著者
薄井 篤子
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.3-23, 2004

本論稿の目的は、性差別撤廃を願う女性たち/男性たちが、日本のキリスト教界でどのようなジェンダー問題をめぐる提起を行なってきたのかを概観することにある。1989年、日本基督教団総会上で「性差別問題特別委員会」の設置が承認された。委員会の取り組んだ問題は多岐に渡るが、その焦点は教団における女性の参画率の低さの改善、結婚式式文に見られる性差別表現の削除、同性愛者排除の言説批判に向けられた。それらへの取り組みから、委員会は結婚式と牧師職の現状に現われている「男性=牧師=聖なるもの」というジェンダー構造を指摘し、教会の構造自体が性差別と強制異性愛主義を内包していることを批判した。2002年度の総会において機構改組を理由に委員会の活動は廃止された。約14年間にわたるその活動の軌跡は、宗教集団においてジェンダーをめぐる議論を行なうことがいかに困難であるかを物語る。しかし同時に、宗教集団は伝統的なジェンダー構造の再検討を迫られる状況にあることも伝えている。
著者
小原 克博
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.3-23, 1998-07-06 (Released:2017-07-18)

本論文は、フェミニズム思想およびフェミニスト神学と対話しつつ、特にジェンダーの視点から伝統的な神理解の再解釈を試みる考察である。第1章では、最近の英訳聖書において、父なる神という伝統的理解が見直されつつある状況を考慮しながら、聖書が男性中心的であるという批判を解釈学的にどのように受けとめることができるかを論じる。第2章では、フェミニスト神学によって批判されている男性中心的神理解が、「神の像」という概念を媒介にして人間論にまで拡張されていることを考察する。第3章では、聖書的伝統の中には、父なる神、唯一神論という定型的理解に収まらない多様な神理解があることを論述する。第4章では、家父長制的拘束からの解放を模索するフェミニスト神学の試みを類型的および解釈学的に検討する。第5章では、フェミニスト神学の成果が日本の文化の中で、どのように受容されるべきかを示唆する。
著者
小尾 淳
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.19, pp.17-32, 2013

90年代初頭の経済自由化以降、インドは大きな社会変容を遂げつつある。本論文では、社会変動期のインドにおける宗教性を、「宗教のパトロネージ」の概念から捉える。交通インフラの向上に伴い、長距離の移動が格段に容易となったことを受け、都市郊外や海外へ有名寺院の一行が赴き、見世物化した宗教儀礼の巡業など、ダイナミックな宗教的移動が顕著に見られる。本論文の事例となる宗教芸能「バジャナ・サンプラダーヤ」(賛歌の伝統)の巡業や巡礼ツアーも、高い「移動性」に依拠して成立している。これらの需要を生み出し、経済的な受け皿となっているのは宗教活動に寄付を惜しまない中産階級や企業である。現代インドの宗教の特徴の一つとして「移動性」が顕著であること、宗教活動自体が新たな階級表現と捉えられることを指摘する。