著者
丹治 光浩 松本 真理子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-8, 2014-03

本研究の目的は、わが国の臨床場面において使用されているロールシャッハ技法の実態とそれに対する臨床家の意識について調査し、ロールシャッハ・テスト教育の今後の方向性を探ることである。ロールシャッハ・テスト関連の2 つの学会名簿から無作為抽出した588 名を対象にアンケート調査を実施した結果、最初は片口法で学んだ者が最も多いものの(60%)、現在は包括システムで実施している者が最も多かった(59%)。また、使用技法を変更した者が51%にみられ、そのほとんどが片口法から包括システムへの変更であった。その理由としては、エビデンスの存在、分析・解釈の容易さなどが挙げられた。一方、解釈には形式分析のみでなく、内容分析や継列分析を盛り込むとした回答が多く、わが国の臨床家が統合的な解釈を実践していることが示唆された。ロールシャッハ・テストに対する課題としては、「スコアリングの難しさ」「研修の機会」「職場の理解」「技法の違いをめぐる対立」「大学院教育の充実」などが挙げられ、今後のロールシャッハ・テスト教育のあり方を検討する必要性が考えられる。
著者
藤森 旭人
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.55-62, 2013-03

本論では対人援助職に内包される援助者のこころの在りようを出発点とし、心理療法の中でも無意識を扱う精神分析において、心理療法家が個人分析と呼ばれる精神分析を受けておく意義や必要性について考察した。その理解を促進させるために漫画「ホムンクルス」を用いた。「ホムンクルス」とは「こころの歪み」であり、主人公が他者の「ホムンクルス」を視覚化して見ることができるという設定になっている。この歪みは精神分析的作業の中では転移-逆転移として捉えられるものであり、他者の「ホムンクルス」と関わることで、精神的破綻をきたすまでが描かれている。対人援助者は、自分の傷つきを棚上げし、他者への援助によって自分自身を保とうとする傾向があることにも触れ、この傷つきや破綻を防ぐためにも、個人分析を受けておくことの必要性について論じた。そして、それは他者のことをよく考えられるこころの状態を作りだしておく作業でもあることを強調した。
著者
植田 恵理子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.97-109, 2013-03

本稿は、筆者が主催する参加体験型音楽劇「音の絵本」コンサート時に見られた、「協同して、何かを成し遂げる観客の姿勢」から、協同して表現活動に参加するための要因を導き出し、保育現場の活動に生かす方法を示唆するものである。ここでは、音の絵本「西遊記」というコンサートを取り上げ、観客が協力して、生き生きと積極的な表現活動を行った場面を抽出し、その要因となった事項を導き出す。得られた結果を踏まえて構成した、音の絵本「ねえ、おはなししてよ」を、S 幼稚園にて実施したところ、コンサート時と同じように園児たちが協力し、積極的に表現を工夫し合う姿が見られた。以上から、協同的な学びを引き出す音楽活動の一つとして、参加体験型の音楽劇が有効であることがわかった。
著者
渡辺 実
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.49-62, 2012-03

知的障害児の文字・書きことば学習の指導について、担当教員の意識や指導方法を明らかにすることによって、文字・書きことばの習得学習が効果的に行われるための基礎的要件を明らかにする。研究方法は、K 市小学校の特別支援学級担当教員51 人に、勤務年数や書字指導について、児童の発達段階の意識等、7 項目の質問を4 段階で回答してもらい、その理由をKJ 法で分析し、各質問項目の相関も調べた。結果として、国語の重点課題では「話すこと」をあげた教員が最も多く、「書くこと」の指導は最も少なかった。回答における各項目の相関では、「発達段階の考慮」と「書字学習は難しいか」という質問において女性教員では弱い相関がある。男性教員では経験年数と指導法において負の相関が認められ、経験年数が増すに従って指導法の悩みが減少していくが、「経験に頼っている」という反省もある。指導方法では、具体的な工夫や児童と指導者の課題を述べ、積極的に週予定の中に書字指導を組み込み、指導の有効性と見通しを持って指導をすることが必要であると言える。
著者
藤井 渉
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.21-36, 2012-03

本稿では、身体障害者福祉法の対象規定に着目し、その成立と内容について考察を行うものである。身体障害者福祉法の対象規定には、身体障害者福祉法の別表と、身体障害者福祉法施行規則に示されている身体障害者障害程度等級表がある。そこで本稿ではこれらを取り上げ、その成立過程と、他の社会保障関係法との比較によってどのような特徴及び関連性を有するのかを検討した。
著者
福富 昌城 坂下 晃祥 塩田 祥子 Masaki FUKUTOMI SAKASHITA Akiyoshi SHIOTA Shoko 花園大学社会福祉学部 花園大学社会福祉学部 花園大学社会福祉学部 Faculty of Social Welfare Hanazono University Faculty of Social Welfare Hanazono University Faculty of Social Welfare Hanazono University
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.20, pp.9-19, 2012-03

本報告はケアマネジャーを対象としたグループ・スーパービジョンの連続研修会における調査の結果である。調査は、参加者がどのような学びをしたのかを明らかにすることを目的とした。調査結果として、参加者は「既に得ている情報や利用者像を異なった角度から見直す」ことで「ケースの見方」を深め、事例検討会/グループ・スーパービジョンにおいて「事例提供者の努力を承認する姿勢」を持つことで支持的な関わりを学んでいることが理解できた。
著者
脇中 洋
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.53-81, 2008-03

1995年7月に大阪市東住吉区の住宅密集地で発生した火災は、娘Mの死亡保険金目当ての詐欺未遂および放火殺人事件(いわゆる東住吉事件)として母親Aと内縁の夫Bが立件され、2人には2006年11月最高裁で無期懲役刑が確定している。本件は放火を裏付ける物的証拠がなく、AおよびBの自白のみを証拠としている。特にBには大量の供述があり、その大半で放火殺人を認めて克明に犯行様態を記しているが、その供述には数多くの疑問点が指摘されている。筆者は控訴審の段階から弁護団の鑑定依頼を受けて、B供述が「真犯人が体験を記した」ものか、「無実の者が犯人に扮して記した」ものかを明らかにするための供述分析を行なった。この鑑定書のうち、本稿では夫が自白に落ちた当日の供述を紹介して、自白の生成プロセスに関する評価を行なう。