著者
蓮見 元子 北原 靖子
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.71-84, 2008

心理学実験の学習案として,これまで「知能(発達)検査」(北原,2004), 「行動観察」(北原,2007)を報告したが,本稿では,学部3年次生に特殊実験演習の授業の一環として実施された「実験法」について紹介する。実験は,関連する2つの推理課題からなり,対象を特定できない相手のメッセージから子どもはどの程度推理できるのか,推理した理由をどのように説明するのか,さらに対象が特定できるヒントが加えられた時,それらを活用して正答に結びつけることができるか,幼児の推理能力,説明能力の特徴を明らかにする目的で行われた。同一の実験を大学生にも行った。その結果,幼児(3・4歳児)は与えられたヒントを使ってある程度対象を推理することができたが,推理した理由を客観的・合理的に説明することは困難であった。自己の要求や好みに中心化しか説明が多く,ヒント条件をあげての説明はほとんどみられなかった。さらに対象が特定できるヒントを加えて,選択用絵カードの8項目の中から正解だと思うものを選択させたところ,幼児が最も活用したのは視覚的に呈示された「大きさ」,および「丸い」という形に関するヒントであった。幼児にとって「丸い」というヒントは絵を見ればわかるものであったが,視覚的に呈示された「大きさ」は,絵に描かれた対象を実物に参照して判断する必要があった。「クリスマスプレゼント」というヒントは,さらに文化的慣習の知識を必要とした。選択用絵カードを使用したこともヒントの活用に何らかの影響を与えたであろうと考察された。最後に幼稚園を訪問して行われた「実験法」について,学部3年生に行う意義などが検討された。
著者
鍾 清漢
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 = The journal of Kawamura Gakuen Woman's University (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.187-210, 1998-03-15

近年来,中国は勿論,欧米からアジアに至る世界各地で,客家学の研究が急速に盛んになってきている。その原因はいろいろと挙げられるが,総じて言えば,二十一世紀を控えて,中国をはじめとするアジアの急激な発展によってもたらされたものである。顧みれば近代中国の政変や改革において大きな役割を演じてきた数々,例えば,太平天国,辛亥革命,五四運動,中華人民共和国の建国等,そのどれにも客家出身者の活躍が際立って見える。その中でも,洪秀全,孫文,宋慶齢姉妹,朱徳,彰徳懐,葉剣英,郭沫若,蓼承志,郵小平等各氏,現中国の李鵬首相,朱鎗基副首相等の指導者が客家である。また,東南アジアの指導者の中では,台湾の李登輝総統,行政院長の蒲万長氏,民進党野党第一党首の許信良氏,前国民党秘書長の呉伯雄氏,カンボジアのシアヌーク国王,フィリピンのコラソン・アキノ前大統領,シンガポールのリーグァンユー元首相とゴーチョクトン現首相も客家出身である。経済界をリードしているターガーバームの胡文虎氏,香サリムグループ港の李嘉誠グループ,インドネシアの林紹良財団,タイの経済を牛耳っている華人,とりわけバンコク銀行も客家系の陳有漢氏が率いている。本文はまず漢民族における客家とは何か,その開拓者精神と特質,続いて客家の分布,移住,発展を分析し,そしてその客家人英傑を輩出している素地として宗族社会の規律についても考察,分析し,論述しようと試みた。
著者
梅澤 嘉一郎
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.85-123, 2002

わが国の少子超高齢化が急速に進む中で, その実情を紹介する講義の際に, VTR等をまじえて理解を深めるとともに最近の共学大学生並びに女子大学学生につき少子超高齢化社会観について, 特に今回は, 少子化に焦点をあてアンケート方式で実施し, 共学大学生と女子大学生, あるいは共学大学における女子大学生と女子大学生との間にどのような相違があるかについて検討をおこなった。検討をおこなった結果, 少子化の進展にたいしては, 共学大学, 女子大学ともに共通して深刻に受け止めている。少子化に関わる, 原因, 影響及び対策について, 共学大学と女子大学, 共学大学女子大生と女子大学生とにおいて, その見方についての差が明らかにされた。すなわち, 原因では, 共学大学が子どもの養育費・教育費に重点をおいているのに対して女子大学生は, 女性の職場進出を養育費・教育費より重要視している。影響については, 共学大学は社会の活力低下や税負担への影響を重視しているのに対して子どもへの影響を重視している。また対策については, 共学大学が子育て環境の整備を一番に挙げているのに対して, 女子大生は子育てと仕事の両立を一番にとり挙げている。この調査結果から, アンケート項目を, 個人選択事項(意識, 生活スタイル)と経済的・社会的環境整備事項とに分類し, 考察した結果, 女子大学生と共学大学女子大生との間で顕著な差が認められた。すなわち, 女子大生は, より個人選択事項を重視し, 例えば, 少子化の原因についても「女性の職場進出」や「高学歴化」を重視している。これに対し, 共学女子学生は, 「女性の職場進出」や「高学歴化」よりも経済的・社会的環境整備事項とに分類される「養育費・教育費の負担」を重視している。以上, 共学大学では, 子育ての社会的環境面の充実面からの解決を重視しているのに対し女子大学生は, 個々人の自由に委ねられる意識や生活スタイルの選択をより重視する立場が顕著にみられ, 両者に重点の差が認められた。本調査から, 少子化問題は, 女性の多様化した価値観に呼応した対応の重要性も明らかとなった。
著者
小林 由利子
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.1-11, 2005-03-15
被引用文献数
1

This paper analyzes the MA in Drama and Theatre Education at University of Warwick in England. The objective of this paper is to clarify the characteristics of Neelands' drama sessions. He is the director of this program and a leader in Drama Education in the UK and the world. This study found: (1) Neelands uses the drama technique of "Teacher in Role" to create dramatic situation effectively. (2) He structures the drama session to invite participants to go into the dramatic scene without their noticing it. (3) He brings out their insight.
著者
酒井 正子
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 = The journal of Kawamura Gakuen Woman's University (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.123-142, 2005-03-15

日本本土の葬儀は一般に厳粛さを尊ぶ。対照的に琉球弧(奄美・沖縄)の島々では,死者に対して声をあげて泣き,うたい,語りかけることは別れに不可欠な行為とされた。声をかけることは情けをかけることであり,それにより死者も鎮まると考えられていたのである。本稿でとりあげる<葬送歌>とは,死後四十九日ころまで葬送に直接関わってうたわれる,無伴奏の歌謡群である。それらは葬儀での儀礼的な<供養歌>と,死後四十九日頃までの個人的な<哀惜歌>に分けられ,様式的には泣きじゃくりに近い不定型な弔い泣きから,有節的な短詞型歌謡までを含む。歌謡の生成と様式化を考える上でも,また「死の受容」を考える上でも重要なジャンルであるが,1970年代以降しだいにうたわれなくなっている。中でも最も廃れている沖縄諸島の<葬送歌>の習俗を,文献から検証する。幕末のフランス人宣教師の記録,国王やノロ(神女)そして一般庶民のための葬送のウムイ(神歌),ムヌイーナチ(物言い泣き),別れあしび(若者仲間の葬宴)などに言及し,琉球弧の他地域と比較しつつその位置づけをさぐる。また明治近代化による沖縄的習俗の撲滅運動の一環として「泣き女」がやり王にあげられた背景を,ジェンダー的な視点から考察する。
著者
鍾 清漢
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 = The journal of Kawamura Gakuen Woman's University (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.83-104, 2002

本稿は, 道徳教育研究を儒家思想に求め, その関わりを論ずるものである。孔子, 孟子, 荀子の儒学は2600年来, 東アジアの漢字文化圏の道徳理念の形成に大きく影響を及ぼしてきた。戦前, 日本の教育勅語には儒家思想が多く盛られている。ただ, 「忠」の解釈には違いもあったが, おおよそ日本国民の血となり, 肉となって, その精神文化を支えてきた。戦後はその「忠」の行き過ぎを正してきた。そして近年にみる道徳の頽廃をどう考えるかが, 道徳教育研究の大きな課題でもある。儒学では, 孔子の仁・忠恕と孟子の仁義・性善説が主として語られるが, 荀子の礼から発展した法規則は, 孔孟思想の偏りを正して, さらに一歩進めたものである。本論はこれを検証する紙数がなかったので, 後日の研鑽に委ねたい。なお, 四書の中の『大学』一書の「格物・致知・誠意・正心・修身・斉家・治国・平天下」の八徳目は, 世界のどの哲学にもみられない最高の智恵である。
著者
谷津 貴久
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 = The journal of Kawamura Gakuen Woman's University (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.57-67, 2000-03-15

反応時間の確率分布モデルをデータに適用する際, 複数のモデルを比較選択する方法としてAIC(Akaike information criterion)の利用が挙げられる。しかしAICによって常に真のモデルを選択することができるのかという疑問が生じる。本稿では, 対数正規分布・ガンマ分布・複合指数分布・指数正規合成分布・指数ガンマ合成分布・ガンベル分布・ワイブル分布・ワルド分布の8種の確率分布に対して, AICにより真の分布を正しく選択できるのかどうかを計算機シミュレーションにより検証した。その結果, 複合指数分布と指数正規合成分布が真の分布である場合にははAICによって正しく選択することができず, 試行数が100以下ではどの分布も正しく選択することが困難であることが分かった。また, 真の分布にかかわらずガンマ分布が選択される率が高いという結果も得た。以上より, AICのみによって反応時間の確率分布モデルを選択することには慎重になるべきであると結論した。
著者
中村 真 川野 健治
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 = The journal of Kawamura Gakuen Woman's University (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.137-149, 2002

神障害者に対する偏見の実態について女子大学生を対象に質問紙調査を行った。主な調査内容は, 精神障害者との接触経験, 態度および社会的距離であった。その結果, 女子大学生の精神障害者との接触経験は非常に少なかった。また, 精神障害者に対する態度は両価的であった。すなわち, 一般論としては受容的`理解的である反面, 個人としては不安に満ちており, 忌避的な面がうかがえた。次に, 接触経験, 社会的距離, 態度の相互の関連から, 直接・間接を問わず, 彼らに対する積極的かつ能動的な接触経験が精神障害者との社会的距離を縮めることを示唆した。しかし, 精神障害者に対する態度は必ずしも直接的な接触によって肯定的に変容するわけではなく, むしろ間接的ではあっても彼らに対する接触志向や関心の高さが否定的な態度の低減につながることがわかった。さらに, 否定的な態度と社会的距離の大きさとの関連が見いだされた。