著者
木村 聡 相澤 寿子 増山 智子 仲間 恵美子
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.21-26, 2009-01-23
参考文献数
8
被引用文献数
1

トイレの出入り口は不特定多数の者が接触し,病原体を媒介する可能性を有している.とりわけ最近普及した手指温風乾燥機(ハンドドライヤと略)では,水滴の飛散による周囲の汚染が指摘されており,底に溜まった水に触れる危険も考えられる.そこで我々は,ハンドドライヤの汚染状況を調査し,トイレ扉の取手等との比較を行った.あらかじめ手技を統一した男女各1名の検者が,病院の職員および患者用トイレ扉の取手と,ハンドドライヤの水滴受け部分など合計36箇所に,滅菌生理食塩水を含ませたシードスワブで拭き取り試験を行ない,生菌数の計測と菌種同定を行った.その結果,トイレ入り口扉からはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)をはじめとする皮膚常在菌が数10~数100個検出されたのに対し,ハンドドライヤの検出菌は1000個を超え,使用頻度が高いトイレでは10万個に達していた.男子トイレのハンドドライヤでは,黄色ブドウ球菌やCNSなど皮膚常在菌が主体を占めたのに対し,女子トイレではモルガネラ属,クレブシエラ属,エンテロバクター属などの腸内常在細菌が多く,皮膚常在菌の生菌数は有意に少なかった.以上よりハンドドライヤに貯留する水は,他の接触部位より汚染されている可能性が推定された.手洗い後はハンドドライヤの受け皿に触れぬよう注意が必要であり,水滴の飛散には何らかの対策が必要な可能性がある.<br>
著者
新井 亘 上田 恵子 岡添 進 矢吹 直寛 小林 理栄 松木 祥彦 矢嶋 美樹
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.142-148, 2012

上尾中央医科グループ薬剤部では,感染制御専門薬剤師を育成する支援として,2006年度から定期的に研修会を開催している.2010年度からは,日本病院薬剤師会の感染制御専門薬剤師または感染制御認定薬剤師にて運営委員会を結成した.年度始めに研修会の参加者を募り,感染制御チームの活動や感染症治療の症例の提出を依頼した.<br>   2010年度は19施設から36名の参加者があり,47事例を収集した.その中から運営委員会の委員(以下,運営委員)にて薬剤師が日常的に遭遇する16事例を選択し,発表者を定めるなどの年間計画を立案した.事前に運営委員にて研修資料を基準に基づいて内容の確認を行い,必要に応じて修正を依頼した.研修会は年間4回開催し,少人数による討論形式で行った.36名中25名が4回通して継続した参加であった.参加者を対象とした研修後の調査では,薬剤師の感染制御に関する関心が高かった.年度末に行った感染に関連する業務の実施率の調査では,研修会参加施設群において不参加施設群と比較して高かった.研修によって施設間の情報の共有や感染対策の支援体制が促進し,対応の多様性を検討することができる内容であると思われる.感染制御専門薬剤師または感染制御認定薬剤師が研修会を運営することは,専門特化した人材育成のために重要な任務を担っているといえる.<br>
著者
多湖 ゆかり 谷 久弥 森兼 啓太
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.122-127, 2014 (Released:2014-06-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1

CDCのGuidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011の発出を受け,末梢静脈カテーテルの標準的な留置期間を4日毎から7日毎に変更した.留置期間が適切か否かを評価するため変更後6ヶ月間(2011年7月~12月)の末梢静脈カテーテルに関連するBSIと静脈炎のデータ解析をした.延べ留置日数2,784日,ライン使用本数989本に対して,BSI発生は2件であり,1000ライン日あたり0.72件であった.発生日はどちらも留置3日目であった.静脈炎(INS基準:2+以上)は14件で,3日以内と4日以上を比較して静脈炎発生率に有意差は見られなかった.従って,末梢静脈カテーテルをルーチンに3~4日毎に刺し替える必要はない.刺入部の観察を重視した上での7日毎の刺し替えは,患者の苦痛軽減やスタッフの労力削減を図る上でむしろ好ましいと考える.
著者
山下 克也 津曲 恭一 尾田 一貴 小園 亜希 田中 亮子 中村 光与子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.141-147, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
10

現在日本では異なる抗原由来の2種類のB型肝炎ワクチンが市販されている.通常1回のシリーズ(6か月間に3回接種)では同じ製品が使用されるが,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した場合の抗体獲得について検討された報告は少ない.今回,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した場合の抗体獲得について検討した.過去にB型肝炎ワクチン未接種であり,HBs抗体陰性が確認された被験者で,3回目を異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した群を対象群(A群),3回全て同じB型肝炎ワクチンを接種した群をコントロール群(B群)とした.ワクチンの投与は皮下注で行い,HBsAb定量およびHBsAb定性は採血で測定し,10.00 COI以上をHBsAb陽性と判定した.有害事象は3回接種後の副反応を調査票で収集し,CTCAE Ver.4.0にて評価した.A群は9名,B群は7名であり,両群ともに全例で抗体獲得が確認された.有害事象はA群で3件,B群で1件認められたが,いずれもGrade 1であった.A,B群合わせた副反応の内訳は注射部位の疼痛3件,皮膚硬結1件であり,重篤な副反応を呈した症例はなかった.今回認められた有害事象はいずれもワクチンに共通した副反応であると考えられ,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種しても良好な抗体獲得が得られる可能性が示唆された.
著者
岡本 一毅 奥西 淳二 渡邉 幸彦 西原 豊 池田 雅裕
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.68-72, 2010-03-25
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

現在,アルコールベースの消毒薬は手指衛生において重要な役割を担っている.しかし,臨床的なニーズを充足できていない点も有している.その一つとして,近年その感染拡大が社会問題となっているノロウイルスなどのノンエンベロープウイルスに対する薬効が挙げられる.今回,我々はアルコールに有機酸と亜鉛化合物を組み合わせた処方を用いノンエンベロープウイルスに対する薬効(<i>in vitro</i>)と皮膚刺激性(<i>in vivo</i>)に着目した検討を行った.アルコールに有機酸を添加した処方では,ネコカリシウイルスに対して接触時間30秒以内に4 log以上の不活化効果を示したが,アデノウイルスに対しては消毒用エタノールと同程度の薬効であった.一方,アルコールに有機酸と亜鉛化合物を添加した場合,ネコカリシウイルスとアデノウイルスの両ウイルスに対して30秒以内に4 log以上の不活化効果を示し,消毒用エタノールよりも優れた薬効を示した.また,ウサギ皮膚を用いてこれら処方の皮膚刺激性試験を実施した結果,アルコールに有機酸と亜鉛化合物を組み合わせた場合,刺激をほとんど示さないことが明らかとなった.このように,アルコールに有機酸と亜鉛化合物を組み合わせた処方は,ノンエンベロープウイルスに対して従来にない有効性を示すと共に,スキンケアの観点から皮膚への刺激にも配慮した新しいアルコールベースの消毒薬を創出できる可能性が示唆された.<br>
著者
麻生 恭代 長富 美恵子 中澤 武司 佐々木 信一 石 和久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.81-90, 2012 (Released:2012-06-05)
参考文献数
6
被引用文献数
2

当院では2005年度に血液培養でBacillus cereusの増加傾向がみられた.血液培養でB. cereusが検出された患者の背景を調べた結果,大半の患者で末梢カテーテルを留置していた.さらに血液培養でB. cereusが検出された数名の患者の末梢カテーテル先端からもB. cereusが検出され,B. cereusによる血流感染ありと判断した.また文献的に検索するとB. cereus菌血症についてはリネン等の汚染や留置カテーテルの取り扱いが指摘されているが,カテーテルの汚染とリネンの汚染との結びつきについては不明な点が多い.そこで今回我々はカテーテルにおける菌の定着と増殖の原因について,輸液製剤の種類による菌の発育速度と温度の影響,環境因子の影響について調査を行ったので報告する.輸液製剤の種類や保管時間の影響に関しては,B. cereusがStaphylococcus aureusやStaphylococcus epidermidisと比較して増加しやすいという傾向が見られた.環境検査ではタオルの培養で≦102~1×106 cfu/mLのB. cereusが検出された.落下菌の測定では,一般環境より病室で多く検出される傾向が見られた.さらにリネンの出し入れ後の落下菌の検査を行うと短時間で多数のB. cereusが検出された.以上より輸液製剤の保管の影響よりも,薬剤の調合やカテーテルの刺入,ルート交換を行う環境や取り扱いに問題があると考えた.
著者
勝田 優 小阪 直史 村田 龍宣 舩越 真理 井上 敬之 山下 美智子 杉田 直哉 勝井 靖 澤田 真嗣 大野 聖子 清水 恒広 藤田 直久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.354-361, 2015 (Released:2015-12-05)
参考文献数
22

病棟での輸液調製では,調製時の汚染防止により注意を払う必要がある.病棟での輸液調製の現状把握のため,空気清浄度,調製環境,輸液メニューについて血液内科と外科病棟を対象に多施設間調査を実施した.空気清浄度調査は,5施設9部署にて実施し,パーティクルカウンターとエアーサンプラーを用いて浮遊粒子数と浮遊菌の同定・コロニー数を測定した.環境と輸液メニューの調査は,9施設13部署を対象に,調製現場の確認と10日間の注射処方箋(7,201処方)を集計した.空気清浄度は,0.5 μm以上の粒子数が,最も多い部署で3,091×103,少ない部署で393×103個/m3であった.浮遊菌は,黄色ブドウ球菌は3部署のみの検出であったが,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,Micrococcus属,Corynebacterium属やBacillus属は全部署より検出された.調製台は,9部署で空調吹き出し口の直下にあり,10部署でスタッフの動線上に設置されていた.混合のあった4,903処方のうち,3時間以上の点滴が31%を占めた.病棟での輸液調製マニュアルを整備していたのは,9施設中3施設のみであった.調査から,輸液調製台エリアの空気清浄度は低く,3時間を超える点滴が3割以上を占めるなど,細菌汚染が生じるリスクが高い可能性が示唆された.輸液汚染リスク軽減のため,日本版の病棟での輸液調製ガイドラインの策定が望まれる.
著者
上木 礼子 米澤 弘恵 長谷川 智子 荒木 真壽美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.181-186, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
15

本研究では,血液曝露の危険性のある看護場面において,手袋着用行動への,看護師の意図とその影響要因を明確にすることを目的とした.   α県内の総合病院に勤務する看護師1,128名を対象に,4つの血液曝露場面(真空採血管採血場面など)を設定し,手袋着用の行動意図を調査した.さらに,手袋着用の行動意図に影響する要因として,上司/同僚のサポートを含む組織的要因,手袋着用の教育経験を含む個人的要因,リスク認知を含む心理的要因について調査した.影響要因は,手袋着用行動意図の高い高意図群(以下高群)と行動意図の低い低意図群(以下低群)の2群に分け比較した.   その結果,組織要因では,行動意図高群は低群に比べ有意(p<0.01)に手袋の使いやすさ,上司/同僚のサポート,施設の方針を認識していた.個人的要因では,高群は低群より有意(p<0.01)に手袋着用の教育を受けたと認識していた.心理的要因では,リスク認知と行動への態度,行動コントロール感が有意な正の相関を示した.   これらの結果より,組織環境が手袋着用をサポートする傾向にあるとき,および個人に教育経験のあるときには,手袋着用への行動意図が高くなることが示された.
著者
丹羽 隆 外海 友規 鈴木 景子 渡邉 珠代 土屋 麻由美 太田 浩敏 村上 啓雄
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.333-339, 2014 (Released:2014-12-05)
参考文献数
17
被引用文献数
3 1

Defined daily dose (DDD)を用いた抗菌薬使用量の集計はWHOが推奨する方法である.しかしながら,DDDによる集計は総使用量の集計であるため,使用動向の解釈には限界がある.我々は,欧米にて評価が高まりつつあるdays of therapy (DOT)によって当院の2005年1月から2013年6月の注射用抗菌薬の使用量を集計した.セフタジジムはDDD法,DOT法による集計値ともに年々有意に減少したが,DDD/DOT比は変化なかったことから,使用日数もしくは使用人数の減少によって総使用量が減少したと判定できた.メロペネムはDDD法による集計値,およびDDD/DOT比は有意に増加したがDOT法による集計値は有意に変化しなかったことから,1日用量の増加によって総使用量が増加したと判定できた.一方,テイコプラニンはDDD法による集計値は変化なく,DOT法による集計値の有意な減少,DDD/DOT比の有意な増加が見られたことから,1日用量が増加したが使用日数または使用人数の減少により総使用量は変化していないと判定された.以上の結果から,DDD法とDOT法を使用することにより,抗菌薬使用動向をより詳細に分析でき,今後の抗菌薬適正使用の一助となると考えられた.
著者
小林 龍 谷口 亮央 古泉 景子 土屋 総之 多田 知弘 佐藤 雄樹 柴波 明男 妻木 良二
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.280-284, 2008-09-25
被引用文献数
2 1

今回,手荒れの予防効果が高いと言われているアルコールゲル擦式消毒剤(ゲル剤)を用い,皮膚に対する影響について,当院看護師82名を対象として2週間使用後の手掌と手背,指先の肌水分量を測定した.<br>   各薬剤とも調査前後の手指消毒回数に変化はなかった.種類による差はあるものの,3種類のゲル剤全てにおいて,手掌と指先の肌水分量が増加した.<br>   今回の結果より,ゲル剤の保湿効果が擦式消毒用アルコール製剤に比べ高いことが示された.この成績は,ゲル剤使用により手荒れ防止および手指消毒回数の減少防止に繋がり,医療関連感染の低下にも有効であると考えられる.<br>
著者
大久保 耕嗣 阿部 政典 小林 謙一 長井 一彦 長井 知子 樋口 多恵子 継田 雅美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.290-294, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
19
被引用文献数
1

著者等は,新潟県内の医療施設に1988年,1994年および2007年にアンケートを取り,手指衛生の変遷について調査した.1988年に主流であったベイスン法は,現在では行われていない.1994年は,速乾性擦式アルコール製剤のラビング法と消毒薬を用いたスクラブ法が多く,2007年は,流水と石鹸,抗菌性石鹸および消毒薬を用いたスクラブ法が多かった.一方,日本環境感染学会において1992年から2007年までの手指衛生に関する全ての発表と論文を分析した.手指衛生についての発表および論文タイトルが,全体に占める割合は10%であった.学会発表は,2002年にCenters for Disease Control and Prevention (CDC)手指衛生のためのガイドラインが発表された翌年に,8.7%から15.3%と高くなった.このガイドラインは,水場のない場所での手指衛生を踏まえてアルコール含有のラビング法を推奨しているが,日常手洗いでは石鹸と抗菌性石鹸を用いたスクラブ法を推奨している.2007年の調査では,アルコール含有ラビング法が減少していた.各病院において基本である流水下で行う手洗いが実施されていることが示唆された.日常手洗いと衛生的手洗いが区別されて行われているのではないかと考えられた.
著者
野口 周作 望月 徹 吉田 奈央 上野 ひろむ
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.79-85, 2013 (Released:2013-06-05)
参考文献数
9

病院の感染制御において,薬剤耐性菌対策は重要な問題である.当院では2004年8月にInfection Control Team (ICT)が発足して以来,段階的に抗菌薬適正使用強化策を行った.その取り組みと効果について検討し,若干の知見を得た.2007年にオーダリングシステムと連動した特定抗菌薬使用届出制導入をはじめ,2010年より積極的に症例に関わる方法としてICT抗菌薬ラウンド導入に至るまで段階的に強化策を行った.その効果判定の指標として,カルバペネム系抗菌薬の使用量,投与日数,緑膿菌の感性率及び多剤耐性緑膿菌(MDRP)の年間検出件数を調査した.カルバペネム系抗菌薬の使用量は,1277バイアル(V)(2004年11月)から327V(2010年6月)に,平均投与日数は8.40日(2006年)から5.97日(2010年)に減少し,緑膿菌のmeropenemに対する感性率は72%(2008年)から90%(2011年)に回復した.MDRPの年間検出件数は28件(2008年)から1件(2011年)に減少した.段階的強化策を講じたことで,大きな問題なく医療従事者の抗菌薬適正使用に対する意識を高めることができ,緑膿菌の薬剤感受性の回復とMDRP検出件数の顕著な減少効果が表れたと考える.本結果を踏まえ,今後はより高い水準の抗菌薬適正使用と感染症治療支援に携わっていきたい.
著者
木村 丈司 甲斐 崇文 西海 一生 高橋 尚子 佐々木 秀美
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.405-410, 2009-11-25
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

抗菌薬適正使用の推進は院内感染対策において最も重要な課題の一つである.当院では2006年4月より第4世代セフェム系,カルバペネム系,ニューキノロン系抗菌薬と抗MRSA薬を対象として使用届出制を開始した.使用届出制の開始後,特に第4世代セフェム系,カルバペネム系抗菌薬の使用量が減少し,また投与期間が14日以上に及ぶ長期投与の処方件数も減少した.また2008年4月からはpharmacokinetics/pharmacodynamics理論に基づく抗菌薬の投与方法に関する資料の配布を開始した.資料の配布開始以降,cefozopran (CZOP)では1000 mg×3回/day及び2000 mg×2回/dayの投与方法が,meropenem (MEPM)では500 mg×3回/dayの投与方法がそれぞれ増加した.緑膿菌のCZOPに対する耐性株率は2005年度から2006年度で一時増加したが,2007年度では2005年度と同程度まで減少し,またMEPMに対する耐性株率は年々減少が見られた.このように,抗菌薬適正使用の推進及び抗菌薬耐性菌の増加防止において,infection control teamによる積極的な介入は重要であると考えられる.<br>
著者
新 康憲 春藤 和代
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.187-191, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
4

保育士の流行性ウイルス感染症への意識や対策の実情に関する報告はなく,ワクチン接種啓発における自治体病院による支援に関する報告も皆無である.今回,自治体病院の感染対策チームが保育施設の保育士を対象に研修会を実施し,アンケート調査により現状把握を行った.その結果,保育士自身の罹患およびワクチン接種歴の把握は不十分であり,保育士の抗体価を一元管理している施設は15%と低かった.また園児のワクチン接種歴の把握や未接種時の保護者への指導の割合は,入園時と比較し入園後に低下することが明らかとなった.一方,研修会3ヶ月後のアンケート調査において流行性ウイルス感染症への対応に変化を認めたことから,今回の支援は有効であったと考えられた.
著者
日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会 岡部 信彦 荒川 創一 岩田 敏 庵原 俊昭 白石 正 多屋 馨子 藤本 卓司 三鴨 廣繁 安岡 彰
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.S1-S14, 2014

第2版改訂にあたって<br>   日本環境感染学会では、医療機関における院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種について「院内感染対策としてのワクチンガイドライン(以下、ガイドライン第1版)」を作成し2009年5月に公表した。<br>   その後医療機関内での感染症予防の手段としての予防接種の重要性に関する認識は高まり、医療関係者を対象としてワクチン接種を行う、あるいはワクチン接種を求める医療機関は増加しており、結果としてワクチンが実施されている疾患の医療機関におけるアウトブレイクは著しく減少している。それに伴いガイドライン第1版の利用度はかなり高まっており、大変ありがたいことだと考えている。一方、その内容については、必ずしも現場の実情にそぐわないというご意見、あるいは実施に当たって誤解が生じやすい部分があるなどのご意見も頂いている。そこで、ガイドライン発行から4年近くを経ていることもあり、また我が国では予防接種を取り巻く環境に大きな変化があり予防接種法も2013年4月に改正されるなどしているところから、日本環境感染学会ではガイドライン改訂委員会を再構成し、改訂作業に取り組んだ。<br>   医療関係者は自分自身が感染症から身を守るとともに、自分自身が院内感染の運び屋になってしまってはいけないので、一般の人々よりもさらに感染症予防に積極的である必要があり、また感染症による欠勤等による医療機関の機能低下も防ぐ必要がある。しかし予防接種の実際にあたっては現場での戸惑いは多いところから、医療機関において院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種についてのガイドラインを日本環境感染学会として策定したものである。この大きな目的は今回の改訂にあたっても変化はないが、医療機関における予防接種のガイドラインは、個人個人への厳格な予防(individual protection)を目的として定めたものではなく、医療機関という集団での免疫度を高める(mass protection)ことが基本的な概念であることを、改訂にあたって再確認をした。すなわち、ごく少数に起こり得る個々の課題までもの解決を求めたものではなく、その場合は個別の対応になるという考え方である。また、ガイドラインとは唯一絶対の方法を示したものではなく、あくまで標準的な方法を提示するものであり、出来るだけ本ガイドラインに沿って実施されることが望まれるものであるが、それぞれの考え方による別の方法を排除するものでは当然ないことも再確認した。<br>   その他にも、基本的には以下のような考え方は重要であることが再確認された。<br> ・対象となる医療関係者とは、ガイドラインでは、事務職・医療職・学生・ボランティア・委託業者(清掃員その他)を含めて受診患者と接触する可能性のある常勤・非常勤・派遣・アルバイト・実習生・指導教官等のすべてを含む。<br> ・医療関係者への予防接種は、自らの感染予防と他者ことに受診者や入院者への感染源とならないためのものであり、積極的に行うべきものではあるが、強制力を伴うようなものであってはならない。あくまでそれぞれの医療関係者がその必要性と重要性を理解した上での任意の接種である。<br> ・有害事象に対して特に注意を払う必要がある。不測の事態を出来るだけ避けるためには、既往歴、現病歴、家族歴などを含む問診の充実および接種前の健康状態確認のための診察、そして接種後の健康状態への注意が必要である。また予防接種を行うところでは、最低限の救急医療物品をそなえておく必要がある。なお万が一の重症副反応が発生した際には、定期接種ではないため国による救済の対象にはならないが、予防接種後副反応報告の厚生労働省への提出と、一般の医薬品による副作用発生時と同様、独立行政法人医薬品医療機器総合機構における審査制度に基づいた健康被害救済が適応される。<br>   * 定期接種、任意接種にかかわらず、副反応と思われる重大な事象(ワクチンとの因果関係が必ずしも明確でない場合、いわゆる有害事象を含む)に遭遇した場合の届け出方法等:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp250330-1.html<br> ・費用負担に関しては、このガイドラインに明記すべき性格のものではなく、個々の医療機関の判断に任されるものではある。<br> ・新規採用などにあたっては、すでに予防接種を済ませてから就業させるようにすべきである。学生・実習生等の受入に当たっては、予め免疫を獲得しておくよう勧奨すべきである。また業務委託の業者に対しては、ことにB型肝炎などについては業務に当たる従事者に対してワクチン接種をするよう契約書類の中で明記するなどして、接種の徹底をはかることが望まれる。<br>(以下略)<br>
著者
桒原 京子 左 卉 堀 賢
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.127-130, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
9

水道水の電気分解により得た次亜塩素酸水と水道水を使用し,温水洗浄便座の洗浄ノズルの除菌効果を比較検討した.約105~106 cfu/mLの大腸菌および緑膿菌を付着させた洗浄ノズルに対し水道水でリンスと吐水を5回繰り返すと,付着菌数は4桁減少した.塩素濃度1.5 ppm含有の次亜塩素酸水によるリンスでは,大腸菌および腸球菌においてリンス3回目から検出限界以下になり,洗浄ノズル表面の細菌も検出限界以下になった.洗浄ノズルの衛生保持には,水道水よりも次亜塩素酸が有効であることが示唆されたが,緑膿菌では次亜塩素酸水を使用しても完全に除菌できなかった.温水洗浄便座を使用する対象者と場所を考慮する必要があると考えられる.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.310-313, 2016

&emsp;据え置き芳香剤の剤形で二酸化塩素ガスを逐次空中に放散させ,抗ウイルス効果を標榜する製品の有用性を検証した.冬季の生活空間を想定し室温23℃,相対湿度30%に設定した1.8 m<sup>3</sup>の密封チャンバー内で製品を開封し,試験中ガス濃度を0.03 ppmを目標として蓋の開閉で調整し,結果的に実験時間中はほぼ0.035&ndash;0.04 ppmの濃度に維持できた.その中に鶏卵由来のA/愛知/2/68株インフルエンザウイルスを含むしょう尿液をネブライザーでミスト化して噴霧し,一定時間後にチャンバー内空気80 Lをゼラチン膜でろ過し,膜に捉えたミスト粒子中の活性ウイルス量を測定し,同製品による空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化効果をみた.その結果,今回の実験条件化では,ガスへの曝露を受けた空間での活性ウイルスの量は対照のそれと変わらず,不活化効果は確認されなかった.<br> &emsp;二酸化塩素ガスによる殺菌,ウイルス不活化の感染制御の実用化のためには,今後さまざまな条件の下でその殺菌/ウイルス不活化効果の有無を検証していく必要があろう.<br>
著者
李 宗子 八幡 眞理子 三根 真 山本 将司 小松 香子 吉田 葉子 吉田 弘之 荒川 創一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.164-171, 2014 (Released:2014-08-05)
参考文献数
17

ここ数年,アルコール手指消毒剤が効きにくいとされるエンベロープを持たないウイルスに対する効果が改善された製剤が開発・販売され,臨床現場に導入する施設もみられるが,その有用性についていくつかの報告があるのみである.そこで当院において,このような製剤が臨床現場での継続使用に耐え得るか,手肌への影響面から調査,検討することにした.   冬季に,看護師40名に対し,リン酸配合によりpHが酸性に調整された試験製剤であるアルコール手指消毒剤(P–AL)使用群と,従来から使用しているほぼ中性のアルコール手指消毒剤(従来品)使用群の2群に分け,約1ヶ月間使用し,使用前後に客観的および主観的評価をした.客観的方法として,経表皮水分蒸散量,角層水分量,皮膚pH,角層細胞剥離率,皮溝の均一性を各々の対応機器で計測・評価し,主観的方法として皮膚状態に関するアンケート調査を行なった.   その結果,客観的評価では,P–AL使用前後の比較において角層水分量に有意な改善が認められ,その他の項目と主観的評価では使用前後で有意差はなく肌荒れの兆候もなかった.   本研究により,P–ALは,手荒れが発生しやすい冬季でも医療従事者の手肌に対する影響は問題なく,エンベロープを持たないウイルスに対する常時の感染対策として継続使用できる可能性があると示唆された.
著者
松元 一明 黒田 裕子 寺島 朝子 前澤 佳代子 木津 純子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.29-32, 2015 (Released:2015-04-05)
参考文献数
5
被引用文献数
1

先発医薬品と後発医薬品では添加物が異なるため,溶解性が異なる可能性が考えられる.そこで本研究ではコールター原理に基づいた自動細胞計数装置を用いて,バンコマイシン塩酸塩点滴静注用5製剤をそれぞれ生理食塩液に溶解し振とうした際の不溶性微粒子数を測定し,各製剤の溶解性を比較検討した.各振とう時間において5製剤の不溶性微粒子数には有意差が認められ,1製剤は先発医薬品よりいずれの時間においても有意に低値を示した.他の4製剤は振とう時間を長くすることで,有意に不溶性微粒子数は低値を示した.したがって,製剤毎の溶解性には差があり,溶解時間が異なることが確認された.バンコマイシン塩酸塩点滴静注用を適正に使用するには,溶解性の差を理解し,適切な溶解時間を現場の医療スタッフに周知徹底する必要がある.