著者
網中 昭世
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.34-46, 2023-08-24 (Released:2023-08-24)
参考文献数
28

本稿の目的は、避難先から出身国に帰還した元難民と、避難先に残留した元難民の経験を比較し、難民問題の恒久的解決策のひとつとして難民が帰還を望むことを前提に立案される帰還支援プログラムの妥当性を検討することである。具体的に検討する事例は、1980年代から1990年代にかけてモザンビーク内戦の過程で南アフリカに流入した元難民である。この難民に対する帰還支援プログラムはUNHCRによって1994年から翌年にかけて実施されたが、モザンビーク南部出身者に関してはUNHCRの期待に反して利用者が少なかった。本稿では、その実施からほぼ25年が経過した時点でモザンビークおよび南アフリカで実施した聞き取り調査に基づき、難民が帰還を選択しなかった要因として、対象地域の歴史的な生計活動と帰還支援プログラムが実施された当時の政治環境を挙げる。本稿の事例は、帰還支援プログラムが一様に実施されようとも、難民がそれを利用して帰還するか否かは、地域・時代特有の政治経済環境に大きく影響を受けることを明らかにしている。それは「帰還」を前提とした難民問題への対処に再考の余地があることを示している。
著者
網中 昭世
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.72-84, 2021-06-17 (Released:2021-06-17)
参考文献数
18

本稿は、コロナ禍で活動を大幅に制限されたモザンビークの首都マプト都市圏のインフォーマルな越境貿易業者(ICBT)の視点を通じ、インフォーマル経済を取り巻く環境の急激な変化を捉えるものである。本稿では、現地の調査協力者によるICBTへの聞き取りを通じ、ICBTとの関係が深いインフォーマル経済の末端の露天商をめぐる状況の変化を明らかにすると同時に、コロナ禍における移動にかかわる制約に直面するICBT自身の対応を詳らかにし、インフォーマル経済の社会経済的役割について再検討する。
著者
永原 陽子 浅田 進史 網中 昭世 粟屋 利江 石川 博樹 今泉 裕美子 大久保 由理 愼 蒼宇 鈴木 茂 難波 ちづる 中野 聡 眞城 百華 溝辺 泰雄 飯島 みどり 松田 素二 上杉 妙子 丸山 淳子 小川 了 ジェッピー シャーミル サネ ピエール テケステ ネガシュ
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、20世紀の戦争において植民地と他の植民地との間を移動した人々(兵士・軍夫、軍に関連する労働者、「売春婦」等の女性)に着目し、とくに世紀転換期から第一次世界大戦期を中心に、これらの人々の移動のメカニズム、移動先での業務と生活の実態、様々な出自の人々との接触の内容、移動の経験が帰還後の出身地社会においてもった意味、などについて検討した。その結果、植民地の場における労働と戦争動員との連続性(「平時」と「戦時」の連続性)、兵士の動員と不可分の関係にある女性の自発的・強制的な移動の事実、さらに従来の研究の中心であった知識層の経験とは大きく異なる一般労働者・女性の経験が明らかになった。
著者
永原 陽子 粟屋 利江 鈴木 茂 舩田 さやか 阿部 小涼 今泉 裕美子 小山田 紀子 尾立 要子 小林 元裕 清水 正義 前川 一郎 眞城 百華 濱 忠雄 吉澤 文寿 吉田 信 渡邊 司 津田 みわ 平野 千果子 浅田 進史 飯島 みどり 板垣 竜太 大峰 真理 後藤 春美 高林 敏之 旦 祐介 津田 みわ 中野 聡 半澤 朝彦 平野 千果子 溝辺 泰雄 網中 昭世 大井 知範 柴田 暖子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、「植民地責任」概念を用いて、脱植民地化過程を第二次世界大戦後の植民地独立期に限定せず、20世紀の世界史全体の展開の中で検討した。その結果、第一次世界大戦期の萌芽的に出現した「植民地責任」論に対し、それを封じ込める形で国際的な植民地体制の再編が行われ、その体制が1960年代の植民地独立期を経て「冷戦」期にまで継続したことが明らかになった。
著者
網中 昭世
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.56-66, 2016-04-27 (Released:2020-03-12)
参考文献数
23

モザンビーク社会は2000年代を通じて高いマクロ経済成長率を記録する一方で、2008年、2010年、2012年には経済的困窮に対する都市部住民の不満が暴動という形で表出した。モザンビーク人の雇用が促進されず、貧困率の悪化を伴うような経済成長は「雇用なき成長」と非難されてきた。近年の暴動の主体は、経済成長を実感できぬ貧困層であった。彼らは野党の支持者となりうるだけに、FRELIMO政権は、貧困層に対して、いかに雇用を提供するかという課題を抱えている。本稿では、FRELIMO政権による雇用政策について次の3つの観点から考察を加える。第1に、近年の経済成長をもたらすことになった経済政策を振り返る。第2に、経済成長にも関わらず、雇用を通じた貧困状況の改善がなされない要因を探るため、経済活動人口の教育水準を確認し、低就学歴者層を対象とした政府の雇用政策に焦点をあてる。第3に、低就学歴者に対する雇用政策の実績と意義について検討する。
著者
網中 昭世
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.62-73, 2017

<p>本稿の目的は、近年モザンビークで発生している野党第一党モザンビーク民族抵抗(RENAMO)の武装勢力と国軍・警察の衝突のメカニズムを明らかにすることである。考察の際の着目点は、当事者であるRENAMOの除隊兵士の処遇の変化と、RENAMOの弱体化の関係である。モザンビークでは1992年に内戦を国際社会の仲介によって終結させ、紛争当事者を政党として複数政党制を導入して以来、モザンビーク解放戦線(FRELIMO)が政権与党を担っている。しかし、FRELIMOは選挙において必ずしも圧倒的な勝利を収めてきたわけではない。だからこそFRELIMOは一方で支持基盤を固めるために自らの陣営の退役軍人・除隊兵士を厚遇し、他方でRENAMOの弱体化を図り、結果的にRENAMO側の除隊兵士は排除されてきた。近年のRENAMOの再武装化は、紛争当事者の処遇に格差をつけた当然の結果であり、それを国軍・警察が鎮圧する構図となっている。</p>
著者
網中 昭世
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:21883238)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.62-73, 2017

本稿の目的は、近年モザンビークで発生している野党第一党モザンビーク民族抵抗(RENAMO)の武装勢力と国軍・警察の衝突のメカニズムを明らかにすることである。考察の際の着目点は、当事者であるRENAMOの除隊兵士の処遇の変化と、RENAMOの弱体化の関係である。モザンビークでは1992年に内戦を国際社会の仲介によって終結させ、紛争当事者を政党として複数政党制を導入して以来、モザンビーク解放戦線(FRELIMO)が政権与党を担っている。しかし、FRELIMOは選挙において必ずしも圧倒的な勝利を収めてきたわけではない。だからこそFRELIMOは一方で支持基盤を固めるために自らの陣営の退役軍人・除隊兵士を厚遇し、他方でRENAMOの弱体化を図り、結果的にRENAMO側の除隊兵士は排除されてきた。近年のRENAMOの再武装化は、紛争当事者の処遇に格差をつけた当然の結果であり、それを国軍・警察が鎮圧する構図となっている。