著者
湯浅 愼一
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.47-52, 2009-01-31

人間の本質を単に植物や動物等という他の存在者から区別して考察しようとするとき,人間という概念の非規定性ないし多義性ゆえに人間の本質の考察は迷路でその指針を見失う。それに対してハイデッガーは人間を世界の内に在って自らの存在の可能性に向けて自らを投企する存在,すなわち 現存在として捉え,それを分析することを彼の課題とする。後期に至ってハイデッガーは現存在の分 析から存在そのものの意味の解釈に移行し,ここで20世紀の形而上学及び経験科学の徹底した主観主義化と人間主義化を指摘し,烈しく糾弾する。
著者
石川 義之
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.139-159, 2003-01-31

筆者たちは、1999年〜2000年に関西圏に在住の女性を対象に無作為抽出法による性的被害の実態調査を実施した。この調査データの統計分析によって有意であることが確認された諸変数間の関係は次のようであった。(1)性的被害と5つのデモグラフィック原因(回答者の現在の年齢、現在の配偶者との同居状況、現在の母親との同居状況、回答者が育った地域、回答者の現在の雇用形態)との関係。(2)性的被害と心理的損傷(=客観的トラウマ変数)との関係。(3)性的被害の頻度、加害者のタイプ、被害継続期間と主観的トラウマ変数との関係。(4)性的被害とPTSD症状(=客観的トラウマ変数)との関係。(5)心理的損傷とPTSD症状との関係。(6)性的被害経験と「否定的」生活経験(=客観的トラウマ変数)との関係。(7)心理的損傷と「否定的」生活経験との関係。(8)PTSD症状と「否定的」生活経験との関係。以上の諸関係から性的被害のもたらす影響の流れを抽出すると、その影響の流れのメイン・ルートは、性的被害→心理的損傷→PTSD症状→「否定的」生活経験、と定式化できる。この連関から、PTSDの発症や「否定的」生活の発生を防止するためには、より前の段階での専門家等による治療的・福祉的介入が必要であることが示唆された。
著者
石川 義之
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.119-172, 2004-01-31

この論考は、A県在住の男女を対象に実施したドメスティック・バイオレンス(DV)に関する実態・意識調査からのデータを基に、全国調査や他都道府県調査のデータをも比較対照しながら、DVの病理を解明したものである。 ドメスティック・バイオレンスを身体的暴力、精神的(心理的)暴力、性的暴力、ネグレクトの4つに分類した上で、DVの経験率、DVの認識度、DV発生の要因・条件・背景、DV被害の影響、DV被害についての相談、DV問題解決のための方策などについて、経験的データに基づく分析がなされている。 調査分析から得られた最も重要な発見は、DVの被害経験率は男性に比して女性が圧倒的に高く、しかも女性のうちでもDVの被害を最も受けやすいタイプは、伝統的家父長制男性社会のパターンからはずれた意識を持ち行動する革新的タイプの女性であること、したがって、DV問題の解決のためには、伝統的家父長制男性社会のパターンに固執し、それから逸脱する女性に対して暴力をもって対応する男性の意識・行動傾向を是正することが重要であることが示唆されたこと、であると言えよう。
著者
杉浦 隆
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-8, 2003-01-31

オノマトペ+つく」という形態を持った複合動詞の統語的および意味的特徴の分析を行う。「つく」には非能格タイプと、非対格があり、それぞれ異なったLCSを持つことを示す。また、オノマトペ表現は「つく」に対する副詞的付加語として機能し、「つく」のタイプによって、状態変化の結果を表すものと、活動の様態を表すものがあることを示す。
著者
上野 矗
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-74, 2005-01-31

ここでは、ショッキングな出来事を契機に人間不信に陥ったケースを例示し、援助的理解をはかるT様グループのかかわり合いのプロセスに経験的現象学的方法による意味分析を試みる。そこから感情体験表明としての涙が援助的理解にとってもつ意味と効用に関して検討を加えようとする。 検討結果は、次のようである。 1)感情体験表明としての涙がその意味と効用たらしめるのには、送り手と受け手の反応の仕様が大きくあずかっている。 2)涙は心理的なしこりを溶かす。 3)涙は抑制された情緒的エネルギーを解放し、カタルシスをはかる。 4)涙は心の傷を癒す。 5)涙は気づきや洞察への契機となり、導き手となり、その証明を確認する。 6)涙は援助的理解を確実にし、また深めていく。 7)涙は、人をして生涯時間の時制を"生きられた時間"の展望に向けた再編成をはかり、そこから新しく生産的で健やかな生活世界への道を開らく。すなわち、過去をいまに引き入れ既往化し、新しい意味づけを見い出し、これを足場に、未来を将来化し、新しい展望を拓らくのである。 8)なお、涙は、丁度ステロイド剤がそうであるように、両刃の刃で、その効用と同時に有害ともなりうるとの認識の重要さが指摘される 。
著者
高橋 裕子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.95-103, 2005-01-31

アスペルガー障害(Asperger's disorder: ASP)とは、DSM-IVにおいては高機能広汎性発達障害(high-function pervasive developmental disorder; HFPDD)の下位障害に分類されており、1944年にアスペルガーが報告した自閉症の中でも比較的言語発達が良好なタイプを指す。この障害の特徴として「社会的相互作用の質的障害」があるが、高い能力を有しながらも社会適応が困難である点、本人も周囲もこの質的障害を正しく認知し、適切な対応や支援を求めることが難しい点は、社会的な次元の問題であると同時に、障害の個人差を見極めにくいことが関与している。 本稿では、成人後にアスペルガー障害であると診断された女性のロールシャッハ反応に現れる特徴を形式構造解析の観点から検討し、援助の手がかりとした事例を報告する。
著者
徳永 正直
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.9-18, 2005-01-31

Alice Miller hat konsequent eine flammende Anklage gegen die Padagogik erhoben. Wenn die Erziehung die Verletzung der Rechten des Kindes ware, wurde sie die schwarze Padagogik genannt. Das kind hat eigentlich Sehnsuchtiges Verlangen nach der Liebe der Eltern. Sie haben oft mit der Angst des kindes vor Verlust seiner Eltern manipuliert und auf das gute fur sie gunstige Kind aufziehen lassen. Das ist nichts anderes als Verbrechen. Deshalb hat sie vorgeschlagen, die schwarze Padagogik in eine weisse Padagogik umzuwandeln. Hier handelt es sich um den Dialog mit dem Kind. Aber der ist nicht so einfach, nicht nur weil Lehrer oder Erzieher den Schulern Uberlegen sein mussen, sondern auch weil sie von der Seite der Schuler aus nicht verstehen konnen.
著者
石川 義之
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
no.4, pp.105-127, 2005-01

この論文は、A県在住の男女を対象に実施したドメスティック・バイオレンスの調査データを統計的に解析したものである。統計解析は、女性調査と男性調査の2つがある中で、男性調査を中心に行われた。 分析によると、女性のDV被害経験率は男性のそれに比して顕著に高い。また、男性のDV加害経験率は女性のそれよりも高い。以上から、ドメスティック・バイオレンスは、事実上、男性から女性に対して向けられた暴力行為を指す現象であると捉えることができる。ただし、女性のDV被害経験率と男性のDV加害経験率との比較から、男性は自らの行ったDV加害行動の多くをそれとして自覚していないことが知られる。 無自覚的行為を含む男性のDV加害諸行為(DV加害経験)を規定する基礎要因を統計解析によって探った。この点に関して、以下のことが明らかとなった。 1.男性のDV加害経験と男性の現在の年齢 : 比較的に年齢の高い層のほうが低い層よりも男性のDV加害経験率が統計的に有意に高い。 2.男性のDV加害経験と男性の現在の仕事 : 男性の現在の仕事が「家族従業者」である場合男性のDV加害経験率は最も高く、「勤め人」である場合それが最も低い。 3.男性のDV加害経験と男性の現在の雇用形態(「勤め人」の場合): 男性の現在の雇用形態が「パートタイム、アルバイト、嘱託、臨時など」の非正規労働である場合のほうが「正社員、正職員」という正規労働である場合よりも男性のDV加害経験率は高い。 4.男性のDV加害経験と現在の同居家族の状況 : 「3世代以上の家族」に所属する男性においてDV加害経験率が最も高く、「同居家族なし」の単身男性においてそれが最も低かった。 5.男性のDV加害経験と現在の居住地域 : 居住地域による男性のDV加害経験率に統計的な有意差は認められなかった。このことは、DVが都市化現象であるとする見方に対する反証となる。 6.男性のDV加害経験と現在の家族の経済状況 : 「下」の経済階層に帰属する男性のDV加害経験率が最も高く、「上」の経済階層に帰属する男性のそれが最も低かった。 7.男性のDV加害経験と現在の妻(パートナー)の年齢 : 相対的に高年齢層に属する妻(パートナー)を持つ男性のほうが低年齢層に属する妻(パートナー)を持つ男性よりもDV加害経験率が高かった。 8.男性のDV加害経験と妻(パートナー)の現在の仕事 : (1)妻(パートナー)の現在の仕事が「家族従業者」である場合において男性のDV加害経験率が最も高く、「自営業主」である場合にそれが最も低い。(2)妻(パートナー)の現在の仕事が「雇用労働者」である場合と「家事専業」である場合とを比較すると、「雇用労働者」である場合のほうが男性のDV加害化率が高かった。 9.男性のDV加害経験とと妻(パートナー)の現在の雇用形態(「勤め人」の場合): 妻(パートナー)の 現在の雇用形態が「パートタイム、アルバイト、嘱託、臨時など」の非正規労働である場合のほうが「正社員、正職員」という正規労働である場合よりも男性のDV加害化率は高い。 10.男性のDV加害経験と妻及び夫の教育歴(学歴): 男性のDV加害経験率が最も高かったのは教育歴が「妻のほうが夫よりも長い」場合で、次いで「両者の教育歴はほぼ同じくらい」、「夫のほうが妻よりも長い」場合は最も低率となっている。 11.男性のDV加害経験と現在の回答者(夫)の家族の収入や家計の状況 : 夫・妻の「両者の収入はほぼ同じ」場合において男性のDV加害経験率は最も高く、次いで「妻の収入のほうが夫よりも多い」、「夫の収入のほうが妻よりも多い」場合にはそれが最も低くなっている。In this paper we made attempts to analyze statistically the data of domestic violence from the survey which was conducted on the subject of men and women in A prefecture. We conducted two kinds of survey, namely men's survey and women's survey. Our statistical analyses were based mainly on men's survey data. According to our statistical analyses, the victimized experience rate of women is extremely higher than that of men, and the assaulting experience rate of men is far higher than that of women. For this reason, in fact, domestic violence means the violent actions from men against women. However, from comparison of women's victimized experience rate and men's assaulting experience rate, it is obvious that men are not well aware that many of their own behavior are domestic violence. We made the relations between the following pairs of variables clear by chi-square (X2 )tests.1.The relation between men's assaulting experiences and men's present ages. 2.The relation between men's assaulting experiences and men's present works.3.The relation between men's assaulting experiences and men's present employment terms.4.The relation between men's assaulting experiences and the present situations of living together family members.5.The relation between men's assaulting experiences and the present dwelling regions.6.The relation between men's assaulting experiences and the present economic situations of their families.7.The relation between men's assaulting experiences and their wives' (partners') present ages. 8.The relation between men's assaulting experiences and their wives' (partners') present works.9.The relation between men's assaulting experiences and their wives' (partners') present employment terms.10.The relation between men's assaulting experiences and men's and their wives' educational backgrounds.11.The relation between men's assaulting experiences and the present situations of their family finances.
著者
仲谷 兼人
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.57-69, 2006-01-31
被引用文献数
1

絵画表現の本質は2次元の平面上に3次元の空間を再現するところにある。このことと、網膜像に基づいて立体的な空間を認知している我々の視知覚システムの機能との間には強い類似性が指摘できる。本稿では絵画に見られる各種の遠近表現法、特に線遠近法をとりあげ、ルネサンス期以降の西洋絵画と江戸期の浮世絵を比較して論じている。知覚心理学と芸術心理学の立場から、単眼性の「奥行き知覚の手がかり」が芸術表現の意図とどのように調和し、利用されているか、例を示しながら紹介した。 初期の浮世絵の中にはルネサンスの線遠近法の直接的・間接的影響を受け、紙面上に構成された奥行きのイリュージョンを楽しむものがみられた。これを浮絵と呼ぶ。浮絵はくぼみ絵の別称が示すように奥行き感の表現を重視したが、次第に線遠近法の制約、限界を意識し、最盛期には洗練された独自の空間表現が見られるようになった。葛飾北斎は伝統的な日本画の表現と線遠近法に基づいて構成される近代的な風景表現を画面上に描き分け、観察者を窮屈な幾何学的枠組みから解放した。また直線を用いず、多くの同心円で構成された画面から新たな幾何学的遠近法の可能性を示した。安藤広重は伝統的な俯瞰図を遠近法と調和させ、観察者の視線を誘導することによって空間の広がりを表現することに成功した。同時期西洋では印象派がルネサンス以来の空間表現の限界を打破すべく台頭し始めていたが、幕末の開国以降、浮世絵は西欧、とくにフランスでよく知られるようになり、ジャポニズムの流行とともにロートレック、セザンヌ、ドガ、ゴッホをはじめとする後期印象派に強い影響を与えた。
著者
中井 歩
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
no.6, pp.191-203, 2007-01

1990年に施行された改訂入管法は,日系南米人,とくに日系ブラジル人を中心とする新しい移 民現象をもたらした。彼らは集住し,エスニック・コミュニティーを構成する。そうした中で,地方 政府はどのような政策対応をするのであろうか。浜松地域における新しい移民現象とそれに起因する 諸問題対する政策対応について,垂直的協業と水平的協業という 2 つの側面から分析する。
著者
佐橋 由美
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
no.9, pp.35-54, 2010-01

本研究の目的は,2006〜07年に開発に取り組んだレジャー志向性尺度(試作版,2006;改定版,2007)の安定性,実際場面での使用を想定した使い勝手のよさや現象解析力などの有効性について検討することであった。これまで学生を対象として,尺度の有効性を評価する作業を進めてきたが,本研究では,学生も含め20歳以上,70歳代までの幅広い年齢層の成人女性にまで対象を拡大して調査を実施し(N=228),志向性尺度の因子構造の安定性やレジャー現象を的確に解明しうる分析枠組みとしての効能(判別力)等,有効性の問題について検討した。さらに今回,志向性尺度を"旅行"という新たなレジャー文脈のニーズ把握や行動予測に応用することにより,尺度の新たな意義を探る試みも行った。32の志向性項目を因子分析した結果,先行研究と同じく(1)長期的展望・向上(2)活動性(3)主導性(4)対人関係志向(5)利他主義(6)自然志向の6つの因子が抽出され,下位尺度の内的一貫性も充分に高かった(α=.839〜.706)。続いて,下位尺度ごとの因子得点に基づいてクラスター分析を実施,全体をレジャー志向性に関して様々な特徴をもついくつかのグループに分類した後,グループ間でレジャー参加度,レジャー満足度,内発的動機づけ,好みの旅行スタイル,旅行に求める要素,旅行経験,全般的wellbeing指標等を比較していった。レジャー生活の充実度,生活全体の充実度,旅行等,どの生活局面に関する比較結果にも,最も積極的・活動的な行動傾向を示す「最適型」から→「高活動-対人関係志向型」→「自己啓発型」「低活動-対人関係依存型」→最後に最も消極的・非活動的な姿勢が特徴の「消極型」という順序で,得点・水準が低下していくパターンが認められた。一連の統計分析の結果は,レジャー志向性の考え方が個人のレジャー生活や,ひいては生活全般の充実の程度を予測するのに有効であることを示しており,これを定量化する志向性尺度は,レジャー教育や支援等の実践場面において,効果的に個人のレジャー生活の現状を評価するツールとしての可能性をもつことが示された。
著者
野中 亮
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.161-175, 2003-01-31

本稿の目的は、エミール・デュルケームの社会学を、方法論を中心に再検討することである。 『社会分業論』『社会学的方法の基準』において呈示された方法論は、素朴な実証主義に基づいたものであり、『自殺論』やそれに続く『宗教生活の原初形態』において大きく改変されていった。その課程で、方法論としての象徴主義は理論へと変化していったのである。 『宗教生活の原初形態』で展開された方法論は、象徴論と儀礼論とを包含するものであった。本稿では、この方法論を、信念体系にかかわる象徴論と、行為にかかわる儀礼論とを接合したものととらえ、 『社会分業論』から『宗教生活の原初形態』にいたるデュルケームの理論体系の一貫性・整合性を強調した。 この作業によって、これまで懸案とされてきた集合的沸騰論をよりクリアなものにすることができ、これまで汲み尽くされてはいなかったデュルケーム理論の含意をより明確にすることができたのである。
著者
野中 亮
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.195-209, 2002-03-01

This paper is an attempt to reinterpret Emile Durkheim's Les formes elementaires de la vie religieuse. In this text, we can see a remarkable imbalance between theoretical significance of 'le sacre' and 'le profane'. This imbalance, however, is the solvable subject. First of all we investigate the cause of this imbalance by reinterpreting De la division du travail sociale, Les regles de la methode sociologique, Le suicide. In this work, we find a keystone for a solution of this imbalance, 'morphologie sociale'. These arguments which based on positivism were regarded as 'semi-behaviorist objectivism' or 'sociologistic positivism' by Talcott Parsons. Secondly 'morphologie sociale' varied with the time, but Durkheim's motif-Idealistic Social integration-did not change. Thirdly it was natural that the framework of the Durkheim's social theory was reconstructed in Les formes elementaires, Durkheim emphasized the importance of 'rite' and 'symbolism'. Imbalance between theoretical significance of 'le sacre' and 'le profane' represented Durkheim's dilemma that he had to give up his positivism or his idealism.
著者
竹村 一夫
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.179-189, 2007-01-31

母子家庭を対象とした福祉施策は,「きめ細かな福祉サービスの展開」と「自立・就労の支援」を中心とした施策に転換された。その背景としては,高齢社会化にともなう社会保障費の増大と政策における思想的な背景としての新自由主義,市場主義の影響が指摘できる。母子家庭の経済的な現状としては,国民生活基礎調査では,2003年の母子家庭の1世帯当たりの平均所得は全世帯の平均所得の半分以下しかない。シングルマザーの就業率は非常に高いが,非正規雇用者の割合は一般就労者より高く,近年進行した雇用の多様化は,就労する条件としては不利になりがちなシングルマザーにより厳しい影響を与えている。岡山市のシングルマザーを対象とした聞き取り調査からえられた課題としては,資格があっても残業や夜勤のある仕事には就きにくいこと,パソコンの練習をしたくても購入しにくいこと,転職や就業条件のことなどで相談に行きたくても行きにくいこと,養育費の確保が困難な場合が一定程度含まれると考えられることなどをあげることができ,特に相談機能の弱さを補っていくことと,母子家庭への情報提供のあり方として,情報が単にそのまま提供されるのではなく,必要な情報をその意味するところも含めていかに的確に伝えられるかが課題となるだろう。