著者
鳥山 平三
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
no.5, pp.35-44, 2006-01

著者の唱える「物性心理学」によると、現代のさまざまな心理学的な現象の背景に、われわれが日常使用する衣食住の生活用品の材質からくる特性の反映があることを指摘した。特に、多用されている「プラスチック樹脂」の製造過程や廃棄処分に伴い溶け出す「環境ホルモン」の影響により、現出すると推測されている性別未分化症候群としての「性同一性障害」や「同性愛志向」、あるいは、軽度発達障害や自律神経失調症等の「化学物質過敏症」が憂慮されている。それは「プラスチック心性」と名づけた本来の自然性が損なわれた「~もどき」のまがいものや生理学的な内分泌撹乱の為せる業の帰結であると考えられる。奇しくも化学合成の産出物が「心理材質論」を裏づける人間模様を染め出していることがわかったのである。もうすでに手遅れのきらいがあるが、少しでも自然に回帰するべく、「グリーンケミストリー」になじむ草や木の材質を取り込むところから醸し出される、「木の性格」や「木質心性」への環境復活が早急に求められると言えよう。
著者
鳥山 平三
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.83-91, 2003-01-31

物性心理学的観点から見ると、人間の性格のタイプは4類型に分けられる。すなわち、人間が使用する「物」の特性から連想される、「木の性格」「鋼の性格」「布の性格」、そして、「プラスチックの性格」である。「プラスチックの性格」とは、軽薄で、脆く、無機質で無情な、冷淡で自己中心的な特性が著しい。現代人の多くは、ともすればこの性格に陥りやすい。したがって、親や教師は子どもたちを、努めてその反対の「木の性格」になるよう育て、導くといいだろう。「木の性格」は、優しさ、しなやかさ、生きんとする活力、温かさ、有機性、そして、したたかさと粘り強さを有している。
著者
山崎 晃男
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.221-232, 2009-01-31

音楽が感情を表現したり喚起したりするという考えは,時代や洋の東西を問わず,広く行き渡ったものである。実際,多くの哲学者や音楽理論家,科学者がそのような考えに対して,繰り返し支持を表明している。心理学においても,音楽と感情の関係について数多くの研究がなされている。本論文では,そうした音楽と感情の関係についての心理学的研究を以下の三つの研究領域に分類した上で,各々について概観している。ここで分類を行った三つの研究領域とは,音楽の感情的性格についての研究,音楽による感情喚起についての研究,音楽を通した感情的コミュニケーションの研究である。音楽の感情的性格についての研究とは,楽曲に対して聴取者が知覚する感情的な性格についての研究であり,一方,音楽による感情喚起についての研究とは,楽曲が聴取者に引き起こす感情的反応についての研究である。音楽を通した感情的コミュニケーションについての研究とは,演奏者から聴取者への感情的意図の伝達についての研究である。本論文では,これらについて概観した後,各研究領域が抱える研究上の課題について論じている。
著者
歌野 博
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-7, 2005-01-31

書物の表紙の裏の部分をさす「見返し」という用語は、これまで和装本、洋装本を問わず用いられてきた。書物の製本構造上、「見返し」を必要とするのは洋装本だけである。洋式製本の技術が導入され、定着した明治中期以前に「見返し」が用いられた形跡は見出せない。当時の文献に徴し「見返し」は洋装本の盛行とともに和装本に転用された用語であることを確認した。書物の部位名称に着目し、書物の構造との整合性を考察することにより、和装本、洋装本の違いを明らかにするとともに、その文化的意味について言及した。
著者
野中 亮
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.301-311, 2010-01-31

曳山祭りの一種である堺市の鳳だんじり祭は,岸和田だんじり祭の影響を受け,近年その祭りの様式が変質しつつある。これまで多くの伝統的祭礼の研究が行われてきているが,このような複数の祭りの関係性を論じる文化圏的視点の有効性についてはほとんど認識されていないようにも見受けられる。本稿の目的は,これらだんじり祭の事例を通じて祭礼研究における文化圏的視点の有効性を検討することである。
著者
竹田 博信
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
no.9, pp.261-269, 2010-01

「遅刻は当たり前」「タメ口(目上の者に対する友だち言葉)は当たり前」「周りに流されやすい」「うまくいかないと,みんな他人のせいにする」「自分の考えや主張が無い」「プライドは高いが学力は 低い」「 競争が不得意」等々。これらは,採用担当者が情報交換をする研修会で,最近の学生の印象を語りあったものである。2000 年以前は「マニュアルに頼ってばかりで面白みに欠ける」「個性と自分勝手をはき違えている」など行動には移すが,マニュアルに頼る学生が多い。という評価が多かった。しかし, 2000 年以降,とりわけ 2005 年以降最初に書いたような自己主張が無い,もしくは最初から「戦い」を避けるような学生が多くなってきたという声が多くなってきた。 しかし,彼らを採用し,企業戦士として育成していくのは企業の使命であるから,企業はこのような学生を吟味して採用していく必要がある。そこで,今の学生が置かれている環境を把握するとともに,採用担当者は学生たちをどう見て,何を憂慮されているのかの視点から,大学に出来ることを探った。
著者
川上 正浩 小城 英子 坂田 浩之
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
no.9, pp.15-25, 2010-01

心霊現象や占い,宇宙人・UFO,超能力など,現在の科学ではその存在や効果が立証されないが人々に信じられていることのある現象を総括して"不思議現象"と呼ぶ。本研究では,代表的な不思議現象(血液型による性格診断,宇宙人の存在,超能力の存在,占い,霊の存在,神仏の存在)を取り上げ,それらを信奉する,あるいは信奉しない理由について検討することを目的とした。それぞれの対象について,信奉を「はい」か「いいえ」かの2 件法にて尋ね,これに続いて,その理由を自由記述にて求めた。大学生161名の信奉あるいは非信奉の理由として挙げられた語句をテキストマイニングを用いて分析し,信奉者と非信奉者との違い,特に依拠するメディアの差異について考察した。
著者
鳥山 平三
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.125-142, 2009-01-31

我が国の臨床心理学界の第一人者で,長く斯界(しかい)の先頭に立って導いて来られた河合隼雄先生が亡くなった。先生は20 世紀最後の「老賢者」の一人と言ってもよい。筆者は,先生に特に近い存在ではなかったが,それでも40 年に及ぶ浅からぬ交流があった。その出会いから,折々のエピソードを追想することにより,河合先生を偲ぶよすがとしたく思う。筆者の個人的な臨床心理学研鑽の経験の織りなす,河合先生の周囲の人との交流の中に,河合先生を慕う女性と男性のさまざまな人間模様が興味深く観察された。そこで,河合先生もよく触れておられたユング心理学の「元型」の中でも,現代における「老賢者」の失墜(しっつい),そして,否定的な意味での「太母」の籠絡(ろうらく)について,見解を述べたく思う。時代は「老賢者」の英知から「太母」の呪縛へと移り行く現代である。
著者
辻 弘美 川上 正浩
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.63-73, 2007-01-31
被引用文献数
5

本研究では,携帯型唾液アミラーゼ活性測定器(cocorometer,ニプロ社)を用いて,唾液アミラーゼ活性の変化を主観的ストレス測定尺度POMS(Profile of Mood Scale)との関連性から検討した。102名の女性が実験に参加し,ストレス負荷課題と想定された鏡映描写課題の前後に,POMSにより主観的ストレスが,cocorometerにより唾液アミラーゼ活性が測定された。データに対して2要因(主観的ストレスの変化方向:[ストレス増加・ストレス減少]×cocorometer測定:[課題前・課題後])の分散分析を実施したところ,POMSの下位尺度である怒り-敵意尺度における主観的ストレスの変化が,唾液アミラーゼ活性における変化と関連していることが示された。本結果は,今後の簡易ストレス測定の妥当性をある程度保証するものであると考えられる。
著者
石川 義之
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.159-178, 2002-03-01

I referred to the actual conditions of incestuous abuse, particularly the prevalence of incestuous abuse and the gender of the perpetrators of incestuous abuse in American and Japanese society at the part I of my paper "The Perpetrators of Incestuous Abuse" contained in Journal of Social Systems, No.5,Faculty of Law and Literature, Shimane University, 2000. In this part II, I intend to throw light on the mechanism of the occurrence of incestuous abuse aimed at girls by male adults and the countermeasures for the prevention of incestuous abuse and the treatment of the victims. With respect to the former I will focus on the japanese patriarchal structure where men have control over women, and the way how the male children were socialized into capable perpetrators in Japanese society.
著者
石川義之
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.137-153, 2007-01-31

筆者は,2001年に「インセスト家族の親子関係」という題名の論文を公表した(石川 2001;141-156)。本論文の実際の執筆時期は1993年で内容的にも古くなったので,2006年日本社会病理学会によりミニシンポジウムで「家族と暴力-"愛情"という名の支配-」というテーマで報告することを命じられたことを機会に,その後の研究成果を踏まえて,この「"愛情"という名の支配」という視点を導入して再考することにした。その際,父-娘インセストの発生メカニズムに焦点を当てる。 本稿は,下記の項目によって構成されている。0.はじめに1.1つのインセスト的虐待事例2.インセスト的虐待の定義 2-1.インセスト的虐待の位置付け 2-2.性的虐待の特徴とインセスト的虐待の概念3.インセスト的虐待の普及率 3-1.アメリカ社会での普及率 3-2.わが国での普及率4.インセスト的虐待の影響 4-1.インセスト的虐待の長期的影響 4-2.トラウマを生成する原動力 4-3.トラウマ生成原動力の作用 4-4.ジャノフーブルマンとフリーズの「基本的仮定破壊」仮説 4-5.トラウマ生成原動力による歪み→心理的破傷→長期的影響=「否定的」生活 4-6.「否定的」生活から肯定的生活へ 4-7.主観的トラウマ変数と客観的トラウマ変数 4-8.トラウマ生成原動力の強力化傾向5.インセスト的虐待の要因・条件 5-1.性的虐待の基本構図 5-2.インセスト的虐待の要因・条件-発生メカニズム-6.父-娘インセストの親子関係-家族力学要因- 6-1.父親のタイプ 6-2.娘・母親のタイプ 6-3.父-娘インセスト発生の力学:父-娘インセストへの寄与(誘導)要因7.インセスト的虐待への対応8.おわりに 8-1.伝統型インセストと現代型インセスト 8-2.「"暴力"による支配」と「"愛情"という名の支配」
著者
川上 正浩
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.67-82, 2008-01-31
被引用文献数
3

近年,携帯電話上でのメール(携帯メール)によるコミュニケーションが一般化するに伴い,メール上での感情表現のための顔文字の使用もまた一般化している。本研究では顔文字自体が表す感情,強調を調べることにより顔文字のデータベースを作成することを目的とする。顔文字が有する文脈依存性を鑑み,"どの感情を表しているか"という観点ではなく,"それぞれの感情をどの程度表しているか"という観点から,顔文字が表す感情についてのデータベースを作成した。またこれに加えて,当該顔文字が"どの程度文章を強調するか"という強調度についてもデータベース化した。 調査対象として31個の顔文字が選択された。調査参加者には,喜び・哀しさ・怒り・楽しさ・焦り・驚きのそれぞれの感情ごとに1(全く表れていない)から5(とてもよく表れている)までの5段階で,強調度については1(全く強調されない)から5(とても強調される)までの5段階で各顔文字に対する評定を行うことが求められた。これらの結果は図1および図2に示されている。本調査の結果は,顔文字を対象とした心理学的調査を行う際の顔文字が表す感情に関する評価を提供する基準となる。
著者
奥田 亮 川上 正浩 坂田 浩之 佐久田 裕子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-14, 2010-01-31

大学生活にさまざまな意義を認めるためには,大学に適応し充実感を感じることが重要であると考えられる。そこで本研究では,先行研究を踏まえて,1回生から4回生までを対象に大学生活充実度尺度を実施し,その因子構造について検討した上で,大学生活充実度が学年ごとにどのように異なるのかについて,縦断,横断を含めた複数の観点から分析を行った。まず大学生活充実度尺度については,因子分析によって"フィット感","交友満足","学業満足","不安"の4 因子が抽出された。そして複数年度の1〜4回生の横断および縦断データから,4回生時に充実度全般が最も高まることが明らかになった。一方,1〜2回生にかけては充実度にほとんど変化が見られず,2〜3回生にかけては部分的に充実度が高まるという結果と,ほとんど変わらないという結果の,相違する二つの結果が得られた。今後はさらにデータを集積し,上記の結果を再検討することや,大学生活充実度に学年差をもたらす要因を詳しく検討していくことが課題とされた。
著者
阿部 直美
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
no.5, pp.89-94, 2006-01

子ども達が主体性を失いつつあるといわれる昨今、日々の保育の中での保育者の言葉がけひとつひとつが大きな役割を担っていると考えられる。本論文では様々な場面での保育者の言葉がけを四段階に仮定した。事例を挙げ、具体的な言葉を取り上げながら、各段階における保育者の言葉がけによって変化する「保育者の思い」と「子どもの思い」を比較検討した。結果、子どもの主体性を育むための保育者の言葉がけのあり方について一考察を得た。
著者
野中 亮
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.155-177, 2007-01-31

本稿の目的は,堺市鳳地区のだんじり祭りに関するデータベースを作成し,今後の同地域・祭礼研究の礎とすることである。祭礼を通じた地域構造の解明を課題として研究に着手したが,初年度の調査でこの地域と祭に関する先行研究が皆無であるばかりか,基本的なドキュメントデータすらもほとんど存在しないことが判明した。したがって,今後研究を進めて行くための基点の作成を目的に,聞き取りと観察を中心に同祭礼・地区の概要をまとめたのが本稿である。 祭礼の詳細や運営,地区の特性などを項目ごとに整理したが,紙数の問題もあり,インデックスを網羅的にすることを重視して各項目の記述は最低限のものにおさえてある。また,最後に現段階での研究の方針をまとめている。岸和田だんじり祭りの影響を受けて変化しつつある祭礼と,いまだ未分化な状態にある祭礼組織と自治会組織の問題の2点が今後の研究課題となるだろう。
著者
上野 矗
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.25-33, 2006-01-31

経験的現象学的方法から涙に関するこれまでの研究を通じて、勘が質的な意味分析法に基礎的かつ重要な認識方法として注目されてきた。勘は、人間科学の方法として直感的方法のひとつとして位置づけられるからである。黒田亮によれば、勘は覚=Comprehensionを、竹内によれば、第六感を意味する。勘は、黒田亮の心的立体感(psychical stereoscopy)、また黒田正典の人のゲシュタルト化された経験の総体の重心にある。筆者は、これを相反し合う経験の統合点にみる。いずれにもせよ、勘は、二分思考法にではなく、統合的思考法に依拠している。こうした意味及び実践の実際からも、勘は、臨床心理学の方法論上有意義で重要な認識方法と位置づけられる。と同時に、なお一層の検討が要請されよう。
著者
川上 正浩
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.75-83, 2007-01-31

本研究では,授業時間内に認められる遅刻生起頻度と,個人の遅れに対する態度,主観的遅れ生起頻度,楽観性との関連が検討された。心理学科一回生春期配当の必修授業が調査対象授業として設定された。103名の調査参加者を対象に,当確授業の最初の回に,個人の遅れに対する態度(VODKA2005),主観的遅れ生起頻度,楽観性(MOAI-4)が質問紙調査により測定された。また,全8回の授業を通じて,各調査対象者の遅刻および欠席状況が記録された。授業終了後,授業場面で生起する遅刻,欠席の頻度あるいは時間と,個人の遅れに対する態度,主観的遅れ生起頻度,楽観性との関連が吟味された。相関係数に基づく分析の結果,授業場面における遅刻,欠席の生起頻度は,自分の遅れに対する罪悪感と関連することが示された。
著者
坂田 浩之 川上 正浩 小城 英子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.91-98, 2009-01-31

本研究は,不思議現象に対する態度を研究する上での基礎作業として,現代の日本人女子大学生が実際に不思議だと感じていることを探索し,彼らにとっての"不思議"の潜在的な構造を明らかにすることを目的としたものである。20答法を応用した調査法を用いて記述データを収集し,それをテキストマイニング手法を用いて分析し,そこにどのようなキーワードが見出され,多く用いられているのか,またそれらのキーワードはどのようなクラスターを構成するのかについて検討を行った。その結果,"人間の不思議","自分の不思議","能力・可能性の不思議","好みの不思議","性の不思議","思考の不思議","差異の不思議","生理的欲求の強力さの不思議","心・感情の不思議","生・世界・文化の不思議","美・魅力に関連した事柄の不思議","身近な事柄の不思議",という12 のクラスターが抽出され,一般的傾向として,現代の日本人女子大学生が,実際には,身近で,普遍的で,自然なことに対して不思議という感覚を覚えることが明らかにされた。
著者
夏目 誠 大江 米次郎
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.93-105, 2003-01-31
被引用文献数
2

大阪樟蔭女子大学の学生のストレス度を知るために、447名の学生を対象に、我々が作成した72項目からなる大学生ストレス調査表(ライフイベント法による、大学入試を5点とし、これを基準に0-10点の範囲で、ストレス度を自己評価させた。各項目の平均値を求め、ストレス点数と仮称した)を用いて、調査を行った。 得られた結果と、対照群とした332名の国立大学女子学生と比較検討を行った。 得られた結果は以下の通りである。1.対象者の項目ごとの平均値(ストレス点数と仮称した)を求め、高得点順にランキングをした。第1位は「配偶者の死」で9.3点であり、最下位は「旅行やバケーションをとる」の2.0点であった。基準点である5点以上が56項目と多くに認められた。2.対照群との間に、全体や4群(大学、社会、家族、個人生活群)の間に有意な差を認めなかった。3.項目別で1.0点以上の差違が認められたものについて検討した。1.親や他者の自己評価への過敏性、2.対人関係トラブル、3.経済的なストレス、の3特徴が認められた。 以上の結果について考察を加えた。
著者
桶谷 弘美
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.107-120, 2003-01-31

五嶋みどりは国際的に傑出したヴァイオリニストとして著名である。本稿は、彼女を幼くして並はずれた技能をもつヴァイオリニストとなしえた要因を探ろうとする試みである。とりわけ、世界の音楽界の頂点に立つ彼女の活動を可能にさせた家庭での教育がどのようなものであったのかを追究してみることにした。 高度の音楽的技術を生み出すには才能だけでなく、たゆまざる努力を重ねなければならないことはだれもが認めるところであろう。優れた芸術家であっても専門分野の最も高い水準の域に到達することの困難さは、音楽界においてもごく普通にみられる事象である。しかし、その分野におけるごく少数の抜きんでた存在として認められることを目指して、平生の日々において、若い人たちが技術の習得のために練習に精を出し尽力しているのは何によるものなのであろうか。 専門分野での最高峰の地位を切望するどの音楽家でも、大きな犠牲を払う心構えがなければならないはずである。多くの者が中途で脱落していくなかで、そのような代償をすすんで払い、それによって得るものは何であろうか。大抵の場合、子供がその素質をもって興味を示す事柄に子供を方向づけることは親の責任である。たとえ時には、親が子供をそのように導きながらもそれを強要していると受け取られても。 本稿では、みどりの母・五嶋節がわが子を幼児期から将来音楽家として大成させるため、その素質を伸ばそうとした教育のあり方を論じてみることにする。五嶋節は大学時代ヴァイオリンを専攻したが、結婚のためその志を果たすことができなかった。みどりは彼女の初めての子であった。そのため、長年いだいていた世界的なヴァイオリニストになる夢をわが子に託したのである。なお論文執筆にあたって援用した主な資料は、奥田明則著『母と神童-五嶋節物語』である。