著者
スティービー・スアン
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.3-15, 2017 (Released:2019-10-25)
参考文献数
25

アニメーションは命を持たない「モノ」(物理的客体)を動かし、その「モノ」に行為をさせる力が注目されてきた。人間や動物、そしてモノの「体」がどのようにアニメートされるかによって、行為者としての成り立ちが変わってくる。アニメーションにおいて、動きの形式は、特定の行為者性あるいは「自己性」を伴う。ドナルド・クラフトンはアニメーションを分析するためにアニメーションのパフォーマンスを、体現的パフォーマンスと修辞的パフォーマンスに分類して概念化している。本稿では、これらの概念をより詳細に把握し日本のテレビアニメの研究に活用することを目的とする。体現的演技という概念は、キャラクターの表現は、個別化された動きによって生み出され、内部と外部をもつ個人として成り立たせる。他方、修辞的演技は様々な仕草や記号化された表現を通して演技が行われるのである。そして、記号化・コード化された表現に頼るパフォーマンスとしては既存の表現を基にしており、それを異なる文脈で繰り返し採用するのである。これら2つの形式は、それぞれの両端において、「自己」についての異なる概念を制定する。体現的演技は、動きを示す「モノ」に近代的な個人主義の概念を演じさせるのに対し、修辞的演技は「個人主義的な自己」よりも、既存のコードを引用することによる複合構成的なものとしての「自己」を中心に据えるのである。
著者
横濱 雄二
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.45-50, 2020-09-30 (Released:2021-05-07)
参考文献数
20

本稿は、高畑勲のアニメーション作品『火垂るの墓』について、具体的な地域表象を検討するとともに、関係地を訪問する行動について、その意味づけを考察するものである。『火垂るの墓』は、強く情動を喚起する作品である。一例として、主人公兄妹の母親の死の舞台となる学校のシークエンスをとりあげる。画面内の事物の配置を現実の地理空間に置くと、あるべき鉄道の高架が画面に現れていない。この不在は、兄妹の孤立感を強調している。また、本作品の関係地訪問の事例を検討すると、アニメ聖地巡礼としてではなく、戦跡など事実に基づく土地への観光であるダークツーリズムに類するといえる。虚構作品の関係地は現実と必ずしも対応するものではなく、また作品が喚起する情動の側面も無視できない。これらについては、さらなる考察が必要である。
著者
一藤 浩隆
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.77-87, 2023-01-31 (Released:2023-02-11)
参考文献数
47

映像作品の計量的研究であるシネメトリクスでは、ショットの平均持続時間に注目したものが存在するが、この分野の発展のためには別の指標も必要である。本論はその指標を提案し、検証することを目的とするものである。ここではショットサイズに注目し、それに対する既存の研究を整理して新たな指標を提案する。対象として、書籍として出版されているため執筆者の特定が容易であり、指標を採集しやすい絵コンテを採用することとし、手塚治虫の作品に対してこの指標を適用した。手塚は、テレビアニメーションを開始する際に必要であった経費削減のため、ショットサイズに独自の傾向があると指摘されている。それを対照的な経歴を持つ宮崎駿の絵コンテと比較することによって、指標の検証を行うことができると考えた。統計的な検証の結果、手塚と宮崎のショットサイズには有意の違いが認められ、ショットサイズは指標として有効であることが示された。
著者
Shintaro Matsunaga
出版者
Japan Society for Animation Studies
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.29-40, 2023-01-31 (Released:2023-02-11)
参考文献数
25

日本のアニメ産業を支えるアニメーターの多くはフリーランサーとして働いていることが知られているが、彼らがどのようにして不安定性を含む労働に対処しているのかについては十分な議論がされてこなかった。本稿では、労働社会学で議論されてきた、複数の仕事の組み合わせ方を捉える「ポートフォリオワーク」の視点に基づき、アニメーターが日々の労働のなかで直面する無収入などのリスクに対して行っている個人的・集団的な対処について、スタジオでのエスノグラフィーに基づき明らかにした。アニメーターはしばしば当人に責任のない形で無収入になるリスクに晒されるが、ベテランについてはあらかじめそのリスクが顕在化する時期を見越して短期的な仕事を確保しておくなどの対処を行っていた。若手アニメーターはそうした対処が難しい場合があり、その場合はスタジオの支援を受けながら仕事を獲得していた。このことはフリーランサーであるアニメーターも組織の管理を受けることを意味するが、その管理はアニメーターが持つ作品制作に関わる意向が尊重されることを前提として成り立っていた。これらの知見は、アニメーターがフリーランサーとして働くことの意義を示しており、今後いかなる働き方がアニメーターに適しているのかを考察する際の参照点として有効である。
著者
佐分利 敏晴
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.3-12, 2021-03-31 (Released:2021-11-06)
参考文献数
8

アニメーションにおける通称「オバケ」は、作者がアニメーション制作において用いる、仮現運動や動きの錯覚を励起する意味の無い絵として緩やかに定義されてきた。しかし、その定義は生態心理学、数学、物理学の観点からも検証されるべきである。本論文では「オバケ」を以下のように分析し定義し直す。それらは錯覚や仮現運動を作るための意味の無い道具ではなく、「動きを同定するための知覚情報」そのものであり、十分な意味と内容を有しているものである。アニメーションの制作とは、動きを特定する情報を変換する作業であると考えられる。すなわち、制作される動きの情報はそれぞれの動きを時間によって微分した結果もたらされるものであり、それらは時間の矢に沿って並べられたいくつかのフレームにより、映像において再構築されるよう作られたものであると言えよう。そこに錯覚が入り込む余地はないだろう。たとえ一目見ただけでは何が描かれているか分からなくても、それらは制作者が発見した動きを構成するために必要不可欠な情報だと推測される。それは「生命の錯覚(The Illusion of Life)」ではなかろう。
著者
キム ジュニアン 三俣 哲
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.13-23, 2021-03-31 (Released:2021-11-06)
参考文献数
23

本研究は、アニメ業界で1970年代から1990年代まで、演出・原画などの仕事に携わり活動した渡部英雄氏が、現役時代から保管していた絵コンテなど膨大な中間素材(以下、渡部コレクション)を本研究者らの所属大学に一任したことから始まる。我々は、アーカイブ化された渡部コレクションのなかで、損傷の危機に瀕しているセル画に注目し領域横断的研究に着手した。それぞれ材料化学とアニメーション研究を専門にする二人の著者は、セル画の保存・管理の意義、プラスティック素材であるセルロイドの開発と変遷の歴史、アニメーションにおける同素材の導入史を考察しつつ、渡部コレクションからのセル画2点に対する物理化学的分析を行った。本稿ではその研究成果を報告し、さらにセルというメディウムに基づいて産業化されたアニメーションを通して人間の視覚はどのように形成され変容されてきたのかという問題を提出し考察する。始まったばかりの研究ではあるが、ある種の文化資源として考えられるセル画の保存・管理に関する知見をアニメ業界をはじめ社会に提供し、同素材の遂行行為者的機能を物質的リアリティーという側面から理論化することを目指す。
著者
野口光一
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.31-44, 2017 (Released:2019-10-25)
参考文献数
45

2000年以降、アニメーション作品の人気1は『ポケットモンスター』、『ドラえもん』、『名探偵コナン』などの作品に固定化していた。しかし、ゲーム主導のコンテンツである『妖怪ウォッチ』がTVアニメーション化され、2014年1月から放映されると、ゲーム、映画、漫画、玩具などを連携させたメディアミックスを一挙に進めることで、人気コンテンツの仲間入りを果たした。 日本のコンテンツ産業における「メディアミックス」については、マーク・スタインバーグらの研究によって国内外に周知されているところだが、本稿では、『妖怪ウォッチ』を取り上げて、近年の進化に注目する。日本のメディアミックスは、アメリカのトランスメディア・ストーリーテリングとは異なり、キャラクター中心のフランチャイズであることは指摘され、議論されている。本稿では、レベルファイブによる『妖怪ウォッチ』のメディアミックスはこれを踏襲しつつも、近年のメディア変革を受けた1970年代半ば以降の角川春樹によるメディアミックスのアップデート・バージョンであると提案する。同じゲーム主導の『ポケットモンスター』と比較し、また角川春樹の戦略との類縁性も再確認しつつ、『妖怪ウォッチ』における新たなメディアミックスの展開を、ハードウェア、ソフトウェア、そして市場面から分析し、考察する。
著者
野口光一
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.31-44, 2017

2000年以降、アニメーション作品の人気1は『ポケットモンスター』、『ドラえもん』、『名探偵コナン』などの作品に固定化していた。しかし、ゲーム主導のコンテンツである『妖怪ウォッチ』がTVアニメーション化され、2014年1月から放映されると、ゲーム、映画、漫画、玩具などを連携させたメディアミックスを一挙に進めることで、人気コンテンツの仲間入りを果たした。 日本のコンテンツ産業における「メディアミックス」については、マーク・スタインバーグらの研究によって国内外に周知されているところだが、本稿では、『妖怪ウォッチ』を取り上げて、近年の進化に注目する。日本のメディアミックスは、アメリカのトランスメディア・ストーリーテリングとは異なり、キャラクター中心のフランチャイズであることは指摘され、議論されている。本稿では、レベルファイブによる『妖怪ウォッチ』のメディアミックスはこれを踏襲しつつも、近年のメディア変革を受けた1970年代半ば以降の角川春樹によるメディアミックスのアップデート・バージョンであると提案する。同じゲーム主導の『ポケットモンスター』と比較し、また角川春樹の戦略との類縁性も再確認しつつ、『妖怪ウォッチ』における新たなメディアミックスの展開を、ハードウェア、ソフトウェア、そして市場面から分析し、考察する。
著者
森 祐治
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.3-13, 2023-01-31 (Released:2023-02-11)
参考文献数
32

日本のアニメ産業の中核であるテレビアニメは、派生商品(デリバティブ)や異メディア間での作品流通(バージョニング)を組み合わせたメディアミックス手法によるビジネス展開を行うことが多い。これまでメディアミックスの起源として、作品性や表現的優位からの説明が行われることが多かった。現実には、テレビアニメはその成り立ちよりテレビ局からの制作費用負担は原価の一部のみで、テレビ放映では経済的に完結せず、メディアミックスからの収益が不可欠なビジネスという経済モデルから説明がなされることはなかった。そこで、本論ではテレビアニメ初期、アニメブーム勃興時、そして製作委員会の成立後の3つの時代の事例から、一貫してテレビアニメであってもテレビ・ビジネスのみに依拠するのではなく、メディアミックスによる事業展開が経済的に前提となっていることを示す。
著者
渡部 英雄
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.25-31, 2015-09-07 (Released:2023-02-18)
参考文献数
11

1984年、東映動画株式会社は、動画の作画使用枚数をTVアニメ1話に付き3500枚に制限することを開始した。コストを低減するために、他のスタジオ、例えばタツノコプロ株式会社およびサンライズ社も同様の措置を制定した。これらの制限は予想外の結果として、視覚的な表現に於いて日本独自のアニメスタイルになって現れた。当時の資料や演出、アニメーターの経験に基づき、本稿では、作画枚数を節約することが日本のアニメーションのアート的な発展に及ぼした影響ついて述べる。
著者
陳 龑
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.17-30, 2017 (Released:2019-10-25)
参考文献数
25

中国アニメーションは既に100年近い歴史を辿ってきたが、その「起点」については未だに完全に統一された通説がない。本論文は、入手困難な一次資料の調査と比較分析に基づき、中国最初のアニメーションと言われる『大閙画室』についての再検証を行い、事実に適合する中国初期アニメーション史を究明する。