著者
山下 ひろ子 小山田 玲子 奥 直子 西村 正治 石黒 信久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.333-341, 2012

&nbsp;&nbsp;2007年度,当院では病棟の入院制限を必要とするほどの大規模なノロウイルス胃腸炎の集団感染事例を5件経験した.いずれの事例も発端者が発症してから隔離されるまでに2~5日かかっていた.発症者隔離までの期間を短縮することで集団感染を回避することはできないかと考え,感染性胃腸炎患者の早期隔離に努めてきた.その結果,入院制限を必要とするほどの大規模な集団感染は2008年度と2009年度には各1件,2010年度には0件と減少したことから,2006年4月から2011年3月の5年間に感染性胃腸炎として報告された事例168件を対象として詳細に検討した.入院患者の発症事例85件のうち,各部署で発症を把握した当日(隔離までの所要日数0日)に発症者を隔離した64件では大規模な集団感染を回避できたが,翌日(同1日)に隔離した11件のうち1件(9.1%),翌々日(同2日)に隔離した5件のうち2件(40.0%),それ以降(所要日数3日以上)に隔離した5件では全件(100.0%)に大規模な集団感染が発生した.職員の発症事例83件中81件(97.6%)は,各部署で発症を把握した翌日(同1日)までに発症者の隔離がおこなわれており,大規模な集団感染の発生はなかった.以上より,臨床症状に基づいて感染性胃腸炎患者を早期に把握して隔離することが大規模な集団感染を回避するために有用であることが明らかとなった.<br>
著者
青野 淳子 四柳 宏 森屋 恭爾 小池 和彦
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.253-258, 2012 (Released:2012-10-05)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

看護学生のB型肝炎防止策として,各学年4月にHBs抗原・抗体の測定を行い,HBs抗原・抗体両者陰性者にB型肝炎ワクチン接種を行った.2007年から2009年までの入学生315名(女性279名,男性36名)は,入学年次における1シリーズ(3回)のHBワクチン接種により,2学年4月には女性97.8%(273/279),男性97.2%(35/36)がHBs抗体陽性となった.2学年4月におけるHBs抗体陰性者7名(女性6名,男性1名)に最初の1シリーズと同じワクチン同量を同様の方法で1~3回接種し,全員がHBs抗体陽性となった.ワクチン接種後4学年までの経過を追跡した129名では3学年4月には3.9%(5/129),4学年4月には10.1%(13/129)が陰性化した.陰転者へのHBワクチン追加接種では良好な抗体価の再上昇がみられ,2学年4月に陽性化が確認されれば,卒業まで陰転者に対する追加接種が必須でないことが示された.一方,HBs抗体陽性となってもHBs抗原が一過性に陽性となった例も1例みられ,ワクチンにより感染を完全に防止できないことも示唆された.
著者
渡邊 和恵 松本 成史 豊嶋 恵理 石上 香 大崎 能伸
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.397-401, 2016 (Released:2017-02-06)
参考文献数
8
被引用文献数
1 4

本邦では,2015–16シーズンから4価インフルエンザワクチンが用いられるようになったが,成人に対する副反応については十分な報告が無い.今回,当大学および当院職員を対象とした4価インフルエンザワクチン予防接種を受けた被接種者を対象に,副反応調査を実施した.副反応発現率は75.3%であり,主な副反応としては,注射部位の発赤,腫脹,疼痛等の局所症状が主で,重篤な副反応の報告はなかった.本調査は,職員に対する予防接種の副反応調査であるが,副反応の種類や頻度は,国内外の臨床試験成績と同様であり,4価ワクチンの忍容性が示唆された.
著者
武部 佳代 嶋田 聖子 濱邊 秋芳
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.365-370, 2010-11-25
参考文献数
11

&nbsp;&nbsp;職業感染防止対策の一環として,麻しんワクチンの予防接種を行うことが,当院院内感染対策委員会にて決定された.当院職員381名中,40歳未満の全職員と40歳以上の希望者269名に対して,赤血球凝集抑制反応にて抗体価検査を実施し,検査結果より抗体価が16倍以下の職員165名を対象に,2009年3月23日~3月30日の7日間に接種を行った.その際,麻しんワクチン接種後の健康状態及び,副反応の調査を行った.<br> &nbsp;&nbsp;麻しんワクチン接種者165名中111名から健康調査表を回収し,回収率は67.3%であった.副反応の症状が発現したのは36名(32.4%)であった.症状としては,咳・鼻水18名,下痢13名,37.5度以上の発熱5名,吐き気4名,注射部位の異常4名,嘔吐3名,発疹1名,その他13名であった.<br> &nbsp;&nbsp;重大な副反応は見られなかった.また初回接種者と接種経験者との間には有意な差は認められなかった.<br> &nbsp;&nbsp;職業感染防止対策の一環としてワクチン接種が推進されているが,実施計画の遂行に重点を置く為,副反応が発現する事への対策は軽視されがちである.副反応の発現はワクチン接種への拒否に繋がることも予想され,接種対象者に対する身体的負担も含めて,接種計画立案時に副反応対策も検討すべき事項と考える.<br>
著者
川崎 和男 舩山 俊克 山本 浩一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.355-363, 2017-11-25 (Released:2018-05-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本研究の最終目標は,強い殺菌効果で知られている深紫外線を生体に利用することである.本論文ではそのための検証の一つとして,深紫外線の近接場における殺菌効果の生体への影響について調べた.大腸菌および創傷を付けたラットの皮膚を対象に,深紫外線の近接場が与える影響を,観察からデータを取得し比較検討した.その結果,深紫外線の近接場において,大腸菌に対しては670 mJ/cm2の照射量で90%の細菌を死滅させることができ,同様にラットの創傷に対しては傷の回復に悪影響がないことが観察された.これらから近接場においては,大腸菌への殺菌効果がある線量でも,ラットを対象とした場合は生体の回復に悪影響を与えないことがわかった.本研究は,デザイン工学者が工学者の新技術を理解し,医学者とともに医学的な提案を考え,実験の実施まで行った.
著者
福田 治久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.63-73, 2013 (Released:2013-06-05)
参考文献数
20

手術部位感染率の病院間比較は効果的な感染対策であるが,その成否は患者重症度調整にかかっている.本研究の目的は,感染率の病院間比較手法について検証することである.   本研究の解析対象は,APPY, BILI, CHOL, COLN, GAST, RECの6術式である.患者重症度調整変数として,(1) NNISリスク・インデックスを構成する変数,および,(2)サーベイランス対象の全変数,を投入した多変量ロジスティック回帰分析を実施した.モデルのパフォーマンス評価にはc-indexを用いた.また,共変量に,手術時間と内視鏡有無の2変数を投入・除外したモデルを構築し,各モデルにおいて算出される標準化感染比(SIR)の変化を検証した.   解析対象は37病院における37,251症例である.SSI発生に関するオッズ比は術式間およびリスク要因間で大きく異なっていた.APPYを除いて,サーベイランス対象の全変数を用いたモデルはc-indexが有意に高かった(p<0.001).SIRは,構築モデルによって大きく異なり,その結果,病院パフォーマンスの解釈が相反する事象が観察された.   従来のNNISリスク・インデックスによる層別解析よりも,SSIサーベイランスの全収集変数を用いた多変量ロジスティック回帰分析によるモデル解析の方がパフォーマンスの高い結果が得られた.
著者
堀 良子 高野 尚子 葭原 明弘 宮崎 秀夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.85-90, 2010-03-25
参考文献数
21
被引用文献数
4 2

&nbsp;&nbsp;歯科関係者の専門的な口腔ケアが要介護高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐことに関する研究報告は多いが,リスクのある入院患者の看護者による日常的な口腔ケアを評価した報告は殆どない.そこで,われわれは一般病棟入院患者に実施されている口腔清掃と院内発症肺炎の起炎菌と同じ菌株の口腔からの検出および発熱との関連について検討した.<br> &nbsp;&nbsp;新潟県内4病院の口腔清掃に介助を必要とする40歳以上の入院患者69名を対象とし,清掃の回数および実施内容を記録した.また,黄色ブドウ球菌,MRSA,緑膿菌を対象として口腔内細菌の検出と菌数測定を行い,過去7日間の37.5&deg;C以上の発熱の有無を調査した.これらを経口摂取群と非経口摂取群に分けFisherの直接確率法で評価した.その結果,経口摂取群において口腔清掃が3回/日以上の者で,発熱ありの割合と黄色ブドウ球菌の検出された割合が有意に低かった.一方非経口摂取群においては,歯ブラシを使用している者の方が発熱ありの割合が有意に低かった.以上より,経口摂取者においては頻回の口腔清掃が発熱と口腔内の日和見菌の定着を防止することが示唆され,非経口摂取者においては歯ブラシを用いた機械的な口腔清掃を行うことによって発熱が防止できることが示唆された.<br>
著者
坂本 史衣
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-6, 2019-01-25 (Released:2019-07-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1

カテーテル関連尿路感染(Catheter-associated urinary tract infections:CAUTI)は医療関連感染の10~20%を占める.近年,CAUTIの主要なリスク因子の一つとして,カテーテル留置期間の長期化が注目されており,専門組織が発行するCAUTI予防のためのガイドラインやガイダンスは,カテーテルの使用制限を含む多角的な取り組みを行うよう推奨している.本稿では米国医療研究・品質調査機構(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)が開発した包括的プログラムを参考にしながら,根拠に基づくCAUTI予防策について解説する.
著者
中村 絵美 髙見 貴之 加藤 頼子 吉田 葉子 谷口 暢
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.100-106, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
15

医療施設における環境由来による微生物の感染予防には,手指衛生に加えて環境表面の清掃が非常に重要であり,時として消毒も必要となる.近年,病院環境の整備に,洗浄剤や消毒薬(薬液)を不織布等のクロスに含浸させた環境清拭用クロスが頻用されている.しかし,環境清拭用クロスには,薬液中の成分がクロスに吸着し成分濃度が低下する場合があるにもかかわらず,その殺菌性能の評価の多くは,クロスに含浸させようとする薬液を微生物に作用させる方法が実施されている.そこで,3種類の市販品(市販品A, BとC)と消毒用エタノールクロスについて(1)クロスからの絞り液と供試微生物を作用させるクロス含浸後定量的懸濁法と(2)環境清拭用クロスを直接利用した清拭法によって殺菌効果およびウイルス不活化効果を検討した.その結果,市販品Aは,市販品BおよびCと比較してクロス含浸後定量的懸濁法と清拭法ともに高い殺菌効果およびウイルス不活化効果を示した.さらに市販品Aは,消毒用エタノールクロスと比較しても,清拭法において高いウイルス不活化効果を示した.また,市販品B,Cおよび消毒用エタノールクロスでは,クロス含浸後定量的懸濁法と清拭法で結果に明確な差が認められた.そのため,環境清拭用クロスの有効性評価には,クロス含浸後定量的懸濁法による評価に加えて,実際の環境整備を想定した清拭法も評価法として重要と考えられた.
著者
操 華子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.143-154, 2014 (Released:2014-08-05)
参考文献数
9

質問紙調査は,横断研究デザインなどで最も頻用されるデータ収集方法の一つである.多くの人間の意識,認識や行動について,詳しく情報を収集したい場合,質問紙調査が選択される.これまで本学会誌に投稿された論文の中でも,質問紙調査の結果に関する論文は多い.しかし,残念なことではあるが,質問紙調査のプロセス全体を理解し,求められている手順をきちんと踏んだのかどうかの確信が持てない論文も少なくないのが実情である.   質問紙調査とアンケート調査はほぼ同義語として用いられている.アンケートはフランス語由来の用語であり,「(調査の意)調査のため多くの人に一定の様式で行う問い合わせ.意見調査.また,その調査に対する回答」と広辞苑では定義されている.近年,アンケートという用語をタイトルに入れた著作が多く出版されているが,本用語は一般用語であり,専門用語として使用されることはあまり適切ではないとする意見もある.   そこで,本稿では質問紙調査という用語を使用することとし,質問紙調査のプロセスについて,質問紙調査を実施する際に起こしやすい間違いについて概説する.
著者
久保田 早苗 工藤 綾子 岩渕 和久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.87-96, 2020-05-25 (Released:2020-11-25)
参考文献数
17

本研究の目的は,理学療法士の訓練時における感染予防意識と行動について明らかにすることである.感染管理認定看護師が所属する施設に勤務する理学療法士,5施設計18名を対象に半構造化面接を行い,感染予防意識と行動に関する語りをコード化,類似するコードをカテゴリー化し,質的帰納的に分析した.理学療法士の感染予防意識は432生成され,98サブカテゴリー,28カテゴリーに分類され,5コアカテゴリーが抽出された.コード数の多いコアカテゴリーとして,【職種間の感染予防策の認識の差と危機管理意識】【感染症患者の増加によるリハビリ調整の困難さと超高齢社会への危機感】などが生成された.理学療法士の感染予防行動は684生成され,93サブカテゴリー,25カテゴリーに分類され,7コアカテゴリーが抽出された.コード数の多いコアカテゴリーとして,【感染症や指示による手順通りの防護服の着脱と定期的な白衣・リネンの交換】【感染症情報の確認・連絡による日常や汚染時の清掃徹底】などが生成された.患者との接触が多い理学療法士が行う標準予防策は感染症の有無や健康状態によって予防策を決めていくことではないことを理解し,実践していくことが求められる.また,感染事例に応じて自らが判断し根拠をもった知識の習得を目指す必要がある.
著者
山本 恭子 安井 久美子 茅野 友宣 鵜飼 和浩
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.347-352, 2009-09-25
参考文献数
13
被引用文献数
2

&nbsp;&nbsp;手洗いは感染予防策のなかでも,最も重要な手段のひとつである.本研究では,地域における高齢者を対象に手洗いの除菌効果,手洗い方法の特徴を明らかにし,手洗いの指導方法を検討した.<br> &nbsp;&nbsp;石けんと流水による手洗いの除菌効果について調べるために,高齢者(17名)および看護師(15名)の手洗い前後での手指の細菌数を測定したところ高齢者では手洗い前の手指の細菌数が平均620.2 CFUであり看護師の164.1 CFUと比較して多く,高齢者においては17名のうち8名で手洗い後に手洗い前よりも多くの細菌が検出された.手洗いの手技を観察すると,手のひらや手背部,指の間は半数以上の人が擦り合わせていたが,指先や母指,手首については擦り合わせている人が少ないことが分かった.また,すすぎを確実に行っていた人は23.5%,乾燥を確実に行っていた人は29.4%と少なかった.<br> &nbsp;&nbsp;そこで,感染予防のための手洗いの必要性や手洗い方法を指導した後,手洗い手技等について再度観察を行い指導の効果を見たところ,64.7%の人が指先を,76.5%の人が母指を,41.2%の人が手首を擦り合わせており,すすぎを確実に行った人70.0%,乾燥を確実に行った人94.1%と有意な増加が見られ,手洗い手技の改善が示唆された.これらの結果より,手洗いを感染予防に繋げるためには手洗いを奨励するだけでなく,手洗い手技についても指導する必要があると考えられた.<br>
著者
茂木 伸夫 呉橋 美紀 池上 由美子 桃井 祐子 川戸 二三江 島倉 洋造
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.302-309, 2010-09-24
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

&nbsp;&nbsp;歯科診療は,歯牙切削,歯石除去による室内汚染,口腔処置による血液や唾液からの交差感染を起こす危険があり,様々な感染対策の報告があるが,その実態はあまり知られていない.そこで,院内感染対策の施行度を知るために東京歯科保険医協会感染予防対策プロジェクト・チームは歯科感染予防対策に対するアンケート調査を行った.対象は東京歯科保険医協会会員4539人に調査を依頼,回答のあった934人(回答率20.6%)である.質問内容は1. 個人防護具,2. 室内対策,3. 器具の滅菌・消毒,4. 感染対策の実践,5. 感染対策の知識に大別した17項目である.その結果,1. マスクは99%が,手袋は85%が装着していたが,ゴーグルやフェイスシールドは51%にとどまった.2. 手洗いは95%が行っていたが,患者ごとの手袋の交換は54%であった.空気清浄機の設置は57%,口腔外バキュームの設置は31%であった.3. オートクレーブなどの使用が98%,滅菌と消毒を必ず行っている人は71%であったが,印象材などを消毒している人は34%であった.4. 肝炎患者を自院で診療している人は89%であった.5. スタンダードプリコーションを理解している人は29%であった.結論として,個人防護としてゴーグル,フェイス・シールド,室内対策として空気清浄機や口腔外バキュームの設置の必要性が示唆された.また,歯科医療従事者がスタンダードプリコーションの意識を高める必要があると考えられた.<br>
著者
古林 千恵 矢野 久子 尾上 恵子 脇本 寛子 脇山 直樹 畑 七奈子 山本 洋行 脇本 幸夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.412-418, 2012 (Released:2013-02-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

高齢社会の到来と医療費の削減を背景に,入院期間の短縮,在宅医療の普及が推進されている.退院後,引き続き自宅での医療が必要な場合には,短い入院期間中にこれらの医療に関する新たな技術を習得することが求められている.今回,清潔間欠自己導尿(CIC)の継続指導チェックリスト作成のために患者10名を対象に,導入時および継続指導の実態を調査した.CIC導入時の問題点として,口頭指導のみでCICを開始させた場合があった.また,手順指導を行なった場合であっても患者の個別性や身体的機能,異常時の対応,自宅の状況などを考慮した指導にいたっていないことや膀胱過拡張予防の理解,排尿記録の目的を理解した記載が行われていないことが明らかになった.外来では,残尿が無いように排尿をさせる体位や手順確認を含めた継続指導を行っていなかった.これらのことから,膀胱過拡張予防の理解,上部尿路保護を意識した排尿量の保持と排尿間隔でCICを実施する排尿記録の記載を中心とした継続指導が重要であることが明らかになった.以上を踏まえ,問題点の抽出を行い継続指導チェックリストを作成した.
著者
高野 尊行 中薗 健一 薄井 啓一郎 仲澤 恵 梅田 啓 池野 義彦 中丸 朗 阿久津 郁夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.287-292, 2014 (Released:2014-10-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1

海外ではClostridium difficile感染症(CDI)発症と,いくつかの抗菌薬の投与の関連性が示唆されている.そこで,当院の患者を対象とし,系統別抗菌薬投与とCDI発症との関連性について検討を行った.2005年7月から2007年12月までに,CDIが疑われC. difficile toxin A (CD toxin A)検査を実施した全ての患者のカルテ調査を行った.CD toxin A陽性のケース群と陰性のコントロール群で,系統別抗菌薬投与によるCDI発症のリスクを比較検討した.対象期間に下痢を発症しCDIが疑われ,CD toxin A検査を行った患者は269例であった.ケース群では,抗菌薬投与56例,抗菌薬未投与3例,コントロール群では,それぞれ169例と41例であった.多重ロジスティック回帰分析にて比較し調整オッズ比(AOR)を算出した結果,有意にCDI発症を上昇させた抗菌薬は,フルオロキノロン系(AOR, 9.0 [95% confidence interval, 2.7–29.9]),第2世代セファロスポリン(AOR, 7.2 [95% confidence interval, 2.4–22.1]),第3世代セファロスポリン(AOR, 4.1 [95% confidence interval, 1.4–11.8])であった.今後,多施設による研究および個々の抗菌薬とCDI発症の関連性の調査を行う必要性があると考えられた.
著者
小倉 憂也 小澤 智子 野島 康弘 菊野 理津子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.391-398, 2015 (Released:2016-01-26)
参考文献数
25
被引用文献数
4 3

本研究では,ペルオキソ一硫酸水素カリウムを主成分とする環境除菌・洗浄剤(RST)の有効性について,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),多剤耐性緑膿菌(MDRP),ノロウイルス代替のネコカリシウイルス(FCV)およびC型肝炎ウイルス代替のウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)を対象として評価した.懸濁試験において,1%RSTは,0.03%ウシ血清アルブミンを負荷物質とした試験条件では1分間の作用時間で,MRSA,MDRPに対して4 log10以上の殺菌効果を示し,またFCVに対し4 log10以上のウイルス不活化効果を示した.1分間作用の懸濁試験による評価において有効塩素濃度が同じ次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)よりもRSTはウイルス不活化効果が高かった.浸漬試験においてはキャリアに付着させたBVDVに対して0.1%NaOClは0.9 log10の,また1%RSTでは3.3 log10の減少であった.また,試験薬含浸ワイプによる拭き取り試験では,1%RST含浸ワイプは,FCVに対し4.5 log10以上の除去効果を示した.これらの結果からRSTは,病院環境における日常の衛生管理において,選択肢の一つになり得る製剤であることが示唆された.
著者
菊池 清 妹尾 千賀子 中村 嗣 大日 康史 菅原 民枝 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.351-356, 2010 (Released:2011-02-05)
参考文献数
4

新型インフルエンザ(Flu)流行時の施設内感染防止と労働安全衛生上の必要性から,2009年9月1日から職員対象症候群サーベイランスを始めた.Webブラウザ上で稼動する職員健康管理ツールを開発し,病院内で働く全職員1350名の症状(症状なし,咳/鼻水/咽頭痛,発熱,嘔吐/下痢,その他)などを各部署責任者が毎朝9時までに登録することにした.参照権限はインフェクションコントロールチーム(ICT)主要メンバーと病院管理部門の10名に限定した.登録情報をもとにICTが介入し,出勤停止命令や該当部署の接触者の管理などを行った.9月1日から12月31日までの全部署登録率(情報入力された職員の総数/1350名)の中央値(範囲)は,78日間の平日が85.0%(74.4%~98.5%),44日間の休日が43.2%(34.2%~53.0%)であった.症状別では,「咳/鼻水/咽頭痛」が最も多く,次に「発熱」,「嘔吐/下痢」の順であった.発熱した全ての職員(114名)をICTが指導した.Fluの診断を受けた39名の職員は1週間の出勤停止とした.職員から患者への感染は起こらなかった.IT化された職員対象症候群サーベイランスの運用は,職員の健康状況が容易に把握でき,ICTの早期介入を可能にした.
著者
嶋守 一恵 近藤 啓子 小野寺 直人 佐藤 悦子 諏訪部 章 櫻井 滋
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.268-274, 2017-09-25 (Released:2018-03-25)
参考文献数
14

手指衛生は医療関連感染防止のために重要な感染対策であるが,その遵守は十分ではない.我々は,看護管理者に積極的な関与を促す「手指衛生向上プログラム」の導入が,擦式アルコール手指消毒薬(ABHR)使用率(L/1,000patient-days)とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)発生率(件数/1,000patient-days)に与える影響を検討した.本プログラムは看護部目標の成果尺度として,ABHR使用率を一般病棟で15,クリティカル部門で30と設定し,各看護師長に目標達成を義務付けた.また,看護師長会議で毎月のABHR使用率とMRSA検出数を報告し,リンクナースと感染症対策室が目標達成の支援を行った.その結果,一般病棟のABHR使用率は,導入前の平成25年度は9.3であったが,導入後の平成27年度は17.5に増加し(p<0.05),目標を達成した.同時期のMRSA発生率は0.52から0.37に減少した(p<0.05).クリティカル部門のABHR使用率も,平成25年度の41.9から,平成27年度では78.8に増加し(p<0.05),MRSA発生率も1.84から1.63へと減少傾向を示した.以上により,手指衛生の推進を看護部の目標とし,病棟の中心的存在である看護師長の関与のもと組織全体が積極的に取り組むことが効果的であり,本プログラムは手指衛生の向上に有用であることが示唆された.
著者
松永 宣史 山田 陽子 山田 加奈子 内海 健太 中南 秀将 野口 雅久 笹津 備規
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.362-368, 2011 (Released:2012-02-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1

接触感染は,院内感染の最も主要な感染経路である.接触感染の防止には,患者や医療従事者が頻繁に触れる場所(高頻度接触表面)の汚染状況を把握し,医療従事者の病院内環境に対する意識を向上させる必要がある.本研究では,院内感染の主要な原因菌であるPseudomonas aeruginosa,メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA),およびSerratia marcescensについて,高頻度接触表面の環境調査を行った.2005年から2008年の4年間,のべ1,513試料から,MRSA 13株(0.9%),P. aeruginosa 69株(4.6%),およびS. marcescens 24株(1.6%)が検出された.検出された細菌の特徴を調査するため,抗菌薬感受性試験およびパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行った.その結果,環境分離MRSAの抗菌薬感受性と遺伝学的背景は,臨床分離株と類似していた.一方,環境分離P. aeruginosaおよびS. marcescensの80%以上が,調査した抗菌薬全てに感受性を示した.また,環境分離P. aeruginosaと臨床分離株の遺伝学的類似率は低いことが明らかとなった.したがって,高頻度接触表面に付着していたMRSAは患者や医療従事者由来株であり,P. aeruginosaおよびS. marcescensの大部分は,環境細菌であることが強く示唆された.さらに,細菌検出数の経時変化を調査したところ,初回調査時の18株/89試料(20.2%)が最も多く,調査2回目は7株/89試料(4.5%)と大きく減少した.これは,MRSAの検出数が著しく減少したことに起因していた.したがって,環境調査を行うことによって,職員の環境に対する意識が向上し,各部署における清掃および消毒が頻繁に行われるようになったと考えられる.
著者
佐原 利幸 渡嘉敷 智賀子 耒田 善彦
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.35-40, 2011 (Released:2011-04-05)
参考文献数
6
被引用文献数
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2009年8月,当院の精神科閉鎖病棟において新型インフルエンザがアウトブレイクした.患者は自覚症状の的確な表現が困難で,衛生管理能力が低いなどの特性を持っており,更なる感染拡大が懸念された.1例目発症時,診断・治療・対策までの初期対応を約4時間で実践した後も,発症者は倍に増加していく状況だった.そこで,発症者数の増加に合わせたゾーニングと特性を考慮した対策を実施しながら,インフルエンザ治療薬を入院患者・職員全員を対象に投与した.結果,全入院患者41名中11名が発症,職員の発症はなく,2週間で病棟隔離を解除した.継続した対策の実践,患者・職員への教育,治療薬の投与など,総合的な対策が重要である.