著者
中嶋 義文
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.114-121, 2013-04-15 (Released:2016-11-18)
参考文献数
2

無床精神科の常勤医ありの施設数は2013年5月の調査では260施設であり,2008〜2009年に底を打ったあと微増している。これは緩和ケアやサイコオンコロジーなどの活動への参加によるものと考えられている。施設の60%が常勤医1名である。50%で臨床心理士が雇用されていた。 66%で緩和ケアチーム活動があった。無床精神科医がいきいきと仕事をするためには業務を整理し,限られた時間を割り振ることで主体的に働き方を決める必要がある。多様性と持続可能性を重視した働き方が無床精神科を魅力的で働きやすい職場とし,無床精神科医の増加につながるだろう。
著者
木村 穣
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 = Japanese journal of general hospital psychiatry (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.348-354, 2011-10-15
参考文献数
10

認知行動療法は,さまざまな精神・身体疾患において有用であり,同様に糖尿病や肥満などの生活習慣病においても有用である。多くの肥満患者は"私は食べてない""水を飲んでも肥える"などの認知の歪みを伴っている。これは自己ダイエットとリバウンドの繰り返しによる自己効力感の低下から生じていることが多い。したがって,肥満や糖尿病の治療で重要なことは患者の認知の歪みを修正し,運動や食事療法による減量や血糖の改善に対する自己効力感を向上させることである。これらの認知の歪みを生じやすい性格特性として,全か無思考や過度の一般化などを認めることが多く,治療にあたり患者の性格特性を把握しておくことは有用である。実際の肥満,糖尿病の治療では,血糖や体重のセルフモニタリングと,自己の行動(食事,運動など)とその後の血糖,体重の変化(関連)に気付かせることが重要である。同時に患者の自己効力感を向上させ,食事,運動などの行動変容を促し,維持させるサポートが必要である。これら患者の認知の歪みを修正し,自己効力感を維持,向上させるうえで認知行動療法は非常に有用である。以上のことより肥満,糖尿病の治療にかかわる医師,看護師,栄養士,運動トレーナーなどすべての職種のスタッフが認知行動療法の基本を理解し,臨床的に応用していく必要がある。
著者
中野 有美
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.364-369, 2011-10-15 (Released:2015-06-24)
参考文献数
25

妊娠中および妊娠前後,もしくは近々妊娠の可能性がある女性の抑うつ/不安に薬物療法は使用しにくい。したがって,彼女らは認知行動療法を含む精神療法の有用性が高い集団と考えられる。 原因不明の反復流産の患者に対し,産婦人科領域では,簡便な情緒的サポートが患者の抑うつ/不安の軽減のみならず,出産率を向上させるであろう点を指摘している。一方で,それだけでは抑うつ/不安の改善に至らない反復流産の患者には,高強度認知行動療法など時間をかけたマンツーマンの精神的援助が必要となる。本稿では,流産,反復流産の患者の精神疾患罹病率について概観した後,認知行動療法を含む精神的支援について,これまでの調査研究と名古屋市立大学病院での試みをもとに論じた。
著者
林 公輔
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.154-160, 2014-04-15 (Released:2017-06-03)
参考文献数
7

神経性無食欲症の治療は困難である。心理的・身体的なアプローチが必要であるが,治療に協力的ではない患者も少なくない。症例Aは40歳代の女性であり,入院時のBMIは9.04kg/m2であった。病棟ルールは守らず,経験の浅いスタッフには高圧的に振る舞った。退院のめどは立たず,私たちの援助はすべて拒否されているように感じられ,チームは疲弊していった。難治例の治療では,治療者が他のスタッフに援助を求められずに孤立してしまうことがある。そうならないためには,多職種によるカンファレンスなど,誰かに相談する機会を定期的にもつことが役に立つ。また,チームの限界について患者と率直に話し合うことも重要である。これは,彼女たちの中にある健康な自己と手を結ぼうとする試みでもある。結果としてA は転院したが,治療は継続した。難治例の治療においては,退院以外にもさまざまな選択肢について考えられる柔軟な思考が求められる。
著者
五十嵐 友里 河田 真理 長尾 文子 安田 貴昭 堀川 直史
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.389-396, 2014-10-15 (Released:2017-11-22)
参考文献数
17

うつ病診療における精神科とプライマリケアの連携システムとして,先行研究において協同的ケアが提案されてきた。これまで,日本ではこの協同的ケアの実施報告はなかったが,今回実践したので症例を通してこの取り組みを報告する。協同的ケアでは,プライマリケア医による通常のうつ病診療に加えてケースマネージャーが患者の受療支援を行う。今回の実践では,ケースマネージャーは臨床心理士が担当して電話介入を実施し,精神科医はケースマネージャーに受療支援に関する定期的なスーパーバイズを行った。本稿では,薬剤や副作用に対する不安を訴えた2 例に対する支援を概観しながら今回の協同的ケアの実践を報告し,最後に,協同的ケアで行われた支援について考察した。
著者
吉村 知穂 山田 恒
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.130-137, 2014-04-15 (Released:2017-06-03)
参考文献数
4

摂食障害患者の入院治療を行っている施設は少ない。当院では,平成24年度から摂食障害の入院加療を開始したが,さまざまな困難を経験した。そのなかから,総合病院における摂食障害の入院加療について,2つの問題を取り上げる。1つ目は緊急入院の多さであり,2つ目が医療スタッフとの協力が難しいことである。緊急入院は身体治療としては有益だが,摂食障害の精神病理の改善につながらないことが多い。その事実を医療者が認識し,患者や家族に伝え続ける必要がある。患者の精神病理に医療スタッフが影響されてしまうことが多く,医療スタッフへの教育を継続することが重要である。
著者
新光 穣 松石 邦隆 福武 将映 毛利 健太朗 井上 和音 小山 忠明 伊藤 聡子 北村 登
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.49-54, 2013-01-15 (Released:2016-08-31)
参考文献数
35

せん妄は心臓血管外科での手術後にしばしばみられる。本研究では,術前のstatin内服が心臓手術および大血管手術後の患者におけるせん妄の発症と相関するか否かを検討した。2011年7月1日から2012年6月30日にかけて神戸市立医療センター中央市民病院心臓血管外科に入院し,心臓手術もしくは大血管手術を受けた324症例のカルテを後方視的に調査した。その結果,術前のstatin内服は術後せん妄のリスクを有意に低下させていた(OR=0.57,p=0.049)。その他の要因では,緊急手術,高齢,より長い手術時間において有意にせん妄のオッズが上昇した。本研究は,statinが中枢神経系への保護作用を通じて心臓手術,大血管手術後のせん妄を抑制することを示唆している。