著者
綾目 広治
出版者
横光利一文学会
雑誌
横光利一研究 (ISSN:13481460)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.18, pp.23-36, 2020 (Released:2022-03-27)

小林秀雄は、横光利一の「機械」を自意識の文学として高く評価したが、その判断は小林の読み間違いであった。「機械」は当時の小林が考えていたような自意識の文学、すなわち意識に対してのメタ意識の問題が表現されている文学ではなかった。しかし小林の評価に使嗾された横光はやがて、自意識の問題と通俗文学の興隆という当時の文学状況の問題とを統合した「純粋小説論」を述べる。ここで重要だったのは、物語性の強い通俗文学的要素の、純文学への組み入れという提言にあったが、それを「私小説論」の小林は理解しようとしなかった。両者はここで擦れ違ったが、日本主義の問題に対しては、どちらも見当外れの対応という点では共通していた。
著者
尾形 大
出版者
横光利一文学会
雑誌
横光利一研究 (ISSN:13481460)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.19, pp.15-27, 2021 (Released:2023-03-29)

1930年前後の横光利一を考える際、「新心理主義文学」という〈モード〉とあわせて、伊藤整は横光の近くにしばしば位置づけられてきた。しかし、こうした認識は戦後伊藤が横光文学を語るなかで提出した文学史的な見取り図に引き寄せられているように思えてならない。本稿は1930年前後の若い文学者たちが、〈翻訳〉という営為を軸に結びつくなかで形成された同時期の〈文学者ネットワーク〉の一部を整理し、そのうえで伊藤と横光の小説実践の比較をとおして両者の「心理」をめぐる認識の相違を考察した。事後的に「新心理主義文学」という枠組みに押し込められる両者の関係性の近さと遠さの一端を明らかにした。