著者
金 慶南
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.51-75, 2012

<p>2011年3月11日に起こった東日本大震災は、地震・津波・原発事故が同時に発生して、日本はもちろん、世界各国においても、「脱原発」か原発推進かが問われることになった。法政大学環境アーカイブズ資料公開室は、従来の環境政策・環境問題・環境運動に関する資料管理体制を活用して、「震災・原発アーカイブズ」を構築した。この記録化事業の特徴は次の通りである。</p><p>1:ドキュメンティング戦略として、収集範囲は東日本震災特に福島原子力事故と関連した報道記録と国内の原子力発電等関連した記録を含めて、国際的な原子力政策問題・運動に関わる資料までを視野に入れている。また、「環境アーカイブズ」は原発問題を含む市民活動資料を中心に、国際的な基準で整理・管理することを試みている。</p><p>2:インターネット時代の情報共有方法として影響力を持ちながらも、永続性の弱いウェブ上のデジタル資料をアーカイブズとして収集した。デジタル資料は、アーカイブズ学の新しいパラダイムとして、その収集・管理方案について、研究課題を提示している。</p><p>3:「震災・原発アーカイブズ」の構築を行いつつ、原資料供給者⇔アーカイブズ⇔研究需要者といった協力体制がつくられた。</p><p>4:従来の災害アーカイブズの構築は、災害経験を乗り越えることあるいは災害経験を活用する目的に特化していたが、今回の大震災・原発事故は、アーカイブズが地域で何ができるのか、その可能性を広く再考するきっかけとなった。</p>
著者
政池 明
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.76-90, 2012

<p>福島原発事故の際に放出された放射能の計測データの記録、保存が望まれている。測定された空間放射線や土壌内の放射能の測定データは時間と共に失われたり、散逸してしまう危機にある。データの大部分はディジタルな形で記録されているが、これを"Archives of Born Digital Materials"として保存するには付随するメタデータも記録にとどめることが重要である。またデータの選択、整理とともに、その格納、再生のためのハードウェア、ソフトウェアの整備が必要である。計画の実行には原子核、放射線の研究者とアーキビストの共同作業が不可欠であり、国際機関との連携も考慮せねばならない。</p>
著者
佐藤 大介
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.5-22, 2012

<p>宮城資料ネットは、2003年7月の宮城県北部での連続直下型地震を契機に発足した。地域の歴史資料を災害から守るため、災害「前」の所在把握と記録化を続けていた。</p><p>東日本大震災の発生後は、全国の関係者や被災地内外の市民ボランティアの支援を得て活動を続けている。2012年8月現在53家分を保全しているが、活動の完了には長期間かかることは確実である。</p><p>震災で多数の歴史資料が消滅したが、震災前に撮影していたものは画像データは遺された。被災情報の収集にも、震災前からの地域との関係構築が大きな役割を果たした。「次」の巨大災害が発生する前に、地域連携・多分野連携による歴史資料の防災対策を進める必要がある。</p>
著者
加藤 厚子
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.21-39, 2008

<p>映画は芸術作品であると同時に、企業により販売され世界規模の市場で消費される商品である。近年、映画は文化財・歴史資料として研究されているが、映画に関わる企業の企業資料については看過されてきた。映画という商品の特性や、企業における保存意識の低さから、映画関連企業資料の実態は明らかではない。その一方で、世界では企業資料を含む「映画遺産」の保存意識が高まっている。本稿では、映画関連企業資料の特徴を分析し問題点を指摘した上で、資料管理の観点から大手映画会社の歴史を概観し、企業資料の現況把握を試みる。そして関連機関によるアーカイブの取り組みを検討し、映画関連企業資料の調査・保存・公開における問題点を指摘し考察を行う。</p>