著者
野田 秀孝
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.27-31, 2017-05-31

2015(平成27)年4月に生活困窮者自立支援法が施行され、これまで制度の狭間であった、生活保護に至るまでにない生活困窮のものに対する支援が始まった。従来の福祉サービスは、高齢者、児童、障害者など特定の分野において、特定の者を選別し、サービスの可否を定めて行ってきたものである。近年の社会情勢から、様々な要因から、経済的困窮に至る要因が複雑に絡み合っていると考えられる。これまでのセーフティネットだけでは、生活困窮に至る状況を食い止めることができない。そのため、第2のセーフティネットとして施行されたのが生活圏窮者自立支援制度である。この制度は、経済的労働的自立支援を中心としているが、その他の制度の狭間で今まで対象にならなかった人々、支援が届かなかった人々を対象に支援を可能にする余地が十分にあると考えられる。さらには住民活動などのインフォーマルサービスから公的扶助などのフォーマルサービスまでを含む重層的なネットワークやワンストップサービスなどの総合的な包括的な相談窓口などの設置の可能性も含むものと考えられ、地域福祉的な視点で考えるに、重要な制度となると思われる。本稿は重層的で幅の広いシステムの構築の可能性を視野に、地域福祉的視点で生活困窮者自立支援法をとらえ課題と展望のための一考察を示すものである。
著者
志賀 文哉
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.15-20, 2017-05-31

生活困窮者等に対する就労支援に関し現状と課題を示した。本稿では生活保護とその他施策での就労支援をともに扱い、雇用制度そのものの課題や今後の就労に係る潜在的な課題にも言及した。就労支援は多様化し充実化しているところもあるが、支援そのものや雇用の本質や形態の変化には課題が散在しており、そのような現状に沿う支援の実践が求められる。
著者
志賀 文哉
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.13-20, 2019-05

こども食堂は全国に広がり、様々な背景や実施方法が用いられ約3500にもなっている。こども食堂は「食」を提供するものであるが、対象は多様であり、そのための営みや学習支援等の付加的な活動を通じて交流を創り、居場所を形成している。人間浴と呼ばれる人の交流や関係の構築は「安全でありかつ安心できる」場所を創出しているのである。子ども食堂の課題は資金面や人材面の不十分さのほか、期待通りの参加を得ることのむずかしさ、また給食の実施を含め、食自体の質を向上するためのアクションが不足していることなどがある。これらの活動にソーシャルワークが貢献する可能性があり、従来の地域福祉と家庭福祉のアプローチをつなぐ「まちの子どもソーシャルワーク」の提唱がなされている。人口減少の社会において、こども食堂の活動が地域の拠点となる可能性がある。
著者
和田 充紀 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.29-39, 2016-07-28

障害のある幼児が安心・充実した学校生活を送ることができるようにするためには、就学に際して「いつ、だれが、どのような情報を」引継ぎ、また「どのような」連携が求められているのかについて、保育所と特別支援学校を対象とした質問紙調査により検討を行った。引継で「伝えたい・知りたい・共有したい情報」として、「実態に応じた支援内容と支援方法」「家庭および保護者の状況」など複数のカテゴリーが見出された。これらの情報は総じて、保育所、特別支援学校の教職員双方が重要項目であるとの認識はあるものの、現状の引継では十分に共有できていない課題や、就学前の引継に加えて就学後の連携の必要性在感じている現状も見出された。以上より、引継のための資料や連携のあり方についてのさらなる検討の必要性が示された。
著者
山崎 智仁 水内 豊和 山西 潤一
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.57-61, 2019-05-31

知的障害特別支援学校小学部に在籍するダウン症児を対象に、国語科にてインタビューを通して相手に伝わるようにゆっくり話すこと、聞いたことをメモすることなどを指導した。また、インタビューしたことを整理し、ICT機器を活用することで学校紹介を作成し、ロボットを使って発表した。その結果、友達や教師にゆっくりと話しかけるようになったり、AIに慣れ親しんで遊んだりする姿が見られるようになった。
著者
小林 真 北野 仁菜
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.3-14, 2017-05-31

本研究では、富山県内の幼稚園を対象に質問紙調査を行い、特別支援教育を中心に小学校との連携の実態を尋ねた。その結果、富山県の幼稚園における特別支援教育の体制整備は、全国のレベルよりも低いことが明らかになった。次に、設置形態(公立・私立)による違いを比較したところ、いくつかの項目で私立幼稚園の方が不十分であることが示された。また特別支援教育コーディネーターの指名の有無による体制整備・連携の状況を検討したところ、いくつかの項目で指名されている幼稚園の方が連携が進んでいることが示された。最後に小学校との連携のパターンを5つのクラスターに分けたところ、連携が進んでいる幼稚園とそうでない幼稚園のパターンが明らかになった。
著者
和田 充紀
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.45-50, 2017-05-31

大学卒業後に教育や医療福祉等以外で働く社会人を目指す一般大学生にとって、合理的配慮の必要性について理解を促すことや、障害の理解・啓発のための講義や実践は必要な知識であり、求められる資質であると考える。そこで本研究では、一般大学生にとって合理的配慮の知識や障害への理解促進に役立つ講義内容や方法について、特に、障害者のコミュニケーションの中で手話実技による授業を行うことの効果、また、具体的にどのような方法が有効であるのかについて、受講学生の意識の変容や感想を通して検討した。講義の内容に手話実技を取り入れたことで、手話そのものに対する関心が高まるとともに、聴覚障害者や特別支援教育への関心も高まった。また、障害や手話について学びたいという意欲や、学んだことを実生活に生かして障害者とのコミュニケーションを取りたいという意欲にも高まりが見られた。今後は、他の障害の理解にもつながる講義内容や方法についての検討が必要である。
著者
成田 泉 関 理恵 澤田 美佳 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.33-44, 2017-05-31

本研究では、保育所で行われている保育カンファレンスと保育実践の循環とその効果から、障害のある子どもに関する保育カンファレンスのあり方について検討した。その結果、「多様な意見やアイディアがでる保育カンファレンスであり、さらに子どもの姿から、保育実践を再考することができるような保育カンファレンスであること」、「園全体の共通理解を促進し、保育者が共通した保育方針をもつことができる保育カンファレンスであること」、「子どもの興味や関心から保育方法を探り、保育実践につなげることのできる保育カンファレンスであること」の3つが障害のある子どもを支援し保育者の効力感在高める保育カンファレンスのあり方として重要であることが示唆された。
著者
宮 一志 田仲 千秋 田中 朋美
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.23-27, 2016-07-28

発達障害が疑われる小児のうち就学年齢以降で受診する例では認知機能・能力の偏りが軽度であるにも関わらず、二次障害を合併していることが多いとされている。本研究では2010年4月から2015年9月までに富山大学附属病院を受診し、発達・知的障害と診断された6歳から15歳までの小児において、受診時の年齢により(小学校低学年群、小学校高学年群、中学生群の3群)、二次障害の発生頻度に差が見られるか、x二乗検定により解析した。その結果、年齢群と受診時の二次障害の有無では有意差が見られた( X 2(2, N=95)=12, p<0.01)。残差分析により小学校低学年での受診では二次障害の合併が少ないことが示唆された。発達障害児が二次障害を起こさないためには教育・保健・福祉・医療の連携協力を進め、個々の子どもたちの特性や能力を早期に把握して、個々に応じた支援・教育を行っていく必要があると思われた。
著者
阿部 美穂子 吉田 彩子 山川 俊幸 森 光康
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.3-13, 2014-05

本研究では、児童福祉施設併設特別支援学校に在籍する知的障害のある中学部生徒のキャリア力を育てることを目的に、生徒らが働く喜びを知り、自らの果たすべき役割の理解と働くことの意義を知るための授業実践に取り組んだ。役割を継続的に実行できれば、周囲から認められる機会が増え、働く喜びにつながると考え、このような経験の積み重ねで、キャリア力の裏付けとなる自己有用感を高めることを目指した。実践にあたっては、①「成果のイメージつくり→役割の実践→実践に対する自己評価→役割の価値理解」を「学習サイクル」として組み入れること、②グループでの活動を基本とすること、③自作「自己評価シート」を活用すること、さらに、④「グループの仲間のため」「見える他者のため」、「見えない他者のため」の3つの相手を設定して活動を設定することの4点から、授業を組み立てた。実践の結果、対象児らにグループの成員として質の高い仕事を成し遂げるため、自ら役割を果たそうとする行動が見られるようになり、併せて対象児らの自己評価から、その自己有用感が高まったことが確認された。
著者
杉瀬 康仁 川崎 聡大
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.21-24, 2014-05

本県の通級指導教室は、平成5年に情緒障害教室が3教室設置されたところからスタートし、翌年以降は言語障害教室が順次設置されていったが、その多くは既存の言語障害特殊学級が通級制へ移行した教室であった。ところが、平成18年の制度改正により学習障害教室の設置が可能となったことから、その後教室数・児童数ともに急増することになった。本県の通級指導教室の特色として、一人の教師が複数の教室を兼務(巡回指導)するというシステムがある。すべての教室がこれに当てはまる訳ではないが、このことが平成24年度末で、小学校数199校の富山県に、104の通級指導教室が設置され、841名の子どもたちが個に応じた指導を受けるという結果につながっていると考えられる。一方、富山市の担当者へのアンケートからは、教室を担当するに当たり、その専門性をもつのに十分な公的研修を保証されていないことや、指導を行うべき教室(場所という意味で)が確保されていなかったり、教材教具を準備するための予算措置がなされていなかったり等、研修や運営に関する不備を指摘する意見が多く集まった。このような状況を考えると、ただ教室数のみを増やすのではなく、指導を受ける子どもたちの教育環境を人的、物的に整えていくことが必要であると考えられる。
著者
新田 真理 芝木 智美 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.31-34, 2012-05-31

私立大学における障害者雇用の現状を明らかにするため、中部地方のすべての4年制大学に対しアンケート調査を行った。その結果、回答のあった私立大学のうち約4割が法定雇用率を達成しているものの、障害のある職員を「計画的雇用」している大学は皆無に等しい状況であった。私立大学における障害者雇用の今後の課題としては、現時点で法定雇用率を達成している大学にあっては障害のある教職員が退職しても雇用率を維持していけるように計画的雇用を推進していくことや、法定雇用率を達成していない大学にあっては小規模校であるための雇用の難しさなどがあげられていた。今回のアンケート調査の回答からは、私立大学において障害者雇用の課題はあるものの、国立大学とは異なり私立大学という特徴を活かした障害者雇用のあり方についていくつかの示唆を得ることができた。
著者
志賀 文哉
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.11-16, 2013-05

本稿の目的は、支援の中にある当事者やそれに深く関係するニーズについて捉え、支援と当事者性について考察することである。個別ニーズの存在をもとに支援を行うことは支援-被支援関係で一般的であるが、その「個別ニーズ視点」におけるニーズは支援者も強くかかわるものであり、被支援者にのみ存在するのではなく、また被支援者の「主体性」「強さ」を規定してきたのは支援者である。一方、「当事者主権」が示す自己決定権に裏打ちされた権利主体としての当事者は「ニーズの帰属する主体」であり、「承認ニーズ」は本人を基点として認められたニーズである。支援-被支援の協働においても双方向的に関係はあり、支援-被支援におけるラポールの形成・相互理解はニーズを把握する上で重要である。意思決定にかかる支援において支援者は決定に参画することに共生の形が見出される。支援-被支援関係は相互に欠くべからざる関係として展開されること、その中でこそ当事者の意思・ニーズを確認し尊重していくことができること、それは権利擁護や共に生きていく土壌を拓くものである。
著者
堀 真衣子 西館 有沙
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.25-30, 2014-05

本研究の目的は、保育者が児童虐待や虐待者の特性、虐待が子どもに与える影響、虐待への対応についてどのような認識をもっているかを明らかにすることであった。保育所保育士150名と幼稚園教諭50名を対象にした無記名式の質問紙調査を実施し、保育所保育士150名、幼稚園教諭44名より回答を得た。調査内容は、虐待や虐待への対応の仕方に関する知識の有無、虐待への対応経験、虐待対応について感じる難しさなどであった。保育所保育士も幼稚園教諭も、虐待者の苦しみや虐待の世代間連鎖、被虐待児の知能や言語の遅れなどについては9割以上が知っていると答えた。一方で、法律に定められた4種の虐待を把握していない者がいること、虐待の兆候に気づくための手がかりとなり得る情報を知らない者がいること、虐待の疑いのある子どもを保育した経験があるにもかかわらず、児童相談所に通告しなかったケースが多くあることが確認された。
著者
野田 秀孝
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.35-41, 2012-05-31 (Released:2016-02-15)

近年、いじめ、不登校、暴力行為、児童虐待、経済的・経済的以外の貧困など学校教育現場において児童生徒指導上、心の問題だけではなく、児童生徒を取り巻く社会的、環境的な問題が背景にあり、問題が複雑になっている。2008年に文部科学省は財務省からの提案を受け「スクールソーシャルワーカー活用事業」として、全国の小中学校にスクールソーシャルワーカーを144箇所配置するとして、国委託事業の全額補助事業として全国で展開された。2009年より補助事業として1/3国庫補助となり今日に至っている。富山県では2008年の国の委託事業開始時より、スクールソーシャルワーカーを配置し取り組んできている。富山県のスクールソーシャルワーカー活用事業も参考にしつつ、スクールソーシャルワーカーの特徴と課題について考察する。