著者
春名 苗 寺本 珠眞美
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.24, pp.19-25, 2016-03

高齢者虐待のケースには、市区町村が責任を持ち、地域包括支援センターと連携して対応することになっている。だが、実際には、市区町村がイニシアティブをとって高齢者虐待対応を積極的に行うところと、対応を地域包括支援センターにほぼ任せているところに分かれている。各11 市区町村に1 カ所の地域包括支援センターに聞き取り調査を行い、実態を明らかにした。その結果、虐待の対応の会議の開催については、随時行うところと、定例で行うところに分かれた。また、見守り支援については、計画を立ててフォローアップするところと、地域包括支援センターに見守りを任せているところにわかれた。会議開催と見守り支援等の特徴で類型化し、高齢者虐待の会議開催を随時行い、見守り支援の計画を立てる「随時・戦略型」が進むべき方向であると明らかにした。
著者
三品 佳子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.11-33, 2008-03
被引用文献数
1

本研究は、イングランドの脱施設化の歴史と背景にある思想を辿るなかで日本にACTを普及するために必要なことを明らかにすることを目的にした。イングランドの精神科病床削減は、1954年に始まり、現在も引き続き進行中であり、急激ではないが、着実に減り続けている。一定の地域を定め、サービスがどの家庭にも届けられるよう配慮されている。特に北バーミンガムでの取り組みは、ケアマネジメントを機能分化させた上で、バーミンガム市の社会福祉局やボランタリーセクターと連携を図りつつ、国民保健サービス(National Healty Service:NHS)のいくつかの機能的チームが地域生活支援を展開している。包括型地域生活支援プログラム(Assertive Community Treatment:ACT)は、重い精神障害のある人への最も効果的な地域生活支援の方法である。英国の精神保健の歴史とバーミンガムの実践から、ACTを日本に普及するためには、1.援助者の人間観や援助観、2.ACTのための予算の確保、3.援助者の使命感、4.援助者の技能の向上、5.援助者の待遇改善の5点が必要であることがあきらかになった。
著者
澤野 純一
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.59-79, 2014-03

児童自立支援施設(当時の教護院)で福祉実践を展開した辻光文は、仏教者として本物の道を求めるにあたって、あえて僧侶にはならず、在家仏教者として生きる道を選択した。27歳の時に初めて児童福祉分野の仕事に出会い、その後、児童自立支援施設の小舎夫婦制を知るにあたって、自分の進むべき道を見出す。後年、辻の仏教者としての歩みと福祉実践者としての歩みは、同一線上に重なり、深い仏教理解による「いのち」への眼差しを根底に据えた独自の福祉実践が展開されることになるが、本稿では、両者の歩みが重なる以前の辻の悪戦苦闘の時代を取り上げる。この時代、辻は、仏教者としても福祉実践者としても苦闘の中にあったが、小舎夫婦制における子どもたちとの境目のない生活を繰り返す中で、子どもたちと辻自身を貫く「いのち」の存在を見つめてゆく。本稿は、辻が後に展開することになる「いのちそのもの」を「共に生きる」福祉の黎明期を考察する。