著者
丹治 光浩 Mitsuhiro Tanji 花園大学社会福祉学部 THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.17, pp.1-11, 2009-03

スタートレックとは、22~24世紀の宇宙を舞台にした冒険物語である。その魅力は、最新の宇宙論を取り入れたリアルな未来世界の構築に止まらず、登場人物が織り成す人間関係や精神哲学にあることはいうまでもない。一般に芸術作品には作者の個人的な心理が反映されると同時に、さまざまな形で現実社会が反映されることが少なくない。たとえば、スタートレックにおいて人類が出会うさまざまな異星人は我々人間の一面をデフォルメして表現されたものであり、人類と異星人との間に生じるさまざまな誤解や葛藤は、そのまま現代社会における国家間の対立や人種問題の反映と考えることができる。本論では、臨床心理学的視点からTNG第9話を心の構造、TNG第79話を児童虐待、TNG第111話をPTSDとして解釈した。映画「GENERATION」は対象喪失と喪の作業として解釈し、平行宇宙はユング心理学における「影」として解釈した。そして、ボーグは無意識、ボーグドローンから人間世界への再適応は精神疾患の治療プロセスとして解釈した。Star Trek is a space adventure movie series set in the 22nd~24th century. Needless to say, the series highlights interesting aspects of interpersonal relationships and the philosophy of various space-traveling characters, in addition to constructing a realistic future world based on the latest cosmology. In general, the producer's mind and the social reality are reflected to a large extent in different art forms. For instance, in Star Trek, it is possible that various space aliens that humans encounter are expressions of different aspects of the human character. Moreover, different misunderstandings and conflicts between humans and aliens are reflections of the confrontations between nations and races in contemporary society. In this paper, the 9th episode of the series The Next Generation (TNG) is interpreted as the structure of the mind, the 79th episode is interpreted as child abuse, and the 111th episode is interpreted as PTSD. The movie "GENERATION" can be interpreted as object loss and mourning work. The parallel universe can be interpreted as "Shadow." And the borg society is interpreted as the unconscious, whereas the re-adjustment of a borg drone to the human world is interpreted as the process of treating mental illnesses.
著者
川島 ゆり子
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.23, pp.31-42, 2015-03

本研究の目的は、生活困窮者に対してどのようなセーフティネット構築が必要とされているのかを明らかにすることにある。セーフティネットというタームは戦前の社会福祉において他の社会制度の残余的な最後の砦としての意味で使われてきた。しかし社会福祉が制度的に確立した現代において、制度から漏れ落ちはざまに陥る人の増大が今日的な社会の課題となっていることを背景に、より積極的に他の制度にアクションを起こし、社会的排除の状況に陥る前に予防的に発動するセーフティネットが求められている。今日の社会課題に応答するセーフティネットを構築するためには、地域を基盤とする生活困窮者支援のシステムを公私協働で確立していくと同時に、生活困窮課題を地域の課題として考える意識の醸成が求められ、この二つの要素が重層的に地域の中にセーフティネットを形成すると考える。This study clarifies the structure of a safety net to support people living in poverty. In the prewar period, the term "safety net" was used in social welfare for complementing other social system malfunctions. Despite the development of laws related to social welfare, the number of people who cannot receive social services and are hence living in difficulties has been increasing. A safety net needs to be created that will be more active in identifying flaws in social systems and that will support people in early stages of social exclusion. As a result, a safety net to support people living in poverty should comprise two factors. One is collaboration of public and private sectors to build a support system and the other is the presence of a common consciousness of social exclusion in communities.
著者
三品 桂子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.63-83, 2013-03

本稿の目的は、アウトリーチのスキル、特に家族から相談を受け、ACT のスタッフがアウトリーチ活動を行い、利用者と支援契約を成立させるまでのプロセスで用いるスキルを明らかにすることである。調査対象機関は日本版ACT フィデリティ尺度の値が比較的高い日本の3つのACT チームである。調査期間は2006年3月〜2008年12月であり、事例記録、スタッフへの半構造化面接、フォーカスグループ、ミーティングや訪問場面の参与観察、出版物などをデータとし、そのデータをM-GTAで分析した。ACT における【出会い】のスキルは、≪家族と出会う≫≪家と出会う≫≪利用者と出会う≫スキルから成り立っており、22 の概念が生成された。なお、本稿では、スキルとは「重い精神障害のある人に対して、ACT の理念を基盤として、質のよいサービスを提供する際にスタッフが用いる知識、認知、行動(言動)」と定義し、ACT の利用者とその家族を対象とするミクロレベルのスキルを中心に明らかにした。
著者
橋本 和明
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.31-60, 2010-03

これまでの配偶者虐待研究は、実態調査や量的研究を中心とした虐待の発生や要因についての分析であった。本研究では、「事例のメタ分析」という質的研究法を用いて、虐待の深刻化のメカニズムについての要因分析を行った。対象とした事例は、ある都道府県の児童相談所及び配偶者暴力相談支援センターに持ち込まれた配偶者虐待 23事例であり、「事例のメタ分析」を実施してカテゴリーを生成し、そのカテゴリー間の構造化を図った。その結果、(1)加害者と被害者のパートナー関係、(2)加害者の特徴、(3)被害者の特徴、(4)家族関係の特徴、(5)関係機関との特徴にそれぞれ特徴が見出された。その一方で、虐待の深刻化を低下させるものとして、「ネットワーク機能のある切れ目のない支援」等、6つの要因が見出された。
著者
春名 苗
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要
巻号頁・発行日
vol.23, pp.19-30, 2015-03

本論文では、旧約聖書や新約聖書で障害者がどのようにとらえられているのかを明らかにしている。旧約聖書には、障害者への配慮を書かれた箇所はあるが、他方で神の戒めに従わない時には障害を持つという罰があると書かれ、障害者への差別とみられる表現も書かれている。そのため、文献研究によって、罪の結果の罰としての障害は、個人に語られたものというより、他宗教が混在する中で一神教を貫くために手段として語られた側面があったこと、障害者への差別的表現も時代背景を踏まえた解釈によって直接の差別的表現ではないことを明らかにした。その上で、イエスの登場によって、だれもが罪びとであり、障害が罰であるという側面が完全に否定されたことを論じている。
著者
塩田 祥子 Shoko SHIOTA 花園大学社会福祉学部 Faculty of Social Welfare Hanazono University
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.31-40,

わが国の福祉現場においてスーパービジョンの浸透は十分でない。なぜなのか。そのことを本研究では文献により整理した。そして、福祉現場におけるスーパービジョンの課題についてまとめた。根づかない理由として、(1)同職種間スーパービジョンが困難であり、かつ、経験値でスーパーバイザー役割が決まる、(2)管理的立場からのスーパービジョンの不理解のために、スーパービジョンの形骸化がおこる、(3)日本人はスーパービジョン関係といった契約関係よりも、感覚的な人間関係に重きを置く、といったことがあげられる。欧米発の理論をわが国の福祉現場にそのまま当てはめようとしても無理が生じて当然である。その現場ごとに応じたスーパービジョンを模索していくことが求められる。In Japan, supervision in the welfare services is not sufficiently widespread. In this study, we classify the literature on its reasons and summarize the issues of supervision in welfare services. The reasons why supervision is not sufficiently widespread include the following factors: 1) Supervision among people in the same type of occupation is difficult, and the role of supervisor is determined by the amount of experience. 2) Since supervision is not understood from a management standpoint, it loses its substance. 3) Japanese people emphasize informal human relationships rather than contractual ones such as supervision relationships.Although theories from Western countries are directly applied in Japan, they are naturally unsuitable to the Japanese culture. Therefore, it is necessary to continue seeking methods for increasing supervision, depending on the welfare services.
著者
坂下 晃祥 田中 秀和 Akiyoshi SAKASHITA TANAKA Hidekazu 花園大学社会福祉学部 花園大学社会福祉学部 THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.19, pp.79-94, 2011-03

2007(平成19)年に社会福祉士及び介護福祉士法が改正され、より時代のニーズに適合した社会福祉士の活躍が求められている。一方、福祉に関する専門職の資格として、社会福祉士より先に制度化された社会福祉主事については、議論の場に登場する機会が減少し、これまでにもその制度の形骸化が指摘されており、その存在意義が問われている。本稿においては、社会福祉主事任用資格の制定史を振り返り、改めてその意義と課題を探ることにより、今後の議論に活かそうとするものである。
著者
橋本 和明
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.9-27, 2014-03

徳島県立みなと高等学園は平成24 年に特別支援学校の高等部として開校した日本ではじめての発達障害のある高校生の学校である。本研究では、同校の教員へのインタビュー調査を実施し、発達障害のある高校生への支援のあり方を質的研究法により分析した。研究の結果として、「青年期の課題との向き合い方」、「生きる力を育てる経験」、「障害特性に応じた支援」、「さまざまな連携と協力」、「障害受容の促進」、「特別支援教育と高等学校教育との融合」という6 つのカテゴリーが抽出でき、それらが相互に関係し、立体的な構造となっていることがわかった。この学園での取り組みは発達障害のある高校生への支援にも非常に有効であると考えた。
著者
林 信明
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-13, 2013-03

慈善事務所は、フランス革命期の1796 年、貧しい人びとを救済するために設けられた公的機関である。しかし実際は、革命の混乱で実動するまでには至らなかった。慈善事務所の存在が知られるようになるのは、ナポレオン帝政下においてである。その後、この事務所はいくども名称をかえながら、今日の自治体社会福祉活動センター(CCAS: Centre communal d'action sociale )に至る。総じていえば、19 世紀前半は産業資本主義の形成過程の最中にあって、社会救済への国家の関与は希薄であった。本論では、とりわけ国家責任が曖昧な当時において、慈善事務所がどのような役割を果たしたかについて論及する。
著者
小海宏之 前田明子 山本愛 加藤佑佳 岡村香織 園田薫 安藤悦子 岸川雄介
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.91-96, 2010-03

本研究は、小海ら(2000 ,2004,2008)による日本語版 Mini-Mental State Examination(MMSE)の検出力と特異性を明らかにした。この MMSEの cut-off値を 24/25点とした場合、感度 0.837、特異度 0.957となり、臨床群( amnestic Mild Cognitive Impairment; MCIと probable Alzheimer's Disease; ADを含む)と健常群を判別するためのスクリーニングテストとして、十分な検出力と特異性を有することが示唆された。しかし、同様に 26/27点を cut-off値とした場合、感度 0.889、特異度 0.739となり、amnestic MCI群と健常群を判別するためのスクリーニングテストとして、十分な検出力と特異性を有するとは言い難く、他の認知機能検査による精査を行う必要性があることが示唆された。
著者
小海 宏之 岡村 香織 藤田 雄 杉野 正一
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.1-8, 2012-03

本研究は、Cloninger の3次元人格理論による認知症患者の人格特徴について検討することにより、今後の認知症患者に対する適切な心理的アプローチ法を開発するための基礎資料を得ることを目的とする。対象は軽度認知障害者13名(平均年齢73.6 ± 10.0 歳)とアルツハイマー病者12名(平均年齢74.2 ± 9.8 歳)である。方法は対象者にMini-Mental State Examination(MMSE)などの認知機能検査、およびTridimensional Personality Questionnaire(TPQ)を個別実施した。その結果、アルツハイマー病者は軽度認知障害者と比較して、全般的認知機能の低下が認められるとともに、人格特徴としての行動の触発(新奇性追求総合点: U=43.5, p<0.10)や維持(報酬依存総合点: U=43.0, p<0.10)の低下が明らかとなった。これらの特徴から、アルツハイマー病者は軽度認知障害者と比較して、dopamineやnorepinephrine の分泌量が低下する可能性を示唆するとも考えられる。
著者
丹治 光浩 Mitsuhiro TANJI 花園大学社会福祉学部 THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.1-14,

一般に、箱庭はアセスメントツールとしてではなく、セラピーツールとして利用されている。一方で、多くのセラピストは箱庭作品から制作者について多くの情報を読み取り、それを心理治療に生かしているという事実がある。そこで、筆者は、これまでの箱庭に関する基礎研究と臨床事例をもとに心理アセスメント技法として箱庭を利用することの可能性について考察した。その結果、制作者の情報に充分な配慮をし、常識的な解釈をすることで、アセスメント技法として箱庭を利用することは可能であることが示された。Sandplay is generally used as a therapeutic tool, rather than as an assessment tool. On the other hand, therapists get much information about the creator from a sandplay work and they utilize it for psychotherapy. Based on past theoretical and clinical case studies on sandplay therapy, the possibility of using sandplay as a psychological assessment technique was investigated. Results indicated the possibility of using sandplay as a psychological assessment technique and also suggested the need for considering the creators' information and to making interpretations from a commonsense perspective.
著者
安田 三江子
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.24, pp.27-38, 2016-03

仏教福祉研究では、臨済宗の立場からの研究はたいへん少なく空白となっている。しかし、実際には、評価の高い禅仏教徒の実践はあり、その研究は重要である。本研究は本学の卒業生で非常勤講師も長く務めた辻光文の児童自立支援施設における実践を手がかりに禅仏教徒の福祉の実践について研究した。辻は禅について語ることをほとんどしないが、その支援は、まさしく、「己事究明」「自他不二」の具現化であった。Buddhism make the good practice of Social welfare. In this fact, I study Zen Buddhist" TUJIKoubun" who was a worker of children's self-reliance support facility. The children who weremaltreated by difficult family spoil himself. And they turn to delinquency. It is important torecovery the mind. All children and workers live together. The think and practice is " JITA FUJI ofZen Buddhism, and according to the conditions of children.
著者
安田 三江子
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.24, pp.27-38, 2016-03

仏教福祉研究では、臨済宗の立場からの研究はたいへん少なく空白となっている。しかし、実際には、評価の高い禅仏教徒の実践はあり、その研究は重要である。本研究は本学の卒業生で非常勤講師も長く務めた辻光文の児童自立支援施設における実践を手がかりに禅仏教徒の福祉の実践について研究した。辻は禅について語ることをほとんどしないが、その支援は、まさしく、「己事究明」「自他不二」の具現化であった。Buddhism make the good practice of Social welfare. In this fact, I study Zen Buddhist" TUJIKoubun" who was a worker of children's self-reliance support facility. The children who weremaltreated by difficult family spoil himself. And they turn to delinquency. It is important torecovery the mind. All children and workers live together. The think and practice is " JITA FUJI ofZen Buddhism, and according to the conditions of children.
著者
春名 苗 寺本 珠眞美
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.24, pp.19-25, 2016-03

高齢者虐待のケースには、市区町村が責任を持ち、地域包括支援センターと連携して対応することになっている。だが、実際には、市区町村がイニシアティブをとって高齢者虐待対応を積極的に行うところと、対応を地域包括支援センターにほぼ任せているところに分かれている。各11 市区町村に1 カ所の地域包括支援センターに聞き取り調査を行い、実態を明らかにした。その結果、虐待の対応の会議の開催については、随時行うところと、定例で行うところに分かれた。また、見守り支援については、計画を立ててフォローアップするところと、地域包括支援センターに見守りを任せているところにわかれた。会議開催と見守り支援等の特徴で類型化し、高齢者虐待の会議開催を随時行い、見守り支援の計画を立てる「随時・戦略型」が進むべき方向であると明らかにした。Local governments are supposed to take responsibilities for the cooperation with communitygeneral support centers in cases of elder abuse. Some local governments, in fact, take initiatives forfacing elder abuses, but some rely completely on community general support centers.Hearing investigations, conducted at eleven community general support centers in nine distinctmunicipalities for understanding the current situations, have revealed the followings: (i) Somelocal governments hold countermeasure meetings at any time if required and others do on aregular basis. (ii) Some follow-up watch support according to the plan and others rely mostly on thecommunity general support centers for the implementation of watch support.In the classification by the mode of meetings and watch supports, "anytime and strategic" type,where the meeting is held at any time and the watch support is conducted according to the plan, isdesired for the future direction.
著者
小海 宏之 加藤 佑佳 成本 迅 松岡 照之 谷口 将吾 小川 真由 三村 將 仲秋 秀太郎 江口 洋子 飯干 紀代子 園田 薫 岸川 雄介 杉野 正一
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.29-37, 2014-03

本研究は、各神経心理検査の一つの下位検査から言語性記憶指数(VMQ)を推定するための基礎資料を得ることを目的とする。対象は軽度認知障害者およびアルツハイマー病者の計71 名である。方法は対象者にMMSE、ADAS、WMS-R を個別実施し、VMQ との相関分析を行った。また、VMQ と各神経心理検査の下位検査との間で最も高い相関係数値となった下位検査についてVMQ との単回帰式を求めた。その結果、推定VMQ=50.203+6.661×(時間的見当識素点)、推定VMQ=39.469+6.762×(平均単語再生数)、推定VMQ=68.921+1.439×(論理的記憶II(遅延)素点)の単回帰式が得られた。さらに、これらの単回帰式から得られた各下位検査と推定VMQ に関する判定基準を導き出した。医療同意能力を予測する因子の一つとして記憶の機能は重要であると考えられるため、本研究結果の指標は有用になるであろうとも考えられる。
著者
丹治 光浩 松本 真理子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-8, 2014-03

本研究の目的は、わが国の臨床場面において使用されているロールシャッハ技法の実態とそれに対する臨床家の意識について調査し、ロールシャッハ・テスト教育の今後の方向性を探ることである。ロールシャッハ・テスト関連の2 つの学会名簿から無作為抽出した588 名を対象にアンケート調査を実施した結果、最初は片口法で学んだ者が最も多いものの(60%)、現在は包括システムで実施している者が最も多かった(59%)。また、使用技法を変更した者が51%にみられ、そのほとんどが片口法から包括システムへの変更であった。その理由としては、エビデンスの存在、分析・解釈の容易さなどが挙げられた。一方、解釈には形式分析のみでなく、内容分析や継列分析を盛り込むとした回答が多く、わが国の臨床家が統合的な解釈を実践していることが示唆された。ロールシャッハ・テストに対する課題としては、「スコアリングの難しさ」「研修の機会」「職場の理解」「技法の違いをめぐる対立」「大学院教育の充実」などが挙げられ、今後のロールシャッハ・テスト教育のあり方を検討する必要性が考えられる。