著者
佐藤 みゆき 野澤(竹澤) 愛美 伊藤 美和 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Human Development University of Toyama (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.25-35, 2021-10-22

発達障害者(知的障害者を含む)の運転免許教習における合理的配慮を含めた個別支援のあり方を検討するため,個に応じた支援を受けて免許取得につながった 3 事例を後方視的に分析した。その結果,視覚的な理解の促し,個室の利用や個別送迎,職員の声かけ,通所方法の変更,スケジュールの調整などの相談に応じるといった,多岐に渡る個に応じた支援の有効性が明らかになった。また教習所に求められる支援の視点として,多職種連携・地域連携とチーム支援,連携の共通言語としての教習に特化したアセスメントの重要性が示唆された。運転免許取得は,単に車を運転するため,働くためのみならず,免許そのものがもたらす本人のアイデンティティ獲得とそのプロセスによる成功体験,また様々な社会参加につながり,QOL の向上という点からも大きな意味がある。発達障害者の特性やニーズに応じた自動車学校での個別支援のさらなる検討が求められる。
著者
和田 充紀 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.29-39, 2016-07-28

障害のある幼児が安心・充実した学校生活を送ることができるようにするためには、就学に際して「いつ、だれが、どのような情報を」引継ぎ、また「どのような」連携が求められているのかについて、保育所と特別支援学校を対象とした質問紙調査により検討を行った。引継で「伝えたい・知りたい・共有したい情報」として、「実態に応じた支援内容と支援方法」「家庭および保護者の状況」など複数のカテゴリーが見出された。これらの情報は総じて、保育所、特別支援学校の教職員双方が重要項目であるとの認識はあるものの、現状の引継では十分に共有できていない課題や、就学前の引継に加えて就学後の連携の必要性在感じている現状も見出された。以上より、引継のための資料や連携のあり方についてのさらなる検討の必要性が示された。
著者
水内 豊和 成田 泉
出版者
富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センター
雑誌
教育実践研究 : 富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要 (ISSN:18815227)
巻号頁・発行日
no.10, pp.91-95, 2015-12

広汎性発達障害者のもつ他者心情理解の弱さ等に起因する対人トラブルについて,その事案への事後指導はもちろんであるが,日常の生活の中で機会をとらえて指導していくことも必要である。本論では,異性へのつきまとい行為で職場から相談のあった広汎性発達障害成人Aに対し,自然な生活文脈の中で他者視点取得の機会を作り,全6回の相談支援をおこなった。その結果,家族へのクリスマスのプレゼントを考えるという身近なライフイベントの中で,Aにとって「社会的に望ましい気持ちの伝え方」を知り,また「相手にうれしいと思うことをすることは自分もうれしい」というように,さらなる向社会的行動につながる気持ちの深まりがみられた。
著者
山崎 智仁 水内 豊和 山西 潤一
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.57-61, 2019-05-31

知的障害特別支援学校小学部に在籍するダウン症児を対象に、国語科にてインタビューを通して相手に伝わるようにゆっくり話すこと、聞いたことをメモすることなどを指導した。また、インタビューしたことを整理し、ICT機器を活用することで学校紹介を作成し、ロボットを使って発表した。その結果、友達や教師にゆっくりと話しかけるようになったり、AIに慣れ親しんで遊んだりする姿が見られるようになった。
著者
和田 充紀 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Human Development University of Toyama (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.67-76, 2017-10-25

視覚障害・聴覚障害・肢体不自由・病弱等の障害のある生徒に必要な主権者教育の内容と,安心して意欲的に選挙権を行使できるようにするために求められる内容を検討するための基礎資料を得ることを目的として,全国の特別支援学校を対象として主権者教育の現状と課題について調査を実施した。その結果,9割程度の学校において主権者教育に取り組んでいる現状が示され,4割程度の学校において在校生が実際の投票を行った実態が示された。課題としては「実際の選挙(投票)において,障害の状況に応じた対応の仕組みが整うと良い」「障害の特性に応じた選挙の授業用テキストがあると良い」などが示された。
著者
成田 泉 関 理恵 澤田 美佳 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.33-44, 2017-05-31

本研究では、保育所で行われている保育カンファレンスと保育実践の循環とその効果から、障害のある子どもに関する保育カンファレンスのあり方について検討した。その結果、「多様な意見やアイディアがでる保育カンファレンスであり、さらに子どもの姿から、保育実践を再考することができるような保育カンファレンスであること」、「園全体の共通理解を促進し、保育者が共通した保育方針をもつことができる保育カンファレンスであること」、「子どもの興味や関心から保育方法を探り、保育実践につなげることのできる保育カンファレンスであること」の3つが障害のある子どもを支援し保育者の効力感在高める保育カンファレンスのあり方として重要であることが示唆された。
著者
伊藤 美和 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Human Development University of Toyama (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.83-90, 2022-03-15

パチンコ依存症者への社会資源を活用した支援の方法やその有効性を明らかにすることを目的とし,パチンコ依存の状態にあるA氏に対し,自己実現を支える継続的な心理支援を実施した。約10ヶ月にわたる心理支援の結果,社会資源を活用した余暇活動の広がりがみられ,それに比例してA氏のパチンコ店に行く頻度は減少した。また,他者とのやり取りや自己肯定感の高まりが,自身のパチンコ依存の問題解決に向けての意欲向上に繋がったと考えられる。
著者
水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Human Development University of Toyama (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.93-101, 2021-10-22

諸外国のASD者の運転に関する研究を概観した。免許取得率は定型発達(TD)者よりも低いがその割合は一様ではなかった。免許取得過程には指導者の障害理解や指導スキル,本人の障害の開示などの問題があった。運転への自信や不安についての研究結果は一意ではなかった。障害特性が運転に与える影響の検証は多数あり,社会的状況認知や視覚運動の協調など諸側面でASD者の運転行動がTD者よりも拙劣とする結果があるが一貫性はなかった。また路上運転ではなくドライビングシミュレーターによる検討がほとんどであった。運転改善の検討からは,構造化,明瞭化,実演して見せるなどの方略の有効性が示された。以上よりASD者がTD者と比べて運転リスクが高いといえる一貫した証左はなく,個々の事例性に大きく依拠することが示唆された。今後わが国でも実証的研究の蓄積とそれに基づくシステマティックレビューやガイドラインの作成が求められよう。
著者
大井 ひかる 成田 泉 島田 明子 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センター
雑誌
教育実践研究 : 富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要 (ISSN:18815227)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.87-91, 2016-12

公職選挙法改正に伴い、選挙権が満18歳を迎えた者に対して与えられるようになった。それにともない、これまで以上に学校在学時からの充実した主権者教育が必要となる。障害者にはその特性に合った支援が提供されるべきであるにもかかわらず、これまでに知的障害者と選挙に関する研究はほとんどなされていない。本研究では、実際に選挙権のある知的障害・発達障害のある成人が選挙に直面したときにどのような課題があるのかについて把握することを目的とし、T県の発達障害児等親の会に所属する保護者を対象として質問紙調査を実施した。調査内容は、基本情報、選挙への参加の有無とその理由、候補者を選択する方法、選挙に向けた家庭での対策や練習、知的障害・発達障害者の選挙についての意見・要望である。その結果、知的障害・発達障害者の選挙において、主権者教育では、選挙の投票方法に加えて選挙の意義に関する学習や、政策を理解するための支援が必要であることが示唆された。また、基本的環境整備と合理的配慮に関する検討課題が明らかになった。
著者
尾崎 康子 小林 真 水内 豊和 阿部 美穂子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.335-345, 2013 (Released:2015-03-19)
参考文献数
34
被引用文献数
2 2

保育者が発達障害児や発達が気になる子どもを評価するスクリーニング尺度として、幼児用発達障害チェックリスト(CHEDY)を作成した。CHEDYは、広汎性発達障害(PDD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、知的障害を測定する3尺度で構成されている。PDDはADHDや知的障害との合併が認められることがあるが、CHEDYはこれら3つの障害を一度に調べることにより、子どもの様子を的確に把握し、保育指導に生かすために開発された。PDD群(682名)、ADHD群(48名)、知的障害群(267名)、定型発達群(897名)について調べたところ、これら3尺度には十分な内部一貫性が示され、また群間の有意な区別がなされたことから、信頼性と妥当性をもったスクリーニング尺度であることが示された。さらに、定型発達群との識別性を調べたところ、各障害の識別に有用であることが示された。
著者
和田 充紀 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センター
雑誌
教育実践研究 : 富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要 (ISSN:18815227)
巻号頁・発行日
no.11, pp.115-122, 2016-12

選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる改正公選法が6月19日に施行され、国公私立の高校では主権者教育の実施率が94%に上った。特別支援学校においても主権者教育を模索しながら始めている。本研究では国立大学法人附属の知的障害特別支援学校を対象として主権者教育の現状と課題について調査を実施した。その結果、主権者教育を「行なっている」または「行う予定がある」学校を合わせると9割以上の学校が主権者教育の必要性を感じていることがうかがえる。具体的には「選挙の具体的な仕組み」や「模擬選挙などの実践的な学習活動」への取組が行われ、「実際の投票箱を選挙管理委員会から借用」するなどの工夫がなされている。課題としては、「知的障害者用の授業用テキスト・ビデオ・教材」の作成と充実、「保護者への啓発」「出前講座などの他機関との連携」「投票時の対応(社会への啓蒙)」などが示された。
著者
新田 真理 芝木 智美 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.31-34, 2012-05-31

私立大学における障害者雇用の現状を明らかにするため、中部地方のすべての4年制大学に対しアンケート調査を行った。その結果、回答のあった私立大学のうち約4割が法定雇用率を達成しているものの、障害のある職員を「計画的雇用」している大学は皆無に等しい状況であった。私立大学における障害者雇用の今後の課題としては、現時点で法定雇用率を達成している大学にあっては障害のある教職員が退職しても雇用率を維持していけるように計画的雇用を推進していくことや、法定雇用率を達成していない大学にあっては小規模校であるための雇用の難しさなどがあげられていた。今回のアンケート調査の回答からは、私立大学において障害者雇用の課題はあるものの、国立大学とは異なり私立大学という特徴を活かした障害者雇用のあり方についていくつかの示唆を得ることができた。
著者
和田 充紀 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Human Development University of Toyama (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.45-53, 2018-03-16

本研究では,特別支援学校における主権者教育の現状を明らかにし,知的障害のある生徒に必要な教育内容,卒業後も社会を構成する一員である自覚をもち安心して意欲的に選挙権を行使できるようにするために必要な内容や方法を検討するための基礎資料を得ることを目的として,全国の知的障害特別支援学校を対象として主権者教育の現状と課題について調査を実施した。その結果,知的障害特別支援学校において,9割以上の学校において主権者教育に取り組んでいる現状が示された。自治体による出前授業を利用し,選挙管理委員会から選挙用具を借用する取り組みは生徒の理解と関心を高めていることがうかがえた。課題としては,知的障害者用の授業用資料の充実や,学校全体での教育の充実,そして卒業後も社会につなげていくためには,家庭や選挙管理委員会との連携と実際の投票時の配慮などが示された。
著者
中村 順子 浦林 寛英 中島 育美 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.199-204, 2011-10

わが国における大学等の高等教育における発達障害傾向のある学生に対する支援は始まったばかりであり,また,これまでカウンセリングが中心となっている。平成23年度より,大学入試センター試験において,発達障害学生が受験する際の合理的配慮が公的に保障されるようになったため,今後の大学における発達障害学生への支援については,質的にも数的にもさらなる充実した取り組みが必要になると考えられる。本稿では,発達障害学生に対して,障害者支援に関する法的整備,医療との連携を踏まえた上での根拠のある支援を継続してきているアメリカ合衆国の例をもとに,わが国の高等教育における今後の発達障害学生への支援のあり方を検討した。
著者
中村 順子 水内 豊和
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.161-168, 2010
被引用文献数
1

本稿では,GT(GiftedandTalented)児に対する正しい認識と適切な支援を導くために,アメリカ合衆国におけるGT教育の実情に関する先行研究について俯瞰し,わが国における GT児への対応の問題点と今後の課題について検討した。アメリカ合衆国における先行研究では,才能開発にとどまらず,教育における経済格差,人種間格差を是正するために GT教育を活用している例が見られた。また特別支援教育として 2E(TwiceExceptional)児への積極的な支援が行われ,現在では,GT教育は,学習障害につぐ2番目に大きなグループになっている。これらの先行研究をふまえて,わが国における GT教育の可能性について考察した。
著者
水内 豊和 島田 明子
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.131-142, 2016

高校における発達障害のある生徒の特徴やとらえ方に対する教師の意識を明らかにするため,全国から無作為抽出した普通科と専門科,計794校を対象に質問紙調査を実施した。回収数は128校(16.1%)であった。調査の結果,発達障害の診断のある生徒は,普通科・専門科にかかわらずアスペルガー症候群がもっとも多かった。また生徒のネガティブな特性項目であっても,それが学校生活上の不利益になっているかどうかや,それが個性として尊重されるかどうかは,普通科・専門科の教員による違いがみられた。これは,普通科と専門科の学習内容や学習形態の違いに起因すると考えられ,普通科の教員は認知特性に凸凹がある生徒の困り感に気付きにくく発達障害のある生徒の存在を認識しても適切な支援ができていないこと,優れた側面を持っている2Eといった生徒の存在自体の認識や能力の引き出し方に対するアプローチが低いことが示された。