し分析を行った。その結果,2型糖尿病患者と健康成人,介護福祉施設入所高齢者との非活動期(睡眠期)における活動量(mG=0)の比率の比較では,有意な差が認められた(ANOVA, p=0.017 df=25 F=4.912)。2型糖尿病患者の非活動期(睡眠期)の特徴を分類すると,i)睡眠覚醒良好群,ii)非活動期(睡眠期)に行動量多いが主観的睡眠感良好群,iii)非活動期(睡眠期)に活動量が多く主観的睡眠感不良群に分類できた。また,PSQI-Global scoreの得点が高くなるほどHbA_<lc>が高くなる傾向がみられた。2型糖尿病患者の主観的な良い睡眠を阻害する要因は,入眠時と中途における活動量の増加に伴う入眠困難と中途覚醒よる睡眠障害であった。2型糖尿病患者は「眠れない」と自覚する以前から睡眠障害が潜在している可能性が示唆された。
著者
牛川 憲司 板垣 英二 曽野 聖浩 関 博之 小澤 幸彦 山口 真哉 丸山 雅弘 滝澤 誠 片平 宏 吉元 勝彦 住石 歩 海野 みちる 石田 均
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.24-30, 2003-03-30

症例は40歳女性。平成12年12月30日より38℃台の発熱を認め,数日後には右前頚部に有痛性の腫瘤が出現した。近医で投薬を受けたが症状の改善がないため平成13年1月7日当科に入院。体温38.9℃,右前頚部に3×3cmの圧痛を伴う腫瘤を触知した。白血球増多,CRP高値,軽度の甲状腺機能亢進と,血中サイログロプリンの著増を認め,頚部CTでは甲状腺右葉に境界明瞭な低吸収域の腫瘤を認めた。腫瘤の穿刺では膿性の液体が採取され,細菌培養は陰性であったが好中球を多数認めたことから急性化膿性甲状腺炎と診断した。抗生物質の投与で症状は消失し,頚部腫瘤も縮小した。咽頭喉頭ファイバー,咽頭食道造影のいずれでも下咽頭梨状窩瘻は確認されなかった。本症のほとんどは小児期に初発し,しかも罹患側は発生学的理由から圧倒的に左側に多いことが特徴であるが,我々は中年期に初発し,かつ右側に発症した稀な一例を経験したので報告する。