- 著者
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笹川 満廣
- 出版者
- 京都府立大学
- 雑誌
- 西京大学学術報告. 農学 (ISSN:03709329)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, pp.133-150, 1958-08-01
- 被引用文献数
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ハモグリバエの雌外部生殖器官の構造についてはde Meijere (1838)はじめ2・3の簡単な報告が見られるが, Hendel (1931)以来分類学的記載には単に産卵鞘の大きさ並びに棘毛の有無等が扱われていたにすぎない。私はごく最近になつて種的標徴としてその重要性が認められてきた雄外部生殖器とともに雌の外部・内部生殖器の形態もまた非常に分類学的価値があることを見出した。ここにAgromyzinaeの日本産6属28種について調査した諸形態の比較とそれらの分化について述べる。概形 : 腹部第7環節はいわゆる産卵鞘となり, 以下の環節は通常その中にはまり込んでいる。第8環節の背・腹両面には多数の鋸歯が列生する, 後端にある一対の誘卵器は三角形ないしナイフ状を呈しかなり群又は種間変異に富むほか産卵習性と密接な関連性が見られる。第9環節は細長く, 背・腹板の形状や棘毛数は種々である。第10∿11環節は膜状, 尾毛は1節で多数の感覚毛を装う。内部器官は卵巣, 輸卵官, 受精嚢及び附属腺からなる。受精嚢は褐∿黒色, 球形ないし長卵形を呈し, 腹面にある管状受精嚢と共に近似種間の識別に有効である。Agromyza : 邦産12種(未記録5種を含む)は2群に大別され, yeptans群はrubi群より分化が進んでいないようである。前者の中で最も原始的と考えられるreptans亜群の誘卵器や腹面受精嚢の形態は非常に単純であり, 禾本科植物の葉に産卵する種類が属するヤノハモグリバエyanonis及びイネハモグリバエoryzae両亜群の誘卵器の内面には有毛突起を有する。また, この群のある種の受精嚢には他に見られない横じわがある。rubi群の誘卵器には他属と共通な鋸歯を生じ, 原始的なA. rubi以外の腹面受精嚢は非常に長く, 巻いているほか諸形質の分化の程度が高い。Japanagromyza : この新属は前小楯板棘毛の存在, 平均棍の色彩等によつてAgromyza及びMelanagromyza属とは容易に識別できるが, 雌内部生殖器官の形態にも特異なものが認められる。現在4種が属し, 第9背板はU字状を呈し, 受精嚢の表面には微棘を生じ, さらにduchesneae群の腹面受精嚢の尖端には双葉状の膨大部がある。Melanagromyza : 本属もAgromyza属と同様に誘卵器の形状によつてaeneiventris及びpulicaria両群に分けられ, かつそれは産卵習性に由来していることは興味深い。即ち, 前群には植物の茎内を潜孔する種類が属し, 種間の分化は余り顕著でない。これに反して後群のものは潜葉性で, 表皮内潜孔をするチヤハモグリバエM. theaeほかpulicaria, styricicolaの2種, Agromyza属に近い諸形質を示すyanoi, さらに特殊化したダイズメモグリバエを含んでいる。Carinagromyza, Ophiomyia及びTylomyza : Carinagromyza属の受精嚢は本亜科中最も小さく, 基部はらせん状に分裂する;Ophiomyia属の第9背板は中央部が狭わまり, 受精嚢の頸部は特に長い;Tylomyza属の受精嚢の基部は分裂しない。その他の形態はMelanagromyza属のそれと類似するようで, 既知邦産種が少いため詳しく論及できない。