著者
桐越 仁美
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.22-35, 2018-02-26 (Released:2019-03-22)
参考文献数
16

18~19世紀の西アフリカにおいて、アサンテ王国とハウサ諸王国間のコーラ交易が発展した。現在でもコーラの交易は盛んにおこなわれ、そのなかでは多くの若者が活躍している。本稿では、コーラ交易に携わる若者に着目することで、現在のコーラ交易における信用取引の実態と、若者がコーラ交易を通じて自らの商売を発展させていく過程を明らかにすることを目的とする。コーラは西アフリカのイスラーム社会において儀礼的・社会的に高い価値をもち、高値で取引されている。コーラは西アフリカの森林地帯から内陸乾燥地域のあいだに張りめぐらされた巨大な商業ネットワークを介し、民族の枠を越えて輸送される。人びとは傷みやすいコーラを迅速に輸送するために、前払いや委託販売といった手法を採用しており、そのなかでは信用や連携が重視される。コーラの交易に参入する若者は、そこで得た信用を、巨大な商業ネットワークに乗せて拡散させることを目的としていることが明らかとなった。
著者
藤井 広重
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.61-72, 2019-09-28 (Released:2019-09-28)
参考文献数
33

本稿の考察は、司法および人権アフリカ裁判所(ACJHR)の設置が進捗しない要因を解き明かすことを目的としている。ACJHRは、国際刑事裁判所(ICC)によるアフリカでの司法介入に対する反発の結果、オルタナティブなメカニズムとして生み出されようとしていた。だが、多くのアフリカ諸国がACJHRの構想に賛成した一方で、設置のためのマラボ議定書を批准した国はない。本議論を紐解けば、マラボ議定書が有する現職の国家元首と政府高官の訴追免除規定によってヨーロッパ諸国からの支援を得ることができず、また、マラボ議定書成立当初はNGOなどからの批判も見受けられたが、近年は現実に即した規定でありACJHRは機能するのではないかと肯定的な評価に変わってきた。ここに、ICCに対するアフリカ諸国のスタンスに関わらずACJHR設置議論が進捗しない要因を見つけることができる。さらにこのような考察を通して、ICCに対し影響力を行使しようと試みるアフリカの姿も垣間見えてきた。本稿での考察は、アフリカをICCとの関係性において客体としてではなく主体として捉えることが重要であることを示すことにつながった。
著者
佐藤 章 Sato Akira
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート
巻号頁・発行日
vol.51, pp.1-15, 2013

本稿は、アフリカ開発にとって不可避の課題として認識されている紛争解決と平和構築の問題に関して、とくに国連や欧米諸国などのアフリカ域外の主体によって行われてきた軍事的取り組みの歴史と現状を考察しようとするものである。紛争解決・平和構築を目的として域外主体によって行われてきた軍事的取り組みは、1990年代のソマリアとルワンダでの経験を踏まえて試行錯誤が積み重ねられてきた。これを経て近年では、域外主体がアフリカ諸国の平和構築能力の強化を支援しつつ、国連PKOに代表される域外の軍事要員がアフリカ側と連携する体制が確立されてきている。本稿ではこのような歴史を整理したのち、アフリカの紛争解決・平和構築に深く関わる新しい考え方として注目されている「保護する責任」をめぐる問題を論ずる。具体的には、「保護する責任」に依拠して2011年4月にコートジボワールで行われた国連PKOによる軍事行動を取り上げ、「保護する責任」をめぐり提起されてきた諸論点が、この現実の軍事行動においてどのように現れていたかを検討したい。
著者
網中 昭世
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:21883238)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.62-73, 2017

本稿の目的は、近年モザンビークで発生している野党第一党モザンビーク民族抵抗(RENAMO)の武装勢力と国軍・警察の衝突のメカニズムを明らかにすることである。考察の際の着目点は、当事者であるRENAMOの除隊兵士の処遇の変化と、RENAMOの弱体化の関係である。モザンビークでは1992年に内戦を国際社会の仲介によって終結させ、紛争当事者を政党として複数政党制を導入して以来、モザンビーク解放戦線(FRELIMO)が政権与党を担っている。しかし、FRELIMOは選挙において必ずしも圧倒的な勝利を収めてきたわけではない。だからこそFRELIMOは一方で支持基盤を固めるために自らの陣営の退役軍人・除隊兵士を厚遇し、他方でRENAMOの弱体化を図り、結果的にRENAMO側の除隊兵士は排除されてきた。近年のRENAMOの再武装化は、紛争当事者の処遇に格差をつけた当然の結果であり、それを国軍・警察が鎮圧する構図となっている。