著者
高橋 基樹
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.47-61, 2017-03-10 (Released:2020-03-12)
参考文献数
19

TICAD VIをめぐっては、ビジネスや中国との競争など国益に関心が集まったが、本旨のアフリカ開発についてはどのような議論が重ねられ、今後どう対応していくべきだろうか。日本の対アフリカ支援とTICADの議論は、両者の状況や世界の情勢に応じて変化してきた。1993年の第1回から10年後の第3回までの前半期には、アフリカ経済の低迷を受けて、アジアの経験の強調、貧困削減の重視などが掲げられた。また、日本の援助理念の到達点である人間の安全保障の観点からアフリカが抱える深刻な課題が取り上げられ、それを果たせない国家のあり方が問題にされた。他方、2008年の第4回以降はアフリカの高度成長とそれにより強まったアフリカ諸国の立場を反映し、これらの問題への注目度は低下し、経済成長や民間投資の促進が関心の的となった。しかし、依然として人間の安全保障とそのための国家の改革は開発の基盤である。中国との競争に走るよりも、戦略的棲み分けを模索すべきであり、工業化など、長期の視点から、アフリカの開発に資する支援に注力すべきである。
著者
福西 隆弘
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.85-99, 2021-06-29 (Released:2021-06-29)
参考文献数
12

筆者らは2019年よりアジスアベバで職業訓練校を修了した若者の追跡調査を実施しているが、2020年11月に追加調査を行い、新型コロナウイルスの感染拡大の前後における雇用と収入の変化を分析した。調査時点で、雇用率にはパンデミック前と比べて大きな変化はみられなかった。また、被雇用労働者の実質賃金は低下したが、変化は物価上昇率よりも小さく、平均的には名目賃金が維持されていた。非常事態宣言は企業が労働者を解雇することを禁止していたが、上記の結果は宣言が終了して2カ月後に観察されているので、雇用の維持は企業の自主的な判断と考えられる。個人自営業者(self-employment)において廃業は増えていないが、自営業から得た所得(実質額)の減少率は20%を超えており、とくに運輸業や製造業で減少が大きかった。また、女性の実質賃金は約17%減少し、もともと顕著であった収入格差が拡大している。平均的な労働者よりも学歴の高い訓練校卒業生の間では、雇用への影響が小さいことがうかがわれるが、彼らの中でも脆弱な労働者への影響が大きいことが示されている。
著者
佐藤 章
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.1-13, 2017-01-25 (Released:2020-03-12)
参考文献数
25

この十数年あまり西アフリカでは、イスラーム・マグレブのアル=カーイダ(Al-Qaida in the Islamic Maghreb: AQIM)をはじめとするイスラーム主義武装勢力の活発な活動が見られる。これらの組織の活動は、サハラ・サヘル地帯における治安・安全保障上の問題を提起するにとどまらない。そこでは、イスラーム主義武装勢力が、現代西アフリカの政治的・社会的変動に照らしていかなる意味を持つのかという問題も提起されているのである。そこで本稿は、こういった歴史的評価に関わる問題を掘り下げるための基礎的作業として、AQIMとその系列組織に焦点を合わせ、西アフリカへの進出の経緯、マリ北部への定着の様子、マリ北部紛争への関与、その後の動向を検討したい。その際、「グローバルなテロ組織」といった観点からの研究が陥りがちな視点の偏りを避けるため、これらのイスラーム主義武装勢力が社会とどのような関係を取り結んでいたかにとくに注目し、検討を行う。
著者
大平 和希子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.1-13, 2020-02-17 (Released:2020-02-17)
参考文献数
22

ウガンダでは1995年憲法を皮切りに、慣習地の登記促進を通して、慣習地で暮らす人々の権利安定化を図ってきた。しかし、慣習地の登記が一向に進まない状況を受け、2013年に発表された国家土地政策は、慣習地の登記を担うはずの地方自治体の能力不足を指摘した上で、伝統的権威の慣習地ガバナンスへの関与を示唆した。これを踏まえて、本稿の目的は、伝統的権威が、慣習的権利の安定化を図る上で、地方自治体に代わる、あるいは、地方自治体と協働する一主体となりうるかという問いに答えることである。ウガンダ西部ブニョロ地域を事例に、地域住民と伝統的権威の関係性、地方自治体と伝統的権威の関係性の2点に着目し考察する。
著者
網中 昭世
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.72-84, 2021-06-17 (Released:2021-06-17)
参考文献数
18

本稿は、コロナ禍で活動を大幅に制限されたモザンビークの首都マプト都市圏のインフォーマルな越境貿易業者(ICBT)の視点を通じ、インフォーマル経済を取り巻く環境の急激な変化を捉えるものである。本稿では、現地の調査協力者によるICBTへの聞き取りを通じ、ICBTとの関係が深いインフォーマル経済の末端の露天商をめぐる状況の変化を明らかにすると同時に、コロナ禍における移動にかかわる制約に直面するICBT自身の対応を詳らかにし、インフォーマル経済の社会経済的役割について再検討する。
著者
杉木 明子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.1-12, 2016-02-15 (Released:2020-03-12)
参考文献数
45

2000年代半ば以降、アデン湾・ソマリア沖で急増した海賊問題は、海賊の取締や処罰を国際社会に問い直す問題である。海賊の不処罰が顕在化する中で新たな対応に迫られた国際社会は、様々な選択肢の中で拿捕国が拘束した海賊被疑者をソマリア近隣諸国へ引渡し、第三国が普遍的管轄権のもとで訴追・処罰する「地域訴追モデル」を次善策とみなした。ケニアはソマリア近隣諸国の中で最も多くのソマリ海賊被疑者を受入れ、処罰してきた。本稿ではケニアの先駆的な海賊裁判の事例から「地域訴追モデル」の問題を明らかにし、海賊および海上犯罪を処罰するためにどのような取り組みが必要であるか検討する。
著者
松波 康男
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-12, 2019-01-07 (Released:2019-08-03)
参考文献数
41
被引用文献数
6

2011年に南スーダンは分離独立を果たしたが、そのわずか2年後、サルバ・キール大統領率いるSPLM/Aと、リアク・マシャール前副大統領率いるSPLM/A-IOとの戦闘が勃発した。この際、和平調停の役割を担ったのがIGADだった。和平協議は和平合意文書へのキールらの署名という形で結実したが、1年を待たずに両軍による戦闘行為が勃発し、合意文書は死文化した。 本稿では、合意文書の締結を巡り周辺国に生じた力学を整理し、合意締結後南スーダンで勃発した武力衝突に対する国際的要因を検証することを通じて、紛争解決に対する地域機構加盟国の関与のあり方を考察する。
著者
武内 進一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.73-84, 2016-07-25 (Released:2020-03-12)
参考文献数
23

ブルンジ、ルワンダ、コンゴ共和国では、いずれも2015年に大統領の三選禁止規定が変更されたが、その影響は大きく異なった。ブルンジでは激しい抗議活動と弾圧によって政治が著しく混乱したのに対し、コンゴでは抗議活動はほぼ封じ込められ、ルワンダでは抗議活動すら起こらなかった。抗議活動の強弱は、反政府勢力の組織力に依存する。ルワンダとコンゴでは、1990年代の内戦に勝利した武装勢力が政権を握り、国内に強力な反政府組織が存在しないうえ、経済的資源の分配を通じて反対派を懐柔できた。一方、国際社会の仲介によって内戦が終結したブルンジでは、権力分有制度のために反政府勢力が強い影響力を保持し、また反対派を懐柔するための資源も乏しかった。「三選問題」が示すのは、民主的な政治制度を採用しつつそれを形骸化させる政権の姿勢だが、それは冷戦後のアフリカで形成された政治秩序の一つの類型でもある。
著者
利根川 佳子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.54-66, 2020-06-20 (Released:2020-06-20)
参考文献数
46

サハラ以南アフリカでは、NGOに対して規制的な法制度が2000年代以降制定されている。本稿では、エチオピアとケニアの二カ国を事例とし、NGOに関連する法規制の比較検討に基づき、NGOと政府の関係性と現在の市民社会スペースの状況を明らかにすることを目的とする。両国ともに、政権に影響があるような、人権やガバナンスなどに関連する活動を行うNGOの活動領域の縮小化を政府は試みているが、ケニアの場合はそのような活動を行うNGOをおもな対象としているのに対し、エチオピアの場合、2009年の「慈善団体および市民団体に関する布告」のもと、NGO全体が対象となったことが大きく異なる。さらに、エチオピアにおいては、国際NGOを含め国内で活動するNGO全体の活動領域が縮小化された一方で、ケニアにおいては、政府の規制的な対応にもかかわらず、NGOは人権やガバナンスに関連する活動を継続している現状がある。