著者
松本 茂章
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.139-155, 2008-12

研究ノート(Note)本稿は、パリ日本文化会館の運営状況と資金調達のシステムについて調査研究した成果である。同会館は、日本が海外に持つ最大級の総合的な文化交流施設であり、独立行政法人・国際交流基金が所有、運営している。1997年に開館したので、2007年は開館10周年に当たり、活発な文化事業が展開された。この節目に合わせて2008年3月から4月にかけて訪問、聞き取り調査を行った。同年8月には国際交流基金および資金調達を担当する同会館・日本友の会に取材を行った。同会館が以前から気になっていたのは「官民合同プロジェクト」と呼ばれ、日仏両国政府や経済界の連携で進められてきたからである。現在も事業費の相当額は民間支援金でまかなわれ、資金調達の組織とスタッフを擁している。わが国の自治体文化施設に関しては、建設する際に多額の資金が投じられるものの、開館後は事業予算の確保が難しくなり、建物は豪華でも事業の内容は貸し館中心で、「ハコモノ行政」と指摘されてきた。パリ日本文化会館の事例研究を通じて、わが国の文化施設をめぐる官民協働のありようについて学ぶ点があるのではないか、と考えた。同会館の運営システムと資金調達状況から浮かび上がる意義と課題を提示する。
著者
權 永錫
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.167-179, 2006-07

研究ノート(Note)この20年余りは新自由主義に基づいたNPM論が行政改革の基本理念として位置づけられた。政府部門に競争と市場原理や成果主義人事管理の導入、構造改革の推進、企業型政府の模索などあまりにも激しい変化が続く中、行政学の本来的な研究領域が経営学や経済学に侵害されているのではないかとの不安を持ち、韓国で行われている行政革新プログラムを事例に上げ、行政の本来の役割とNPM論の関係を考察してみようと思った。 先ず、韓国における行政改革の歩みを現代史を中心に歴史的な観点からみたうえで、各時代の主な改革の動きと特徴の検討を通じて、現在、行われる韓国の行政改革に対する理解を助けようとした 。 第3章と第4章では韓国行政自治部の政府革新プログラムの柱を成していると思われる、政府樹立以降初めてのチーム制導入の動きとバランス∙スコアカードを用いた成果主義業績評価システム導入、顧客志向の行政システム整備などNPM的な改革政策について詳しく説明した。 第5章は行政自治部の政府革新が抱えている問題や、今後の研究の方向を、NPM論の批判的な立場から考え、公務員に求められるのは管理能力ではなく政策能力であることと政策的能率を求める成果主義が必要であること、多面的能力評価が人気投票化する恐れ、顧客志向行政の現実的な難しさなどに触れた。 最後の第6章では、政策の意味や政策能力と成果主義をどう結びつけるのか、成果を引き出すための政府組織のあり方や行政に対する成果評価システムの構築など、行政学の理論と管理手法を築き上げていくことがこれから先に力を入れていくべき研究課題であることを打ち出した。
著者
杉本 究
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.73-91, 2006-07

論説(Article)近時の司法制度改革の一環として、訴訟手続によらず、公正な第三者たる専門家の活用により紛争の実情に即した解決を図ろうとする裁判外紛争処理手続(Alternative Dispute Resolution;ADR)の拡充・活性化が必要とされている。その潮流からすれば、事業再生版の裁判外紛争処理手続と言える私的整理(事業再生ADR)が、その現場においても利害関係者の総意では圧倒的に好まれる傾向とも相俟って、将来的にはさらにその意義並びに重要性が増すであろうと考えられる。本稿では、まず、筆者のアドバイザー業務経験に基づき、実務的視座からする私的整理の作業工程並びに作業負担について時系列的に俯瞰するとともに、私的整理、法的整理及び私的整理と法的整理の連続性にかかる課題について検証した。次に、以上の検証結果を踏まえつつ、事業再生ADR活用に向けての一試論として、ADR基本法に定める認証機関に関して、その導入効果も含めた政策提言を行うとともに事業再生ADRの機能について検討した。認証機関に認定される基準としては、英国のインソルベンシー・プラクティショナー(Insolvency Practitioner)を範とした資格制の導入により、当該人材を擁する民間事業者が認証機関として認定されることとし、その機関活用の効果として、認証機関が関与・策定した私的整理の場合は、仮に法的整理に移行した場合においても、私的整理の過程で合意形成が可能となった部分について一定の法的効果を供与する仕組みが検討に値する。そして、事業再生ADRの機能としては、(1)コスト削減機能(2)早期着手機能(3)権利調整機能を有することが期待され、その活性化は事業再生全体の効率性・実効性に資するものと言えよう。