著者
関口 豊三 丸野内 様 吉田 廸弘 山岸 秀夫 岡本 尚 岩倉 洋一郎
出版者
(財)河野臨床医学研究所
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1988

1)、発癌遺伝子の可能性が疑われているヒト成人性T細胞白血病ウイルスHTL-1 tax-1遺伝子を正常骨髄細胞に移入して、これを放射線照射を受けたマウスに注入してキメラマウスを作成し、或いはこのtax-1遺伝子をマウス受精卵に移入を行ってトランスジェニックマウスを作成し、個体レベルにおけるtax-1遺伝子の作用を分析した。サーザン解析によってtax-1遺伝子が検出されたキメラマウスの胸腺、脾では未熟なリンパ球がビマン性に浸潤し、髄質の構造が失われ、T細胞の分化、成熟の抑制が認められた。又、トランスジェニックマウスでは胸腺の萎縮が著明で、発育低下、早死にするものが多く、生長したものでは「悪性リンパ腫の他「肺ガン」,皮膚の「線維肉腫」,末梢神経の「シュワノーム」等の種々のがん発生がみられ、且つこれ等がん組織でtax-1の遺伝子の発現が認められたので、tax-1そのものが発癌遺伝子であることが示された。又、ヒト免疫不全病ウイルス(AIDS,HIV)tatIII遺伝子がTNFの共存下で、HIV遺伝子発現を著明に増強することが見出され、TNFはHIV-LTRの「エンハンサー」を介して作用すること明らかとなった。2)、胸腺の染色体外環状DNAの分析から、これらがT細胞受容体α鎖及ζ鎖遺伝子の再配列の結果、切り出されたものである事が初めて明らかにされた。又、ヒト胃癌由来の発癌遺伝子HST1をヒト第11染色体の長腕(q13-3)に位置付けした。又、これら胃癌で別の発癌遺伝子INT2が同時に増幅していることが見出された。3)、ヒト白血病細胞U937に発癌遺伝子v-mosを移入するとマクロファージに分化することが見出された。又、ヒト小細胞肺癌細胞をビタミンA欠乏状態で培養することによって悪性度の低い腺癌様細胞に分化することが見出された。今后はHIV-tatIII遺伝子移入トランスジェニックマウスの作出を行いAIDSの分析を行う予定である。
著者
瀬野 悍二
出版者
埼玉県立がんセンター
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1985

癌細胞の自律増殖や悪性形質維持を決定する細胞内因子の遺伝的基礎を知るために、そのために分離した突然変異株とバイオテクノロジーの手法を駆使して以下の成果をおさめた。(1)ヒトの細胞周期関連増殖必須遺伝子のクローン化に成功し、増殖の調節機構を分子レベルで解明する端緒が開かれた。すなわち、【G_1】期の進行に関する約70キロ塩基対のDNA、【G_2】期の染色体凝縮を調節する約30キロ塩基対のDNA、およびDNA複製に必須なチミジル酸合成酵素の約23キロ塩基対のDNAで、いずれも生物活性を示した。DNAポリメラーゼαの遺伝子についてはクローン化に至らなかったが、遺伝子座をX染色体に決定した。(2)細胞周期におけるチミジル酸合成酵素遺伝子の発現様式を同遺伝子の上記クローン化断片をプローブにヒト正常2倍体線維芽細胞を用いて解析したところ、発現の調節は転写ではなく、転写以降のステップで行われていた。本成果は、癌遺伝子をはじめとする増殖関連遺伝子の今後の研究に新しい視点を与えるものである。(3)高温におくと染色体異常を誘発する突然変異株を分離した。この成果は、染色体の転座、欠失、増幅の機構を分子レベルで定量的に解析できることを約束する。(4)細胞の悪性化の指標とされる軟寒天内増殖が特定の未知増殖因子に依存することを、同因子に対する感受性の低下した癌細胞突然変異株の性状解析から解明した。本因子を同定するに至らなかったが、既知増殖因子はいずれも上記機能を代行できない。(5)インシュリン受容体欠損変異株の解析から、インシュリン様第1因子の受容体がその代行をすることを解明した。この成果は、増殖因子相互の生体内における役割の解明につながる。(6)悪性化増殖因子-β(TGF-β)に感受性を増し、ヌードマウスでの造腫瘍性も増した形質膜異常変異株を分離したが、前癌状態のモデルとして興味深い。今後(3)〜(6)についても遺伝子をクローン化し、情報発現機構を解明する。
著者
瀬野 悍二 清水 信義 佐藤 弘毅 西本 毅治 西島 正弘 花岡 文雄
出版者
埼玉県立がんセンター
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1984

細胞増殖において染色体DNAが複製を完了した後正しく娘細胞に分配される際、染色体凝縮は必須の反応である。この染色体凝縮の調節遺伝子を変異株の利用によってヒトDNAからクローン化し、さらに同cDNAをクローン化した。その結果、本遺伝子は421アミノ酸からなる蛋白質をコードし、約55アミノ酸を単位とする7回繰返し構造を含むユニークなものであった。同遺伝子座をヒト第1染色体に決定した。DNA複製の主役を担うDNAポリメラーゼαの温度感受性変異株を高温にさらすと、M期において高頻度の染色体異常及び姉妹染色分体交換が誘発された。このことは、DNA複製の阻害がDNA2重鎖切断を介して染色体の不安定性を引き起し細胞死につながることを明確に示す。ヒトチミジル酸合成酵素mRNAの5'側非翻訳領域は28塩基を基本単位とする3回反復構造からなり、3通りのstem-loopを形成しうる。本構造を改変し翻訳活性との対応をみたところ、上記stem-loop構造が翻訳を抑制することが示唆された。高温にさらすと染色体異常や姉妹染色分体交換を誘発する変異株を14株分離したが、同条件下に外来遺伝子を移入すると形質転換頻度が正常値より40-70倍高いもの、あるいは低いものがあった。この結果は、染色体不安定性が遺伝子組換えと関連することを示す。また、遺伝子組換えのin vitroの測定系の樹立に関し、基礎検定を終えた。ホスファチジルセリン(PS)要求変異株を分離しPSが細胞増殖に必須であること、PSはホスファチジルコリンを前駆体としてリン脂質・セリン交換酵素によって生合成されることを解明した。また、Sindbisウイルス感染に際してPSがウイルスとエンドソーム膜との融合過程に必須の膜成分であることを示唆した。
著者
藤田 栄一
出版者
大阪薬科大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1984

本研究班では新しい化学構造を有する優れた抗癌剤の生産的開発ならびにそれらの有用性について組織的に研究している。新抗癌剤の合成開発研究分野からは、放射線制癌における新規低酸素性癌細胞増感剤としてニトロトリアゾール誘導体の開発、カンプトテシン系新規抗癌剤の新しい簡便合成法のための重要中間体の好収率合成、抗腫瘍性天然物メガホン、スパトールなどの能率的不斉全合成、新規核酸系抗癌性化合物2′、3′-ジデオキシ-2′-(または3′-)置換リボフラノシルシトシンの開発、抗腫瘍活性シソ科ジテルペンの一種シコクシンの活性増強化、分子軌道法的計算を基盤とする抗腫瘍性シクロペンテンジオン類の合成開発、脳腫瘍の化学療法改善を企図するオキシセルローズ-アドリアマイシン複合体の合成開発、制癌性トロポロン誘導体の合成と構造活性相関の解明などに成功した。天然資源からの新規抗癌剤の探索に関する分野においては、中国産シソ科植物から抗癌性ジテルペン、ラブドロキソニンAの単離構造決定、抗腫瘍性多糖体誘導血清内腫瘍退縮因子の癌治療の応用に関する問題点の解明、放線菌代謝産物から新規抗癌性天然物ラクトキノマイシン-A及び-B、カズサマイシン、アワマイシン、トリエノマイシン-A及び-Bなどの単離構造決定、茜草根より抗癌活性スペクトル幅の広い2環性ヘキサペプチドの単離と化学構造の解明などに成功した。新規抗癌性化合物SM-108、ネプラノシンA、MST-16などの投与法、他の薬剤との交叉耐性ならびに作用機序に関しても興味ある新知見を得た。本年度は本研究班が認可されて2年目になるが、上述の通り数々の新知見ならびに有望な新規抗癌性化合物が、合成と天然資源からの探索の両面から見出されており、可成りの成果が得られたと考えている。さらに各分野研究者の専門的知識と情報を結集して本研究課題を強力に推進させたい。
著者
白川 茂 平野 正美 難波 紘二 本庶 佑 畑中 正一 内野 治人
出版者
三重大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1988

多数例のリンパ系腫瘍の免疫表現型と免疫遺伝子型の対比検討から、一般に成熟型腫瘍では両者の良好な相関があり、T・B細胞系統性及びクローン性の確実な指標として、遺伝子型によるDNA診断の有用性が確立されたが、未熟型腫瘍では表現型・遺伝子型不一致例、また二重遺伝子型を示す例があり、腫瘍隋伴異常再構成ないし未分化幹細胞段階での不確定な細胞分化様式の可能性が示された。ことにB細胞分化の初期では有効なIg遺伝子産物産生に至るまでに、活発なIgHV、D、J領域遺伝子の再構成及び転写が行われ、就中B前駆細胞の最も分化した段階のCD20(+)c-ALLに二重遺伝子型の頻度が最も高く、この事象がcommon recombinase活性の増大によりTcR遺伝子再構成が誘発された可能性によることが示唆された。またT細胞腫瘍につき複数のprobeを用いてTcRβ鎖遺伝子再配列の様式を検討し、T-ALL、T-CLLの一部に異常再配列を認め、recombinase lovelでの誤りによる可能性が示唆された。また検索症例のなかで、Tリンパ芽球性リンパ腫から異系統の骨髄球系白血病に移行した症例で、biphenotypicであるにも拘らず、腫瘍細胞が単一細胞起源であることを分子生物学的に立証した。また我が国の悪性リンパ腫の特徴の一つである発生頻度の少ない濾胞性リンパ腫につき、特徴的な染色体異常t(14、18)の確認と、本症に特異的とされるbcl-2遺伝子再構成がmajor及びminor切断点領域ともに、欧米に比べ有意に低率であることが判明した。さらに血管免疫芽球性リンパ節症(AILD)が我が国では、Bリンパ腫よりTリンパ腫前病変の可能性が遺伝子型から同定され、ことに多様な生物活性をもつIL-5遺伝子転写の著明な増強をみるAILD-T症例を認め、当該リンパ節の多彩な病変との関連が考えられた。その他、骨髄stroma初代培養系を用いて、praーB細胞株からB細胞系及びmyeloid系へ分化誘導される培養系が確立され、またsublineからIL-5のautocrineによる腫瘍化細胞株が樹立された。