著者
形山 優子 山本 満寿美 千田 好子 狩山 玲子
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.97-103, 2008-05-23
被引用文献数
3 4 1

急性期病院に治療目的で入院した誤嚥性肺炎患者9名の口腔内の状態と口腔ケアおよび口腔と吸引痰からの検出菌に関する実態調査を行った.患者の平均年齢は77歳で,7名に誤嚥性肺炎の既往歴があった.患者の口腔内の状態は,入院時約半数に舌苔や口腔内乾燥がみられたが,退院時は改善傾向にあった.しかし,入院後の口腔ケアは,大半の患者に1日1回実施しているのが実状であり,十分な口腔内清浄度が保たれていなかった.入院時,入院後3~5日目,退院時の3回,日和見感染菌検査用キット(BML社)を使用し,口腔と吸引痰から検体を採取した.口腔または吸引痰からの検出菌(患者数)は,入院時:<i>Candida</i> sp. (4名),MRSA, <i>Serratia marcescens</i> (各3名),<i>Pseudomonas aeruginosa</i>, <i>Klebsiella pneumoniae</i> (各2名),入院後3~5日目:MRSA (5名),<i>Candida</i> sp. (2名),<i>P. aeruginosa</i>, <i>K. pneumoniae</i>, <i>S. marcescens</i> (各1名),退院時:MRSA (4名),<i>P. aeruginosa</i>, <i>K. pneumoniae</i>, <i>Candida</i> sp. (各2名),MSSA (1名)であった.本研究において,MRSAが最も多く検出され,入院時の3名に比して,入院後3~5日目には5名,退院時4名と増加しており,院内感染が疑われた.退院時に定着菌あるいは残存菌が検出された6名の患者は,再度誤嚥性肺炎に罹患する可能性が高いことから,口腔ケアへの積極的介入が必要とされた.また,耐性菌蔓延防止のためには,医療施設内のみならず地域医療連携による感染対策を行うことが重要である.<br>
著者
小井土 啓一 島田 知子 平松 玉江
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.395-399, 2009 (Released:2010-02-10)
参考文献数
7

手術部位感染予防には抗菌薬の予防投与が重要である.当院感染対策チームでは,手術時のcefazolin(CEZ)およびcefmetazole(CMZ)の3時間毎投与を推奨してきたが,長時間手術では追加投与が適切に行われていないケースがみられた.そこで,抗菌薬供給方法を処方せんによる個人セット払いから手術室への定数配置へ変更し,追加投与実施状況の改善を試みた.併せて術前・術中投与の指示出し用スタンプを各病棟に配置した.供給方法変更前(2005年8月),供給方法変更後(2006年8月),ならびに電子カルテ稼動後(2007年8月)の3期間において,6時間を越える手術での抗菌薬術中追加投与の実施割合を調査した.各期間における対象件数と平均手術時間は2005年45例483分,2006年46例524分,2007年44例510分であった(p=0.46).必要投与回数の総和は各期間でそれぞれ99回,114回,106回であったのに対して,実投与回数の総和(実施率)は20回(20.2%),101回(88.6%),104回(98.1%)と,供給方法変更後に増加した(p<0.001).なお,2007年における前投与からの投与間隔は平均181分であり,210分を超えたのは全104回中2回のみであった.抗菌薬の供給を手術室定数配置に変更するなどの介入によって,抗菌薬術中追加投与の実施率を劇的に改善することができた.
著者
白石 正 川合 由美 布施 明美 大谷 和子
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.124-128, 2008-05-23
被引用文献数
3 3

従来から術前の手洗いは,4%グルコン酸クロルヘキシジンなどのスクラブ製剤を使用して行われているが,米国疾病管理センター(CDC)のガイドラインでは,速乾性擦式消毒薬を用いたウォーターレス法を推奨している.そこで,4%グルコン酸クロルヘキシジンスクラブ剤と0.5%グルコン酸クロルヘキシジンエタノール剤の手指消毒効果について看護師22名を対象にグローブジース法にて比較するとともに2製剤を使用した場合の経済効果を併せて検討した.その結果,消毒直後および消毒3時間後では2製剤間に有意差は認められず,2製剤の同等性が認められた.また,経済効果では,スクラブ製剤に比較してエタノール製剤のコスト低下が認められた.<br>
著者
前田 修子 滝内 隆子 小松 妙子
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.41-47, 2008-03-25
被引用文献数
2 2

我々は,訪問看護師に対する感染管理の学習支援が必要にも関わらず教育プログラムがないことから,12回で構成する"訪問看護師を対象とした感染管理教育プログラム"を作成した.続いて,今回,この教育プログラムのうち,訪問看護師の要望が高かった「手洗い・うがい」を研修会形式により開催した.研修会参加者によるテーマ,開催方法,学習目標・内容・方法に関する評価と参加者の知識・技術の修得状況をもとに,研修会の効果検証を行った.結果,①研修会のテーマ,開催方法,学習目標・内容・方法は,大部分の参加者からよい評価が得られた.②知識・技術の研修会後の修得状況は,全項目において研修会前よりも上昇していたが,手洗い必要物品の選択・準備・持参に関する項目は低い傾向であった.今後は,研修会後の修得度が低かったもの,上昇があまり認められなかった学習項目の学習内容・方法を検討していく必要があると考えられた.<br>
著者
菊地 克子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.36-41, 2009 (Released:2009-04-06)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1 1

医療従事者においては,手洗いやアルコールの擦り込みによる手指消毒などにより,しばしば手指皮膚の乾燥や手湿疹が起こる.手湿疹の多くは刺激性皮膚炎である.病変を持つ皮膚には健常皮膚と比べて有意に常在細菌数が多いため,効果的な殺菌作用を示すのみならず皮膚傷害性が少ない消毒剤を使用することが院内感染防御の上でも重要である.生体膜構成脂質と類似の構造を持つ2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を構成単位としたポリマー(MPCポリマー)は保湿性があり皮膚刺激を減弱することが知られている.健常ボランティア36人を対象に,MPCポリマーを配合したアルコール手指消毒剤の手指皮膚に対する影響を計測機器による角層機能評価により調べた.MPCポリマー配合製剤とMPCポリマーを配合しない対照品をそれぞれ2週間ずつ使用するクロスオーバー試験を行ったところ,手背皮膚の角層水分量は,対照品で低下が認められたのに対し,MPCポリマー配合製剤では増加傾向がみられ,同時に経表皮水分喪失量が低下し,バリア機能向上が示唆された.さらに,MPCポリマー配合製剤では,使用時の刺激感・痛みが対照品に比べ少なかった.これらの結果から,MPCポリマー配合アルコール手指消毒剤はより皮膚刺激性・傷害性が少なく医療従事者にとってより好ましい製剤であることが示された.