著者
森兼 啓太 森澤 雄司 操 華子 姉崎 久敬
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.325-331, 2009 (Released:2009-12-10)
参考文献数
14
被引用文献数
14 5

末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)または従来の中心静脈カテーテル(CVC)を挿入された患者における,カテーテル関連血流感染(CR-BSI)などのカテーテル留置中合併症に関するデータを収集し比較した.8施設よりデータ収集を行い,PICCを挿入された患者群(以下PICC群)は277例,CVCを挿入された患者群(以下CVC群)は276例であった.CR-BSI発生率は,1000カテーテル日あたりPICC群で5.6, CVC群で7.0と,PICC群に低い傾向を認めた.CR-BSIのリスク分析では,カテーテルがPICCであることが感染リスク低下因子であった(オッズ比0.55, p=0.019).挿入時の合併症として,CVC群で気胸や動脈穿刺が生じた.それらはPICC群では生じなかったが,刺入部からの出血が多かった.留置中の合併症としてはPICC群に静脈炎が多く,CVC群では発熱または敗血症が多く見られた.得られたデータを元にした推計では,553人の患者群においてPICCとCVCを使用した場合のCR-BSI発生数はそれぞれ59件,98件と推定され,PICC使用により抗菌薬を約1600万円,入院日数をのべ約820日,削減させることができると推定された.PICCとCVCの使用およびCR-BSIを含めた合併症を多施設のデータにより明らかにすることができ,PICCのCVCに対する有用性が示唆された.
著者
新井 亘 上田 恵子 岡添 進 矢吹 直寛 小林 理栄 松木 祥彦 矢嶋 美樹
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.142-148, 2012

上尾中央医科グループ薬剤部では,感染制御専門薬剤師を育成する支援として,2006年度から定期的に研修会を開催している.2010年度からは,日本病院薬剤師会の感染制御専門薬剤師または感染制御認定薬剤師にて運営委員会を結成した.年度始めに研修会の参加者を募り,感染制御チームの活動や感染症治療の症例の提出を依頼した.<br>   2010年度は19施設から36名の参加者があり,47事例を収集した.その中から運営委員会の委員(以下,運営委員)にて薬剤師が日常的に遭遇する16事例を選択し,発表者を定めるなどの年間計画を立案した.事前に運営委員にて研修資料を基準に基づいて内容の確認を行い,必要に応じて修正を依頼した.研修会は年間4回開催し,少人数による討論形式で行った.36名中25名が4回通して継続した参加であった.参加者を対象とした研修後の調査では,薬剤師の感染制御に関する関心が高かった.年度末に行った感染に関連する業務の実施率の調査では,研修会参加施設群において不参加施設群と比較して高かった.研修によって施設間の情報の共有や感染対策の支援体制が促進し,対応の多様性を検討することができる内容であると思われる.感染制御専門薬剤師または感染制御認定薬剤師が研修会を運営することは,専門特化した人材育成のために重要な任務を担っているといえる.<br>
著者
福田 治久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.396-404, 2014 (Released:2015-01-26)
参考文献数
21

医療経済評価は医療技術,医薬品,医療材料,対策活動などの効率性を評価する技法であり,効率性とは,費用と有効性の双方の観点から評価されるものである.本稿では,医療関連感染領域における有効性の評価方法と医療経済評価の実例について紹介する.   本稿では,医療経済評価に必要な有効性データについて,(1) 医療関連感染領域の医療経済評価に利活用 可能なアウトカム指標のデータ例,(2) 有効性データ算出時の患者重症度調整に使用可能なデータ例につい て紹介する.さらに,「非皮下トンネル型中心静脈カテーテル」と「末梢挿入型中心静脈カテーテル」の比較 事例をとりあげ,医療経済評価における分析モデルの概要と具体的な検討手順について紹介する.
著者
福田 治久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.387-395, 2014 (Released:2015-01-26)
参考文献数
22

医療経済評価は医療技術,医薬品,医療材料,対策活動などの効率性を評価する技法であり,効率性とは,費用と有効性の双方の観点から評価されるものである.本稿では,医療関連感染領域における費用の評価方法について紹介する.取り上げる費用は,「対策費用」,「健康状態の変化による医療費」,「生産性損失費用」の3 点である.   「対策費用」および「健康状態の変化による医療費」の測定は,DPC データやレセプトデータを活用することができることから,最初に,DPC データを用いた評価方法について解説する.次に,「健康状態の変化による医療費」の代表的な測定方法である,(1) カルテレビュー,(2) マッチング法,(3) 回帰分析,の3 つの方法について解説する.また,これらの方法を用いて推計された,本邦における医療関連感染発生による追加的医療費の報告結果について紹介する.最後に,「生産性損失費用」について,医療経済評価ガイドラインにおいて推奨されている評価方法について紹介する.
著者
髙木 康文 福田 治久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.173-180, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本研究の目的は,MRSA感染症における追加的医療資源(入院日数・出来高換算医療費)の推計である.  対象は調査病院を2012年12月~2014年12月に退院した患者で,解析手法はMRSA感染有無を目的変数にしたロジスティック回帰によって推定される傾向スコアによるマッチング法を用いた.傾向スコア推定後,DPC10桁が同一でスコアが近似するMRSA感染者と非感染者を1対1でマッチングした.また,時間依存バイアスに対処したマッチング法も併せて行った.両者の医療資源の差異の平均から追加医療資源を算出し有意差の検定は対応のあるt検定を用いた.  解析対象症例数は24,538例で,感染者数は47名であった.MRSA感染症による入院日数の延長は時間依存バイアスに対処した場合:13.1日(95%信頼区間3.7日–22.4日,p=0.008)および医療費の増加は107.0万円(31.7万円–182.2万円,p=0.007)であり,時間依存バイアスに対処しない場合:21.2日(95%信頼区間11.7日–30.8日,p<0.001)および医療費の増加は160.7万円(64.3万円–257.0万円,p=0.001)と算出された.  本研究は,傾向スコアを用い時間依存バイアスに対処したマッチング法でMRSA感染症による追加的医療費を推計した.結果,時間依存バイアスに対処しなければ結果を過大評価することが明らかとなった.本推計値は感染制御における費用対効果を計る資料として活用できる.
著者
小泉 祐一 木村 健 畑中 重克 門谷 美里 高橋 陽一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.175-180, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

近年,抗菌薬関連下痢症(AAD : antibiotic-associated diarrhea)によって死に至る症例が報告されている.そのようなAADの発生要因を調査するため,過去4年間の抗菌薬の使用実態調査とともに,院内で発生したAADの症例数ならびにその原因として推察される抗菌薬の調査を行い,その関連性について検討した.調査期間は2003年度から2006年度の4年間とし注射用抗菌薬の使用量を調査し,さらに同様の期間においてAADの発症患者数を調査した.またAAD発症と抗菌薬の使用との関連性を解析するため,AAD発症患者に使用された抗菌薬を各系統別にし使用率やオッズ比を算出した.   抗菌薬使用量とAAD発症患者数との相関については,2006年度は抗菌薬使用量が減少したにも関わらず発症患者数は増加していた.2005年度と2006年度の抗菌薬使用の系統別差異を分析するとセフェム系第3世代および,セフェム系第4世代の使用量は増加していた.よって,これらの抗菌薬群の使用がAAD発症に大きな影響を与えているものと推察される.コントロール群とAAD発症患者群との使用抗菌薬の系統については,AAD発症患者群においてセフェム系第3世代,セフェム系第4世代,カルバペネム系の使用率やオッズ比が高いことから,広域な抗菌スペクトルをもつ抗菌薬がAADを発症しやすいことが示唆される.
著者
田村 豊
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.322-329, 2017-11-25 (Released:2018-05-25)
参考文献数
30

Swann Reportが公表されて以来,食用動物由来耐性菌のヒトの健康への影響が指摘されるようになった.農林水産省では,家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング制度を設立し,抗菌薬の使用量と耐性菌の出現状況を監視している.内閣府食品安全委員会では科学的資料により抗菌性飼料添加物と治療用抗菌薬により出現する耐性菌の食品媒介性のヒトの健康影響評価を実施している.次いで農林水産省はその評価結果に基づき,リスクの低減化対策を実施している.最近,海外で問題となっているST398の家畜関連メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は現時点で食用動物から分離されたとの報告はない.また,プラスミド性コリスチン耐性遺伝子であるmcr-1を保有する大腸菌は病豚から高頻度に分離されているが,まだヒト由来株では検出されていない.今後は薬剤耐性アクション・プランに従ってOne Healthに基づいた耐性菌対策を医療と獣医療の連携のもとに強化する必要がある.
著者
中川 博雄 松田 淳一 栁原 克紀 安岡 彰 北原 隆志 佐々木 均
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.8-12, 2011 (Released:2011-04-05)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

消毒剤の効果の要因の1つは,微生物と薬液の接触時間に依存する.そのため,速乾性手指消毒剤のゲル製剤およびリキッド製剤をそれぞれ3 mL擦り込んだ場合,ゲル製剤の方が長い時間を要することから,ゲル製剤はリキッド製剤に比べ,少ない擦り込み量で十分な擦り込み時間と消毒効果が得られる可能性が考えられる.本研究では0.2 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有エタノールゲル製剤の擦り込み量を変えて,リキッド製剤と消毒効果を比較検討した.その結果,ゲル製剤は1 mLでリキッド製剤3 mLと同等の効果を示した.さらに16種類のゲル製剤およびリキッド製剤について,揮発による重量変化率を測定した.ゲル製剤はリキッド製剤に比べて重量変化率が低く,粘度との間に相関を示した.
著者
中村 麻子 島崎 信夫 田中 梨恵 飯田 秀夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.193-202, 2018-09-25 (Released:2019-03-25)
参考文献数
21
被引用文献数
1

2013年9月にL. pneumophila serogroup 1によるレジオネラ肺炎の院内発生を認めた.調査の結果,パルスフィールド電気泳動にて病室内給湯水と患者から採取した喀痰のレジオネラDNAのバンドパターンが一致したことから感染源が給湯系であると推察した.給湯系の汚染を調査した結果,混合水栓1か所からL. pneumophila SG 1が検出された.除菌対策として熱水消毒後,配管内の湯温低下防止のため湯の持続放流を実施し,さらに不要配管を除去した結果,除菌は成功した.しかし40℃の混合水から再びL. pneumophila SG 1が検出されたことを契機に92か所の水を調査したところ,23か所から同菌が検出され給水系の汚染を認めた.給水系の除菌対策として,末端混合栓での水の遊離残留塩素濃度が0.87 mg/L以上となるよう受水槽に次亜塩素酸ナトリウムを持続的添加に加え,最遠位の混合水栓から毎日6分間および全病室洗面台から毎日1分間水を放流した.これらの対策により遊離残留塩素濃度は平均0.81 mg/Lに上昇(p<0.01)し,同菌の検出が13.6%から0.4%に減少(p<0.01)し有効性を認めた.本研究の結果から,給湯系のレジオネラ属菌汚染を認めた場合,給水系に汚染源がある可能性を考慮して調査が必要であると考える.
著者
中川 博雄 佐々木 均 室 高広
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.277-281, 2019-11-25 (Released:2020-05-27)
参考文献数
7

注射剤は患者の組織に直接取り込まれるため,薬剤師が無菌的な環境下で調製することが望まれる.しかし,一般病棟の非無菌的な環境下で,看護師による注射剤調製が行われている施設も少なくない.そのため,注射剤の微生物汚染による医療関連感染の問題も未だに散見される.感染対策に携わる薬剤師は,自施設の注射剤調製時の無菌操作や製剤の衛生管理の整備に努めるとともに,注射剤調製の作業手順に関して監督指導を行う立場でなければならない.本稿では,薬剤師による無菌的な環境下での注射剤調製の手順を見直すとともに,看護師による非無菌的な環境下での注射剤調製に関する注意点をまとめた.
著者
北川 誠子 藤井 哲英 二宮 洋子 河口 豊 平田 早苗 東田 志乃 寺田 喜平
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.418-421, 2015 (Released:2016-01-26)
参考文献数
10

調理従事者からのノロウイルス感染集団発生は,特に病院などでは注意が必要である.病院調理従事者のべ370便検体について,イムノクロマト法による迅速抗原検査を実施した.またその1ヶ月以内に本人で嘔吐下痢症状のあった職員および陽性者はリアルタイムPCRで測定した.その結果,迅速抗原検査の陽性者はいなかったが,リアルタイムPCR法で2/44名が陽性であり,陰性化するまで1ヶ月以上かかった.迅速抗原検査法は簡便であるが,無症状の健康成人に対するスクリーニング検査では漏れのある可能性を示した.スクリーニングよりも現場で手指衛生の教育や徹底が重要である.
著者
操 華子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.67-79, 2014

&nbsp;&nbsp;Gleenhalgh は彼の著作の中で、"ゴミ箱行き"の論文の科学と題した章の冒頭で、以下のように述べている。<br> &nbsp;&nbsp;<i>発表された論文の中には(正直者は99%にも及ぶと言うだろう)ゴミ箱行きのものがあること、そしてそのような論文は実践現場に有用な情報をもたらすことがないので、活用すべきではないことを学生たちが学ぶと、きまって驚いた表情になる。1979年、Dr. Stephen Lock(当時のBMJ の編集長)は、『よいアイデアには基づいているが、用いられた方法に取り返しのつかない欠点があり、その論文を不採用にしなければ ならないことほど医学雑誌の編集者にとってがっかりすることはない』と書いている。その15年後、Doug Altman は方法論上の欠点のない医学研究は、全体のたった1%のみであると訴えた。そして最近でも、"質の高い"雑誌に掲載された論文にでさえ、重大かつ基本的な欠点が一般的に見受けられることが確認された。</i><br> &nbsp;&nbsp;厳格な査読制度のある学術雑誌で発表されている研究論文でさえ、結果の真実を歪める、別の表現をすると偽りの統計学的有意性を作り出すような問題を孕んでいる論文が少なくないことをGleenhalgh は指摘している。そのため、既存の研究論文をエビデンスとして活用する臨床家・実践者には、批判的吟味(Critical appraisal)の能力が求められる。また、エビデンスを作り出す研究者には、偽りの統計学的有意性を作り出す要因についての知識を持ち、その問題を最小限にするための配慮と努力が求められる。<br> &nbsp;&nbsp;本稿では、研究成果として偽りの統計学的有意性を作り出す要因である偶然誤差、系統誤差(交絡)について概説する。感染制御の領域で頻用される研究デザインを使用した研究例を紹介し、各研究デザイン特有の問題を説明する。<br>
著者
西村 秀一
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.342-345, 2012
被引用文献数
1 1

本邦では,「プラズマクラスターイオン」「ナノイー粒子」「除菌電解ミスト」と称する特殊物質の放出により空中浮遊状態のウイルスや細菌,環境付着細菌の抑制を謳う電気製品が市販されている.だが,それらの有効性についての第三者による客観的検証報告はない.そこで,環境表面に乾燥状態で付着した細菌を想定し,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌,腸球菌の一定数生菌液をスライドグラス上にスメア状に塗布し容積0.2 m<sup>3</sup>のグローブボックス中に置き,対象機種を一定時間運転後,一定量の液体培地で洗い流し,生存細菌数を定量してみた.その結果全機種,全菌種で対照と生存菌量はほぼ変わらず,殺菌効果はほとんど認められなかった.<br>
著者
上木 礼子 米澤 弘恵 長谷川 智子 荒木 真壽美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.181-186, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
15

本研究では,血液曝露の危険性のある看護場面において,手袋着用行動への,看護師の意図とその影響要因を明確にすることを目的とした.   α県内の総合病院に勤務する看護師1,128名を対象に,4つの血液曝露場面(真空採血管採血場面など)を設定し,手袋着用の行動意図を調査した.さらに,手袋着用の行動意図に影響する要因として,上司/同僚のサポートを含む組織的要因,手袋着用の教育経験を含む個人的要因,リスク認知を含む心理的要因について調査した.影響要因は,手袋着用行動意図の高い高意図群(以下高群)と行動意図の低い低意図群(以下低群)の2群に分け比較した.   その結果,組織要因では,行動意図高群は低群に比べ有意(p<0.01)に手袋の使いやすさ,上司/同僚のサポート,施設の方針を認識していた.個人的要因では,高群は低群より有意(p<0.01)に手袋着用の教育を受けたと認識していた.心理的要因では,リスク認知と行動への態度,行動コントロール感が有意な正の相関を示した.   これらの結果より,組織環境が手袋着用をサポートする傾向にあるとき,および個人に教育経験のあるときには,手袋着用への行動意図が高くなることが示された.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.310-313, 2016
被引用文献数
2

&emsp;据え置き芳香剤の剤形で二酸化塩素ガスを逐次空中に放散させ,抗ウイルス効果を標榜する製品の有用性を検証した.冬季の生活空間を想定し室温23℃,相対湿度30%に設定した1.8 m<sup>3</sup>の密封チャンバー内で製品を開封し,試験中ガス濃度を0.03 ppmを目標として蓋の開閉で調整し,結果的に実験時間中はほぼ0.035&ndash;0.04 ppmの濃度に維持できた.その中に鶏卵由来のA/愛知/2/68株インフルエンザウイルスを含むしょう尿液をネブライザーでミスト化して噴霧し,一定時間後にチャンバー内空気80 Lをゼラチン膜でろ過し,膜に捉えたミスト粒子中の活性ウイルス量を測定し,同製品による空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化効果をみた.その結果,今回の実験条件化では,ガスへの曝露を受けた空間での活性ウイルスの量は対照のそれと変わらず,不活化効果は確認されなかった.<br> &emsp;二酸化塩素ガスによる殺菌,ウイルス不活化の感染制御の実用化のためには,今後さまざまな条件の下でその殺菌/ウイルス不活化効果の有無を検証していく必要があろう.<br>
著者
多湖 ゆかり 谷 久弥 森兼 啓太
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.122-127, 2014 (Released:2014-06-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1 2

CDCのGuidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011の発出を受け,末梢静脈カテーテルの標準的な留置期間を4日毎から7日毎に変更した.留置期間が適切か否かを評価するため変更後6ヶ月間(2011年7月~12月)の末梢静脈カテーテルに関連するBSIと静脈炎のデータ解析をした.延べ留置日数2,784日,ライン使用本数989本に対して,BSI発生は2件であり,1000ライン日あたり0.72件であった.発生日はどちらも留置3日目であった.静脈炎(INS基準:2+以上)は14件で,3日以内と4日以上を比較して静脈炎発生率に有意差は見られなかった.従って,末梢静脈カテーテルをルーチンに3~4日毎に刺し替える必要はない.刺入部の観察を重視した上での7日毎の刺し替えは,患者の苦痛軽減やスタッフの労力削減を図る上でむしろ好ましいと考える.
著者
山下 克也 津曲 恭一 尾田 一貴 小園 亜希 田中 亮子 中村 光与子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.141-147, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
10

現在日本では異なる抗原由来の2種類のB型肝炎ワクチンが市販されている.通常1回のシリーズ(6か月間に3回接種)では同じ製品が使用されるが,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した場合の抗体獲得について検討された報告は少ない.今回,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した場合の抗体獲得について検討した.過去にB型肝炎ワクチン未接種であり,HBs抗体陰性が確認された被験者で,3回目を異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種した群を対象群(A群),3回全て同じB型肝炎ワクチンを接種した群をコントロール群(B群)とした.ワクチンの投与は皮下注で行い,HBsAb定量およびHBsAb定性は採血で測定し,10.00 COI以上をHBsAb陽性と判定した.有害事象は3回接種後の副反応を調査票で収集し,CTCAE Ver.4.0にて評価した.A群は9名,B群は7名であり,両群ともに全例で抗体獲得が確認された.有害事象はA群で3件,B群で1件認められたが,いずれもGrade 1であった.A,B群合わせた副反応の内訳は注射部位の疼痛3件,皮膚硬結1件であり,重篤な副反応を呈した症例はなかった.今回認められた有害事象はいずれもワクチンに共通した副反応であると考えられ,1シリーズ中に異なる抗原由来のB型肝炎ワクチンを接種しても良好な抗体獲得が得られる可能性が示唆された.
著者
勝田 優 小阪 直史 村田 龍宣 舩越 真理 井上 敬之 山下 美智子 杉田 直哉 勝井 靖 澤田 真嗣 大野 聖子 清水 恒広 藤田 直久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.354-361, 2015 (Released:2015-12-05)
参考文献数
22
被引用文献数
2

病棟での輸液調製では,調製時の汚染防止により注意を払う必要がある.病棟での輸液調製の現状把握のため,空気清浄度,調製環境,輸液メニューについて血液内科と外科病棟を対象に多施設間調査を実施した.空気清浄度調査は,5施設9部署にて実施し,パーティクルカウンターとエアーサンプラーを用いて浮遊粒子数と浮遊菌の同定・コロニー数を測定した.環境と輸液メニューの調査は,9施設13部署を対象に,調製現場の確認と10日間の注射処方箋(7,201処方)を集計した.空気清浄度は,0.5 μm以上の粒子数が,最も多い部署で3,091×103,少ない部署で393×103個/m3であった.浮遊菌は,黄色ブドウ球菌は3部署のみの検出であったが,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,Micrococcus属,Corynebacterium属やBacillus属は全部署より検出された.調製台は,9部署で空調吹き出し口の直下にあり,10部署でスタッフの動線上に設置されていた.混合のあった4,903処方のうち,3時間以上の点滴が31%を占めた.病棟での輸液調製マニュアルを整備していたのは,9施設中3施設のみであった.調査から,輸液調製台エリアの空気清浄度は低く,3時間を超える点滴が3割以上を占めるなど,細菌汚染が生じるリスクが高い可能性が示唆された.輸液汚染リスク軽減のため,日本版の病棟での輸液調製ガイドラインの策定が望まれる.
著者
丹羽 隆 外海 友規 鈴木 景子 渡邉 珠代 土屋 麻由美 太田 浩敏 村上 啓雄
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.333-339, 2014 (Released:2014-12-05)
参考文献数
17
被引用文献数
3 8

Defined daily dose (DDD)を用いた抗菌薬使用量の集計はWHOが推奨する方法である.しかしながら,DDDによる集計は総使用量の集計であるため,使用動向の解釈には限界がある.我々は,欧米にて評価が高まりつつあるdays of therapy (DOT)によって当院の2005年1月から2013年6月の注射用抗菌薬の使用量を集計した.セフタジジムはDDD法,DOT法による集計値ともに年々有意に減少したが,DDD/DOT比は変化なかったことから,使用日数もしくは使用人数の減少によって総使用量が減少したと判定できた.メロペネムはDDD法による集計値,およびDDD/DOT比は有意に増加したがDOT法による集計値は有意に変化しなかったことから,1日用量の増加によって総使用量が増加したと判定できた.一方,テイコプラニンはDDD法による集計値は変化なく,DOT法による集計値の有意な減少,DDD/DOT比の有意な増加が見られたことから,1日用量が増加したが使用日数または使用人数の減少により総使用量は変化していないと判定された.以上の結果から,DDD法とDOT法を使用することにより,抗菌薬使用動向をより詳細に分析でき,今後の抗菌薬適正使用の一助となると考えられた.