著者
小林 龍 谷口 亮央 古泉 景子 土屋 総之 多田 知弘 佐藤 雄樹 柴波 明男 妻木 良二
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.280-284, 2008-09-25
被引用文献数
2 2

今回,手荒れの予防効果が高いと言われているアルコールゲル擦式消毒剤(ゲル剤)を用い,皮膚に対する影響について,当院看護師82名を対象として2週間使用後の手掌と手背,指先の肌水分量を測定した.<br>   各薬剤とも調査前後の手指消毒回数に変化はなかった.種類による差はあるものの,3種類のゲル剤全てにおいて,手掌と指先の肌水分量が増加した.<br>   今回の結果より,ゲル剤の保湿効果が擦式消毒用アルコール製剤に比べ高いことが示された.この成績は,ゲル剤使用により手荒れ防止および手指消毒回数の減少防止に繋がり,医療関連感染の低下にも有効であると考えられる.<br>
著者
野口 周作 望月 徹 吉田 奈央 上野 ひろむ
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.79-85, 2013 (Released:2013-06-05)
参考文献数
9

病院の感染制御において,薬剤耐性菌対策は重要な問題である.当院では2004年8月にInfection Control Team (ICT)が発足して以来,段階的に抗菌薬適正使用強化策を行った.その取り組みと効果について検討し,若干の知見を得た.2007年にオーダリングシステムと連動した特定抗菌薬使用届出制導入をはじめ,2010年より積極的に症例に関わる方法としてICT抗菌薬ラウンド導入に至るまで段階的に強化策を行った.その効果判定の指標として,カルバペネム系抗菌薬の使用量,投与日数,緑膿菌の感性率及び多剤耐性緑膿菌(MDRP)の年間検出件数を調査した.カルバペネム系抗菌薬の使用量は,1277バイアル(V)(2004年11月)から327V(2010年6月)に,平均投与日数は8.40日(2006年)から5.97日(2010年)に減少し,緑膿菌のmeropenemに対する感性率は72%(2008年)から90%(2011年)に回復した.MDRPの年間検出件数は28件(2008年)から1件(2011年)に減少した.段階的強化策を講じたことで,大きな問題なく医療従事者の抗菌薬適正使用に対する意識を高めることができ,緑膿菌の薬剤感受性の回復とMDRP検出件数の顕著な減少効果が表れたと考える.本結果を踏まえ,今後はより高い水準の抗菌薬適正使用と感染症治療支援に携わっていきたい.
著者
土田 敏恵 荻野 待子 濵元 佳江
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.117-126, 2015 (Released:2015-06-05)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

感染防止の視点からわが国で実施されている陰部洗浄の実態を明らかにし,病床機能による特徴について検討することを目的に,全国の医療施設と介護福祉施設計6,000施設に勤務する看護師・介護職者を対象に構成的質問紙調査を実施した.有効回答部数は1,930部(32.2%)で,病床機能別の回収率は,一般病床937部(48.5%),療養病床600部(31.1%),介護福祉施設393部(20.4%)であった.調査対象の70%の病棟または施設で,入院/入所者の5割以上がおむつを使用していた.実施状況は,対象者1名に対し2人が10分未満で陰部洗浄を実施しており,手袋は1~2双使用していたが,エプロンやマスクは34%が使用しないと回答した.手袋とエプロンの装着は対象者に触れる前であったが,手袋を除去するタイミングは便付着時が最多であるものの多様であった.病床機能別では,対象者1名あたりの陰部洗浄を介護福祉施設の75.8%が実施者1人で実施し,所要時間は61.3%が5分未満で,手袋の使用枚数は1双が69.7%,ディスポーザブルエプロンは62.6%が使用しないと回答した.手指衛生や陰部を洗浄する順序,周囲環境汚染防止策や感染症を疑う対象者への対策については,病床機能による違いはなかった.
著者
山田 恭聖
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.227-234, 2022-11-25 (Released:2023-05-25)
参考文献数
26

新型コロナウイルスに罹患した妊婦においては周産期予後が懸念される.流行開始から2年半が経過する中で,妊娠合併症や新生児予後を含む多くの報告がなされている.2021年にはいくつかの国レベルの調査(イギリス,スウェーデン,スペイン)が報告された.これらによれば,陽性妊婦から出生した新生児のPCR陽性率は1.6-5%と想定されている.また現時点でSARS-CoV-2の胎盤を通じての胎児への移行は報告されていない.最近新型コロナウイルス感染妊婦やその新生児の健康に対する影響を評価したシステマティックレビューが複数報告されている.これらによれば,新型コロナウイルス感染妊婦は非感染妊婦に比較し妊娠高血圧腎症(オッズ比1.3-1.6倍),早産(オッズ比1.6-1.9倍)が増加すると報告されている.小児多系統炎症症候群(MIS-C)は新型コロナウイルス感染後に発症する免疫誘導状況である.新生児多系統炎症症候群(MIS-N)は母体SARS-CoV-2に関連し,MIS-Cに矛盾しない症状を呈する.抗体の経胎盤移行が原因と推定されているが不明な点も多い.新型コロナウイルス感染症既往歴のある妊婦から出生した新生児で,多系統の炎症による異常徴候を説明する鑑別診断としてMIS-Nを検討する必要があると思われる.最新の知見によれば出生後の新生児が入院中に感染を獲得するリスクは低いと推察されている.さらに,母乳中に明らかに感染性のあるウイルスは検出されていない.最近のこれらデータの蓄積により世界的には母児分離を避けることが推奨されている.しかし国内の多くの施設では新生児はいまだに感染母体と分離されている.これらの厳格な感染管理によって引き起こされる負の影響が懸念される.
著者
丸山 浩平 足立 遼子 関谷 潔史
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.248-255, 2022-11-25 (Released:2023-05-25)
参考文献数
25

COVID-19へのBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種による感染および発症予防効果が示されているが,これらの効果は経時的な低下が報告されている.一方で,接種後の抗体価は感染予防効果との相関が示唆されているが,接種後から長期間経過した時点での抗体価に影響を与える要因の報告は少ない.我々はBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン2回目接種後の職員に抗体検査を実施し,6か月以上経過している場合の,抗体価に影響を与える要因について後ろ向き観察研究を行った.このうち過去にCOVID-19罹患が判明している職員,問診票による情報収集ができなかった職員は除外した.本研究において,2回目接種から6か月以上経過している場合,抗体価が大幅に低下していることが判明した.さらに,6か月以上経過している医療従事者において,単変量解析では年齢,性別,降圧剤の使用が抗体価に影響を与える要因とされ,多変量ロジスティック回帰分析では年齢のみが抗体価に影響を与える要因とされた.年齢については本邦だけではなく,海外からの報告でも抗体価に影響を与える要因とされている.本研究の結果より,ワクチン2回目接種から6か月以上経過している場合,高齢者においては時間経過によるワクチン抗体価の低下が若年層に比べて,より顕著であり,このことは高齢者において,ワクチンによる感染予防効果が時間的な影響をより受けやすいことを示唆していた.
著者
三宅 寿美 脇本 寛子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.87-93, 2011 (Released:2011-06-05)
参考文献数
9
被引用文献数
4

インフルエンザなどの飛沫感染予防には「咳エチケット」を実践することが重要である.病院内のみならず地域で一般市民が「咳エチケット」を実施することは,より有効な感染予防対策といえる.そこで本研究は,今後の啓発活動の手掛かりを得るために,我が国の一般市民の「咳エチケット」の認識度の実態を明らかにすることを目的とした.   インターネット調査とし,一般市民を対象に2009年2月と2010年3月の2回実施した.対象は,1回の調査あたり400人で,居住地域,年齢,性別で層別した.調査項目は,「咳エチケット」を聞いたことの有無,「咳エチケット」の行動実施状況,マスクの着用目的等とした.   「『咳エチケット』という言葉を聞いたことがありますか」の設問に「はい」と回答したのは,1回目31.0%(124人),2回目47.8%(191人)であり,情報源は,テレビ番組と病院の掲示が多かった.2回の調査共に,「咳エチケット」を聞いたことがある人の方が聞いたことがない人に比べて有意に多かった「咳エチケット」の行動は,「咳やくしゃみの時に鼻と口を手で覆う」ことであり,2回目では更に,「咳やくしゃみなどの症状がある場合」をマスク着用の最も適切な場合と回答していた.「咳エチケット」という言葉を聞いただけでは正しい行動に繋がっていないことが伺え,今後は,テレビや病院の掲示などの媒体を利用して,啓発活動を強化することが必要と考えられた.
著者
川村 ひとみ 坂本 拓也 斎藤 寿哉 諏訪 真知子 服部 万里子 熊澤 美紀子 遠藤 洋子 戸島 洋一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.210-213, 2019-05-25 (Released:2019-11-25)
参考文献数
4
被引用文献数
1

タゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)とバンコマイシン(VCM)の併用療法が他の広域抗菌薬とVCMの併用療法と比べ,急性腎障害(AKI)を引き起こすことが海外で報告されている.そこで,AKI発症リスクについてメロペネム(MEPM)との併用療法と比較検討した.AKI発症率はTAZ/PIPC+VCM32.0%,MEPM+VCM 7.9%と有意な差を認めた.多変量解析ではAKI発症のリスク因子としてTAZ/PIPC使用のみ有意な因子(オッズ比6.77,95%CI:1.43-32.09)となった.TAZ/PIPC+VCM併用療法ではVCMトラフ値に関わらず腎機能を注意深く監視する必要がある.
著者
國島 広之 山崎 行敬 中谷 佳子 細川 聖子 駒瀬 裕子 三田 由美子 竹村 弘
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.123-126, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
11
被引用文献数
1

医療従事者の針刺し切創事例は,リキャップ禁止などの啓発活動や安全器材の普及により減少しているものの,全体に占めるペン型注入器用注射針の針刺し切創事例は増加傾向にある.今回,針刺し損傷防止機構付ペン型注入器用注射針(以下,「安全機構付注射針」)の導入による医療従事者の安全性への効果を把握するべく,3病院でのペン型注入器用注射針による針刺し切創発生件数を調査した.ペン型注入器用注射針による針刺し切創事例は,リキャップおよび廃棄に伴う事例が多く,安全機構付注射針の導入により月あたりの針刺し切創の発生件数は,0.33件/月から0.20件/月と減少がみられ,医療従事者の安全な就業環境の確保が得られたことが示唆された.
著者
野上 晃子 赤松 啓一郎 小島 光恵 中井 知美 辻田 愛 西野 由貴 神藤 洋次 柳瀬 安芸 南方 良章
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.345-349, 2014 (Released:2014-12-05)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

医療関連感染は医療従事者が媒介者となることがあり,手や鼻腔,ユニフォームなどに病原微生物が付着していることが知られている.標準予防策では手指の汚染は防げるが,ユニフォームの汚染は防ぎきれない.そこで,ユニフォームの細菌汚染状況について,職種別,部位別に,付着菌量,菌種の調査を行った.和歌山県立医科大学附属病院に勤務する看護師,医師,理学療法士各6名,計18名に対し,洗濯直後のユニフォームを3日間着用して通常業務を行った後,拭き取り培養法により,ユニフォーム付着菌の菌量と菌種を調査した.調査部位は,ユニフォームの13ヶ所,各々100 cm2とした.職種間では,理学療法士が5.95 CFUと検出菌量が最も多く,医師3.24 CFU,看護師1.83 CFUと続いたが,統計学的には有意差は認めなかった(p=0.165).部位別では,両袖,後面の裾で,他の部位に比べ有意に菌量が多かった(p=0.0010).付着菌種では,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が最も多かったが,黄色ブドウ球菌も多く認められた.医療従事者の感染予防策として,手洗いの励行とともに,ユニフォームの両袖や後面の裾などに対する注意も必要であり,なかでも理学療法士のユニフォームが汚染源になる可能性を考慮すべきである.
著者
尾崎 昌大 森 広史 古川 恵太郎 坂本 春生
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.285-289, 2018-11-25 (Released:2019-05-24)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

2015年7月,当院の血液腫瘍内科で入院していた患者から多剤耐性緑膿菌が検出された.その後,環境付着菌検査を行った温水洗浄便座の洗浄ノズルからMDRPを検出し,アウトブレイクであると判断し,感染対策を行った.アウトブレイクの一因として,清掃スタッフによる院内感染対策上不適切な清掃方法が行われていたことが挙げられた.その他にも製造時期が古い温水洗浄便座の洗浄ノズルにおいて,適切な清掃ができないなどといった温水洗浄便座を院内で使用する際に留意すべき問題点も判明した.このことから,院内で使用している設備・機器の洗浄方法や導入などにICTの積極的な介入が必要であることが改めて認識された.
著者
伏見 華奈 齋藤 敦子 更谷 和真 土屋 憲 池ヶ谷 佳寿子 加瀬澤 友梨 徳濱 潤一 原田 晴司 柴田 洋 髙森 康次 増田 昌文
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.136-142, 2018-07-25 (Released:2019-01-25)
参考文献数
25

本邦には歯科用ユニットの給水に関する水質の基準がなく,レジオネラ属菌による汚染の報告もみられず医療関係者の関心も低い.当院は1997年より院内感染対策の一環として院内給水系のレジオネラ定期環境調査を行っており,2014年から歯科用ユニットの給水を環境調査に追加した.4台の歯科用ユニットのうち1台よりLegionella sp.が60 CFU/100 mL検出され,部位別にみると,うがい水,低速ハンドピース,スリーウェイシリンジから,1,000 CFU/100 mLを超えるLegionella sp.が検出された.対策として,給水の温水器停止と回路内のフラッシング,次亜塩素酸ナトリウム希釈水の通水を行ったが,Legionella sp.は検査検出限界以下にならなかった.歯科用ユニットの構造的理由から,高温殺菌や高濃度消毒薬の使用など更なる対策の追加はできず,やむを得ず歯科用ユニットを交換した.近年,大半のレジオネラ症例は感染源が明らかではない国内単発例と報告されており,これまで認識されていない感染源の存在が示唆される.エアロゾルを発生する装置としての歯科用ユニットの給水システムはレジオネラ感染の極めて高い潜在的リスクと考える.歯科用ユニット製造業者と使用管理者,行政が連携し,歯科用ユニット給水汚染の制御法確立とレジオネラ症予防のための適切な管理基準の策定が望まれる.
著者
鹿角 昌平 小林 史博 芝野 牧子 松岡 慶樹
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.119-127, 2022-07-25 (Released:2023-01-25)
参考文献数
13

医療従事者を対象とした新型コロナウイルス感染症に係るワクチン(以下,新型コロナワクチン)の優先接種に際して,長野中央病院(以下,当院)では感染制御チーム(Infection Control Team:ICT)からのワクチンに関する情報提供や,副反応が生じた際の特別休暇制度を設ける等の対応を行った.当院が行ったこれらの対応や,その他の各種情報が,当院職員の新型コロナワクチン接種に関する意思決定に与えた影響について調査した.“感染学習会やICTからの情報”が意思決定に与えた影響度は有意に高かったが,“特別休暇制度”の重視度は有意に低かった.新型コロナワクチンの接種行動に関して働きかけを行う際には,単に感染の危険性や接種のメリットを訴えるだけでなく,受け手側の特性を十分考慮した上で,効果的な手法を採用すべきであると考えられた.
著者
岡田 淳子 合田 礼 安井 初美 島 彬子 後藤 友紀
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.267-272, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
8
被引用文献数
3

医療者が手袋を装着することは,職業上血液暴露リスクの減少に有効な方法と評価されているが,採血時の手袋装着率は向上していない.採血時の手袋による「指先感覚鈍麻」と「操作困難」の程度を採血経験の有無で比較した.また,手袋が影響を及ぼす採血操作を明らかにした.   採血操作は手袋を装着することによって指先感覚鈍麻と操作困難が高まった.しかし,採血以外の看護ケアでも手袋を装着している経験者は,未経験者よりも指先感覚鈍麻と操作困難が低かった.また,採血経験者のうち,日頃から手袋装着で採血している者のほうが指先感覚鈍麻と操作困難の程度は低く,手袋装着を習慣化することで指先感覚鈍麻と操作困難は軽減され手袋装着率は向上することが示唆された.   また,採血操作14工程中,指先感覚鈍麻と操作困難を生じているのは,静脈触知,絆創膏貼付と開封であった.したがって,手袋装着は静脈触知後とし,注射針を破棄した後に手袋を除去すれば手袋の影響は最小限にできると考えられるが,採血実施者は熟練された技が必要になると思われる.   手袋が手に適合していない場合も,指先感覚鈍麻と操作困難が生じていた.そのため,適合する多種サイズの手袋配置が重要になることが示唆された.
著者
仲宗根 由美 名渡山 智子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.167-171, 2011 (Released:2011-08-05)
参考文献数
5

タクシー乗務員は狭い空間の中で様々な人たちを運送することから,呼吸器感染症に感染しやすい環境におかれているといえるが,インフルエンザなどの呼吸器感染症が流行している時期でも,マスクを着用しているタクシー乗務員をみかけたことがない.本研究は,タクシー乗務員の呼吸器感染症予防対策について検討することを目的とし,タクシー会社の管理者およびタクシー乗務員を対象に,呼吸器感染症予防に対する意識と予防行動についてアンケート調査および直接聞き取り調査を行った.その結果,呼吸器感染症予防対策のある会社は約20%であり,呼吸器感染症予防対策に関する知識がないために予防対策をとっていない会社もあることが明らかとなった.タクシー乗務員については,マスクを着用したいが客の反応を気にしてマスクを着用できない乗務員もいた.以上のことから,タクシー乗務員が呼吸器感染症を予防するためには,専門的な知識をもった医療職者が感染予防対策に関する知識や情報を会社やタクシー乗務員に提供するなどの介入が必要であり,会社全体での取り組みが必要であると考えられた.
著者
長尾 多美子 桑原 知巳
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.172-178, 2021-05-25 (Released:2021-11-25)
参考文献数
7

2018年2月に障害者支援施設で発生した感染性胃腸炎のアウトブレイク事例について報告する.当該施設は感染管理専門家が不在のため,発生要因の調査依頼を受け分析を行った.集団感染を検知したのは2月6日で,入所者4名と職員1名の合計5名が発症した.その後,2月14日に収束するまでの8日間で入所者20名(全利用者40名)と短期入所者1名,および職員6名(全職員42名)の合計27名が発症した.アウトブレイク期間の後半4日間の発症者の大部分は職員であった(入所者1名,職員4名).入所者の支援記録から2月4日に発熱,軟便,黒色吐物の嘔吐により転院した入所者が確認され,また介助した職員も発症していたことから,本入所者が感染源と考えられた.流行曲線は一峰性であったことから,集団感染検知後の感染対策は機能したと考えられた.本アウトブレイク事例では,①流行期に発熱・消化器症状を呈する入所者への初期対応ができていなかったこと,②発症した利用者の嘔吐や下痢の処理を担当した職員が発症したこと,③利用者の発症が収束した後も職員の発症が継続したことから,感染管理専門家が不在の障害者支援施設等においては「職員に対する継続的な感染対策教育の必要性」が重要であると考えられた.
著者
國重 龍太郎 大湾 知子 富島 美幸 武加竹 咲子 久田 友治 小出 道夫 健山 正男 比嘉 太 藤田 次郎
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.14-21, 2015

当院では浴室のシャワー水におけるレジオネラ調査を毎年行っている.2010年度では5階精神科病棟浴室のシンクタップ1件のみにレジオネラが検出された.2011年度では4階産婦人科・周産母子センター,NICUのシャワー,シンクタップ,浴室以外の洗面台等水系設備の複数の箇所からレジオネラが検出された.対策としてホース交換と放水を長期間行ったのち再検査した結果,1ヶ所を除いてすべて陰性であった.聞き取り調査によると,陽性であった周産母子センター面談室手洗いシンクは放水による対策が十分に行われていなかった事が判明した.<br>   今回はレジオネラ発生箇所と水系設備の配置や使用状況から,組織連携を主とするレジオネラ対策活動指針を考察した.4階は水系設備の最下層であり水が淀みやすい.さらに給水管の使用頻度が低いためにレジオネラの検出が多くなり,レジオネラ感染症への危険性が高まると推定される.レジオネラ対策では,給水設備の配置や水系設備の使用頻度を正しく把握する必要がある.このため調査者は感染対策室,該当部署,設備課との連携と協力,情報交換を迅速に対応することが不可欠である.これを円滑に行えるよう支援できるシステムを構築した.<br>
著者
戸田 宏文 山口 逸弘 鹿住 祐子 中江 健市 上硲 俊法 田中 加津美 吉田 理香 吉田 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.319-324, 2013 (Released:2014-02-05)
参考文献数
18

我々は喀痰抗酸菌培養検査において,採痰ブース内水道水にMycobacterium lentiflavumが混入したことによるpseudo-outbreakを経験した.81症例からM. lentiflavumが検出されたが,感染症例は認められなかった.採痰ブース以外の院内水道水103箇所の抗酸菌培養を行ったところ,6個所からM. lentiflavumが検出された.臨床分離株14株,採痰ブース由来3株,および院内水道水由来5株の合計22株についてrep-PCRにて相同性の確認を行ったところ,プロファイルAからEに分類された.プロファイルCとDには臨床分離株と環境由来株が混在し,95%以上の相同性が認められた.
著者
菅原 民枝 大日 康史 具 芳明 川野原 弘和 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.195-198, 2012 (Released:2012-08-05)
参考文献数
7
被引用文献数
6 8

感染症流行の早期探知のための薬局サーベイランスでは,抗インフルエンザウイルス薬,抗ヘルペスウイルス薬,解熱鎮痛剤,総合感冒薬,抗菌薬の薬効分類で処方件数のモニタリングをしている.近年,抗菌薬耐性菌感染症の問題があり,諸外国では使用量が算出されて国際比較が行われているが,日本全国でのモニタリングはなされていない.そこで,薬局サーベイランスによる1年間の処方件数を用いて日本全国での外来診療における使用量を算出する方法について検討した.抗菌薬処方を5分類(ペニシリン系,セフェム系,マクロライド系,キノロン系,その他)し,それぞれの処方件数を算出し,先行研究の投与量の分布を用いて,使用量を算出した.それを抗菌薬標準使用量(Defined Daily Dose: DDD)を人口1000人の1日あたりで示した.期間は,2010年8月~2011年7月処方の12ヶ月分である.抗菌薬処方件数は,12月が最も多く,8月が最も少なく,種類ではマクロライド系が多かった.抗菌薬標準使用量DDDは,全国で10.16であった.都道府県別では,西日本が高い傾向があった.
著者
萩谷 英大 國米 由美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.405-411, 2012
被引用文献数
1

&nbsp;&nbsp;院内感染対策活動において職業感染防止策の徹底は,医療従事者を感染症から守るという意味において非常に重要である.医療従事者は日常的に感染症に曝露する可能性が高く,ワクチン予防可能疾患に対しては積極的にワクチン接種を行い,予防することが推奨されている.<br> &nbsp;&nbsp;集中治療室における汎発性帯状疱疹患者の発生,手術室における流行性耳下腺炎患者の緊急手術事例をきっかけに,当院関連施設の全職員を対象としたワクチン接種活動を行うこととなった.対象疾患は麻疹,風疹,流行性耳下腺炎,水痘帯状疱疹の4疾患,対象人数は984人であった.発案・計画から抗体価測定,抗体陰性者に対する2回のワクチン接種の完了まで約7ヶ月という短期間で終了し,抗体価低値者全体におけるワクチン接種率は麻疹81.9%,風疹76.9%,流行性耳下腺炎76.2%,水痘帯状疱疹60%であった.<br> &nbsp;&nbsp;院内でワクチン予防可能疾患の発症事例が続いたこと,Infection Control Teamだけでなく業務改善など他の事業と関連付けて他部署と協力して活動したこと,抗体価検査の全額とワクチン接種費用の半額を病院負担としたこと,ワクチンの同時接種を院内コンセンサスとして認めたこと,などが短期間で多数の職員に対して高い接種率でワクチン接種を完遂できた要因と考えられた.<br>
著者
岡田 淳子 山水 有紀子 山根 啓幸 山村 美枝 松本 由恵 百田 武司 西條 美恵 板橋 美絵
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.437-443, 2014 (Released:2015-01-26)
参考文献数
18
被引用文献数
4 5

大規模な災害時は生命の危機状態にある患者が急増し,医療機関は入院患者の対応が優先されるため避難所への支援は困難になる.そのため,避難所での感染伝播を防ぐには,避難者が実施する衛生管理が重要になる.そこで,避難者が実施した衛生的な行動を明らかにし,避難所の感染予防策について検討した.   東日本大震災で避難所生活を経験した避難者80名を対象に,手指衛生と環境衛生について構成的面接を実施した.その結果,震災直後は手を洗う環境が全くなかったと約60%が回答したが,救援物資の到着や水道の復旧によって手指衛生は強化された.しかし,手指衛生の実施場面は個人の衛生習慣が影響するため,日常から住民の手指衛生が習慣化する関わりが必要と思われる.また,外部支援による感染予防行動や衛生管理の指導は約25%の避難者にしか認識されていなかった.しかし,指導を受けた避難所リーダーが感染予防行動を具体的に指示した避難所は,環境の衛生状態を維持していた.避難所で感染を防止するためには,集団をマネジメントするリーダーの存在が重要であり,外部支援としては避難者らが予防行動を開始できるように支援することが示唆された.