著者
矢野 知美 橋本 好司 田代 尚崇 棚町 千代子 堀田 吏乃 糸山 貴子 石井 一成 佐川 公矯
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.303-311, 2009-09-25
参考文献数
29
被引用文献数
2

我々は,2008年10月に多剤耐性緑膿菌(MDRP)によるアウトブレイクを経験した.感染の拡大防止・確認のため,環境付着菌検査および患者の鼻腔・尿・便検体の細菌培養検査を行ったが,<i>Pseudomonas aeruginosa, Acinetobacter</i>属,<i>Bacillus</i>属等の菌は検出されたが,MDRPは検出されなかった.<br>   そこで,MDRPを含め環境由来菌による医療関連感染の予防対策として,医療環境水の微生物生息状況を把握するため,無菌室および浴室・シャワー室・洗面台・作業スペースにある給水・給湯水について水道法,日本薬局方および新版レジオネラ症防止指針に記載されている濾過濃縮法に準じ,微生物汚染度調査を行った.その結果,MDRPの検出はなかったが,日和見感染や医療関連感染を惹起する従属栄養細菌と臨床上問題となる<i>Bacillus cereus, Legionella pneumophila</i>等の細菌が検出された.<br>   今回の調査によって,医療環境水には様々な細菌の汚染が考えられるため,給水設備の定期的な維持管理が重要であるということが確認された.<br>
著者
盛次 浩司 齋藤 信也
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.34-41, 2017
被引用文献数
1

<p>非急性期ケアにおける尿道留置カテーテルの取り扱いの現状を把握するとともに,そこでのカテーテル関連尿路感染症(Catheter-associated Urinary Tract Infections:CAUTI)予防のあり方を探るためアンケート調査をおこなった.A県下の訪問看護ステーション(訪看)106施設,特別養護老人ホーム(特養)146施設,介護老人保健施設(老健)77施設,療養型病床(療養病床)130施設を対象とし,カテーテル取り扱いの現状,CDCの「カテーテル関連尿路感染の予防のためのガイドライン2009」にみられる各インディケーターの遵守状況について調査した.有効回答数は175(38.1%)であり,カテーテルの使用率は訪看10.5%,特養3.5%,老健3.8%,療養病床24.6%であった.カテーテル使用理由については,訪看では,医学的理由以外の「介護者の負担軽減」,「尿失禁ケア」の理由も多くみられた.療養病床では,「褥創治療」,「尿閉・神経因性膀胱」,「終末期ケア」の順であった.ガイドラインの遵守状況は施設類型間に差はみられなかったが,閉鎖式セットといった感染対策に役立つとされる材料の選択では,その必要性と使用比率との間に乖離がみられた.今後は,非急性期ケアの実情に適したカテーテルの材質やセット内容の改善,また,感染予防教育などを含んだ総合的な対策が必要と考えられた.</p>
著者
多湖 ゆかり 森兼 啓太
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.174-179, 2015 (Released:2015-08-05)
参考文献数
4
被引用文献数
1

透析患者の予後に大きく影響する透析関連感染の実態を明らかにし,感染率を低減させるために,実施したサーベイランスと並行して実施した介入を評価した.サーベイランス開始当初9ヶ月における短期留置カテーテル感染率は1000透析日あたり48.61であり,研究会の感染率(同14.55)に比較して有意に高いことがわかった.そこで,カテーテル挿入時のマキシマルバリアプリコーションの実施率の向上,教育など多面的なアプローチを行い,さらに長期留置カテーテルを導入した.長期留置カテーテル導入前(2010年7月~2012年6月)と導入後(2012年7月~2013年6月)の感染率を比較すると,33.40から9.20に低減し(p=0.05),研究会の同時期の感染率8.21と比較しても遜色ない値となった.また,短期留置カテーテルの平均留置日数も若干短縮した.これらの効果の検証に際しサーベイランスは有効であり,そのデータに基づき実施した介入は効果的であったと考える.
著者
津曲 恭一 長田 智子 新城 日出郎 田村 謙二 河口 朝子
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.227-232, 2009-07-24
被引用文献数
2

ハンセン病療養所である当園の入院病棟において,2008年7月,B型インフルエンザ陽性患者が1名発生した.終息宣言までの14日間の間に,合計8名の発熱,咽頭発赤,咳嗽,下痢等を訴えた患者が確認された.このうちインフルエンザウイルスキットに対し陽性反応の見られた患者は1名のみで,他の7名は陰性であった.<br>   医療関連感染症対策委員会が緊急に開催され対応策が検討された.感染源と経路の特定,感染経路の遮断による二次感染阻止,早期終息を目的とし,内科医師,看護課,検査科,医療関連感染症対策室を中心に活動した.<br>   園内の感染状況の把握,園内放送による入所者と職員への注意喚起はほぼ連日行われた.さらに,1) 手洗いの励行,2) 防護具やマスク配布,3) 集団活動(機能訓練室と食堂の使用)の制限,4) 面会の制限,が実施された.発症患者8名の平均年齢は92歳で,インフルエンザによる重症化のリスクが高く,また前年に接種したインフルエンザワクチンの効果は望めないと考えられたため,インフルエンザウイルスキットで陰性の患者全員にもリン酸オセルタミビルが予防投与された.<br>   感染経路は,外部からの持ち込み(ヒト-ヒト感染)が疑われたが,確証を得られなかった.最初の患者発症から,5日目以降は新たな発熱患者は発生せず,流行は速やかに終息した.<br>   迅速な組織的対応とリン酸オセルタミビルの予防投与が奏功したと考えられた.<br>
著者
岡崎 真由美 粟井 一哉 森 規子 吉田 雅春 本田 淳一 森 由弘
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.52-57, 2008-03-25
被引用文献数
1

近年,栄養状態が疾患の治療効果に大きな影響を及ぼすことが分かり,栄養療法の重要性が再認識されてきた.一方感染対策においても,抗菌薬の耐性化や本邦における急速な高齢化の影響もあって,宿主の免疫力とも大きな相関のある栄養療法の重要性は年々高まっている.<br>   当院は,病床数179床の市中急性期病院であるが,2001年1月に栄養サポートチーム(NST)が,そして翌月に院内感染対策チーム(ICT)が相次いで発足した.NSTは栄養療法の適正化を進め,従来の中心静脈栄養(TPN)主体の栄養療法から,経腸・経口栄養を基本とした栄養療法へと劇的な変化をもたらした.またICTは環境感染対策,各種サーベイランスの開始や抗菌薬の適正使用などに精力を注いできた.<br>   両チーム発足後の推移を追ったところ,TPNは2000年度とその後の6年間を比較し7,917本から平均3,874本と46.1%の大幅な減少を認め,対照的に経腸栄養患者数は大きく増加していた.抗菌薬使用量についてはPK/PD理論に基づき一人当たりに使用するバイアル量は増加傾向であるにもかかわらず,2000年度とその後の6年間を比べると29,177本から平均25,718本と11.8%の減少を認めた.<br>   NSTとICTのコラボレーションは,抗菌薬の使用量の減少効果および医療費の抑制効果を生みだし,耐性菌の抑制などの感染対策としても有益である可能性が示唆された.<br>
著者
青山 恵美 操 華子
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.453-462, 2014

結核病棟を有していないA病院における肺結核患者の受診の遅れ,診断の遅れの実態とその関連要因について明らかにした.<br>   データトライアンギュレーションを用いた症例集積研究を行った.2010年7月から2011年9月までに,A病院で肺結核と診断された7名の患者(男性6名・女性1名)と診断を担当した4名の医師を対象とした.肺結核の症状出現から診断までの経過について,診療記録ならびに対象患者と対象患者を診断した医師との半構造化面接から,情報収集を行った.<br>   診療記録から収集した情報では患者の受診の遅れは明らかにならなかったが,面接の分析結果では7名のうち6名に数カ月から数年にわたる受診の遅れが認められた.肺結核の診断は比較的早期にされており,診断の遅れは明らかにならなかった.受診の遅れに関連した要因として,【受診にはつながらなかった症状】【健康診断結果通知の遅れ】【結核に対する知識不足】【健康診断での異常の指摘後のフォロー不足】が明らかになった.【受診にはつながらなかった症状】には,肺結核の典型的な症状に加え,微熱,食欲不振,疲労のような肺結核特有ではない一般的な症状が含まれた.特に,高齢者では加齢によるものとしてそれらの症状が見落される傾向が明らかになった.<br>   患者の受診の遅れを短くするために,微熱,食欲不振,疲労のような一般的な症状が持続,悪化した時には,医療機関を受診するように教育する必要がある.また,診断の遅れを短縮するためには,医師の肺結核に対する意識や知識が関連しており,呼吸器内科医の診察や胸部レントゲン写真の読影医によるダブルチェックなどの診療体制の整備と過去履歴の管理が重要である.<br>
著者
細田 昌良 小松 敏美 松下 美幸
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.140-144, 2008 (Released:2009-02-12)
参考文献数
5

流行性角結膜炎(EKC)は接触伝播し,しばしば院内感染を引き起こす.2006年7月から9月に眼科病棟のない当院でEKCが流行した.入院患者4名,職員2名,外来患者7名の計13名の発症があり,当院感染対策委員会は,アウトブレイクと判断した.院内の対策として,感染者の隔離,患部処置法の指導,環境の消毒などの接触感染対策の強化を行い,感染職員には出勤停止を指示した.更に,職員全員への啓発を目的に,院内へのポスター掲示や警告文書回覧を行った.EKC患者が発生した特別養護老人ホームへは当院の認定ICDが,接触感染対策と新規EKC発症の監視を指導した.また,院外の発症に対しては,地域内の保育園がEKC感染の媒介になっている可能性があり,当院から当該保育園へ患児の登園停止や集団生活での接触感染対策を指導した.更に,家庭内や教育現場での感染拡大を防ぐために地域社会全体への啓発活動を実施した.行政保健師を中心にEKCへの啓発番組を制作し,地域内ケーブルテレビで2週間放映した.これらの対策の結果,院内・院外ともEKC流行は終息した.行政と地域メディアの協力を得た,地域社会へ向けた感染対策は有用であった.感染制御に携わる医療従事者は,地域社会での感染対策活動にも指導的立場で臨むことが必要である.
著者
戸島 洋一 服部 万里子 坂本 拓也 松田 俊之 熊澤 美紀子 遠藤 洋子 山本 武史
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.161-166, 2011 (Released:2011-08-05)
参考文献数
8

アンチバイオグラム(抗菌薬感性率一覧表)は各施設や地域で分離される病原細菌の抗菌薬感受性を累積して示したレポートであり,感染症のエンピリック治療を開始する際の重要な情報源である.通常一定期間に院内で分離された菌はまとめて集計されるが,菌種によっては診療科や検体種類によって感受性に大きな違いが存在する可能性がある.今回われわれは,分離数が多く,耐性菌が治療上問題となりやすい緑膿菌について,診療科間,検体種類間,外来・入院間での13種類の抗菌薬の感性率の差について検討した.2009年に分離された緑膿菌株数(1人1株)は369株(外来患者から83株,入院患者から286株)で,30株以上検出された診療科は5科であった.5診療科間で抗菌薬の感性率に有意な差が認められた抗菌薬は3剤であったが,4つの検体種類間(呼吸器・泌尿器・消化器・膿浸出液)では13種類中11の抗菌薬で有意な差が認められた.呼吸器検体,膿浸出液検体の感性率が高く,泌尿器検体,便検体の感性率が低かった.外来・入院間ではすべての抗菌薬の感性率が入院由来株で低かった.尿路由来検体と呼吸器由来検体の緑膿菌の感性率の違いは大きいため,治療に当たる際は検体種類別に層別化されたアンチバイオグラムが有用であると考えられた.また診療科間の感性率の差は主に検体種類の差によるものであり,診療科別アンチバイオグラムの必要性は低いと考えられた.
著者
木村 丈司 甲斐 崇文 高橋 尚子 佐々木 秀美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.310-316, 2010 (Released:2010-12-05)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2 6

抗菌薬のPK/PD理論に基づく投与方法を実践するため,ICT,薬剤部にて抗菌薬のPK/PD理論に関する資料を作成し,2008年4月から院内への配布を開始した.同時に勉強会やICTニュースの配信,院内の抗菌薬使用指針の改訂といった活動も行い,PK/PD理論の普及を試みた.   活動を開始した2008年度以降の投与方法をみると,CZOPでは1000 mg×3回/dayが,MEPMでは500 mg×3回/dayが,DRPMでは250 mg×3回/day及び500 mg×3回/dayがそれぞれ増加した.また第4世代セフェム系,カルバペネム系,ニューキノロン系抗菌薬及び抗MRSA薬の平均投与期間は,2008-2009年度で2006-2007年度に比べ短縮していた.緑膿菌のCZOPに対する耐性率は,2005年度に比べ2006-2007年度で増加したが,2008-2009年度では2005年度と同程度にまで減少し,またMEPMに対する耐性率は年々減少が見られた.   このように今回我々が行った活動は抗菌薬のPK/PD理論の実践に有用であり,またPK/PD理論の実践は感染症治療期間の短縮及び抗菌薬耐性菌の増加防止に繋がる可能性が示唆された.
著者
操 華子
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-11, 2014

本稿から疫学・統計学の基礎知識に関する連載が開始する.質の高い,エビデンスに基づいた感染制御活動を展開するためには,エビデンスとなりうる研究を実施する者(研究者),発表された研究論文を読み,臨床実践へその結果を適応させていく者(実践者),そして,星の数ほど発表される研究成果を実践家が使いやすい形に作り替え,世に発表する者(ガイドライン作成者)の3者がバランスよく機能することが必要である.この3者,いずれもがその機能を十分果たすためには,疫学と統計学の知識が求められる.<br>   質の高い研究成果を得るためには,質の高いデータを得る必要がある.その質の高いデータを得るためには,データの収集前に,「何を明らかにしたいのか?」,「どのように明らかにしていくのか?」ということをしっかりと決める必要がある.つまり,リサーチクエスチョン(research question,研究課題,研究上の問いとも呼ばれる)を明確にすることが質の高い研究成果を得るための第1歩である.このリサーチクエスチョンへの回答を得るために,適切な研究デザイン,研究方法を選択する.<br>   本稿では,感染制御の領域で頻用される研究デザインについて概説する.具体的な研究デザインについて述べる前に,研究のプロセス,リサーチクエスチョンの重要性,その種類,明確化したリサーチクエスチョンから適切な研究デザインを選択する方法についても説明する.<br>
著者
山内 勇人 河野 恵 戸村 美名子 長尾 さおり 大西 誠 遠藤 美紀 佐伯 真穂
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.155-159, 2008-05-23
被引用文献数
2 2

大規模震災の発生に備えた「防災イマジネーション」という概念がある.防災に限らず,緊急事態発生に備えて,常日頃からイメージして「イマジネーション」を高めておくことが大切である.院内感染においても,遭遇した者に適切な初期対応が欠けていれば,被害を最小限に抑えることは困難である.そこで,「感染制御イマジネーション」を高めるための研修会を,ノロウイルス感染症を題材に開催した.<br>   対象はA病院看護師13名.具体的事例を提示し,感染制御を目指してイメージを膨らませた個人検討内容を記述した後,グループ検討を経て再び個人検討を行った.グループ検討はメンバーを入れ替え,計2回行った.感染制御の理想的対応として,それぞれ小項目5つを含む,大項目計6項目(I初期対応,II嘔吐物処理,III患者対応,IV職員自身の健康管理,V病棟管理・院内制御,VI中長期的対応)をICTで作製した.小項目1項目に付き1点として,個人検討での記載内容から該当項目の有無により点数化し,イマジネーションの拡がりを客観的に評価した.開始時,第1回グループ検討後,第2回グループ検討後の平均総得点数は,それぞれ9±1.63点,11.7±2.14点,13.5±2.22点と有意に増加した(p<0.01).大項目別得点数も経時的拡がりを示し,II・VI以外では有意に増加した(p<0.05).<br>   感染制御イマジネーションを高めることの出来る本法は,施設の専門性や規模に関わらず施行可能な実践的な教育方法である.<br>
著者
井上 卓
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.244-249, 2009-07-24
参考文献数
14
被引用文献数
1

当院常勤医師が発症した水痘に対し医療関連感染対策を行った.本人は陰圧個室に入院とし,アシクロビルの点滴治療にて軽快退院し,全発疹が痂皮化するまで自宅待機とした.医師が濃厚に接触したと考えられた院内職員116名および当該科入院患者44名の計160名は水痘帯状疱疹IgG抗体価を検査し,結果がでるまで予定手術は延期とした.感受性者(抗体価4.0未満)は患者2名と職員2名であった.2名の患者に対しては,患者と家族に事態を説明した上で個室管理とし,結果判明日から7日間アシクロビル40 mg/kg/日を予防内服してもらった.2名の職員は結果判明日から接触後21日目まで自宅待機とし,かつ,7日間アシクロビル40 mg/kg/日を予防内服させた.すでに退院した患者と外来患者に対しては電話で事態を説明し,急な発熱,発疹を認めた場合,当院を受診するようにお願いした.感受性者4名を含め,二次発症は認められなかった.<br>   今回の事例を経験し,全職員のウイルス抗体価の測定をしておき,感受性者に対しては可能な限りワクチン対策をとること,職員の感染症に対する意識を高めることが重要であると考えられた.<br>
著者
松本 健吾 星野 輝彦 今泉 隆志
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.105-111, 2014 (Released:2014-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

抗菌薬の適正使用をすすめる上で,「介入とフィードバック」による監査は重要である.当院における「介入とフィードバック」をより推進するため,抗菌薬適正使用支援システム(本システム)を構築した.本システムにより,細菌検査結果に基づいた検出菌一覧やアンチバイオグラムのような有用な情報を速やかに作成できた.これらの情報に基づいて,抗菌薬の適正使用状況を確認し,必要に応じて,薬剤師は処方医へ薬剤変更などの処方提案を速やかに実施した.その結果,細菌検査を実施した患者の中で処方提案を行った件数は,10件(3.6%)より57件(17.5%)へ大きく上昇した.またシステム構築前後の処方提案に対する受入れ率は,それぞれ90.0%と75.4%となった.またシステム構築後において,処方提案に対し受入れた方が,受入れなかった場合よりも臨床効果の有効率が高い傾向が見られた.本システムは,短時間で抗菌薬の適正使用を監査するうえで有用である.今後,病棟薬剤師と連携し,対象患者は抗菌薬療法を行うすべての患者へ広げる予定である.
著者
吉田 志緒美 富田 元久 露口 一成 鈴木 克洋
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.109-112, 2009-03-25
被引用文献数
4

2007年12月1日から2008年1月31日までの期間に,外来受診患者の喀痰材料から分離された<i>Mycobacterium chelonae</i> 20株と院内環境から分離された<i>M. chelonae</i> 2株について,パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)およびenterobacterial repetitive intergenic consensus PCR (ERIC-PCR)を用いた遺伝子多型性解析を実施した.すべての患者由来株は,院内環境由来株のうち,外来に設置されている服薬用飲料水供給装置由来株と同じ遺伝子型を持つ<i>M. chelonae</i>と判定された.したがって,服薬用飲料水供給装置を汚染源とした<i>M. chelonae</i>による疑似アウトブレイクの可能性が強く示唆された.<br>
著者
土橋 ルミ子 内海 文子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.338-342, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
6
被引用文献数
5 4 8

本研究では,長崎県内の設置主体の異なる3施設の看護師590名を対象に,標準予防策における知識・態度・実践に関する質問紙調査を実施した.標準予防策における知識・態度・実践のレベルおよび関連性,さらに基本的属性ごとに分析を行った.   その結果,知識得点—態度得点(rs=0.17, p<0.01),知識得点—実践得点(rs=0.057, p>0.05)には関連がなかった.態度得点—実践得点(rs=0.412, p<0.01)には関連性があり,態度は実践に結びつく重要な因子であると考えられる.看護師の標準予防策における知識得点は,平均値8.9(SD1.5)であった.実践得点は,中央値(25~75パーセンタイル値) 84.5(78~91)で,態度得点92(87~97)に比べ低かった.知識や態度を身につけていても,実践に結びついていないと考えられる.基本的属性による分析では,看護師経験年数や年齢が増すごとに,態度,実践得点は優れており(p<0.01),経験年数や年齢に応じた教育・訓練が効果的であると考えられる.また,副看護師長や感染管理に関する委員会に所属している看護師では,態度・実践得点が高く(p<0.01),職位や委員会の所属が標準予防策の知識・態度・実践に影響を及ぼすと考えられる.研修会に参加している看護師は,知識・態度・実践得点が高く(p<0.01)教育の重要性が示唆された.
著者
清水 優子 牛島 廣治 北島 正章 片山 浩之 遠矢 幸伸
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.388-394, 2009-11-25
被引用文献数
3 3

ヒトノロウイルス(HuNoV)は,未だ細胞培養系が確立されていないため,各種消毒薬のHuNoVに対する有効性について十分な知見が得られていない.そこで,HuNoVに形態学的にも遺伝学的にも類似し細胞培養可能なマウスノロウイルス(MNV)を用い,塩素系およびエタノール系消毒薬の不活化効果をTissue Culture Infectious Dose 50% (TCID<sub>50</sub>)法を指標に評価した.次亜塩素酸ナトリウムおよびジクロルイソシアヌル酸ナトリウム(塩素系消毒薬)は,200 ppm, 30秒間の接触でMNVは99.998% (4.8 log<sub>10</sub>)以上不活化して検出限界以下となり,125 ppmの場合でも30秒間で99.99% (4 log<sub>10</sub>)以上の不活化が認められた.70 v/v%エタノール,0.18 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有72 v/v%エタノールおよび0.18 w/v%ベンザルコニウム塩化物含有75 v/v%エタノールは,30秒間の接触で検出限界以下までウイルス感染価を低下させた.<br>   本研究で対象とした2種類の塩素系消毒薬は,いずれも終濃度125 ppmで高いMNV不活化効果を示した.また,3種類のエタノール系消毒薬については,エタノール濃度70 v/v%以上で使用すれば,いずれも短時間でMNVの不活化が達成できることが分かった.以上の結果から,これらの市販の消毒薬はHuNoVに対しても高い不活化効果を有することが期待され,ノロウイルス感染症の発生制御および拡大防止の感染対策を目的とした環境用消毒薬として有用であると考えられる.<br>
著者
木村 丈司 甲斐 崇文 高橋 尚子 佐々木 秀美
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.310-316, 2010-09-24
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

抗菌薬のPK/PD理論に基づく投与方法を実践するため,ICT,薬剤部にて抗菌薬のPK/PD理論に関する資料を作成し,2008年4月から院内への配布を開始した.同時に勉強会やICTニュースの配信,院内の抗菌薬使用指針の改訂といった活動も行い,PK/PD理論の普及を試みた.<br>   活動を開始した2008年度以降の投与方法をみると,CZOPでは1000 mg×3回/dayが,MEPMでは500 mg×3回/dayが,DRPMでは250 mg×3回/day及び500 mg×3回/dayがそれぞれ増加した.また第4世代セフェム系,カルバペネム系,ニューキノロン系抗菌薬及び抗MRSA薬の平均投与期間は,2008-2009年度で2006-2007年度に比べ短縮していた.緑膿菌のCZOPに対する耐性率は,2005年度に比べ2006-2007年度で増加したが,2008-2009年度では2005年度と同程度にまで減少し,またMEPMに対する耐性率は年々減少が見られた.<br>   このように今回我々が行った活動は抗菌薬のPK/PD理論の実践に有用であり,またPK/PD理論の実践は感染症治療期間の短縮及び抗菌薬耐性菌の増加防止に繋がる可能性が示唆された.<br>
著者
木村 丈司 甲斐 崇文 高橋 尚子 佐々木 秀美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.18-24, 2013 (Released:2013-04-05)
参考文献数
20
被引用文献数
1

腎機能に応じた適正な投与量・投与間隔での抗菌薬使用を実践する為に,抗菌薬の投与量・投与間隔,腎機能に応じた調節を院内にわかりやすく周知する表を薬剤部主導で作成し,2011年4月より普及活動を行った.この活動の有効性を評価する為,MEPM, DRPM, TAZ/PIPCの投与量・投与間隔を腎機能別に活動開始前の2010年度と開始後の2011年度で比較・検討した.   結果として,MEPMではeGFR>50の群で1000 mg×3回/dayが,eGFR 11–50の群で1000 mg×2回/dayが増加した.DRPMではeGFR>50の群で500 mg×3回/dayが,eGFR 31–50の群で250 mg×3回/dayが増加した.TAZ/PIPCではeGFR>50の群で4500 mg×4回/dayが,eGFR≦20の群で2250 mg×3回/dayが増加した.MEPM, DRPM, TAZ/PIPC投与患者全体で今回作成した資料に従う投与方法が選択される割合は,2010年度の52.1%に比べ2011年度は67.0%と有意に増加した(p<0.01).   以上の事から,薬剤師主導による適正な投与量・投与間隔での抗菌薬使用に関する情報提供は腎機能に応じた投与量・投与間隔の調節の実践に有効であった.また腎機能別に抗菌薬の投与方法を評価する事は,抗菌薬使用に関する問題点を詳細に分析するのに有用と考えられた.
著者
棚町 千代子 橋本 好司 矢野 知美 佐川 公矯
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.271-278, 2009 (Released:2009-10-10)
参考文献数
27

角膜感染症は,角膜における代表的な日和見感染症で,全世界的にみれば白内障に次いで失明に至る重篤な眼疾患である.細菌性,真菌性,ウイルス性,およびアメーバ性によるものがあり,そのうち角膜真菌症(keratomycosis)は,カビ(真菌)によって惹起される角膜炎であり,起炎菌として酵母様真菌であるCandida属と,Fusarium属,Aspergillus属を代表とする糸状菌に大別され,糸状菌による角膜真菌症は,土壌や草木に関連した外傷が原因で多く報告されている.当院では2005年から2008年の間に糸状菌により惹起された角膜真菌症は,Paecilomyces lilacinus 3例,Fusarium oxisporum 2例,Aspergillus fumigatus 1例,Plectsporum tabacinum 1例の計7例であった.当院では,P. lilacinusによる角膜真菌症が最多であった.P. lilacinusによる症例は重篤な転帰をとるため,感染源が土壌や草木にある場合,本菌を疑い抗真菌薬を考慮し早期治療が行われることが重要である.
著者
西村 秀一
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.342-345, 2012
被引用文献数
1 1

本邦では,「プラズマクラスターイオン」「ナノイー粒子」「除菌電解ミスト」と称する特殊物質の放出により空中浮遊状態のウイルスや細菌,環境付着細菌の抑制を謳う電気製品が市販されている.だが,それらの有効性についての第三者による客観的検証報告はない.そこで,環境表面に乾燥状態で付着した細菌を想定し,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌,腸球菌の一定数生菌液をスライドグラス上にスメア状に塗布し容積0.2 m<sup>3</sup>のグローブボックス中に置き,対象機種を一定時間運転後,一定量の液体培地で洗い流し,生存細菌数を定量してみた.その結果全機種,全菌種で対照と生存菌量はほぼ変わらず,殺菌効果はほとんど認められなかった.<br>