著者
石川 聡子 山名 幸世
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 総合教育科学 = Memoirs of Osaka Kyoiku University. Educational science (ISSN:24329630)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.21-40, 2021-02

本研究の目的は,1950年代後半から2010年代後半の間に発行された2,000冊以上の子ども向け絵本を分析し,絵本に描かれた登場人物のキャリアとくに科学技術分野のキャリアとジェンダーの関係を明らかにすることである。女性登場人物の職業の多くが管理・サービス・事務系であり,保安・農林水産・運輸系も一定の割合で描かれており,科学技術系と文芸・スポーツ・メディア系は少数であった。科学技術分野以外の職業では登場人物の男女割合のアンバランスが解消される傾向が見られ,男女雇用機会均等法成立前後で統計的に有意に均等に近づいていたが,科学技術分野の職業ではそのような変化は見られなかった。
著者
白井 利明
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 総合教育科学 (ISSN:24329630)
巻号頁・発行日
no.69, pp.163-174, 2021-02-28

アーネット(Arnett, 2000, 2015)は,自分の人生に責任をもとうとする主体を重視する立場から,青年期から成人期への移行は単なる青年期の延長ではなく,新しい発達段階としての成人形成期(emerging adulthood)であると提案した。現代の若者は,成人形成期にアイデンティティのための労働を探求し,自分の可能性を信じているとしたのである。この提案をめぐって心理学のみならず社会学からも論争が起きた。成人形成期は恵まれた社会階層の現象を過度に一般化したもので,社会構造の影響が無視されており,かれらの楽観性は社会的排除に対する心理的防衛にすぎないと批判された。本稿はこの論争を整理することで,成人形成期は社会的排除の結果であるだけでなく,たとえば若者なりの新たな可能性の認識に基づくものであり,そこに社会現実を乗り越えようとする主体のダイナミズムが示されているのではないかと問題提起をした。
著者
畦 浩二 前川 太佑
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 総合教育科学 = Memoirs of Osaka Kyoiku University (ISSN:24329630)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.75-85, 2020-02

本研究は,日本中に広く分布し苔類の代表例として教科書によく取り上げられるゼニゴケの繁殖季節を明らかにすると同時に,中学校理科で活用できる発展的学習教材を開発することを目的とした。大阪府八尾市内の農業用水路で13ヵ月間定期採集を行い,配偶子のうの成長から胞子散布に至るまでの過程および胞子と無性芽から若い葉状体に成長するまでの過程を調査した。その成果は,以下のようにまとめられる。1)受精は3月と9月頃に開始される可能性が高い。2)胞子は年2回,4~5月頃と10~11月頃に散布されるが,同じ葉状体が2回連続して胞子体を形成しない。3)胞子と無性芽の発芽率はともに高いが,葉状体までの成長に要する期間は無性芽の方が比較的短い。4)ゼニゴケの一生を理解するための発展的学習教材として,図版「ゼニゴケの生活環」を開発した。
著者
松岡 礼子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 総合教育科学 (ISSN:24329630)
巻号頁・発行日
no.69, pp.245-251, 2021-02-28

マルチモーダルなコミュニケーション世界において21世紀型のことばの教授を志向するために、知の伝達授受および新しい知の創出に携わる教師にとって、教科書をマルチモーダル・テクストとしてとらえる視座は重要である。本稿は、教科書の挿絵を活用した古典の授業でなじみある『源氏物語』「若紫」の「源氏物語画帖」を素材にした実践の考察を通して、詞書と切り離され教科書の活字テクストを補完する画像テクストとして新たなコンテクストに組み込まれた画帖が、どのように学習者の意味生成に関わるのか、その可能性と課題を明らかにするものである。