著者
杉木 明子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.71-80, 2023-12-12 (Released:2023-12-12)
参考文献数
40

第一次世界大戦以後、国際難民レジームが徐々に形成されてきた。しかし、庇護申請者や難民の増加とそれに伴う負担から多くの国は難民の受入に消極的であり、国際難民レジームが揺らいでいる。それを象徴する事象のひとつが、人権侵害や迫害が行われている地への難民の送還を禁止する、ノン・ルフールマン原則に対する違反である。同原則は難民条約・難民議定書や様々な国際条約に明記され、国際慣習法として広く認知されてきた。本稿は、規範論争理論を援用し、ソマリア難民の帰還を事例としてノン・ルフールマン原則の履行状況を分析し、国際難民レジームの変容を考察する。
著者
沓掛 沙弥香
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.133-146, 2021-10-29 (Released:2021-10-29)
参考文献数
48

タンザニアでは、独立後のナショナリズムのなかで「国語」としてのスワヒリ語振興政策が取られたが、1970年代後半以降の深刻な経済危機を背景に言語政策議論は明確な指針を失い、以降影を潜めていた。しかし、2014年頃から再びスワヒリ語振興政策が打ち出されるようになり、その傾向は2015年11月に就任したマグフリ大統領率いる政権でいっそう顕著となる。ただし、独立後ナショナリズム期の言語政策の要であった教授用言語のスワヒリ語化は、マグフリ政権下のスワヒリ語振興政策には含まれなかった。本稿は、マグフリ大統領のスワヒリ語振興政策に関連するディスコースを分析することでその理由を考察し、同政策が、エリートと人々を分ける境界としての英語の特権性を維持し、「虐げられた人々」への庇護という文脈を包含して興っているものであることを明らかにする。
著者
島田 周平
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.102-115, 2020-12-15 (Released:2020-12-15)
参考文献数
40

2019年に西部ナイジェリアのヨルバランドの5州で、ヨルバ語でヒョウを意味するアモテクンという自警団が名乗りを上げた。かつて東部ナイジェリアのエフィクやイビビオ社会で活躍した秘密結社エクペ(ヒョウを意味する)に倣ったかのようであった。西部5州の知事たちは、アモテクン設立にあたり北部から来たフラニ牧畜民による農民襲撃を最大の理由とした。ヨルバランドからフラニ牧畜民を排斥するという地域主義的運動に展開しかねない危険性を感じ取った連邦政府は、連邦警察以外に警察権を行使できる組織はあり得ないとする法律的理由からその設立に待ったをかけた。州知事が指揮権を持つアモテクンは、かつて東部の森のなかで活躍した秘密結社のヒョウではなく、連邦政府の警察権を脅かす存在として認識されることになったのである。
著者
澤田 昌人
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.78-87, 2014-11-14 (Released:2021-09-30)
参考文献数
38

コンゴ民主共和国の安定を図るため、国連は周辺諸国、アフリカ連合などと協力して新たな構想を立ち上げた。その構想「フレームワーク」ではコンゴ軍と協力して、コンゴ東部の武装勢力を一掃する作戦を展開することとなった。ADFと呼ばれる武装勢力もその標的の1つであるが、いまだに武装解除できていない。本稿ではADFの誕生から現在までの歴史をたどり、彼らが地元住民と社会的、経済的に緊密なネットワークを形成して共存していることを示す。またADFが、コンゴ軍やそのほかの武装勢力による暴力から地元住民を保護する役割を果たしていることを示唆し、コンゴ軍よりも支持されている可能性を示す。コンゴを安定させるためには武装勢力への軍事行動だけでなく、コンゴ軍を含む、政治、行政機構の改革にこれまで以上に積極的に取り組む必要がある。
著者
片山 夏紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.22-33, 2019-02-13 (Released:2019-08-03)
参考文献数
21

ルワンダ・ジェノサイドに加担した民間人の罪を裁くガチャチャ裁判は、ローカルレベルにおける移行期正義の取組みであり、和解の促進もひとつの目的であった。被害者と加害者が同じ村で暮らし、日常的に顔を合わせる状況で、裁判が促す赦しや和解の可能性についても先行研究で議論されてきた。本稿の目的は、裁判閉廷から6年が経過した現在、農村における赦しや和解がどのように行われているのかを明らかにすることである。窃盗や器物損壊罪の賠償をめぐって「賠償」という語句を用いず、被害者は「赦す」(-babarira)、加害者は「赦しを求める」(-saba imbabazi)という語句を用いて交渉することが独特であり、本稿はその点に着眼した。このような交渉からみえてきたのは、当事者同士が関係を断たずに保とうと努めていることであり、筆者はそれを現実的な和解と捉える。本稿では、先行研究が論じた和解の理念という視点を変えて、ジェノサイド後の和解を考察する。
著者
Otchia Christian Samen
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.49-64, 2021-03-30 (Released:2021-03-30)
参考文献数
20

本論文では、地区レベルのデータを利用して空間計量経済分析を行い、コンゴ民主共和国における新型コロナウイルスの感染拡大の状況を検討した。その結果、キンシャサから始まった感染拡大が近隣の地区に波及したこと、また、上カタンガ州や南キヴ州といった国境に接する州も感染拡大の中心地であったことが明らかになった。さらに、エボラ出血熱やコレラ、その他の感染症の感染者が多い地区や、紛争が多発する地区では新型コロナウイルスの感染者が多いことが分かった。気温、標高、風速などの気候条件も感染と関連していた。これらの結果から、過去の感染爆発の経験を活かすことができていれば、コンゴ民主共和国は新型コロナウイルスの流行を現状よりも抑えることができたと思われる。(訳:福西隆弘)
著者
粒良 麻知子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.79-91, 2017-06-02 (Released:2020-03-12)
参考文献数
44
被引用文献数
1

本稿はアフリカの一党優位体制についての理解を深めるため、タンザニアの優位政党である革命党(Chama Cha Mapinduzi: CCM)を事例に、1992年の複数政党制移行後の党内の派閥政治の変遷と党幹部によるその統制を分析する。具体的には、CCM内の派閥政治と党内の権力分配のあり方について論じたグレイ(Hazel Gray)の論文を参照しつつ、複数政党制移行後初の選挙が行われた1995年、任期満了に伴って大統領が交代した2005年と2015年の計3回の大統領選挙に焦点をあて、CCMの大統領候補選考における派閥間競争の特徴を明らかにする。そして、この分析を通じ、2015年のCCM大統領候補選考がタンザニアに一党優位体制の継続をもたらしただけでなく、党内の派閥を統制し、党を中央集権化しようとする試みであったと論じる。
著者
島田 周平
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.122-132, 2021-09-23 (Released:2021-09-23)
参考文献数
33

ナイジェリアはサハラ以南アフリカのなかで最大のディアスポラ送出国であり、彼らからの送金受入れ額でも突出した国である。ディアスポラの送金額は政府にとって無視できないものであり彼らの政治的発言力も高まってきている。ディアスポラと政府の関係はつねに良好なわけではない。2期目に入ったブハリ政権に対するディアスポラの批判は高まっている。ひとつは国際派的視点からの政治的民主化要求や強権政治批判であり、いまひとつは民族派的視点からの分離独立の要求である。ブハリ政権は、国際派ディアスポラの民主化要求や人権擁護の要求に対しては、国内の反政府運動との連携を阻止するため銀行口座の凍結やSNSの規制などを実施した。また独立を目指す政治組織IPOBに対しては、民族派ディアスポラも含めて徹底的に抑え込む方針で臨み、彼らと国内(東部)の政治家や伝統的支配者との分断を図ってきた。ブハリ政権は、ディアスポラの活動が国内の反政府運動や独立運動と連携することがないよう細心の注意を払ってきた。それが今後も可能かどうかは注視が必要である。
著者
岡村 鉄兵 黒崎 龍悟
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.110-121, 2021-09-23 (Released:2021-09-23)
参考文献数
8

太陽光発電による小規模な独立型電源(Solar Home System、以下SHS)は系統電力網が整備されていない地域で、安価に再生可能エネルギーによる電化が可能と期待され、アフリカ農村において2000年頃から急速に普及が進んでいる。しかし、SHSの世帯レベルの電気の利用状況に着目した事例研究は少なく、住民が問題を抱えるに至る要因やそれによって農村住民にもたらされる影響は明らかにされていない。そこで本稿では、タンザニア南西部の農村での現地調査をとおして、SHSの普及状況と不適正利用の実態とその要因を明らかにした。調査はSHSを所有する32世帯とSHS販売者へのヒアリング調査、およびSHSを所有する世帯から10世帯を抽出してデータロガーによる出力測定をおこなった。結果、ほとんどの世帯がシステムの要となるバッテリーの管理に問題を抱えており、そのための経済的損失が示唆された。アフリカの電化状況や関連政策の評価はこのような利用の実態をふまえることが不可欠である。